軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1277 模倣ガイア

フォールンドが使用した神剣模倣は、その名の如く神剣を模倣して生み出す能力であった。

フォールンドが担ぐ巨大な異形の剣は、アースラースが所持しているはずの神剣、ガイアと完全に一致している。

ただ、もたらされる威圧感は、本来のガイアに比べて弱い気がした。間違いなく神剣の一振りである大地剣・ガイアだが、存在感がかなり違っている。

神剣であることは間違いないが、本物でもない。まさに模倣されたコピー品という感じだ。無論、本来の数分の一程度の力であっても、俺たちの力を大きく上回るだろうが。

実際、模倣神剣から伝わってくる圧力は大気を揺らし、フランの肌をビリビリと震わせていた。

咄嗟に、転移で距離を取ってしまうほどには、危機察知が仕事をしているのだ。

「なんだ……それは……」

アポロニアスも、驚愕の表情で後ずさっている。だがすぐに衝撃から回復すると、狂ったように哄笑を上げ始める。

「ははははははは! 素晴らしいな! さすがレイドスの仇敵、ランクA冒険者! 味方とすればこれほど頼もしいとは!」

フォールンドがフランの横を一気に駆け抜け、模倣ガイアをラランフルーラ目がけて叩き付けた。

「はぁぁぁぁ! 大地の束縛!」

「がっ! ぐ……ぐあああああああ!」

無敵とも思えた障壁はあっさりと叩き割られ、ラランフルーラの脇腹が抉り取られる。さらに、大地から湧き出した無数の黒い鎖によって体が捕らえられた。

そのまま大地へと引き倒され、仰向けの状態で拘束される巨体。

黒い光の鎖はさらに湧き出し続け、ラランフルーラの全身を覆って大地へと束縛した。逃げ出そうとしているが、全方位から押し潰されているかのように、その場から動き出す気配はない。

いや、実際、重力によって捕らえられているらしい。濃密な大地の魔力が感じられた。魔力を放出して拘束を振り払おうとしているラランフルーラだが、拘束は全く揺らぐ様子はない。模倣とは言えさすがは神剣。

そこに、フォールンドの二撃目が放たれる。

「大地の嚇怒!」

「なんだこれはあああああああああ!」

黒い神気を纏った巨大な模倣ガイアが、ラランフルーラ目がけて振り下ろされた。俺たちがアレを食らえば、跡形もなく消滅するだろう。転移で逃げる以外に、対処する方法は思い浮かばなかった。それほどの、凶悪な神気が込められている。

