軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1088 報酬

使命達成時の報酬。それは、少しだけ優遇された状態で、地球の輪廻の輪に戻ること。要は、才能と幸運に溢れるバラ色の来世が確約されるってことなんだろう。

そして、今の俺は消える。

それに関しては、意外にも恐怖はない。死ぬってわけじゃないからだろうか? それとも、怖気づかないように神様が何かしている?

だが、俺にとって大事なことは、俺自身なんかのことじゃない。

『俺が、輪廻の輪に戻ったら、今の剣はどうなる?』

「後のことは、我が眷属が引き継ぎましょう。天狼剣・フェンリル。それが、新たな銘となります」

『え? フェンリルさん、復活できたんじゃないの?』

「あくまでも、邪神の魂との切り離しが終わっただけで、完全な復活ではありません。まだしばらく、力を蓄える必要があるでしょう。ですが、魂が分離できたことにより、フェンリルも邪神と呼ばれる存在も、別々に保護することが可能となりました。後は我らの領域」

『だとしても、剣の中に閉じ込められたまま?』

「使用者の人生を見届ける程度の時間、神の眷属にとってはさほど長い時間ではありません」

邪神の欠片とフェンリルさんの魂が別個に分かたれたことで、邪気を防ぐためのフィルターであった俺はもう必要ないってことらしい。

『……天狼剣って名前。もしかして、神剣なのか?』

「はい。その通りです」

神剣か……。きっと強いんだろうな。俺なんかよりも、遥かに。

黒猫族にかけられた呪いを解くために、フランは今後より一層激しい戦いに身を置くことになるだろう。そんな彼女にとって、神剣は大きな助けになるはずだ。

単騎で、邪神の欠片ともやり合えるようになるかもしれない。フランの悲願を叶えるためなら、フェンリルさんに任せた方が確実なのかもしれない。

だが、それでも――。

『地球の輪廻の輪には、絶対に戻らなくちゃいけないんでしょうか?』

「どういう意味でしょう?」

『だから、俺は、地球に戻らなくちゃいけないんでしょうか?』

「全て忘れて、地球で生まれ変わる。それが、不満だということですか? 来世、何不自由ない人生が約束されているのですよ?」

銀月の女神様が、困惑している。どうやら神にとって、優遇された来世というのはかなり魅力的な報酬であるらしい。

まあ、地球で死んだ直後の俺も、魅力的な報酬だと思っていたしな。だが、今の俺にとって、そうではないのだ。

混沌の女神様は、俺の気持ちが分かっているようだ。ニヤニヤと笑っている。冥界の女神様も、理解しているかな?

多分この辺が、人と多く接しているかどうかの違いなんだろう。銀月の女神様は人の気持ちが微妙に理解できていないというか、理解しようとはしてくれているが、しきれていないって感じだ。それでも、他の無慈悲な神々よりは遥かにマシなんだろうが。

『俺は、フランの師匠で、相棒だ。フランのことを見捨てて、一人だけ生まれ変わるなんてできない。なんとか、こっちの世界に留まることはできないでしょうか?』

「あら? でも、神剣が手に入るチャンスなのよ? フランはどう思うのかしら?」

混沌の女神様が、からかうような口調で尋ねてくる。だが、答えは決まっている。

『喜んでくれるに決まっている。神剣が手に入っても、俺じゃなければフランは悲しむ』

「うふふ。そうね。あの娘は、そうかもしれないわね。でも、あなたが幸せに生まれ変わると聞けば、きっと喜んで送り出してくれるのではなくて?」

『確かにそうかもしれない。でも、そうじゃないんだ。俺は――俺がフランの隣にいたいから、この世界に残りたいんだ。全部忘れて自分だけが幸せになるのが後ろめたいから、拒否しているんじゃない。来世の幸せなんかよりも、今フランと一緒にいることが、俺にとっての幸せなんだ! だから、俺はこの世界に残る!』

俺は、フランの相棒だ。フランの行く末を見守り、フランとともに生きる。それ以外のことなんか、些事に過ぎない。

「あなたがこちらに残りたい気持ちは分かったわ。でも、フェンリルはどうすればいいかしら? 折角表に出てこられるのに、またあなたの副人格として、閉じ込められる日々よ?」

『む……。それは……』

正直、それは考えていなかった。そうか、俺が残るってことは、フェンリルさんがまた眠るってことか……。

『その、俺をなんか違う入れ物に入れてもらうとか、できないですか? こっちに残れるなら、どんな雑魚武器でも構わないですから!』

「神よ! 私からもお願いします」

『え? フェンリルさん?』

なんと、フェンリルさんまで神様たちに頭を下げ始めた。

「私にとって、師匠もフランも、もう他人ではありません。再び剣の中で眠ることも、厭いませぬ。どうか、師匠がこの世界に残れるように、取り計らってはいただけないでしょうか?」

『でも、それじゃあフェンリルさんが……』

「なに、どうせ復活するまでは剣の外に出れないんだ。ならば、今しばらく眠るのも変わらんよ。それに、俺にとっても師匠とフランはもう他人じゃない。2人の願いこそ、俺の願い。だから、神よ。どうか……!」

『お、お願いしまっす!』

フェンリルさんと2人、頭を下げる。すると、冥界の神がヤレヤレと言った感じで、口を開いた。

「ここで拒否すれば、お主は二度と地球の輪廻に戻ることは叶わぬ。よいのだな?」

『フランの側にいられるなら、構いません』

「この報酬は、あくまでも生まれ変わりの力。別の力に変換して、お主に与えることはできぬ。お主は完全な無報酬となるが、いいのか?」

『はい。フランやウルシ、フェンリルさんにアナウンスさん。仲間と出会えたことが報酬みたいなものですから』

「……そうか。儂は、お主がこのままこちらに残ることを認めよう」

「私もよ。まだまだ混沌を振りまいてもらわないとね」

「……我が眷属よ、本当にいいのですね?」

「はっ!」

「分かりました。では、報酬の実行は取りやめ、現状維持とします」

「ああ、でも、少しシステムを弄らないとねぇ。このままじゃ、師匠の成長がここで止まってしまうわ。これからも魔石を吸収して、師匠が強くなるようにシステムを変更するわ」

『あ、ありがとうございます! そこまでしていただいていいんですか?』

「ええ! だって、その方が面白そうだもの!」

『ああ、そういう……』

でも、本当にありがたい。これでまだまだ、フランの手助けができるってことだもんな。

「我が眷属よ、いずれまた」

「さらばじゃ」

「うふふ。これからも、良い混沌を……」