軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1055 怒りと尋問

フランを前に喚く提督と、震え上がる騎士と魔術師。まずは拘束しなければならないだろう。

騎士たちの方は、跪けと命令すれば従いそうだが、提督は制圧が必要だ。

だが、散々暴れても、フランの怒りの炎は未だに鎮火していなかったらしい。抵抗するなとか、大人しくしろとか言う前に、問答無用で斬撃を放っていた。

「「「ぎゃあああぁぁぁぁ!」」」

『え? ちょ、フラン?』

(まずは上下関係を分からせる)

フランに、普通の尋問をする気はなさそうだ。膝から下を失った男性三人の、ちょっと憐れになるくらいの痛ましい悲鳴が、水竜艦の甲板に響き渡る。だが、フランは眉一つ動かさず、口を開いた。

「お前らは、レイドス王国?」

「ひいいぃぃぃ! 痛い痛い! 痛いぃぃ! だ、だれか! なんとかじろぉぉぉ!」

「あがぁ! く、くそっ! は、反応できなかった!」

「ああああ! なんで私がこんな目にっ!」

話を聞ける状態じゃないと思うが……。

だが、フランは容赦ない。

三人に魔術で水を浴びせると、軽く威圧をぶつける。そして、冷徹な表情で再度口を開いた。

「お前らはレイドス王国の人間なの? 答えろ」

「ううぅうるさいうるさいうるさぁぁぁぁいっ! こ、このような真似をして、タダで済むと思うなよ! 許さんぞぉぉぉっ!」

「ふん」

「げぶっ!」

「ぐはっ!」

「があっ! な、なんで私たちまで……!」

「連帯責任」

フランの放った風弾に腹を殴打され、3人が腰を折って喘ぐ。これで、フランが静かに激怒していることが伝わっただろう。

「わ、私はただの護衛術師だっ! く、国の詳しいことなんか分からない!」

「でもさっき宰相がどうとか話してた」

「なっ! 聞こえて……!」

「宰相って、偉い人なんでしょ? だったら、その宰相と話ができるくらいには偉いんでしょ? 何も知らないは通らない」

「ぎゃぁぁぁぁ!」

「嘘をついたら、自分が痛い思いをする」

フランが魔術師の男の傷口に蹴りを入れた。凄まじい激痛に、魔術師の男が涙を流して悲鳴を上げる。この時点で、魔術師の心は完全に折れたな。

目が死んだ魔術師に対し、未だに敵愾心の宿った瞳でこちらを睨みつけてくるのが、小太り提督だ。

馬鹿だが、レベルは30を超えている。しかも、パワーレベリングではなく、ちゃんと見合った強さなのだ。

痛みに対しても、魔術師よりは耐性があるらしい。まあ、だからと言って、フラン相手に何かをできるほどではないが。

そもそも、提督って純粋な戦闘職じゃないから、ステータスも低いしね。

「ぎ、ぎざま! げせんな冒険者が――ぎゃあああああああああぁぁ!」

しぶとく喚こうとした提督に近づいたフランが、おもむろにその傷口を踏みつけた。足の断面をぐりぐりと踏みにじる。

提督は身を捩って逃れようとするが、フランの力の前では多少の抵抗など無駄だった。むしろ自分で傷口を広げて、痛みが増しているだろう。

「――ぁぁっ!」

「お前たちは、レイドス王国の人間?」

三度口に出されたその問いに、騎士の男が答えた。どうあっても質問に答えなければ、助かる可能性はないと悟ったのだろう。

「そ、そうだ。し、質問には答える! だから殺さないで――ぎゃぁ!」

「余計なことは言うな」

「わ、わかった! わかったから足をどけてくれぇ!」

「どけてくれ?」

「どけてくださいぃぃぃ!」

「ふん」

これで、騎士の男の心も完全に折れただろう。その眼は強い怯えに支配されている。フランがピクリと動くだけで、ビクッと体を震わすのだ。

泡を吹きながら涙を流す騎士を見て、半死半生の提督もようやく大人しくなった。生殺与奪の権利を、目の前の怒れる少女が握っているとようやく理解したんだろう。

その後のお話は、非常にスムーズであった。

やはり、この艦隊はレイドス王国の所属で、半数はシードラン海国の船と人員だった。策略を使ってシードランを傘下に収めたレイドス王国は、反抗的な国民や兵士、王族を違法奴隷とし、使い捨ての戦力としているようだ。

