軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1273 憤怒のアマンダ

殺す!

フランを泣かせやがって!

絶対に許さん!

斬って斬って斬って斬って斬って――。

「師匠!」

『!』

精神が怒りに塗りつぶされた俺の耳に、悲痛な叫び声が聞こえた。それだけで、俺の怒りがスッと冷めていくのが分かる。

ああ、フラン。なんて顔してるんだ。さっきと同じくらい、悲しそうじゃないか。

俺のせいなのか?

そう思ったら、怒りが一気に沈静化した。

うわ、なんだよこれ。飾り紐は狼みたいだし、刀身は真っ黒で禍々しいぞ。妙に冷静になった頭でそんなことを考えると、変形していた刃や飾り紐が元に戻る。

済まん、フラン。怒りに我を忘れて、醜態をさらしちまったな。

俺は、自身の刃を蝕む邪神気を消し去ると、フランのもとに急いで戻った。

「師匠!」

『フラン! 気づいたんだな!』

「ん。アナウンスさんのおかげ」

〈36秒ほどかかりましたが、精神干渉を遮断しました〉

さすがアナウンスさん! 頼りになる!

〈スキル、『憤怒の欠片』を取得しました〉

『え? 俺が? なんで?』

〈混沌の神の力によるものと推測〉

ああ、悪魔って混沌の神様の眷属だったか。それ専用のスキルでも、使徒である俺には使えるってこと?

「師匠?」

『ご、ごめんな? ちょっと怒り過ぎた』

「オン……」

ウルシも反省しているようだ。小さくなって項垂れている。

「ううん。きっと、あの宝具のせい」

〈是。個体名・フランの姿を見て、精神干渉が一気に進んだ模様〉

なるほど。俺自身には影響がないと思っていたが、フランが泣く姿を見て一気に効果が出てしまったということか? ウルシも似たようなものだろう。

精神干渉系の能力はやはり恐ろしいな。自分では正常な判断ができなくなってしまうのだ。

「もう……終わりか……?」

『あれでもまだ起き上がってきやがるのか……』

怒りに任せて雑になっていたとはいえ、その攻撃は全力のものだった。実際、ラランフルーラは全身が切り刻まれ、肉のブロックとなって転がっていたのだ。

その状態から、あっさりと再生するとは……。

ただ、かなり消耗しているのは間違いない。魔力は大分減ったし、その顔には隠しきれない疲労が浮かんでいる。

今の猛攻で、俺も考えなしに魔力を使いまくってしまった。

ここからはさらなる削り合いになる。そう思っていたら、超人将軍の小柄な体が真横に大きく吹き飛んだ。

遅れて、ドンという空気を打つような音が聞こえてくる。攻撃が音速を超えていたんだろう。

「アマンダ?」

『ラランフルーラを攻撃できたのか?』

「フランちゃんを……泣かせたわねぇ!」

攻撃の主はアマンダであった。その表情は、正に般若だ。悪夢を見せられたことも相まって、ブチギレている。

「らあああぁぁぁぁぁぁっ!」

赤いオーラを薄っすら立ち上らせたアマンダが、手に持った鞭を振るう。すると凄まじい連撃がバルフォンを襲った。

狂乱しているアマンダの様子を見て、俺があれ程怒りに呑まれてしまった理由が分かった。マレフィセントから、微かに魔力が流れ込んでいるのだ。

憤怒のスキルが、周囲にも影響を与えているらしい。

バルフォンの宝具による精神への揺さぶりと、怒りを増幅するマレフィセントの持つ悪魔の魔力。その両方が作用し、怒りを覚えた俺やアマンダに強烈に効いてしまったのだろう。

「ぐぉ! 鞭使いめっ!」

それにしても、アマンダが普通に攻撃できているな。ラランフルーラには攻撃できないが、バルフォンが表に出ている時なら問題ないようだ。

しかも、その一撃に込められた魔力は相当なものだ。もしかして、子供の守護者が発動しているのか?

ラランフルーラが表に出てこなければ、このまま押し切れそうだが……。

「ぎぃ! これは……王気っ! くそ!」

「はああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ! 絶招・毘沙門堕とし!」

「ぐぁっ! ぬぅぅ!」

秒間で数十発、目では追い切れぬ神速の鞭打が四方八方からバルフォンを打ち据える。まるで結界のように、穴がない。

バルフォンは完全に逃げ道を塞がれ、嵐のような攻撃を防ぎ続けていた。しかし、薄っすらと神気を纏ったアマンダの攻撃は、障壁を貫いて衝撃を与えているようだった。

それに、王気? この国だと、神気を王気って呼ぶらしい。

そんなことを考えている俺の前で、バルフォンが次第にボロボロになっていく。障壁越しに神気が貫通しているのだろうが、それだけにしては再生が遅く感じる。

どうも、タダの神気ではないようだ。そこで気づく、アマンダの神気と憤怒の赤いオーラが混ざり合っていることに。そのせいで、神気により攻撃的な性質が付加されたのかもしれない。

ネームレスに叩き込んだ、黄金のオーラ。あれも、神気をさらに強化したものだったのだ。あの金色の魔力に、近い性質があるのかもしれない。

「アマンダ!」

『! やべっ!』

猛攻を加えていたアマンダの鞭が、千切れ飛んだ! いや、武闘大会で壊れた時のことを考えたら、耐えた方だろう。鞭強化スキルなどの恩恵か?

ともかく、援護に入らねば!

そう思っていたが、アマンダは止まらない。アイテム袋から新たな鞭を取り出すと、攻撃を続行したのだ。

「ああああああ! 秘伝・韋駄天殺し!」

アマンダが、高速で鞭を一度振るう。速度を重視した一撃必殺技により、気づけばラランフルーラの両足が砕け散っていた。

俺ですら、微かに影を捉えられただけだったのだ。それほどの攻撃は、鞭だけではなく、アマンダ自身にも凄まじい負荷をかけるらしい。

鞭が千切れると同時に、アマンダもその場で崩れ落ちた。多分、怒りでリミッターが外されて、潜在能力解放のような効果を発揮しているんだろう。

バルフォンは足を即座に再生させる。無理矢理に再生したせいで大きく魔力が減ったな。しかも、上手く立ち上がれずにふらついている。

今がチャンスだ! 俺たちは一気に跳び出していた。咄嗟でありながら、俺たちは自然と金色のオーラを生み出す。

そして、放たれた渾身の突きが、バルフォンの心臓を貫き通していた。刃が深々と突き立てられ、血が噴き出す。

「ぬううううううぉぉぉ! 負けん! 負けるわけには……いかぬのだぁぁ!」

「くぅ!」

それでもバルフォンは倒れなかった。異常な再生力で、急所を潰されても死なず、それどころか未だに戦意を失っていない。

そんなバルフォンが、焦ったような表情を浮かべる。

再び立ち上がった、アマンダであった。

彼女のダラリと垂らされた手に握られた鞭は、痙攣する蛇のように怪しく蠢きながら地面を這っている。そこには、濃密な赤い神気が纏わりついていた。

圧倒的な大技の気配が放たれている。食らえば、超人将軍とて無事では済まないだろう。

「……いい加減、眠りなさい。貴方も、貴方の中の子も……!」