作品タイトル不明
1110 大精霊の弱点
精霊を見つめ、魔力を放出しながら仁王立ちになるクリムト。
対する風の大精霊も、大きく動くことはなかった。
両者ともにその場で微動だにしない。しかし、クリムトと大精霊は確かに繋がり、制御の綱引きをしているようだった。
クリムトの額には次第に汗が滲み、その表情が歪み始めたのだ。
どうやら、一筋縄ではいかないらしい。すると、クリムトがこちらに視線を向けぬまま、口を開いた。
「フランさん。お願いがあります」
「なに?」
「大精霊を、攻撃してほしいのです」
「……反撃されない?」
大精霊に攻撃されたら、俺たちだけじゃなくてクリムトたちだって危険だぞ?
クリムトが焦燥と疲労感満載の表情で、首を振る。
「大精霊を町の外へと移動させます。反撃に関しては、何とか避けて下さいとしか。本当はこのような危険な真似はさせたくないのですが、もうそれしか方法がないのですよ」
今攻撃されないのは、クリムトの近くにいるからだ。術者と認識しているクリムトを巻き込む恐れがあるため、大精霊が攻撃できないのである。
ウルスやゼーノスが無事だったのも、そのおかげだったのだろう。俺たちが竜巻の壁を抜けた後に急に攻撃されなくなったのも、同じ理由だった。
だが、攻撃を仕掛ければ完全な敵と認定され、激しい反撃に晒される。それが分かっていても子供のフランに頼まねばならぬほど、クリムトは追いつめられているようだった。
「分かった」
フランが力強く頷く。アレッサを見捨てる訳にもいかないし、仕方ないが……。
『どんな反撃がくるかもわからん。過去最強の敵と戦うくらいのつもりで、いくぞ』
(ん!)
そんなフランに対し、クリムトは弱点を伝えてきた。
「どこかに、核となる部分があります。そこを狙ってください」
「どこかって、どこ?」
「上半身であることは間違いないのですが……。フランさんは精霊魔術を使えますね?」
「分かるの?」
クリムトが確信のある顔で、そう言い切る。精霊魔術を使えるようになったとまでは伝えてないはずだ。しかし、クリムトには分かっているようだ。
「精霊が反応していますから。精霊魔術のスキルがあるのであれば、核を探し出すことができるはずです。多分」
た、多分て……。いや、そこにすがるしかないほどの緊急事態ってことか。表面上、クリムトは落ち着いて見えるが、実は限界が近いのかもしれん。
「核を攻撃すればいいの?」
「ええ。あのアンデッドの攻撃により、大精霊は弱っています。さらに弱らせることができれば、完全に制御できるでしょう。そうすれば、送還も可能となるかもしれません」
「大精霊、還しちゃっていいの?」
クリムトにとっては切り札のような存在じゃないのか? 異名の基になっている、クリムトの代名詞的な精霊のはずだ。
だが、クリムトは苦笑いをしながら、フランに頷き返した。
「構いませんよ。精霊にとっても、私にとってもね」
封印に集中するせいで能力が低下しているって言うし、そろそろ重荷を下ろしたいのかもしれない。
「敵は、どうやって精霊を傷つけた?」
ああ、それは俺も気になる。攻撃する時に、俺たちも利用できるかもしれん。
だが、クリムトは苦々しい顔で首を振る。
「我々には真似ができません。邪気ですよ。注ぎ込まれた邪気が精霊を傷つけ、さらに暴走させました」
「邪気……」
邪気なら、使えないこともない。だが、暴走させちまうとなると、逆に危険か? かなりの賭けであることは間違いないだろう。
「あのアンデッドの持っていた武器には、元々魔力を喰らう性質があったようです。そこにさらに邪気が加わり、私の守りも突破されました。精霊の守りを突破するには、魔力吸収系の攻撃が有効かもしれません」
魔力を喰らうか。ダーズの町で戦ったヴァルーザという剣士が使っていた、魔剣・ソウルドレインに似た能力なのかね? レイドスが量産に成功したのかもしれない。
だとすると、俺たちの持つ魔力吸収や魔力強奪が有効かもしれなかった。いい情報が聞けたのだ。
「準備はいいですか?」
「ん! いつでもいける!」
「では、大精霊を町の外まで移動させます。かなり力を使うので、その後は時間的余裕がなくなると思ってください」
「……分かった」
フランの頷きを受け、クリムトが集中力を一段高めるのが分かった。
「行きます!」
クリムトの全身から、凄まじい量の魔力が放出される。あまりに勢いが良かったため、横にいたウルスたちが煽られて尻もちをついてしまったほどだ。
同時に、大精霊に動きがあった。ゆっくりと、移動し始めたのである。巨体が動いているにも拘わらず、物理的な気配が一切ない。足音は当然として、風の動きなどもなかった。
まるで、ホログラムが動いているかのようである。
息を殺して待つこと数分。大精霊の姿は町から百メートルほど離れた場所にあった。これ以上は、命令が届かなくなるらしい。
「本気の一撃を頼みます」
「大精霊、死んじゃわない?」
「それができれば大したものですよ。遠慮はいりません」
ならば、派手にやってやろうじゃないか。
『遠慮はいらないみたいだな』
「ん。わかった。本気でやる」
「ああ、できれば町への被害は出さない方向でお願いします」
「……わかった」
「その間が怖いんですけど!」
俺もだよ!
『フラン。フリじゃないからな?』
(ふり?)
『……なんでもない。ただ、本当に気を付けるんだぞ?』
「ん!」