軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1124 マレフィセントの任務

フランズブートキャンプが続けられること3日。

義勇兵たちは驚くほど真面目に変貌していた。キビキビと動き、仲間同士でしっかりと連携し、日の終わりにはカレーを食べながら労働の素晴らしさを語り合う。

既に馬車を戻したが、その護衛は完璧とも言える状態だった。元々、能力は問題ないのだ。性格が改善されれば、不安などなかった。

少しだけ洗脳っぽく思えなくもないが、マレフィセントに捕えられるよりはマシだろう。

実は2日目の終わりに、マレフィセントから真実を明かされていた。

事の発端は、フランが精霊の気配に気づいたことだ。

夜、フランがふと周囲を見回す。魔獣の気配なんかないし、その視線は義勇兵たちにもマレフィセントたちにも向いていない。

何故か、何もない虚空を彷徨っているのだ。

『どうかしたのか?』

(精霊、いる)

『なに?』

(いっぱいいる)

どうやら、数体の精霊が周囲を漂っているようだった。俺に気配は感じられないが、精霊を探す方法は、考えてある。

精霊の手を発動し、念動と合わせて周囲に広げるようにしてみる。すると、微かに何かが触れる感触があった。

触れた瞬間に驚いた様子で逃げてしまうが、見えず感じずなんて存在、精霊で間違いないだろう。

少なくとも5、6体はいるんじゃないか?

(この気配、知ってる)

『なに?』

(クリムトの水の精霊と、風の精霊)

フランはいつの間にか、精霊の違いを感じ取れるようになっていたらしい。

クリムトの精霊ってことは、密かに護衛として付けてくれたってことかな? それとも監視役なのか?

『やっぱこの依頼、ただの物資輸送ってだけじゃないのかもしれんな』

(ん)

考えてみたら、義勇兵たちの質が悪すぎる。実力はあると言っても、合流した時点での義勇兵たちは素行が悪すぎた。フランが考えたように、連れて行っては前線で戦う味方の邪魔になることが確実な者たちばかりなのだ。

しかも、案内役はランクA。違和感しかない。

精霊を見つめながら悩んでいると、マレフィセントたちが近寄ってくるのが見えた。

「その感じ、気づいちゃいました?」

「……精霊がたくさんいる」

「精霊を見る素質をお持ちでしたかぁ! もしかしてクリムトさんはそれ知ってます? 知ってますよね?」

「ん」

「もう、クリムトさんは子供に甘いんだから!」

「この依頼、何かある? マレフィセントがこんな依頼に一緒にくるのも変」

「そこまで感づかれてしまいましたか」

マレフィセントは口元に苦笑いを浮かべながら、両手を上げて嘆いている。

「はぁ。どう思います? ペルソナ?」

「……」

マレフィセントの言葉に、ペルソナがグッと拳を突き出して親指を立てる。

「あなたはそう言いますよねぇ。このまま私たちを警戒されながらだと、どう転ぶか分かりませんし、仕方ないですかねぇ。最悪、教えちゃってもいいって言われてますし」

「やっぱ、マレフィセントは何か特別な任務があった?」

「はい」

マレフィセントが座るように促してくるので、フランも腰を下ろす。長くなるってことなのだろう。

「まず事の発端は、国からあなたのランクアップ申請が出されたことですね」

「国から? クランゼル王国?」

「ええ。ランクAになれば国からの依頼を通しやすいですし、何より新たな強者の誕生は戦時下で無視できない影響力があります。国関係の依頼をこなしましたか?」

「ん」

「それで、国としてはランクAに相応しいと判断したようでした。まあ、決めるのはギルドですが、各地のギルドでも支持が相次いだようです」

「そうなの?」

以前は、ダメだったよな?

だが、状況が変わったようだった。元々、ランクアップ推薦は出されていたのだ。そこに、今回の戦争での大活躍である。

さらに、ゴルディシアやベリオスの支部などからも少し遅れていた報告が上げられ、一気に風向きが変わったらしかった。

「これだけ活躍しているなら、黒雷姫殿を昇格させてもいいのではないかという話になったようでして。そこで、早急にランクアップ試験を行うとなったのですが……」

ランクA冒険者のランクアップ試験というのは、少し難しい任務を割り当てて、どう乗り越えるかを見極める内容であるらしい。

「今回一番割を食ったのは、クリムトさんでしょうね」

今回の輸送任務、本来クリムトが用意していたのは、普通の義勇兵200人に馬車20台の普通の輸送部隊だった。

しかし、そこに冒険者ギルドの上層部が割り込んできたのだ。ギルドとしては、ランクアップ試験にちょうどいいと考えただけだろう。

内容は変更され、マレフィセントが担当することになっていた特殊輸送の任務が、フランの試験に利用されることになる。

クリムトはまだランクアップは早いと、ギルド上層部が困るほどに抵抗したそうだ。だが、ギルド本部の決定を覆すことはできなかったらしい。

クリムトの立場になって考えると、フランが信頼して俺のことを明かしたのに、その直後に騙し討ちのような感じでランクアップ試験を行うことになってしまう。真面目な彼としては、素直に受け入れることはできなかったに違いない。しかも、子供であるフランを戦争で利用する気満々のランクアップだし。

戻ったら、気にすんなと言ってやろう。

そして、マレフィセントは道案内兼試験官の役を負い、任務に同行することになる。しかもマレフィセントは、元々の特殊輸送任務も遂行中であるそうだ。

「その任務って?」

「いま黒雷姫殿がやっていることに似ていますね。素行不良な志願兵たちの性根を見極め、そのまま使うのが問題あると判断した者は、私とペルソナが隔離して再教育することになっています」

つまり、フランのランクアップ試験と、素行不良冒険者の試験。両方を同時に行ってるってわけか。

「精霊は、クリムトさんが強硬に主張したんですよ。真の内容も知らされずに、突然素行不良者のまとめ役を押し付けられるなんて、ソロの冒険者にはきつすぎる。自分が万が一に備えて、精霊を同行させる、と」

マレフィセントが虚空を見つめる。彼も精霊が見えるらしい。

「まさか、こんなたくさん送りつけてくるとは思いませんでしたが……。黒雷姫殿に、注意喚起する目的もあるんでしょうねぇ。ギルドも、クリムトさんを怒らせるような真似はよせばいいのに。間に挟まれる身としては、たまったものではありませんよ」

マレフィセントが疲れた様子で、乾いた笑い声をあげる。

「クリムトさん、昔の力取り戻して、もうランクSでもいいんじゃないですかね? 矢面に立たされるの、私なんですけど……」