軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1103 アレッサの領主館

外出する者がいないアレッサの町を、フランとウルシが駆け抜ける。人々は家の中で息を潜め、商店は全て閉まっていた。

ゴルディシアだと、町が襲われていても意外に人々は出歩いていたんだけどな。抗魔の襲撃に慣れていて、危機感が薄かったのかもしれない。これが、本当の戦時下ってことなんだろう。

兵士が町を巡回はしているが、フランを誰何する者はいない。速過ぎるし、どう考えても敵のアンデッドじゃないからだろう。冒険者の伝令とでも思われているに違いない。

さすがに領主の館前では止められたが、冒険者カードを出せば即通される。やはりフランの名前は想像以上にアレッサで認知されているようだった。

疑われもせず、カードを提示してすぐに理解されるとは思っていなかったのだ。

領主の館の一階には有事の際の指揮所が準備されており、偉い人たちが集まっていた。ギルドマスターのクリムト、アレッサ騎士団長のウルス。そして、上座には地味な男性だ。

どうやら、この人がアレッサの領主であるらしい。覇気も感じないし、鋭さもない。どこにでもいそうな、ちょっと身なりの良いおじさんだった。

頼りなさそうだが、大丈夫なのかね? それとも、イザリオ的な、一見ダメだがいざという時には凄いタイプ?

「フランさんですか……。歓迎せねばなりますまい」

「ん。きた」

「黒雷姫か! あの時の少女が、随分と有名になってしまったものだ!」

クリムトはどこか渋い表情。ウルスは大歓迎だった。クリムトは、フランが――というか、子供が戦争に関わることが嫌なのだろう。

だが、敵の戦力が読めない今、強い援軍は歓迎すべきだ。クリムト個人の心情よりも、アレッサやクランゼル王国の利益が優先されるべき場面でもある。

それ故、クリムト個人は歓迎できなくとも、ギルドマスターとしてはフランを歓迎しないわけにはいかないようだった。

「クリムト、後で話がある」

「話ですか?」

「ん。精霊魔術のこと知りたい」

「まあ、いいですが……。この騒ぎが終わってからでいいですか?」

「ん」

さすがに今はそんな状況じゃないことは、フランも分かっている。

「君が黒雷姫かね? 私はゼーノス・アムクランゼ。一応、この町の領主ということになっている」

「一応?」

「お飾りということだ。まあ、私はここにいるだけなので、気にしないでいい」

随分と気安い感じの貴族だった。本当に領主なのか? まあ、町としては小さいし、下級の貴族なのかもな。

そう思ったのだが、違っていた。

「フランよ。こう見えてこの方は王族だ。威厳がないからと言って、あまりふざけた態度で接してはダメだぞ」

「ウルス。あなたの方が酷いことを言っていますよ?」

「おお? そうでしたか?」

いや、待て。今、何て言った?

「王族?」

「傍系だ。前線に近い町の領主を押し付けられる程度の力しかない、な」

「ふーん」

いやいや! 傍系だってなんだって、王族は王族だろ! そんな興味なさげに「ふーん」じゃありません!

「本当に気にしないでくれ。クランゼルを名乗ることも許されていない程度の者だからな。今は戦える力を持ったお前たちの方が、遥かに重要だ」

本当にお飾りの領主であるようだ。

クリムトとウルスが友好的に接していることからも、悪い人物ではないと分かる。

ただ、オーギュストやオルメス伯爵の専横を止めきれていなかったことからも、あまり有能な人物ではなさそうだった。良く言えば、任せた方がいいことは他人に任せるタイプと言えるかもしれない。

「この町の防衛面に関しては、騎士団と冒険者ギルドに任されています。フランさんも、ご協力をお願いしたいのですが、よろしいですか?」

「ん!」

「まあ、とりあえずは、現在襲ってきているアンデッドへの対処ですね」

「うむ。死人の対処はどうも騎士団では難しくてなぁ」

「そうなの?」

「魔術を使えねば、中々にしぶといのだ」

アンデッドは斬っても突いても動き続けるため、魔術師が少ない騎士団では対処がしにくいようだ。

だが、冒険者の主力が抜けているため、冒険者の対処も後手に回っているらしい。

「子供に頼りっきりになるのは情けないですが、死霊を蹴散らしてください。やれますか?」

「あのくらいだったら余裕」

「ふぅ。ゴルディシアでの報告は入ってきていますが、相変わらず駆け足ですね」

「ふふん」

「褒めてませんよ」

クリムトが苦笑いを浮かべている。生き急ぐなと言いたいのだろうが、今回そのおかげで自分たちが助かった。強くは言えないのだろう。

俺としては、フランに対してこういう心配の仕方をしてくれる人は貴重だから、もっと言って欲しいんだけどね。

これから戦場に出る冒険者に向かって、「あまり頑張るな」とは言えないよな。

「ですが、まずは町中に入り込んだアンデッドへの対処をお願いします」

「すばしっこいってやつ?」

「はい。まだ倒せていないようなのですよ。しかも隠密能力も高く、私の精霊も追い切れていないのです。侵入時に発見できたのは、奇跡に近いですね」

精霊すら撒くとは、油断ならない相手だな。下手したら、外のアンデッドたちよりもよほど厄介かもしれん。

「わかった」

「くれぐれも町へ被害を出さぬように頼みます」

ここで釘を刺してくるとは、さすがクリムト。フランのことがよく分かってるね!

「その後は、できれば城壁の援護へと向かってください」

「外に冒険者は?」

「この町から出撃している者はいないはずだ。引き付けて遠距離攻撃で叩くように、命令を出しているからな!」

「じゃあ、派手にやって平気?」

「問題ありません」

これで外に出ていれば命令違反者だし、巻き込んだとしてもフランの責任にはならないだろう。まあ、殺してしまったらフランが気にするかもしれんから、俺とウルシで気を付けておこうかね?

『ウルシ。城壁の外に人の気配があったら、教えてくれ』

(オン!)

命令を無視して外に出たか、レイドスの偵察部隊か。可能性は低いが、アレッサの救援に来てアンデッドと戦闘になった、外部の冒険者という可能性もあるか。

まあ、まずは町の中の対処だ。

「じゃあ、いく!」

「頼みます」

「何かあれば、騎士を使っていいぞ! ほれ、これを持っていけ」

「ありがと」

ウルスが騎士団のエンブレムを投げ渡してくる。これが、命令委任状の代わりってことなんだろう。

「黒雷姫。アレッサを頼む」

「ん!」

頭を下げるゼーノスと、相変わらず渋い表情のクリムトに見送られながら、フランは部屋から駆け出すのであった。