軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

118 2日目

さて、ウルシを見送ったら、俺たちは明日の準備だ。

本当は初日はプレーンと中辛だけで、2日目から激辛を追加する予定だったが、テンション上がって初日から激辛を売り出しちまったからな。他に新商品を考えないと。

「師匠、新たなカレー料理を考えた」

『ほう? どんなカレーだ?』

「至高と最強の合体。カレー寿司」

『おおう。なかなかパンチのあるお名前で』

味が想像できん。それに、カレーパンに応用は出来そうもないな。

まあ、俺にバッチリアイディアがある。

まずは激辛を超える激辛。その名も竜辛だ。死に辛とか鬼辛とか色々考えたんだが、この世界の最強生物である竜の名前をとってみた。竜すら火を噴く最強の辛さ、竜辛! みたいなキャッチフレーズを考えている。

揚げ油にはややラードを多めに、生地には黒いスパイスを練り込み、かなり黒い見た目に仕上げてある。あと中身は豚と牛の合い挽き肉を使い、キーマカレー風の具にしてみた。

もう1つはプレーンを更に甘めに仕上げた上に、牛乳と一緒に仕入れたチーズを仕込んだチーズカレーパンである。

揚げる時のパン粉をなくし、生地はやや厚めにした。その方がモチモチ感を楽しめて、より子供向けに出来ると考えたからだ。

どちらも大量に作るのは難しいが、とりあえず2000個ずつ作る予定だ。これを1つ20ゴルドで売り出す。2000個しかない上、お1人様4つまで。限定品に弱いのはどんな世界でも一緒だろう。絶対に売れるはずだ。

「さすが師匠」

『そうだろ? この2つは俺が作るから、フランは明日の分のカレーパンを揚げてくれ』

「ん」

これに、初日から売った3種類を合わせて、5種類で勝負である。

それからしばらく、俺達は黙々とカレーパンを作り続けた。そして日付が変わる頃、ようやく俺はタネを作り終えた。後は揚げるだけだ。

『ふぅ。ようやく半分かな』

「お疲れ」

『ん? それなんだ?』

早めに揚げ作業を終えていたフランが、何やら鍋で料理を作っている。

「カレー寿司。作った」

興味あることなら苦手な作業でも平気なのね。鍋の中はカレーソースの様だ。出汁とかを加えて、スープに近い感じになっているな。その横にはマグロ寿司が並べられている。

「寿司をこのソースに付けて食べる」

『なるほど』

なかなか攻めてるな。

「食べて?」

『あ、ああ』

せっかくのフランの手料理。食べるのには勇気がいるが……。食べない訳にはいかないだろう。

俺は分体を生み出して、カレー寿司に手を伸ばした。マグロ寿司をつまみ、カレーソースに浸す。うーむ、マグロの赤身に黄色いカレーソースがまとわりつき全くおいしそうじゃない。

だが、ここで食べねば男ではない!

「いただきます」

「ん」

モグモグ……。あれ? 悪くないぞ。というか美味しい。マグロの生臭さをカレーの香辛料が抑え、マグロの旨みが引き立っている。酢飯との相性もバッチリだ。

いや、考えてみたらフランの料理スキルはLv10だし、称号もある。本気を出せば俺よりも料理の腕は上なのだ。そして、この料理を作るのに本気を出したという事だろう。

まあ、カレーパンに応用は出来そうもないが。フランもこれを作って満足したようだ。寿司を食べきると満足したように宿へ戻っていった。

俺は作業の続きである。激レアなフランの手料理も食べたし、精神力満タンだ。このままノンストップで揚げまくってやるぜ!

翌日、まずは料理ギルドで新商品を提出した。使っている材料は申請した物の中で賄っているので、試食してもらえばすぐにOKが出る。

屋台は朝から大盛況だった。どうやら昨日の内にカレーパンの噂が広まったらしく、200人以上の行列が途切れない。新商品も好評なようで、売り上げは順調だ。特にチーズ入りが子供に人気があるみたいだな。

今のところ妨害もないし。

因みに、ノーブルディッシュには冒険者の護衛が付いている。昨日の妨害を受けて雇ったらしい。客のことを考える素晴らしい店主だという噂が流れているな。

めちゃくちゃ怪しいので、その噂を口にしている人間を鑑定してみた。

これは……。完全にサクラじゃないか? どう見てもチンピラだし。スキルに恫喝Lv1がある。こいつらが自発的に誰かを褒めたりするか? しないだろう。

これでいよいよ怪しくなってきた。あとはウルシが戻ってくればハッキリするだろう。このまま何事もなく終わってくれればいいんだが……。

そう思っていたら、行列でなにやら揉め事が起きていた。どうも列に横入りしようとした男が、並んでいたお客さんと揉め事になっているらしい。コルベルトとフランが急いで向かう。

すると、すでに暴れる男が誰かに取り押さえられていた。どうやら冒険者が並んでいて対処してくれたらしい。

しかしこの男異常じゃないか? 取り押さえられているのに、なんか訳分からないことを叫びながらもがき続けている。ヤバい薬でもキメてんのか?

