軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1150 疑い

ドン!

いよいよラージヒル攻めまで数時間と迫った、夜明け前の丘陵地帯。

未だに夜の闇に包まれたクランゼル王国の陣地に、巨大な火柱が上がっていた。

「敵襲?」

『ああ! 士官のテントだ!』

こちらの作戦が漏れていたのか、完璧なタイミングでの奇襲だった。クランゼル王国の出鼻をくじき、士気を一気に低下させることができただろう。

さらに、ラージヒルの門が開き、中から兵士が湧き出すのが見える。

フランたちは最初はここであえて姿を見せ、その後一気に東へと移動する予定だったんだが、その前に奇襲されてしまったな。

さらに、城壁の前に2000ほどの軍勢が姿を現す。アンデッドたちであった。

動きは遅いが、あの数は脅威だ。

(どする?)

『ドナドロンドに指示を仰ぐぞ』

「わかった」

防衛ならともかく、勝手に出撃するのはマズいだろう。こういう時、軍隊の一部に参加しているのって、面倒なんだよな。

俺たちは天幕を出ると、ドナドロンドの下へと向かう。敵はまだこちらの陣地まで到達していないらしい。

さっきの爆発は、罠が作動しただけかね?

「ドナド」

「フランか! とりあえず、冒険者たちは一ヶ所に固める。周囲の警戒を頼めるか?」

「わかった」

警戒しつつ、耐えること数分。

冒険者たちの下に、アンデッドを蹴散らせと言う命令が下る。騎士は、未だに混乱中の貴族たちの守りだ。

いいように使われている感じだが、冒険者たちにこの命令を嫌がるものはいない。性格的に、守るよりも攻める方が好きなものが多いからだろう。

「フランよ! あまり派手に倒さず、押し止めるにとどめられるかね?」

「ん!」

「なら頼む! あの死霊たちを、我が配下としてくれよう! ふはははは!」

ジャンは、敵のアンデッドを支配するつもりであるようだ。そのため、フランに破壊されたくないんだろう。

『じゃあ、大地魔術で囲っちまうか』

「ん」

『ウルシは、周囲になにか潜んでないか注意してくれ。アンデッドが囮かもしれん』

「オン!」

こちらにジャンがいると分かっているなら、アンデッドをただけしかけてくるわけがない。囮の可能性が高いだろう。

アンデッドの進軍方向に大地魔術で壁を作りつつ、周囲を索敵する。

すると、俺たちはクランゼル王国軍の後方へと回り込もうとしている、複数の気配を捉えていた。やはり、奇襲を仕掛けるつもりだったか。

『ウルシ!』

「オンオン!」

それから30分。

ジャンがアンデッドの一部を支配したところで、その姿が一瞬で消え去る。アンデッドの集団送還だ。これ以上、死霊を奪われることを嫌ったのだろう。

想像以上に厄介だな。もしかしたら、対ジャン戦を想定して生み出された技術なのかもしれない。

また、回り込もうとしていた気配もアンデッドだったのだが、ウルシに発見されるとボロボロと崩れて消滅してしまっていた。こちらも囮だった?

それでも、戦いもせずに自滅する意味は解らんな。

そう思っていたんだが、こちらを悩ませることそのものが目的だったのかもしれない。

クランゼル王国軍の首脳陣は、今回の奇襲を受けて大混乱に陥ったのだ。

正直、レイドス王国が明らかに時間稼ぎを狙っているわけだし、即座に攻める方が相手は嫌がると思うんだが……。

情報が洩れている可能性や、罠がさらに仕掛けられている可能性を考えた貴族たちは、まずは陣の立て直しを優先させると決定してしまった。

ウルシが見つけたアンデッドがあえて自滅したことも、奴らを囮にしてさらに侵入した者がいたのではないかという、疑心暗鬼を生んでしまったらしい。

完全にレイドスの思う壺だよなぁ。

しかもだ、スパイ探しまで始まってしまった。士官や貴族たちしか詳細を知らなかった、戦闘開始時刻直前の奇襲だ。上層部の中に裏切り者がいる。そう考えてしまうのも無理はない。

だが、情報を得る手段なんて、いくらでもある。古来言われているのが、戦闘開始前に兵士たちにしっかりと食事を摂らせるため、炊事の煙がいつもより多く上がるのを見て襲撃が近いのだと判断するという方法だ。

今回は煙には気を付けていたはずだが、兵士たちは食事の多さから明日動くのだと理解していたはずだ。他にも、少しだけ陣を動かしたのを見分けられたのかもしれないし、幹部たちの会話を盗聴する方法だって色々とある。

スパイ探しなんか、やるだけ無駄だと思うんだがな。実戦経験の少ない貴族が、下らない責任のなすりつけ合いを始めてしまったらしい。

最悪なのが、フランにまで疑いの目が向いたことだ。過去が不明で、邪気を操る。疑いたくなるのは仕方ないが……。

それともう1人疑われたのが、マレフィセントである。黒子という異名で有名なランクA冒険者でありながら、やはり過去の経歴が不明だった。というか、種族も歳も本名もスキルも、全部不明なのだ。

フラン以上に怪しかった。

しかも、嘘発見持ちの貴族に尋問されても過去のことを喋らなかったのである。

フランも尋問されたけど、普通に喋るからね。俺についても手に入れた経緯などを聞かれたが、拾ったと答えれば嘘ではない。結局、疑いは晴れていた。

とは言え、これ以上貴族の自己満足に付き合ってはいられない。フォールンドが珍しく口を開き、苦言を呈したことで貴族も黙るしかなかった。

作戦も決定していた通りに進められることとなり、フランとジャンは東の戦場へとひっそりと旅立つ。

結果的にはフランたちが丘陵地帯にいると相手に印象付けられたので、悪くはなかったかもな。