軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1109 クリムトの状態

竜巻を抜けた俺たちの目の前には、地面に寝そべるクリムトの姿があった。慌てて駆け寄るフラン。

もう風による攻撃は飛んでこない。クリムトの近くだからだろうか?

「クリムト! だいじょぶ?」

「……」

クリムトは青い顔を軽く動かし、頷いたつもりなのだろう。ただ、言葉を喋る様子はない。

「黒雷姫か!」

「フランよ! このままではクリムト殿がっ!」

クリムトは、腹に深い傷を負っているようだ。ゼーノスが布を傷に当てて止血を試み、ウルス団長は周囲を警戒しつつクリムトの体を傾けて傷が下に向かないようにしているらしい。

クリムト自身は全く動かず、何やら集中しているように見えたが……。クリムトの精霊なら、傷を癒せるんじゃないのか?

「今回復する」

フランがマキシマムヒールを使用する。だが、クリムトの傷が治ることはなかった。

「え?」

『邪気だ!』

よく観察してみると、傷口に邪気が付着している。クリムトの体内にも浸透しているようで、それが回復の邪魔をしているようだ。

ゼーノスとウルスが絶望的な表情をする。

「黒雷姫でも無理なのか……!」

「まずいですぞ! このままでは、アレッサの町までもが……!」

「何があった?」

「それが、我らにも詳しいことは分からんのだ」

クリムトに代わって、ゼーノスが説明してくれる。彼が言うには、領主館に突如侵入者が現れたらしい。クリムトの精霊と騎士が迎撃に向かったのだが……。

「気づけば、部屋へと侵入されていた」

「儂も気づかんかった。恐ろしく気配の薄いアンデッドであった」

戦闘力そのものはウルスよりも低かったらしいが、目の前にいても見失うほどの隠形能力に手こずり、接近を許してしまったという。

アンデッドは最初からクリムトを狙っていたらしく、捨て身で飛びかかった。本来であれば精霊の張る障壁が攻撃を弾くはずだったのだが、障壁はあっさりと破壊され、クリムトは短剣の一撃を腹に食らってしまったらしい。

(ハイドマン?)

『どうやら、俺たちが倒した奴以外がまだ潜んでいたみたいだな……』

もっとしっかり探すべきだったか! 下手すると、俺たちが倒した方はあえて姿を晒して倒される役目だった可能性すらある。そうしてこちらを油断させ、本命がクリムトをグサリというわけだ。

「そのアンデッドは?」

「クリムトが倒した。いや、大精霊の出現に巻き込まれて、倒されたという方が正しいかもしれんが……」

「そこにアンデッドの残骸と、短剣だけは残っているぞ」

言われてみると、少し離れた場所に魔力を発する短剣が落ちていた。そのさらに向こう側にはアンデッドの上半身だけが倒れている。

「クリムト殿は表に出てしまった大精霊を制御するために、動けん。そのせいで逃げることもできず、この場に留まっている」

「クリムトであっても、完全に抑え込むことはできておらんようだがな」

接近者に攻撃する程度のことはあっても大暴れしていないのは、クリムトが制御しているからであるらしい。ただ、全身全霊を使うため、動くこともできないようだ。

喋らないのは傷のせいだけではなく、風の大精霊の制御に集中しなければならないからだろう。

『フラン、まずは全力でクリムトを癒すぞ』

(分かった)

このままクリムトが意識を失うようなことになったら、大精霊がどうなるかわからん。俺たちは神属性を込めて、治癒魔術を使っていった。連発するのではなく、より深くへと浸透するようなイメージで焦らず少しずつ癒す。

悪魔殺しで傷つけられたフルトを回復させた経験が、ここで生きた。邪気と悪魔殺しは違うものだが、傷の具合は非常に似ている。普通の魔術では全く意味がなかった腹の傷が、ゆっくりと塞がり始めていた。

「おお! さすがは黒雷姫だ!」

「いいぞ! もう少しだ!」

おっさん2人は喜んでいるが、すぐにそうも言ってられなくなる。

「……むぅ」

『どうしたフラン?』

(大精霊が、もっとうるさくなった)

『なに?』

次の瞬間、大精霊の放った竜巻が、貴族街に複数立ち昇る。

「……ぐ」

「クリムト、だいじょぶ?」

先ほどまでよりも苦しげな表情で、クリムトが頷く。どうやら、ゆっくりと塞がる傷口が、クリムトの集中力を乱しているらしい。

痛みや痒みが発生しているのかもな。だが、ここで治療を止める訳にもいかないのである。

「クリムト、がんばって」

「……ぐぅ」

クリムトはうめき声を上げながらも、はっきりと頷いた。その瞳は、未だに強い力を宿している。そもそも、この状況で大精霊を制御し続けているのが凄まじいのだ。

(師匠。急ぐ)

『おう』

とはいえ、急に回復速度を上げたらクリムトが驚くかもしれない。俺たちは少しずつ神属性の割合を増やし、ゆっくりと、だが確実に回復させていった。

途中からはクリムトも、ゆっくりと傷が塞がっていく感覚に慣れたらしく、大精霊が必要以上に暴走することもなかった。

完全に回復すると、ややホッとしたような表情で立ち上がる。まだ彼の仕事は終わっていないのだ。

「ふぅぅ……大精霊を鎮めます」

「ん。お願い」

解き放たれた大精霊を、再度封じなくてはならなかった。