鑑定してみたら状態が邪心・興奮となっていた。これって、状態異常なのか? それに邪心って。悪人とは違うのだろうか?

とりあえず精神の状態異常を解除する回復魔術リフレッシュを使ってみる。すると男の状態が平常に戻り大人しくなる。そのまま衛兵がやってくるまで男が再び暴れる様な事はなかった。

「昨日に続きご苦労様です」

「ああ。こいつを頼む」

「はい。ほら、とっとと歩け。全く、今日は妙にこういった騒ぎが多くて。祭りでハメを外す輩が多くて困っておるのです」

酒でも飲んでタガが外れちゃったのかね? 地球でも祭りの時は喧嘩やスリが増えてたし。こっちでも同じなんだな。いわゆる魔が差したっていう状態なんだろう。

結局、この日はもう1度酔っぱらいが騒ぎを起こしたくらいで、大きな問題もなかった。いや、1つだけあったか? 行列に妙に厳つい男たちが混ざり始めたのだ。冒険者や傭兵だと思われた。別に他のお客さんを脅したりする訳ではないのだが、立っているだけで威圧感を感じるようだ。微妙に居づらそうにしているお客さんも多かった。だからと言って、顔が怖いから帰れとも言えない。

どうも竜辛の噂が冒険者たちの間に広まっている様だった。竜すら火を噴く超激辛のパン。これを食べきれたら真の漢である。そんな噂だ。そして、度胸試し兼興味本位で冒険者などが押し寄せたらしかった。

「うーん、ちょいと大げさに話し過ぎたか?」

お前かコルベルト! ランクB冒険者のコルベルトが悶絶するほどの辛さ。これを食べれて一人前。男たちがそんな話をしているな。

とは言え問題を起こすわけでもないし。微妙に迷惑だが仕方ない。それに妨害者に対しての抑止力にもなるだろう。放っておくか。

結局大きな問題もなく2日目は終了し、今日もまた料理ギルドに戻ってきた。

領主の3男は相変わらず取り巻きを連れているな。どうやらウルシはいないみたいだ。他の場所を監視しているんだろう。

「今日も盛況でしたな~」

「優勝間違いなしですな!」

どうも店のスタッフだけではなく、商会の仕入れ担当者や護衛も一緒に連れてきているようだな。あとは貴族っぽい奴らもいる。やっぱ領主の息子だから、取り入ろうって奴らもいるんだろう。なんか尊大な態度でふんぞり返っているし、こいつは絶対に平民のお客さんの為に土下座はしないな。

領主の3男が何かボロを出さないか観察していたら、フランに話しかけてくる人間がいた。

「こんばんは」

「ん。ばんわ」

「私は竜膳屋という店の主人をやっております。フェルムスと申します」

ウェーブのかかった金髪、切れ長の瞳。服の上からでもわかる引き締まった肉体に、180近い身長とすらっと長い手足。常に浮かべられた柔らかい笑みは、さぞかし多くの女性を虜にしてきたことだろう。顔に刻まれた皺でさえ、この男の魅力を増す要因でしかない。どう見ても40代半ばにしか見えなかった。

昨日に続き今日も鑑定をしてみる。やっぱり60歳だな。しかも種族は人間なのに。どんなアンチエイジングすれば、こんな若く見えるんだ?

「ん。フラン」

「実は黒しっぽ亭さんのカレーパンを食べさせていただきました」

お、なんだ? 何かいちゃもんでも付けに来たか?