だが、超人将軍もただやられるばかりではなかった。

「ああああああああああああああああ!」

その全身から、凄まじい魔力を放ったのだ。数万の人々を喰らったラランフルーラも、また常識を超越した規格外だった。

拘束が破壊され、放出された魔力が模倣神剣とぶつかり合う。

強烈な閃光が生じていた。さらに、轟音と衝撃が襲ってくる。

俺は咄嗟に障壁で防いだが、英雄ゾンビたちが吹っ飛ばされるのが分かった。

光が収まると、酷い状態のフォールンドとラランフルーラが目に入ってくる。

フォールンドの手からは、すでに模倣神剣の姿は失われていた。あの衝撃で、消滅してしまったんだろう。

しかも凄まじい反動を物語るように、その両腕は半ばから失われていた。それ以外にも全身に無数の裂傷が刻まれ、フォールンドはピクリとも動かない。

意識を失っているようだが、放置するのはマズそうなほどに生命力が低下している。

対するラランフルーラも、まだ生命力が感じられることが信じられない程にダメージを受けている。

頭部は鼻より上が消滅し、手足どころか下半身もない。それでいて、胸に埋め込まれた聖母は無事であるようだった。

今のラランフルーラには、内臓も血もない。人型に見えていたが、それだけだったようだ。

そのせいで、グロテスクではあるが、人の残骸とは思えなかった。人型の――壊れた巨大な仏像か何かのようだ。

ラランフルーラの残った口が、動く。

「よもや、これほどとは……」

目はもうないのに、見られていることが分かる。スキルで視ているのだろう。

「あぁ、バルフォン様……せっかくその魂を以ってキメラを抑えて下さっているというのに、申し訳ありませぬ……」

ラランフルーラの残った体も、砂のように崩れ始めていた。再生する様子もなく、魔力が急激に失われていく。

しかし、ラランフルーラの戦意は、まだ消えてはいない。

「この場にいる者たちを喰らえば、邪神の欠片を我が手で倒すことも叶ったであろうが……。こうなれば、死ぬ前にせめて……! うああああああああああああああああ!」

最後の渾身の一撃? それとも自爆する気か? そう考えた俺は、何が起きても逃げられるように身構えた。だが、ラランフルーラがこちらを攻撃する様子はなかった。

確かに戦意は衰えていないが、その矛先は俺たちへと向いていない。地面? いや、大地の奥深くか?

その間にも、起き上がった英雄ゾンビたちやウルシが攻撃を仕掛けていた。ラランフルーラの残った体が砕け、ドンドンと消滅していく。

だが、最後の最後、巨大魔石と聖母の周辺にだけは障壁が張り巡らされ、攻撃が通ることはなかった。

削れた肉の中から、縮んでしまった巨大魔石が姿をのぞかせている。聖母は、どうなっているんだ? 全く動かないが……。

顔はおろか口すらないのに、どこからともなくラランフルーラの声が聞こえてくる。

「聖母よ……魔石の全ての力を取り出せ! 邪神よ! 食らうがいい!」

ラランフルーラだった残骸から、力が放出された。それ自体が攻撃力を持っているわけではなく、大地へと深く浸透していくような魔力だ。

そして、大地が揺れた。

鈍く低い音が響き、分かるほどに地面が縦に揺れたのだ。

同時に、俺の中の邪神の欠片が歓喜するのが分かった。

どうやら、ラランフルーラの魔力が地脈を伝い、この地に封印されているという邪神の欠片に痛撃を与えたらしい。今の地面の揺れは、悲鳴のようなものだったのだ。

だが、どうして俺の中の欠片が喜ぶ?

「!」

『あいつらが嫌い?』

「!」

邪神の欠片同士、仲間意識があるというわけではないようだ。むしろ、俺の中の欠片は、他の欠片を嫌っているようだった。

ラランフルーラの突然の行動に、皆が驚いている。しかも、地震のように地面が揺れ、一体何が起きているのか分からないのだろう。

ただ、今の攻撃で、力を使い果たしたらしい。巨大魔石にヒビが入ったかと思うと、そのままあっさりと砕け散っていた。

光の粒となって、消えていく魔石の欠片。

残るのは、聖母を呑み込んだ謎の肉塊だ。これは、まだラランフルーラが……? 俺たちですら呆気に取られていると、急にシビュラが声を上げた。

「ぐぁ!」

「シビュラ?」

シビュラが片膝を突き、苦しんでいる。

(師匠!)

『おう! ヴィシュヌ!』

消耗覚悟でヴィシュヌを使用したが、意味がなかった。多少回復はしたが、すぐに苦しみがぶり返したようだ。

「……ふはは、赤剣のシビュラよ。貴様も道連れだ……。もう、助からん。キメラの力を使い、貴様の因子を暴走させた。化け物になり果てて、朽ちるがいい……」

どこからともなく響き渡るラランフルーラの声。フランが俺を握り締めるが、それよりも先に攻撃を仕掛ける者がいた。

「おおおおおおおおお! 俺の娘に、何してくれてやがる! おらぁぁ!」

アポロニアスだった。怒声を上げながら、崩れつつある肉塊に斬りつけた。アポロニアスの炎を受け、ラランフルーラだったものが黒煙を上げて燃える。

十秒後、その場には不思議と傷の無い聖母と、普通サイズのラランフルーラの首だけが転がっていた。肉塊の中から転がり出てきたこの首が、ラランフルーラの核のようなものらしい。

「おい、因子の暴走とやらを止めろ!」

「義父の愛というやつか? 随分取り乱すじゃないか! 無駄だ。もう、我でも止められん!」

「ぶち殺すぞ!」

「好きにしろ! どうせあと数分しか存在できん。ふはははは! シビュラが怪物と化す様を見ているがいいわ!」