軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1129 Side フォールンド

まずい。

この戦、このままいくとこちらが負ける。千里眼の魔剣によって戦場を俯瞰で見ている俺には、流れが良く見えていた。

背後から現れたアンデッドに、砦から出撃した赤い騎士たち。そして、俺たち遊撃隊を嘲笑うかのように、どこからともなく出現してこちらの右翼に襲い掛かった奇襲部隊。

開いた左翼側も、罠だろう。あちらへ誘導しようとしているのだ。剣を飛ばして探ると、大地の下から膨大な魔力が発せられているのが分かった。

引き返して援護に入るべきなのだが、遊撃隊もまた襲撃を受けていた。こちらも、アンデッドだ。

かなり高位の死霊術師たちが、敵軍にいるらしい。アンデッドがかなり強かった。

接敵までに俺の能力でかなり数を減らしたが、乱戦になると広範囲に剣を射出するような真似はできない。

後のことを考えて、力をセーブしている場合ではなかった。ここは、奥の手の1つを使うしかないようだ。

「ジグ。奥の手だ」

「フォールンドの旦那……! 了解しやした!」

「ああ」

「おまえらぁ! 旦那の剣を取れ!」

俺の副官のようなことをしてくれている、ランクC冒険者のジグに奥の手を切ることを伝える。それだけでどう動けばいいか分かってくれるので、非常に重宝している。

ジグが素早く冒険者たちに今後の動きを伝え、俺は剣神の寵愛を全力で発動した。

遊撃隊に配属された冒険者たちの前に、様々な剣が出現する。これが俺の奥の手の1つ、剣の長時間実体化であった。

いつもは、自身が振るう剣以外は数秒間だけ顕現させ、撃ち出してすぐ消すような使い方をしている。長く出しておく意味がないというのもあるが、それをやると消耗が尋常ではないのだ。

だが、できないわけではなかった。今のように剣を無数に実体化させ、それを仲間に使わせることで一気に戦力を強化する。そうすることで、部隊全体の戦闘力を上げ、皆の生存率を上げることができた。

俺の剣を手に取った者たちが、魔力に包まれる。ステータス上昇や、回復効果のある剣を中心に生み出してある。

剣を使えない者でも、装備するだけで効果は十分だった。

その代わり、俺の魔力が大幅に持っていかれてしまうが。この戦いの後は、しばらく戦闘力が大幅に下がるだろう。しかし、それも生き残ってこそなのだ。

「いくぞ」

「うっす! 野郎ども! 吶喊だ!」

「「「うおぉぉぉおぉ!」」」

色とりどりの魔力を纏った冒険者たちを率いて、俺はアンデッドの軍勢へと躍り込んだ。両手に持った浄化属性の剣を振るい、死霊どもを斬り捨てていく。

俺たち冒険者部隊を中心にアンデッドの軍勢を退けた時には、かなりの時間が経ってしまっていた。被害もかなり大きい。

特に同道していた騎士団は、100人近い死傷者を出しているだろう。

だが、ここで部隊を分けるのはあまりにも危険だ。負傷者を守りながら、本隊の救出に向かわねばなるまい。

これが、向こうの狙いか? ともかく、後手に回り過ぎていた。一度本隊と合流して共に、戦場を離れるべきだ。

そう考えさらに進むと、俺たちは赤い鎧の騎士団とぶつかっていた。レイドス王国の守護者たる赤騎士だが、これ程強いとは思っていなかった。

俺の剣を装備している冒険者たちが、押されているのだ。しかも、その騎士団を指揮している青年が、途轍もなく強かった。

「はははは! 燃えろ燃えろ! クランゼルのクソども!」

まだ20歳そこそこであろう。青髪を丁寧に撫でつけた魔術師風の青年は、当たるを幸いにこちらの手勢を薙ぎ払う。その魔術は強大にして、近接戦闘の腕もかなりのものだった。しかも、赤騎士たちを強化するような特殊なスキルも所持しているようだ。

