作品タイトル不明
1269 ゼライセ消滅
「消えろ! ゼライセェ! はあぁぁぁぁぁ!」
『僕は! 錬金術師ゼライセ様だぞっ! 歴史に名を――』
シエラの振り下ろした漆黒の剣が、魔剣ゼライセの刀身を真っ二つに叩き折る。そして、魔剣ゼライセは邪炎に包み込まれ、灰も残さずに消滅した。
精神が不安定に見えたのは、剣化したせいなんだろうな。やはり、剣化は怖い。俺がそんなことを思っていたら、シエラが突如悲鳴を上げた。
「おじちゃん、どうしたの? おじちゃん!」
シエラが剣を抱えるように持ち、叫ぶ。その手の内にある漆黒の魔剣が、寒気を覚えているかのようにブルブルと震えているのだ。
「共食いのせいか! くそ!」
なるほど、共食いか! ゼロスリードは俺と同じように、共食いスキルを持っていたはずだ。魔剣になってからも、その能力は失わなかったのだろう。
結果、魔剣ゼライセを切った時に、その力を共食いしてしまった。だが、あれはただ力を吸収するだけのスキルではない。
俺もファナティクスを吸収した時に、その強い精神の影響を受けかけた。どう考えても、ゼライセを共食いして影響が全くないわけがないのだ。
なんせ、蛇かゴキブリ並みにしぶとい奴だからな。
魔剣・ゼロスリードの振動がより大きくなっていく。苦しんでいるようだ。内部では、ゼロスリードとゼライセの激しい戦いが行われているんだろう。
シエラは祈るように目を閉じて、ゼロスリードを抱きしめることしかできていない。
すると、俺の中の邪神の欠片が、動き出すのが分かった。邪気が勝手に溢れ出し、ゼロスリードへと流れ込んでいく。
ゼロスリードを援護しようというのか?
〈邪神の欠片の協力により、対象魔剣との繋がりを獲得。援護を開始します〉
『アナウンスさん! だ、大丈夫なのか?』
〈レイドス王国内での戦闘経験蓄積により、邪気使用に関する負荷の軽減に成功〉
これまでアナウンスさんは、邪気の負荷を引き受け、軽減してくれていた。そのため、あまり表には出てこれなかったのだが、経験が溜まって邪気の取り扱いに慣れたらしい。
ただ、俺が言いたいのは、邪気のことだけじゃないのだ。
『邪気を通してであっても、ゼライセなんかと繋がるだなんて……!』
〈問題ありません。邪神の欠片の補助により、精神浸食は全て排除可能。また、高密度の邪気を用いて、ゼライセの精神と魂を消滅させます〉
『アナウンスさんが危険じゃないんだな?』
〈是〉
『なら、やっちまえ! ゼライセの最期の悪あがきを叩き潰すんだ!』
俺の言葉に呼応し、魔剣・ゼロスリードへと流れ込む邪気がさらに増す。いや、今のはアナウンスさんへの激励であって、邪神の欠片は余りはっちゃけ過ぎんでいいからね?
ハラハラしながら見守っていると、ゼライセの悲鳴が聞こえた。
『ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! なんだよぉぉお前ぇぇっ あの剣の中に、何が棲んでっ! ただのインテリジェンス・ウェポンじゃぁぁ……!』
苦しんでやがるな。
『これは、誰かが助けてくれてるっていうのか? フランの剣? それに、これは邪神の欠片……? ははは! なんてもん隠してやがる! そりゃあ、勝てねぇわけだ!』
ゼロスリードの声も聞こえる。魔剣・ゼロスリードだ。剣化していても、こちらは人のゼロスリードとあまり変わらんな?
『消える……この僕が……? ああああああ! やめろ! このまま、この剣に乗り移れば、まだ! くそ! 駄目だ……終わる! 全部終わっちゃうぅぅぅぅぅ! ふざけるな! なんで邪神の欠片がお前らに味方してるんだよ! ずるいじゃないか! 僕はこんなところで――』
その叫びが、本当にゼライセの最期であった。ゼロスリードやアナウンスさんの攻撃で弱った所を、邪神の欠片が魂ごと跡形もなく消滅させたのだ。
邪神の欠片は、やはり神である。魂に影響も及ぼせるのだ。神は神という、言葉の意味が良くわかった。
「……ゼライセ、消えた」
「フランが、おじちゃんを助けてくれたのか?」
「この剣のお陰。ゼライセ、やっつけた」
「そうか……終わったのか」
シエラが何かを噛みしめるように、立ち尽くす。ゼロスリードが助かり、仇敵が完全に消滅した。
そのことを実感し、気が抜けたんだろう。
本当はここで感慨に浸らせてやりたいところだが、まだ戦いは終わっていなかった。
ラランフルーラが残っている。ジャンに深手を負わせた後、フォールンドや英雄ゾンビたちの猛攻を受けながらも、未だに拮抗を保っている。
こちらの戦いに決着がついたことを理解し、ラランフルーラがその表情を曇らせた。戦いの形勢が、決定的にこちらに有利となったのだ。それも当然だろう。
ここにいる強者全員が、ラランフルーラの敵なのだから。
明らかに覚悟を決めた表情だ。死力を尽くすことを決めたのだろう。
「ふはははははは――きしししししししししっ!」
「!」
急に雰囲気が変わった?
「仕方ない! 仕方ないなぁ!」
雰囲気だけではない。その顔はそれまでの美少女と同じ人物とは思えないほど凶悪に歪み、耳障りな笑い声を上げ始める。
さらに、その全身に神気を纏い始めているのが分かった。
「ここからは、俺が相手だぁ!」
「どういうこと?」
俺? もしかして、人格が入れ変わったってことなのか?
以前も同じことがあった。ラランフルーラの雰囲気が変わったかと思ったら、神気を使い始めたのだ。
どうやら、この人格でなければ、神気を使えないようだった。こちらの人格になって、初めて本気ということか?
「きしししし! 俺が出たからには、楽には死ねんぞ!」
不気味な笑い声を上げるラランフルーラを見て、シビュラが眉根を寄せる。
「……おまえ、もしかして東征公バルフォンか!」
「きしゃしゃしゃ! バレちまったかぁ! そのとおりだ! 我が名はバルフォン! 超人将軍の裏の人格にして、東征公! バルフォンなり!」