軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1117 師匠とクリムト

物資輸送を明日に控えた夜。フランは、ギルドのクリムトの下を訪れていた。

フランがドンドンドンと強めにドアをノックすると、中から「うひゃぁ」という悲鳴が聞こえた。そのまま中に入ると、クリムトが苦い顔をしている。

「返事する前に入るなと言ったことがあるでしょう? 相変わらずですね! それと、ノックはもう少し穏やかにお願いします」

「変な声がしたから、返事あったと思った」

「へ、変……。ステータスが元に戻って、耳が良く聞こえるようになったのですが、まだ慣れないんですよ」

それで、気配を感じてノックがくると分かってても、大きな音には驚いてしまうらしい。執務机の上には、宝石のような石が20個ほど並べられている。

手には布を持っていて、それを磨いていたようだ。魔石である。しかも、結構魔力が強そうだった。フランの視線から隠すように、クリムトが魔石を袋に仕舞っていく。

「な、なんですか?」

「それ、ヘソクリ?」

「え、ええ。そうです」

あー、以前もこんなことあったよな。あの時は脅威度C、D合わせて10個だったが……。当然だけど、あれで全部ではなかったんだろう。

やっぱ、全部は出してなかったわけか。あの時はフランが交渉して5個もぎ取ったけど、クリムト的には予想の範囲だったのだろう。

多分、全部取られたとしても、フランが依頼を受けてくれればクリムト的には問題なかったんじゃないかね? 真の交渉上手は、クリムトだったというわけか。

クリムトは軽く咳払いすると、話を変えた。

「何か御用ですか?」

「ん。精霊魔術の使い方について、聞きたい」

「そういえば、精霊魔術を覚えたのでしたね」

「ん」

フランが頷くと、クリムトが疲れたような表情で溜め息をついた。

「はぁ……。相変わらずですねぇ」

背もたれに深々と体を預けると、何度か首を振る。

「エルフ以外の種族が簡単に覚えられるものではないのですが……。答えたくなければ答えずともいいのですが、いつ、どうやって覚えたのですか?」

「覚えたのは、つい最近」

教えを乞うのだ。完全に黙秘するのはさすがに虫が良過ぎる。ある程度は語らなければならないだろう。

フランは俺のことを隠しながら――。

「……」

説明の途中で、急に黙り込んでしまった。

「どうしました?」

クリムトが困惑顔だ。

『フラン?』

(師匠。クリムトに、教えていい?)

ああ、そういうことか。出会いの時から、フランとクリムトの間には微妙な空気が流れていた。ギルドという組織を完全に信用しきれていなかったフランと、フランを信用しきれていなかったクリムト。

互いを尊重しつつも、どこか見極めるような雰囲気があったのだ。

だが、フランはいつの間にか、クリムトに対する警戒を完全に解いていたらしい。俺は、既にクリムトのことは信用している。否はなかった。

それに、黙っていても大精霊に見透かされてしまいそうだしね。

「クリムト、大事な話がある」

「え? は、はぁ。急ですね」

「ん」

クリムトは相変わらず驚きの顔だが、フランが風の結界を張ったことで、本当に重要な話なのだと悟ったらしい。

居住まいを正し、フランを見つめた。

「聞きましょう」

「この剣について」

フランが鞘ごと俺を持ち、高々と掲げた。クリムトの視線が俺を追うが、訝しげな表情が浮かぶ。邪気を発する凶悪な魔剣であるとは分かっていても、今その話題を出す意味が分からないのだろう。

「師匠」

『おう』

「うん? 今の声は……?」

『目の前の剣だ。俺の名は師匠。インテリジェンス・ウェポンの師匠だ。よろしくな!』

あまり重い空気にならないよう、あえて軽い雰囲気で挨拶してみたんだが……。

「ええ? いや、え? 剣が喋って……。ええ?」

クリムト、めっちゃ驚いてるね。まあ、仕方ないけどさ。なんてったって、レア度で言えば神剣以上なわけだし? ただ、ちょっと驚かせすぎたかもしれん。

「こ、こんなところで伝説的な存在に出くわすとは……。し、心臓に悪いですね!」

クリムトが心臓を押さえて、荒い息を吐いている。この人、イケメンで超強い高位冒険者なのに、結構常識人っていうか、小心者だよね。心労も多そうだ。

「ゴルディシア大陸に存在するという話は聞いていますが、直接見たのは初めてです」

「信じるの?」

「あなたが嘘を吐く理由がありません。そもそも、私は普段から精霊と会話していますから、念話が剣から放たれていることもしっかりと分かります」

念話慣れしていて、俺が話をしていることもバッチリと理解してくれたようだ。

「ゴルディシア、行ったことない?」

「あの地は精霊魔術師にとっては、鬼門のような場所ですから。召喚しているだけで精霊が弱り、回復もしない。エルフが滅んだのも、精霊魔術が使えなくなったからだと思いますよ?」

「なるほど。じゃあ、師匠は初めてのインテリジェンス・ウェポン?」

「そうなりますね。しかし、師匠、ですか? 魔剣にしては、不思議な名前ですね」

『名前がなかった俺に、フランが付けてくれたんだ! いい名前だろ?』

正体を明かした後のいつものやり取りだが、クリムトはさすがに大人であった。

「良い名前ですね。フランさんのセンスを感じます」

『だろ? いい名前だよな!』

「ふふん」

分かりやすくドヤ顔をするフランに、優しい視線を送るクリムト。やっぱりいいやつだ。

「しかし、これでよく分かりました。フランさんのアンバランスさは、師匠さんの能力によるものだったのですね?」

『そうだ。俺の能力は――』

俺が自分の力について軽く説明すると、クリムトが眉間を押さえて呻いてしまった。まあ、気持ちは分かる。ごめんな?

「超一級の魔剣がこのような場所に……。準神剣並みですよ? 私に明かしてしまってよかったのですか?」

「ん。クリムトなら、信用できる」

「……はぁ。そんな真っすぐに言われては、裏切れないではないですか。そんな善人ではないのですよ私は」

目を覆って天を仰ぐ。ぼやきが止まらないね。だが、さすがはクリムト。すぐに話の途中であったことを思い出したようだ。

「それで、精霊魔術と師匠さんは、どう関係あるのですか?」

『実は――』

クリムトが眉間をモミモミしながら、空いた左手で胃を押さえる。頭痛と胃痛のダブルパンチに襲われているようだ。

「イレギュラー過ぎて、何とも言えませんね。ただ、フランさんの中に精霊がいる気配は分かります。言われなくては分からないほど、弱体化しているようですが」

大精霊戦で、フランをサポートしてくれたのは分かっている。一瞬、強くなったはずなんだが、その後は再び気配が消えてしまっていた。

「マール、だいじょぶ?」

「分かりませんね。人から精霊になった存在など、伝説の中でしか知りませんから。ただ、フランさんの精霊魔術のレベルが上がれば、力を供給できるようにはなるかもしれません」

「ほんと?」

「はい。ただ、レベルを上げるのは容易ではありませんよ? 初期は、精霊を感じるために意識を割くくらいしかやることがありませんから」

「それでも、がんばる」

「ええ、頑張ってください」

呆れた様子で肩を竦めるクリムト。しかし、その顔には孫を見守る老人のような、柔らかい笑みが浮かんでいた。