「いや、本当に感動いたしました。まだまだ知らない食べ物があるのですね。あなたの師匠がお作りになっていると聞きまして」

「ん、師匠が考えた」

「素晴らしいですね。師匠さんに感動したと伝えてください」

このレベルの料理人に褒めてもらうのは素直に嬉しいな。

『嬉しいと伝えてくれ』

「ん。師匠も喜ぶ」

「ぜひあなたの師匠とご一緒に私の店にいらしてください。では」

とりあえず挨拶だけだったらしい。それだけ言うと離れていった。すると他の料理人も声をかけて来たな。タイミングを見ていたらしい。皆カレーパンを「斬新だ」「美味しい」と褒めてくれる。本気で褒めてくれているな。悪い気はしない。

そして領主の3男も近寄ってきた。他の料理人たちが一瞬で離れていったな。

「嫌な奴がきたぜ」

「七光りが」

「外面は良いくせに」

「色々嫌な噂を聞く奴だ、気を付けなよ?」

料理人たちの呟きが耳に入る。こいつ嫌われてるねー。

「ノーブルディッシュのウェイントです。私もカレーパンとやらを食べさせていただきましたよ」

「ん」

「斬新で鮮烈。素晴らしい料理ですな」

「ん」

「お互いに頑張りましょう」

完全に嘘だった。あの野郎、フランと握手した手をこっそり拭いてやがる。しかも超ゴシゴシこすりやがって!

「ご苦労ですな。わざわざ小汚い獣人にもお世辞を使わねばならないとは」

「なに、精々機嫌を取ってやれば良い。その方がやりやすいからな」

聞こえてないと思って好き勝手言ってやがる! そんなに汚れたんなら、いっそのこと俺が斬り落としてやろうか! くそ、ウルシは何してるんだ! さっさと証拠を持って帰ってきてくれれば、あのクソ野郎を断罪してやるのに!

今は見逃してやるが、首を洗って待ってやがれよ……!

俺達はむちゃくちゃ気分の悪いまま貸家へ戻ってきた。いや、フランは全然気にしてないみたいだから、俺だけがイライラしてるんだけどね。

「師匠」

『おう、分かってる』

フランが警戒も露わに身構えた。その視線は、貸家の中へと向けられている。俺も怒りを抑えて集中だ。

誰もいないはずの貸家の内部に、複数の人の気配があった。また来やがったのか? この時点で完璧に招かざる客。不法侵入者だ。殲滅確定である。ただ、貸家だから壊したくないし、血で汚すのもダメなんだよな。

『コッソリ近づいて無力化するしかないな』

「分かった」

気配を殺し、俺達は厨房の入口へとコッソリ近づいた。侵入者の気配は、店舗部分に2人。厨房に2人だな。

サイレントの術で音を消し、ドアの鍵を開ける。ふむ。鍵はかかったままだな。店舗から侵入したのか? まあ、それも捕まえてから聞き出せばいいか。

僅かに空いたドアの隙間から中を覗き見る。人影は見えないな。どうやら物陰に隠れているらしい。

フランを待ち伏せしているつもりなのか? だが、俺達の気配察知能力の前には無駄なことだ。

『じゃあ、俺が右の奴をやる。フランは左を頼む』

(ん)

サイレントを部屋全体にかけると、まずは俺が突入した。雷鳴魔術を扉の影にいた男に放つ。無音の空間の中、電撃を受けた男は何やら口をパクパクしながら気を失った。

背後では、フランがもう1人を片づけ終わっている。こっちもスタンボルトで麻痺っているな。男たちを糸でササッと拘束する。

残った奴らも、すぐに捕まえることができた。腕はそこそこ立つ。全員Lv20超えだし。フランがただのランクD冒険者だったら、奇襲で勝てたかもしれない。先日の襲撃で学習しなかったのか? もしかして、別口なんだろうか?

俺たちは4人の男を並べ、尋問を開始する。とりあえず一番Lvが高いリーダー格風の男を起こすか。

「起きた?」

「が、な、なんだこれは……。おい、この紐を解きやがれ!」

「それは答え次第。なんでここに居た?」

「ああ? 知るか! 俺たちにこんな真似してただで済むと思ってやがんのか!」

10分後。

侵入者たちはガクガクと震えながら、大人しく正座していた。全員の顔が見る影もなく変形しているのはご愛敬だ。

「じゃあ、明日の予選参加を止めさせるために、私を襲おうとした?」

「ひゃ、ひゃい、そうでふ」

店に潜み、フランがやってきたら襲う手はずだったらしい。なんか襲撃イベント多すぎじゃない? いい加減にしてほしいんだが。

背後にいるのは誰なのか尋問するが、男たちは知らない名前を口にした。

「リンフォード? それが黒幕の名前?」

「ひゃい」

なんと、あの謎の屋敷に数人の配下と共に逗留している老人なのだと言う。この男たちはそのリンフォードに雇われた人間らしい。

どんな理由で俺たちの妨害がしたいんだ? 領主の3男の援護? 先日の錬金術師の配下とは関係ないのか? それとも、錬金術師の配下とか、そう言った人物か? だとすると、コンテストへの参加を止めさせる理由はなんだ?

やはりあの屋敷に踏み込むしかないのだろうか?

『結局、ウルシ待ちか……』

「ん」