軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1155 死の舞姫

天龍の奇襲をマレフィセントが防いだものの、未だにレイドスからの攻勢は続いていた。

マルス砦から飛んでくる赤い矢は、宙を飛び回るフランを執拗に追ってくる。

そのさらに上空には、未だに魔術を放つ天龍。雷鳴、閃光、暴風に加え、未知の魔術すら使っているのだ。あれが竜や龍特有の魔法か?

さらには、砦から死霊が湧き出してくる。

数は少ないが、その全てが半透明の幽霊タイプであった。物理攻撃は効かず、魔力の籠った武器や魔術でなくては倒せない。

そんなゴーストたちが、山側からこちらの陣地へと襲い掛かろうとしている。どれだけ険しい山でも、浮遊可能な幽霊なら問題ないからな。

とは言え、それほど数は多くないし、ジャンが対応するだろう。

だが、レイドス側の攻撃はこれで終わりではない。なんと、砦から兵士たちが出撃してきたのである。

守備兵はそれほど多くないはずなんだが、まさか攻撃に転じてくるとは思っていなかった。ここで決着をつけるつもりなのか?

しかも、その兵士たちの先頭には、赤い鎧を着こんだ騎士たちがいる。赤騎士だ。やはり、ここで乾坤一擲の勝負を仕掛けてくるつもりか!

『ウルシ! いざとなったら赤騎士に奇襲をかけろ!』

「オン!」

『ただ、血死の赤い霧には気を付けろよ』

正直、あの赤い霧の能力がよく分からない。触れただけで人が血を吐き、死んでいく。それなのに、毒ではないようだ。

ウルシであっても、どうなるか分からなかった。

そこに、こちら側の砦からも兵士が姿を見せる。先鋒と次鋒が態勢を立て直して、再度出撃してきたのだ。盾役のアンデッドを前面に押し立てて、レイドスの兵士を迎え撃とうとしている。

『茜雨の矢が向こうにいかないようにするぞ!』

「ん!」

強力な矢で混乱させられてしまえば、赤騎士に一気に蹂躙されてしまうかもしれない。今まで以上に、矢を防ぐことに注力せねばならなくなったのだ。

ただ、茜雨の動きはこちらの予想から大きく外れていた。

こちらの軍勢を狙ってくるかと思ったら、よりフランに対して矢を集中させ始めたのだ。次々と放たれる矢が、間断なくフランに襲い掛かってくる。

フランがレイドス軍の邪魔をしないようにするためか?

眼下では、こちらの兵士とレイドスの兵士がぶつかり合う。

だが、それでもこちらにはまだ切れる手札があった。クランゼルの部隊の先頭には、赤騎士すら薙ぎ払う強者が立っていたのである。

「ドーレ、強い」

『あれが、死の舞姫の異名の由来か』

ジャンの護衛役であったドーレが、出撃していたのだ。その異名の通り、クラシックバレエのダンサーのように優雅に跳び、舞う。

しかし、放たれるのは、優雅さとは対極の凶悪な体術だ。特に蹴りが凄まじい。

ドーレの繰り出す蹴りは、俺たちから見ても異常な威力だった。

全身のバネと、踏み込みの力、さらには舞による回転力。それらを最大限に乗せたその一撃は、盾を砕き、鎧を貫通し、時には首をサッカーボールのように弾き飛ばしてしまう。

しかも、踊りながら放つ蹴りはタイミングが読みづらく、回避しづらい。

相手は、赤騎士なんだぞ? 敵国最強の戦闘集団相手に、無双状態であった。

いや、そう見えていたが、敵もただやられているわけではなかった。20人ほどの赤騎士が倒れた辺りで、ドーレの動きが急に精彩を欠き始めたのである。

さらに20人ほどが命を失った頃、ドーレが口から血を吐いた。先程までの華麗な動きは鳴りを潜め、立っているだけでも辛そうだ。

ドーレが口の端から血を流しているのが見える。血死の霧? でも、どこに……?

『もしかして、赤騎士の血に赤い霧が混ぜ込んであるのか?』

赤騎士たちが死ねば死ぬほど、その周囲に血死の赤い霧がばら撒かれるってことなんだろう。しかも、ドーレは素手である。

彼女にとって、相性が最悪の相手であった。

鈍った動きでは赤騎士たちを相手にするのは厳しいらしい。遂に、一撃を貰ってしまう。ただ、直撃ではなかった。

腕を浅く切り裂かれた程度だ。

しかし、それによってさらに、ドーレの吐血の量が増えていた。目も赤く染まり、涙の様に血が溢れ出す。

赤騎士たちの武器には、赤い霧がベットリと付着していた。あれもまた、相手を傷つけるだけで血死を直接体内に送り込める、血死騎士団の戦法なのだろう。

『ドーレに回復呪文を飛ばす。しばらく矢を頼む』

「わかった!」

ドーレまではかなり遠いが、魔術が届かないほどではない。俺は、飾り紐を鋼糸化してドーレに向かって伸ばす。少しでも近くから術を使うためだ。

そして、少し強めに魔力を込めてマキシマムヒールを使用した。一瞬、顔色がよくなって血が止まったようだが、すぐに体調が悪化してしまうのが分かる。

毒ではない何かが体内に入り込んで攻撃をしているということなら、ダメージを回復させたとしてもすぐに傷つけられてしまうのだ。

『だったら、これでどうだ!』

体内から赤い霧を追い出せないかと考え、浄化魔術を使用する。すると、ドーレのどす黒い肌の色が、多少マシになったように見える。

これは、効果があるのか?

俺たちは相談して、聖浄魔術にポイントを割り振って、強力な魔術を使用した。

『トータル・ピュリフィケイション!』

聖浄魔術のレベル5で覚えた、最高位の浄化魔術だ。単体しか対象にならないが、ほとんどの異常を治し、正常な状態に戻す効果がある。

その結果、ドーレの魔力が一気に変化していた。体内に混ざり込んでいた謎の魔力がほとんど消え去り、出会った時に近い状態だ。

完全ではないし、また蓄積すれば同じことになるだろう。ただ、小まめにこの呪文を使っていれば、いきなり死ぬことはないはずだ。

『よし! 赤い霧は、浄化でどうにかなるぞ!』

赤騎士に対する切り札を得てしまったかもしれん。フランにとっても、朗報だな!