作品タイトル不明
1224 お祝いと決意
「ウルシ」
「オン」
ギルドの屋根の上、身を預けているウルシの頭をフランがワサワサと撫でた。
今のウルシはバッファローくらいのサイズになって、フランに寄りかかられている。その頭はちょうどフランの右横にあり、撫でやすい位置なのだ。
「……ありがと」
「オン?」
フランがウルシの首に抱き着き、モフモフの毛に埋もれる。ウルシは尻尾をブンブン振って嬉し気だ。ただ、フランが埃を被らないよう、かなり控えめだが。
「私がランクAになれたのは、師匠とウルシのおかげ」
「オン?」
「私だけじゃ、まだ実力が足りない」
フランが眼前で拳をギュッと握り締めながら、少しだけ悔しげな顔をした。ランクAに成れたことは嬉しいが、自分では実力が足りていないと考えているんだろう。
俺やウルシがいる分、どこまでが自分の力で、どこまでが俺たちの力かというのが分かりにくいんだよね。
勿論、冒険者の世界では、武器や従魔も本人の実力の内だ。そうでなくては、神剣使いを無条件でランクSに上げるなんてしない。
フランもそれは分かっているからこそ、ランクAへの昇格を受け入れた。ただ、それでも自分だけでは足りていないということも自覚し、それを残念であるとも感じているんだろう。
『フランはスゴイ成長してる。いずれ、今よりもっともっと強くなるさ』
瞬発的には、ランクSが相手でも通用する強さを手に入れつつある。いずれ、本当にランクSも夢ではないだろう。少なくとも、全くの夢物語ではなかった。
「ん。でも、今はまだまだ。だからこれは、私たち全員で手に入れたもの」
フランが金色の冒険者カードを取り出して、見つめる。
様々な思いが渦巻いているに違いない。
「……だから、これからもよろしく」
「オン!」
『おう!』
フランはウルシに抱き着いたまま、俺も抱き寄せる。そうして、ウルシのモフモフと俺の硬さをジッと感じているかと思ったら、勢いよく顔を上げた。
グー。
「お腹減った」
欲望に素直なお腹ですこと!
しんみりした雰囲気は吹き飛び、フランが切ない顔でお腹をさすっている。
ググー。
「オン」
ウルシの腹も、フランの腹の音に釣られたらしい。そりゃあ大きなグーという音を響かせていた。
いや、宴会しながらメッチャ食べたし、さっきまでカレー食べてたんだぞ? しかも、昇格祝いで大量に。
「ウルシの毛の匂い、お腹減る」
『ウルシの?』
「オ、オン?」
ウルシが「え? 俺?」的な感じで自分の毛をクンカクンカする。どうも、カレーの匂いが染みついているようだった。
フランが食べていたカレーの匂いだろう。いや、ウルシもかなり食べてたか? ともかく、好物であるカレーのスパイス臭が、フランの胃袋を刺激したらしかった。
『カレーもいいけど、下に行って何か食べようぜ? 商人さんとか、急なのに屋台出してるみたいだし』
完全にお祭り扱いなのだ。
騒ぐ理由が欲しいだけって人も多いだろうが、きっかけはフランのランクアップだ。町を巡ってみるのも悪くはない。
「ん」
「オン!」
町を歩くと、どこででも声を掛けられる。
「おめでとう!」
「我らの黒雷姫にかんぱーい!」
「ばんざーい! ばんざーい!」
「狼さんもかっこいい!」
その喜び方は違えども、全員が笑顔である。さらに色々な食べ物を渡され、あっという間に手が塞がってしまった。
ウルシにもそれを食べさせてやりながら、フランはふと気づいたらしい。
「シビュラとかミーミにも、食べさせてあげたい」
『あー、なるほど』
砦から出ることはできていないだろうし、急に祭りのような騒ぎが聞こえ始めて困惑しているかもしれないな。
他にも酒や食料を買い込み、レイドスの人々への差し入れに向かう。ああ、砦の前でちゃんと、ペリドットに差し入れをしていいか尋ねたよ?
労いも大切であるということで、許可されたのだった。
皆をテーブルを並べた中庭に集めて、食事と酒をドンドン取り出していく。立食形式だ。
「こりゃあ、なんだい?」
「私のお祝い」
「うん? フランの?」
「ん。ランクAに上がったお祝い」
『フラン! それだとまるで自分のお祝いパーティを自分で開催してるみたいだから!』
だが、ペリドットがしっかり補足してくれた。そのおかげで、なんとかランクアップのお祝いのおすそ分けだと分かってもらったらしい。
まあ、村人たちはことの重要性が全く分かってはいないが、それでも何かいいことがフランにあったのだと理解したんだろう。
「おめでとう!」
「おめでとうございます!」
「お姉ちゃんおめでとう!」
祝いの言葉を口にしながら、皆で拍手してくれた。冒険者のランクを知っているシビュラたちはしばらく唖然としていたが、最後はしっかり祝福をしてくれる。
「おめでとう。私らにとって、いいことかどうかは分からんがな」
「今までランクBだったのが詐欺のようなものでしたから」
「キュオ!」
「ん」
何度聞いても、祝福の言葉は嬉しいんだろう。フランはハニカミながら頷いたのだった。