軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1169 ヘルの影響

ペルソナが泣いていると、自身も悲しそうな顔で呟くフラン。何か、俺には分からないものを感じ取っているらしい。

「師匠! マレフィセントのとこにいって!」

『え? マレフィセントの近くにか? さっきは、自分で離れたがってたじゃないか』

「オンオン!」

俺だけではなく、ウルシも思いとどまらせるように咆える。

今のマレフィセントは、明らかに憤怒に呑まれている。下手なことをすれば、その攻撃がこちらに向くのは当然に思えるのだ。

だが、フランの意志は固かった。

「それでも!」

下手に刺激したら、矛先がこっちに向きかねんのだが……。しかし、俺を見るフランの顔は、真剣だ。

「師匠! お願い! 声をかけなきゃいけない!」

『声をかけられればいいんだな?』

「ん!」

『わ、分かった』

必死な様子のフランに促され、俺はマレフィセントとの距離を縮めた。さらに、ディメンジョンゲートを開く。これで、声だけを届かせることができるだろう。

『フラン!』

「ん。マレフィセント! もうやめる!」

マレフィセントからの返答はない。だが、フランを見ている。それは分かった。

やばい! 凄まじい殺気が、こちらに向けられている! やはり邪魔するべきではなかったんだ!

だが、神剣使いの濃密な殺気を浴びながらも、フランは止まらない。

「ペルソナが、悲しんでる!」

「!」

フランがそう叫んだ直後だった。マレフィセントの動きが止まる。

一瞬の間。

そして、黒い津波があっさりと消え去っていた。マレフィセントが周囲に撒き散らしていた殺気や怒気も、即座に収まる。

「済まない……。いえ、済みませんね。ペルソナ」

「……」

マレフィセントの声色が、元に戻った。やはり、この男にとって、ペルソナが全てなのだろう。

ペルソナが軽く首を振りながら、マレフィセントの首に抱き着く。

『よくペルソナの気持ちが分かったな?』

(なんとなく、ペルソナが泣いてる気がしたから)

『そうか』

(ん)

もしかして、ペルソナが何らかの方法でフランに助けを求めたのだろうか? 俺には全然わからないけど、フランやマレフィセントは彼女の意思を理解できてるみたいだしな。

ともかく、惨劇は止まった。どれほどの被害になったのかも分からない、深い爪跡をレイドスの大地に残して。

ゆっくりと近づくが、もうマレフィセントがこちらを睨むようなこともなかった。

「黒雷姫殿。止めていただきありがとうございました。少々、怒りに我を忘れていたようです」

「ペルソナ、だいじょぶ?」

「……」

頬に涙の跡を残したペルソナが、コクコクと頷く。

「ペルソナ。あなたが泣く必要はないのです。今回は確かに取り乱しましたが、もうここは私の国ではない。そしてレイドス人たちが死んだのは自業自得です」

「……」

ペルソナが力なく、頷く。

どうやら、マレフィセントの心情や、死んだレイドス人たちを悼んで、涙を流したらしい。

疑問なのは、マレフィセントの行動はどこまでがペルソナの願望なのかという点だ。

今回の破壊行為だって、ペルソナが強く命令すれば止められたはずなのだ。しかし、涙を流すくらい心を痛めているのに、マレフィセントのやりたいようにさせていた。一見すると、一切縛っていないように見える。

ただ、永久の忠節とペルソナの能力によって、マレフィセントの行動指針に彼女の願望が混じっていることは間違いない。

ペルソナが、心の底では破滅や破壊を望んでいる? それをマレフィセントが無意識に汲み取って、行動している可能性は? もしくは、本当にペルソナは受け身で、マレフィセントが暴走しているだけ? ペルソナのためだと言いつつ、自身の破壊願望を満たしているだけなのか?

分からない。ただ、この2人の繋がりが、凄まじく歪で、脆い関係に見えた。そして、そんな二人に、俺たちが似ているとフランは言った。

気を付けないといけないな。こうなってはいけない。とは言え、それをここで口に出すわけにもいかないし、俺は他に気になっていることを尋ねてみた。

『……なあ、聞きたいことがあるんだが』

「ほう? 剣さんですか?」

『ああ。俺はインテリジェンス・ウェポンの師匠。フランの相棒だ』

「……!」

「よろしくお願いいたします」

ペルソナが笑顔で手を上げる。珍しい存在を目にして、喜んでくれているらしい。少しでも悲しい気持ちが紛れたのなら、よかった。

『俺のことを分かっていて、フランに聞かなかったのはなんでなんだ?』

「ペルソナが、大事な隠し事なら、聞いてはいけないと考えていたので」

「……」

マレフィセントの言葉に、ペルソナがコクリと頷く。彼女が気を使っていてくれたらしい。

『あの黒い場所は、もう一生あのままなのか?』

「さすがに永劫ということはありませんよ」

そうか。そりゃあそうだよな。永劫影響を及ぼすなんて、神剣でも無理だよな。

「今回は本気で呪ったので、生き物が戻るまで3年。影響が完全に消え去るまで10年というところでしょうか?」

長っ! メッチャ長い!

でも、大昔にヘルが使われた場所が、今でも不毛の土地になっているって聞いたことがある。本気で呪って影響が10年なのか?

『クローム大陸に、ずっと影響が残ってる場所があるのはなぜだ?』

「さて、どうしてでしょうね?」

マレフィセントがはぐらかすように呟く。それで何となく察した。ペルソナが関係しているんだろう。

自分を虐げた国に対し、心の奥底で悪意を抱えているのは当然だ。そして、ペルソナの能力なら、マレフィセントの起こした災害の爪跡を、そのまま固定化することだって可能なのかもしれない。

いや、マレフィセントが言葉を濁したってことは、ペルソナにとっても無意識の行いなんだろう。

ペルソナ自身、完璧には制御できていないのかもしれない。