赤騎士たちの武具が火炎に包まれ、その攻撃力と防御力が増している。しかも、火を防ぐ効果もあるらしく、火炎魔術に巻き込まれても騎士たちは平然としていた。

そのため、火炎魔術が平然と広範囲に撃ち込まれ、こちらだけに被害が出ている。そうして陣形が乱されたところを、赤騎士たちに突き破られるという悪循環だった。

あの青年を排除しなければ、この流れは止まらないだろう。

俺は詠唱を中断させるべく、青年へと斬りかかった。しかし、突如燃え上がった炎の障壁によって、阻まれてしまう。

「ここまで接近されるまで気づかなかったとは、上級冒険者ってやつか?」

「……」

「何も情報を与えるつもりはないってこと? ふん、雑魚の中にも多少マシなのがいるってことかな?」

俺の口下手も、こういった時には役に立つ。勝手に感心する相手に対して、俺は剣を構えた。

「……」

「だったら、何も言わぬままに死ね!」

こちらを見下している様子だが、無理に斬りかかってくることはなかった。その尊大な口調とは裏腹に、近接戦闘では不利であることをしっかりと理解しているらしい。

同時に、火炎魔術を連続で発動する。無詠唱なうえに、多重起動だ。俺は咄嗟に火炎耐性を持つ魔剣を生み出し、薙ぎ払った。

「はぁ? なんだよそれ! 雑魚の癖に生意気なんだよっ! 燃えとけよ!」

「……」

「ちっ! どこまで無口なんだよ! きも!」

凄まじい魔術の腕前だ。上位の大魔術を、間断なく放ってくる。魔剣による火炎耐性も、完全な無効化ではない。あのレベルの魔術を連続で食らえば、危険だった。

膠着状態。いや、向こうにはまだ余裕があるが、俺はすでに限界が近い。仲間に100本の魔剣を貸し与えていることで、魔力を消費し続けているのだ。

実体化を一時解除すれば、剣の飽和攻撃で青年を倒せる可能性はある。だが、その代わりに仲間は赤騎士に蹂躙されるだろう。維持し続けるしかなかった。

「ほらほらほらほらぁ! 反撃してみなよ!」

「……」

「つまらない腰抜け野郎め!」

いいだろう。その挑発に乗ってやる。

突如として黒剣を突き出したまま前に出た俺を見て、青年の顔に僅かな動揺が走るのが見えた。

こちらを苛立たせるための挑発に、俺が乗るとは思わなかったのだろう。しかも、自慢の火炎魔術を無視して、肉薄してきたのだ。

咄嗟に手に持った火炎の剣で防御しようとするが、俺の黒剣が炎剣を消滅させる。この魔剣は、飢餓の魔剣。ありとあらゆるものを喰らい、消滅させる魔剣だ。

その代わり、俺の魔力と体力、生命力も同時に喰らう。よく無謀を揶揄される俺であっても、おいそれとは使えぬ禁じ手の1つだ。

だが、それを使っても、青年には届かなかった。何とその身を炎に変え、転移するかのように一瞬で距離を取られてしまったのだ。

かなり魔力を減らしたことから連発できる技ではないようだが、このまま無理に追っても捉えることはできないだろう。これは、最後の切り札を切る必要があるか? 仲間たちをここで失うくらいなら、俺の寿命くらい――。

「む?」

「なんだぁ? それ、なんだよっ!」

なんだと言われてもな。

青年と同じように、俺とて驚いているのだ。

俺だけではない。冒険者たち全員を、白い光が包んでいた。悪いものでないことは、見れば分かる。明らかに守護の力を秘めているのだ。実際、俺たちの負った傷が、じわじわと治っていく。

一体、何が起きているのだ?

戦場に白い光と戸惑いが同時に広がったその時、今度は黒い雷が戦場に降り注いだ。

「フォールンド! だいじょぶ?」

「ああ」

待ちに待った、援軍。巨狼に跨った黒猫族の少女の姿に、冒険者たちから歓声が上がる。だが、俺は喜びと同じほど、困惑も感じていた。

「我らが巫女よぉ! アンデッドたちはお任せを!」

「ん。お願い」

フランにつき従うかのように、凶悪な邪気を纏ったグールたちが現れたのだ。一体、奴らはなんだ?