軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1247 情報の再現

『……クリムトをアレッサに運ぶぞ』

「ん!」

ウルシだけで運ぶことも考えたが、道中回復魔術で回復し続けないと不安なのだ。

フランはクリムトを担ぎ上げようとしたが、すぐに動きを止めていた。俺たちの周囲の魔力濃度が、急激に上昇を始めていたのだ。

そして、10ほどの人影が出現する。転移だった。

人影たちは即座に動き出し、こちらを包囲しようとしている。

『どいつもこいつも、やばそうなやつらだな』

(ん。それに、あいつ。見たことある)

『ああ、紅旗騎士団長のロブだ』

なんと、倒したはずの紅旗騎士団長の姿があった。その遺体は、未だに俺の収納の中だ。つまり、ただ死体を死霊化した存在じゃないってことなんだろう。

公爵ゾンビたちのように、コピーされた存在か?

ただ、その割にはこちらを包囲するような動きは理性的だが……。10体のゾンビたちは、明らかに普通の死霊ではなかった。公爵ゾンビすら霞むほどの魔力と、明確な知性を感じさせる。

クリムトを抱えたまま転移して距離を取ろうとするが、ゾンビたちも再び転移を使っていた。

どうやら転移術を使える個体がいるらしい。一瞬で追いつかれる。

「ははははは! 我らから逃げられるとは思わぬことだ!」

中央にいた、体格のいい大男が笑いながら叫んだ。やはり、知性と理性があるか。

理性のある死霊となれば、奴らしかいない。

「黒骸兵団!」

「違うぞ!」

「?」

フランが叫ぶが、大男はあっさりと否定する。

あれ? 違うの? 確かに、彼が着こむ赤い鎧に、黒骸兵団のエンブレムもないが……。

「我らは、大地の記憶から再生された、過去の亡霊! 死霊であるが死霊でない。そのような、特殊な存在なのだよ! 術者は、情報からの再現と言っていたな!」

「術者? 誰?」

「それは言えんようになっている! ほれ」

大男が何かを言おうとするが、口がパクパクと動くだけで声は出ない。術で縛られていて、言いたいことが言えないというアピールなのだろう。

嘘はついていない。誰かの術の支配下にあることは間違いないらしい。

にしても、大地の記憶と、情報からの再現ね。死者を死霊術で甦らせたわけではないっぽいな。それこそ、大地の記憶とやらが残っていれば、死体がなくとも喚び出せるようだ。

それならロブがいる理由も分かる。つまり、他のゾンビたちも、レイドスの過去の英雄たちってことか? よく見たら、ほとんどのゾンビたちが紅い鎧を着こんでいる。そうでないのは2体だけだ。

「昔の、赤騎士?」

「呑み込みが早いではないか少女よ! 我は前赤剣騎士団団長、アポロニアスなり! ふはははははは!」

叫んだアポロニアスの全身から、炎が噴き上がる。豪快そうな男だが、その魔力操作は途轍もなく研ぎ澄まされていた。さすがシビュラの前任である。

ビスコットが、確か名前を出していたはずだ。鑑定でも、アポロニアスとなっている。邪気を纏うせいで全ては見えないが、間違いなく本人だろう。

つまり、戦闘力もシビュラ級ということか? すると、横にいた老人が、アポロニアスを馬鹿にしたような表情でため息を吐いた。

「敵に名乗ってどうする」

「せっかく現世に舞い戻ったのだぞ! しかも目の前には戦うに値する戦士! 名乗らないのは勿体ないではないか! ほれ、お主も名乗れ!」

「儂はよい」

「済まぬな娘よ! こやつは元朱炎騎士団団長、ベガレスだ!」

「言わんでいい!」

アポロニアスは宝具を持っているように見えないが、ベガレスは見覚えがある銃の形の宝具を手にしていた。

宝具まで再現されているようだ。

他のゾンビたちも名乗りを上げるが、やはり過去の赤騎士団の団長たちであった。アポロニアス以外は宝具を持っている。

ただ、毛色が違う2体は、どこかよそよそしい感じだ。アポロニアスたちと生前に知り合っていたというわけではないらしい。

それでも場の雰囲気的に名乗らねばならぬとは察したのか、やや憮然とした表情で名前を告げる。

「……ユヴェルだ」

褐色の肌に黒い髪の、美貌の青年である。手に持った巨大な剣を軽々と肩に担ぎ、青い目でこちらを睨んでいる。身につける白い薄手の衣は、いたるところに金銀宝石があしらわれ、確実に上級貴族であることを思わせた。キングというよりかは、マハラジャって感じだ。

その隣ではニコニコとした表情の褐色白髪の少年が、樫の杖で軽く地面を突きながら笑っている。こちらは白い魔術師風のローブだ。ただ、装飾がやはり華美で、貴族であることは間違いない。

「あっはっは! 死後何百年もたって、こんな場所で母国を滅ぼしたらしい国の走狗とされるとはね! 人生何があるか分からないや! ああ、もう死んでるんだったね! あははは!」

「黙れオルドナ。面白くもなんともない。瀕死のエルフから杖を奪えなど、王の仕事ではないだろうが」

「そうかい? どうせ縛られて逆らえないんだから、せめて楽しまないと損だよ?」

とても死霊同士の会話とは思えないが、種族はゾンビなんだよな。

「エルフから、杖?」

「その通り! そこのエルフが持ってるはずの、大精霊の中から出てきた杖! それが欲しいのさ! ああ、渡さなくてもいいよ? 殺せって言われてるし、死んだあとならどうとでもできる」

「喋り過ぎだオルドナ」

ハイドマンが狙っていた杖か。大精霊が持ってるはずだが、クリムトを殺してから奪う方法があるんだろうな。

「ふはははは! あのユヴェル王と戦場にて相まみえるとはな! 羨ましいぞ娘! 我がかわってほしいほどだ!」

「……ユヴェル王? だれ?」

「知らんのか! かの有名な、悪鬼殺しの王の名を! かつてレイドス王国がまだ小国だった頃、この一帯で最大の国土を誇ったラマス王国の国王にして、100万のゴブリンどもを少数の配下とともに迎え撃った英雄王だぞ!」

なんと、かなり昔の人物であるらしい。レイドス人ではなくとも、この近辺で活躍した人物であれば再現可能であるようだ。

「100万のゴブリン? すごい!」

「だろう? 是非戦ってみたいものだ!」

「ん!」

そこで頷いちゃダメ! どう見てもピンチなんだから! ていうか、生前通りの力を持ってるなら、ランクA以上は確実だぞ!

赤騎士団の元団長たちに、ランクA相当の戦士と魔術師が1人ずつ? どんな過剰戦力だよ!