作品タイトル不明
1131 アヴェンジャー
突如、フランを「我が巫女!」と崇め始めたジェノサイド・グールたち。
「……お前は、私に従う?」
「無論! 神から、あなたに服従せよとの命令がありました! どのようなご命令にも従います! 滅べと言うのならば滅びましょう!」
『嘘じゃないな』
邪気を帯びるこいつらにとって、邪神の欠片からの啓示は、正に神託ってことらしい。
「お前は何?」
「取るに足らない死にぞこないでございます」
問答するには少々疲れる相手ではあるが、根気強く話を続けて、何とか情報を引き出すことに成功した。
このグールの名前は、アヴェンジャー。黒骸兵団のネームレスと、聖母と呼ばれるアンデッドの特殊能力を使って生み出された、黒骸兵団の切り札であるらしい。
何千人分もの怨念を集めて生み出されたアンデッドであり、オンスロートという邪神信奉者の死霊術により邪気を注ぎ込まれたそうだ。
滅んでしまったというミレニア砦は実は滅んでおらず、その地下に邪気の研究施設があるという。あの噂は、その事実を隠すためにあえて広められたものだった。
しかし、彼らは神器の気配に惹かれて、ここまで出てきてしまったのだ。
アヴェンジャーの口から、レイドス王国の恐るべき内情の一端が語られる。
レイドス王国が闇奴隷を集めていることは既に知っていたが、その使われ方が本当に酷かった。
まず、南征公、西征公に買われた多くの闇奴隷は非道な実験の被験者となり、その後生き延びたとしても儀式の贄とされる。この儀式の内容は、魔剣の製造や、魔獣の支配など、様々であるそうだ。
しかも、死は終わりではない。
そうして人としての尊厳など一切考慮されることなく体の隅々まで利用され尽くした挙句、レイドスを恨んでいるその怨念までもが、アンデッド作製や呪詛発生に使われてしまう。
人間というモノを完全に使い尽くす、執念のようなものまで感じられた。
この思考の大元は、レイドスが冒険者に見限られた頃に遡るらしい。戦争、飢饉、魔獣被害など、様々な要因が絡み合った結果、当時のレイドス王国で最も余っている資源は人となっていた。
レイドス王国は無駄飯食らいの人員を各方面へとにかく割り振り、開拓、開発、増産を無理矢理推し進めていく。
素人をいきなり開拓や防衛戦に駆り出すのだ。当然、大勢の人間が湯水のごとく死んでいくが、レイドス王国は人の投入を止めることはしない。まるで口減らしであるが、意外にも国民の間に悲嘆や怨嗟の声は少なかった。
対外戦争を国是とする覇権主義的な国であったことから、多くの国民は同時に兵士でもあり、彼らは国のために進んで死地へと赴いたという。それは自発的な姥捨てとも言える行為であったが、戦時の洗脳教育が蔓延していた当時のレイドスでは当然のこととして考えられていたらしい。
また、四肢を失って戦えなくなった兵士などが、自ら様々な研究の実験体に志願することさえ当たり前であった。
そうした、人を安価な資源と見る風潮と、洗脳教育による行き過ぎた愛国心はレイドス王国内に長期に渡って残り、次第に歪んでいく。
本来、国家への奉仕として国民たちが自ら名乗り出ていたものが、国家が求めるなら死んで当然という認識となり、国の利益のために人間を贄に捧げることへの心理的ハードルそのものが大きく下がっていってしまったのだ。
そして現在では、他国から攫ってきた闇奴隷を非人道的な研究に使うことを許すような、レイドス王国にとって都合のいい思想だけが残ることとなったのだった。
アヴェンジャーの口調に憎々し気な色が混ざるのは、その内に混ざる怨念ゆえだろう。
元々が、レイドスを恨む念を素に生み出されたアヴェンジャーたちは、レイドス王国を酷く憎んでいた。しかし、聖母とオンスロート双方からの支配によって、そこに疑問すら抱かずに隷属させられていたのである。
それが、邪神の欠片によって支配を解除されたことで、レイドスを憎む気持ちが蘇ったらしい。
「クランゼル王国各地に散って毒をばら撒けと命令されておりましたが、もうどうでもよろしい! 逆にレイドスを腐り落としてごらんに入れましょう!」
言われてみると、こいつらって戦争利用するには最適で最悪の能力を持ってるよな。普通の冒険者では追いつけないほど素早く移動し、超強力な毒を大量にばら撒ける。
しかも、毒を色々と選ぶことが可能で、農地や水源を数年利用不可能にするような、危険な毒もあるらしい。
何というか、致死性の化学兵器を無限に使える、破壊工作員みたいな? 単純な大量殺戮性能なら、ネームレスやリッチすら及ばないかもしれなかった。
クランゼル王国に逆襲されている現在、南征公の溜め込んでいた様々なリソースのほぼ全てを使って生み出された反撃の奥の手であるそうだ。
その南征公の奥の手が、フランに頭を垂れて内情をベラベラ喋ってるんだけど。
「じゃあ、黒骸兵団は、もうあまり戦力がない?」
「はい。幹部はまだ残っておりますが、旗下の戦力は各地の守りに割いてしまっておりますれば」
「幹部は、どれくらいいる?」
「首領にして第一席、『術師殺し』のネームレス。第二席『聖母』。第三席『身代わり』のウィッカーマン。第四席『氷莫』のアイスマン。第五席『黒焦げ』のチャードマン。第六席『影』のハイドマンの六体ですな」
それぞれの能力などを教えてもらうが、一番気になったのはハイドマンのことだろう。あの潜入能力は厄介だ。ただ、適合する体を用意するのは簡単ではないらしく、アヴェンジャーが知る限り残り2体だけであるそうだ。
そうして内情を聞き出していると、アヴェンジャーが聞き逃せない言葉を口にする。
「幹部を狙うということであれば、あの山の向こうで作戦行動中でございます。クランゼル王国軍を殲滅するための、迎撃作戦でございますな」
「! それ、もう少し詳しく」
「は!」