作品タイトル不明
1196 異形化
「俺の名は『刃鷹』! 東征公様の配下、超人兵長が1人だっ!」
鶏のような甲高い声で、自分の名前や所属を叫ぶ。簡単に情報が手に入ったな。考えが足りないタイプなのかもしれない。
(じんよう?)
『鑑定しても、刃鷹って表示されるな』
偽名ではなく、それが本当の名前であるようだ。出会ったばかりのフランが名前を失っていたのと同様に、何らかの理由で名前が変わっているんだろう。
着込んでいる背中の開いた鎧は明らかに魔道具だが、鑑定を惑わせるタイプの能力はなさそうだしな。
「さあ、俺は名乗ったぞ? お前は何者だ!」
『俺は正義の騎士グレイ! 旅の途中で立ち寄った村がピンチと知り、守るために立ちあがった!』
俺がそう叫んだ瞬間、フランがポーズをビシッと決めていた。どうやら、ずっと考えていたらしい。1号ライダーの変身ポーズそっくりだね。
刃鷹も一瞬キョトンとしていたが、馬鹿にされたと思ったんだろう。その猛禽の顔を歪め、憎々しげに叫ぶ。
「ふざけた奴だ! だが、いつまでその態度を続けていられるかな? レイドス王国に仇なすものは、ぶち殺してくれるわ!」
『あの村だって、レイドス王国だろうが!』
「そうだな! だからこそ国のために命を捧げる義務があるのだ! レイドス王国の更なる繁栄のためにな!」
『何が繁栄だ! あれだけの兵士、操り人形みたいにしておいて、それが国のためだっていうのかよ!』
「その通りだ! 東征公様の行動は、全てはお国のため! 多少の犠牲など、大事の前の小事に過ぎん! この国の民であるならば、喜んで命を差し出すべきなのだ! それを、どの村も逆らいやがって! 非国民共が! あの村のクズどもも、有難く生贄に使ってやるわ!」
何万もの人間を犠牲にしておいて、小事だと? 有難く生贄に使ってやる? はぁ?
俺がブチギレる前に、フランが動き出していた。殺気を撒き散らしながら、刃鷹に斬りかかる。奴の物言いに、我慢ができなくなったのだろう。
声は出していない。それでも、その内に秘めた怒りの念はハッキリと感じ取れた。
『民を守るための国だろうが!』
「国のための民だ!」
フランの斬撃を、刃鷹がその腕で受け止める。姿形は変えていても、フランが振るう刃は俺だ。当然、攻撃力だっていつもと変わらない。
そんな俺を、腕で受け止めた? 骨の半ばまでは食いこんでいるが、そこで止まってしまっていた。どんな硬さしてやがる!
『フラン! 冷静になれっ! こいつは、強いぞ!』
(……ごめんなさい)
ミーミたちを生贄にすると言われて、怒りを抑えきれなくなったのだろう。だが、すぐに深呼吸をして、冷静さを取り戻していた。
『ウルシは、兵士たちを村に行かせないように頼む』
(オン!)
『俺たちは、こいつを倒す』
(ん!)
ウルシが眼下の軍勢に向かって駆け下りていく姿を見ても、刃鷹はその場を動かなかった。隙を見せたら、斬りかかってやろうと思っていたんだがな。
『追わなくていいのか?』
「……くははははは!」
『なに笑ってやがる』
自分の優位を疑っておらず、勝利を確信しているかのような嫌な笑い方だ。
「お前、あの村を守りたいんだなぁ?」
『……罪のない人々が、死ぬのを見たくないだけだ』
「だったら、貴様の眼前で蹂躙してやろう! 目覚めろ! 失敗作ども!」
あれは、笛か?
刃鷹が胸元から取り出したのは、10センチほどの小さい金属笛だった。強力な魔力を放っている。
あれが、兵士に命令を下すための魔道具で間違いないだろう。俺たちは奴の行動を警戒し、周囲に新たな風の結界を生み出した。
だが、刃鷹は魔道具の笛を口に運ぶことなく、その場でボギリと握り潰したではないか。
銀色に輝く笛が、ヒュッという小さな音を最後に、無惨に砕け散る。
「!」
『凄い魔力が!』
笛から溢れ出す凶悪な魔力が風の結界を破壊し、鉄鈴のような甲高い音が戦場中へと響き渡る。
直後、兵士たちに驚愕の変化が起こっていた。その動きを止めたかと思うと、その全身が肥大化し始めたのだ。最初は肉が膨れ上がるだけだったが、すぐにそのシルエットは異形へと変貌を遂げる。
一様に同じではない。
ある者は背中に蝙蝠のような翼が生え、首の横に猫のような首が新たにボゴリと生み出される。
ある者は肌が緑色に染まり、背中から巨大な腕が生える。
ある者は下半身が甲虫版のケンタウロスのように変異し、その眼が複眼と化す。
同じなのは、全員が何かしら1種類の魔獣と混じり合ったような姿になったことだろう。
「もう、奴らは止まらん! 自分たちを一個の群と考え、それ以外をひたすら襲い続けるだろう!」
刃鷹が叫ぶ間にも、兵士たちの動きが大きく変化していた。もう、統制された様子もなく、本能のままに動き出したのだ。
空を飛べるようになった個体も多く、こちらに向かってくるのが見えた。
『リミッターを外したってことか? さっきまでとは段違いの強さだ!』
「ん!」
生命力が減り続けているのが分かる。命を燃やすことで、短時間だけ超強化されているようだ。放っておけば、1時間もせずに全滅するだろう。
だが、それでは村が滅びる。
(師匠!)
『ああ!』
俺たちは、刃鷹を無視して、その場から転移した。そして、村に向かおうとしていた飛行タイプの超人を、一気に斬り捨てる。
『こいつ、硬いな!』
(まだ生きてる!)
『普通に斬ったくらいじゃ、死なんか!』
心臓を斬ったはずなのに、まだ動いていた。二の太刀で頭を横一文字に断つが、それでも死なない。
『いい加減、死ね!』
付き刺した切先から爆炎の魔術を流し込み、体内から吹き飛ばす。そうして、ようやく再生しなくなっていた。
『刃鷹は――高みの見物か! こっちが弱るのを待ってるみたいだな』
(でも、村を助けないと!)
『ああ、分かってる。まずは暴走している兵士たちを片づけるぞ! 飛行型を優先で!』
「ん!」