軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1227 封鎖

開拓村の復旧が始まって五日。

先日には、村人たちが一応の落ち着きを取り戻したことを見届け、蟲人たちが旅立っていった。

本当はもっと早くレイドスへ向かいたかったのだろうが、村人たちも見捨てられなかったのだろう。

この日は村に、ペリドット本人が姿を見せていた。彼女の部下は大勢いるんだが、彼女自身はバルボラに残っていたのだ。

まあ、彼女の場合は暗部の上位者ということで、こちらに構ってばかりはいられないのだろう。

それでもやってきたということは、何か特別な用件でもあるのか? それとも、単に一度は視察しておこうと思っただけ?

とりあえず、彼女をシビュラたちとともに出迎える。

「よく来たね。ペリドット」

「なにかあった?」

「はい。ご報告したいことが」

ペリドットが直接報告しなきゃいけないほど重要なこと? どう考えてもいい話じゃないよな? シビュラたちの緊張感が僅かに高まる。俺と同じことを考えたのだろう。

彼女を、会議室として使っている長屋の一室へと案内し、テーブルを囲む。

「人払いを」

「分かったよ。クリッカ、誰も入れるな」

「了解しました」

これは、相当重要な情報っぽいぞ。逆に、フランがいてもいいの? ただ、ペリドットは気にせずに話し始める。

「レイドス王国との国境線が、封鎖されました」

「封鎖?」

「どういうことだい?」

元々レイドスは鎖国主義で、国交もないうえに、今は戦争中なのだ。巡回の兵は互いに増え、何もしていなくったって封鎖しているようなものだ。

だが、ペリドットの言う封鎖とは、もっと物理的な意味でのことであった。

「レイドスの王都周辺から北部を囲うように、結界が出現しました」

「はぁ? 国全体を覆っているっていうのか?」

「そうです」

ペリドットがレイドス王国の地図を取り出し、見せてくれる。この地図は、レイドスの捕虜から引き出した情報をもとにしているらしい。精度はかなり高いだろう。

その地図に、赤い線が引かれていた。かなり歪な形だが、中心部は、レイドスの王都よりやや西側だ。

赤い線で描かれた囲いは中央と呼ばれる王都周辺だけではなく、北、南の王都寄り2割くらいと、西側の8割、さらにはフィリアース王国の国土の半分ほどを包み込んでいた。

逆に、焦土作戦を取った東側や、クランゼル王国の土地は一切含まれていない。

「この赤い丸が、結界?」

「そうです。内外を完全に遮断するタイプの超高度な結界が、国土を覆っています。こちらから大規模な攻撃での突破を試みましたが、結界を破壊することはできませんでした」

なんと、エスメラルダ指揮のもと大規模な儀式魔術を使用したが、突破は無理だったそうだ。だとすると、マジで普通の方法じゃ破壊できないかもしれん。

「内外を遮断ということは、こちらからだけじゃないんだね?」

「レイドス国内にいた我が国の部隊とも連絡が取れなくなりました」

「アマンダたちとも?」

「はい。冒険者組が、この異常事態に帰還を試みないわけがありませんので、戻らないのではなく戻れないのだと考えられます。また、フィリアース王都も結界内に含まれており、そちらの状態も不明です」

「うーむ」

難しい顔をしているのは、シビュラたちだ。クリッカに、ビスドラも困った顔である。

村人たちの開拓村での生活が安定すれば、なんとかレイドスに戻るつもりだったはずだ。クランゼル王国がどのような条件を出してくるかは分からないが、交渉はするつもりだったのだろう。

それが、物理的に帰還できなくなったとなれば、今後の行動指針も変わってくる。

「この情報を先にお伝えしたのは、あなた方が勝手な動きをなさらぬようにです。我が国としては、あなた方がここから離れることは現状許容できません。分かりますね?」

「……ああ」

「キュオ……」

タダでさえ不穏な状況でレイドスの赤騎士が現場に近づくなど、国としては絶対に許可できないだろう。

「私がここに参りましたのは、何でもよいので情報が欲しかったからです」

「何でもと言われてもな……」

「些細なことでも構いません」

「うーむ」

出し渋っているというより、本当に見当がつかないらしい。

「少なくとも、国土を覆うような大規模結界を使用できる宝具や術者に、心当たりはないね。ただ――」

「ただ、どうしたのですか?」

「あー……」

シビュラが言いよどんだ。言っていいものかどうか、悩んでいるらしい。だが、すぐに意を決した表情になる。

「結界は、東側を完全に捨てている。ならば東征公たちの行動は、これを見越していたということだろう。万を超える民と兵を生贄に捧げて得た絶大な魔力があれば、それだけの結界も張れるかもしれん」

だとすると、この結界は東征公や超人将軍の独断? 国の上層部は巻き込まれているだけ? それとも、黒幕は王?

「そして、東征公の配下には、ゼライセっていう錬金術師がいた。こいつは、魔石の研究をしていて、他者にスキルを与えられるって話だった。眉唾だと思っていたが、それが本当だったとしたら? 結界を張る能力を、どこかから持ってこれる可能性はある。私が心当たりと言われて思い浮かぶのはそれくらいだ」

「ゼライセ!」

「黒雷姫殿は、直接の因縁があるのでしたね」

「ん。奴は、敵!」

フランの憤りを見て、シビュラの眉が少しだけ上がったように見えた。

「ゼライセが、こっちの国でやらかしたという話は聞いてるよ……。知らなかったじゃ通らないってこともね。前にバルボラにきた時に、それは思い知った」

シビュラが陰謀を積極的に支持するはずがないとは分かっている。だから、フランもペリドットも、彼女を責めるつもりは欠片もない。

そもそも平時の赤騎士の仕事を詳しく聞いた感じ、町にもろくに戻らず、国土を巡回して村々を救っていたようだ。

レスキュー隊や自衛隊の災害派遣部隊に、魔獣退治も加わったような役回りである。政治的な部分に関わる余地が欠片もない。そんな相手に、「なんで政治家の汚職を防げないんだ!」と怒るのは的外れだと思うのだが……。

シビュラ自身が、止められなかったことを悔やんでいるらしい。悲し気に、肩を落としている。

「民たちを見ているだけじゃ、ダメだったんだよ……」

ペリドットはそこに関して口を出すつもりはないようだ。努めて無視して、話を終わらせた。

「状況が変わりましたら、また伺います。絶対に軽はずみな行動はお控えください」

「ああ、分かってるよ」

「配下の方々への情報の開示は、あなた方の裁量で行ってください。混乱が起こらないと判断するのであれば、問題ありませんので。くれぐれも、お願いいたしますね?」

ペリドットは、シビュラたちに強めに釘を刺してから去っていった。本当は村の視察をしたかったらしいが、謎の結界のせいで忙しいらしい。

部屋に残されたシビュラは赤い髪を無造作にかき上げながら、大きくため息を吐いた。

「私らは、どう動くべきなのかねぇ……」

「クオ……」