軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1220 騎士の館

「一階は食糧庫や武器庫となっています。鍵がかかっている部屋には立ち入らないでください。居住区画は二階ですので、そちらの階段から上がります」

「確かに古いが、造りはしっかりしてるねぇ。かなり頑丈そうだ」

「キュイ!」

「戦砦として作っておりますので」

石造りの砦の内部は、外からの印象とは違ってかなり狭かった。

壁に使われている石材が分厚く、その分内部の空間が削られるのだ。強度優先で建てられているらしい。

人がすれ違えないほどではないが、三人並んで歩くことは不可能だろう。

天井も、2メートルほどしかない。鬼人族は、少し屈まないと入れそうもなかった。

ただ、こういった石造りの建造物にありがちな、埃っぽさはない。ペリドットたちが事前に掃除をしておいてくれたらしい。

武器庫の中には、普通に武器が残されていた。多分、あえてなんだろうな。中の物をコッソリ持ち出そうとするものは危険分子であると判断できるし、その点を追及すればシビュラたちに貸しを作れる。

ある意味、踏み絵というか、本当に大人しくこちらに従うかを試しているのだろう。

仮に全て奪われたとしても、装備するのは一般市民だ。そこまでの脅威にはならない。

シビュラもその考えに至ったのか、クリッカや赤騎士に見張りを立てるようにと指示している。

「ここから先が居住区画です。空き部屋には、ベッドなどを既に運び込んであります。ただ申し訳ありませんが、一部の部屋はリネン類の入れ替えができておりません。そのままご利用していただく形になります」

ペリドットが扉を開けて、部屋の中を見せてくれる。そこには、ベッドや机だけではなく、衣類などがそっくりそのまま残されていた。

この部屋の主が出征中なのか、死んでしまったのかはわからない。ただ、今はいないから、そのまま使えということなのだろう。

日本だったらプライバシーがどうのと騒がれるだろうが、人権なんて言葉がないこちらの世界ではさほどおかしい話ではないらしい。財産は身につけたり、ギルドや国に預けるのが当然らしいしね。

騎士の就寝用の部屋に残されているものなど、大した価値はないだろう。

少し戸惑ってはいるが、シビュラたちも受け入れている。ただ、勝手に部屋を使われるどこかの騎士さんだけではなく、使う側もただ嬉しいだけではないようだ。

「……元のベッドが残っている部屋は、優先して赤騎士に使わせよう」

「そうですね」

「キュー」

シビュラとクリッカが、鼻を摘まみながら頷きあっている。小さい手で鼻を押さえているのは、ビスドラも同じだった。

独身の男性騎士ばかりの砦なんて、体育会系の学生寮と似たようなものだ。

リネン類の洗濯や日干しなんて、考えもしない生物たちの巣窟である。俺には分からないが、大分独特なスメルが部屋に充満しているらしかった。

『フラン、ウルシ。どうだ?』

(くしゃい)

(オン)

フランも鼻を押さえて、顔をしかめている。奴隷生活でその系統の臭いには耐性があるはずのフランでさえ、これとは……。男性騎士恐るべし!

ウルシは逆に問題ないらしい。犬って、臭いものほど好きだったりするもんね。

「いつまでここにいることになるか分からんが、できるだけ早めに洗濯をやっちまいたいところだね」

「水の手は裏に井戸がありますので、そちらをご利用ください。火を使う場合は、一階の調理室です」

「分かった」

1人部屋や複数人部屋があるが、全部で200人分ほどが、騎士たちが使っていた物をそのまま引き継ぐことになるらしい。

それを全部洗濯するのは、かなり面倒なんじゃないか? フランも同じことを考えたようだ。

「エリアクリーン」

「うぉ!」

「こ、これは……」

フランが使用した浄化魔術が、広範囲を包み込んだ。この術は死霊や毒には効果がなく、カビや臭い、汚れを綺麗にすることに特化された術である。

これで、砦の中の汚れや、リネン類の臭いが大分マシになったはずだ。

「浄化魔術も使えたのか」

「高位の術ですよ」

「幾つ魔術を使えるんだよ……」

「キュイ」

掃除用の術なので、邪竜であるビスドラにも影響はない。そこまで考えてこの術を使ったのだろう。

「他にやれることがあったら、なんでも――」

「いえ、黒雷姫殿はここで別行動です」

「?」

「私と共に、領主館へいってもらいます。ご自分の口で報告をしてもらいたいので。こちらの監督は部下が行いますので、ご安心を」

他にも役に立とうと気合を入れるフランだったが、それは叶わなかった。というか、クランゼル側では俺たちしか全貌が解ってないんだし、報告に行くのは当然だろう。

「……わかった」

フランもこの報告の重要性は分かっている。残念そうではあるが、素直に頷いた。

「フラン、ウルシ。色々助かったよ」

「ありがとうございました」

「キュイ!」

シビュラたちが差し出した手を、フランが握り返す。フランは戻ってくる気満々だが、どうなるかは分からないのだ。シビュラたちも、それは分かっているんだろう。

クリッカはウルシの頭をずっと撫でているな。こいつ、実はモフラーか?

「では参りましょうか」

「ん」