水竜艦の結界が強化されたのは、レイドス王国の錬金術師による改造の結果に加え、マールの持っていたスキルの恩恵だった。

ダメージ移し替え現象も、マールのスキルによるものである。提督系の職業には、船に様々な影響を及ぼすスキルがあるらしい。

因みに小太り提督の職業は隠密提督で、自身の指揮する船団に隠蔽効果を与えることができるそうだ。これで、気づかれずにバルボラに近づいたのだろう。

これでもレイドス王国の西征公所属の海軍では、最上位の実力者であるらしい。シードラン海国の内乱を引き起こし、混乱させた作戦にも参加していたのだとか。

そして、肝心なマールの体についてだが、彼らも詳しいことは分かっていなかった。

魔石を埋め込む魔人化手術と、他種族や魔獣の素材を合成する超人化手術。その双方によって、海妖という不定形の魔獣の魔石と、変異した鬼の角を移植されたということしか知らないらしい。

人体改造手術はまだ未完成の技術で、施術を受けた者は精神的に不安定になってしまうという。だが、そこは隷属の首輪で無理やり支配下に置いていたのだろう。

途中までは上手く支配できていたようだが、何らかの理由で魔石が暴走し、肉体の変異が進んで隷属が機能しなくなってしまったらしい。

「ふん」

「げばっ! な、なぜ……」

得意げにマールに行った移植手術の高度さと、レイドスの凄さを語る豚提督に、イラっとしたのだろう。突然顔面を殴られた豚提督は、目を白黒させながら驚いている。

「なんとなく」

「……っ!」

マールの素性に関しては分かった。では、バルボラを狙った理由はなんだ?

ただ、こちらについては予想通りの内容であった。

長年の因縁に決着をつけるべく、レイドス王国がクランゼル王国へと侵攻。バルボラを攻め落とし、橋頭堡を築くというのがその戦略であった。

クランゼル王国にも海軍はいたはずだが、港町ダーズ付近で行われた海戦で敗北し、既に壊滅状態だという。まあ、水竜艦が相手では、仕方がないのだろう。

その後バルボラが狙われたのは、大きな港でありながらレイドス王国と離れているせいで外敵への危機感が薄いこと。また、昨年からの騒ぎによって、未だに警備に綻びがあること。そして、シードラン海国を従えたことで、補給地としての価値が上がったということも理由であった。

ゴルディシア大陸からの帰途でレイドス王国の戦艦に出くわしたのも、同じような理由からであった。

ただ、あちらは対クランゼルではなく、対ベリオス王国を睨んでの行動だった。ゴルディシアの責務によってベリオス王国へと直接は侵攻できない。

そのため、ベリオスにとって重要な食料輸入相手の貿易港を狙って、軍事行動を起こしたそうだ。間接的に、ベリオスに混乱を与えようとしたのだろう。

さらには、ベリオスの周辺国を併呑することで、圧力をかける意味もあるらしい。

そして、ゴルディシアの責務によって守られる期間が終わった直後、一気に攻め込むつもりだった。すでに小国群へは予め根回しが済んでおり、作戦はかなり進んでいるそうだ。

さらに詳しい内情を聞き出す。

レイドス王国は国王が交代したばかりで、東西南北の公爵が好き勝手にやっているという話は聞いたことがある。

今回の戦争も、東征公と南征公が主導し、西征公が手を貸しているような状況だという。各公爵家の目標は、それぞれ違っている。

東征公がベリオス王国。西征公がフィリアース王国。そして、南征公がこのクランゼル王国だ。

まあ、俺たちが壊滅させた船団は、西征公の配下であるようだが。南征公がクランゼル北部の国境に侵攻して目を引きつけ、その隙に西征公が南西部にあるバルボラからクランゼル西部を侵略していく計画なのだろう。

逆に、クランゼル王国がバルボラに戦力を割けば、北が手薄になり南征公が有利になる。どちらにせよ、先手を取ったレイドス王国が有利になる――はずだった。

『俺たちがいたのが運の尽きだな』

(ん)

相手がレイドス王国ともなれば、国内にいる実力者は、こぞって北へと向かうだろう。冒険者には戦争参加義務はないが、レイドス王国が相手なら話は別なのだ。

何せ、強烈な冒険者嫌いの国である。クランゼルが負けてしまえば、冒険者たちの生活も一変するだろう。

全員が北へ行ってしまうわけではないが、数は減る。残った僅かな実力者は、マールが相手にすればいい。

マールの戦闘力なら、ランクB冒険者相手なら互角以上に戦闘を進められるはずである。レイドスの人間が加勢すれば、勝てるだろう。暴走状態ならランクA冒険者ともやり合えるかもしれない。まあ、海や川などの、水場の近くという前提が付くが。

水竜艦も含めた艦隊でバルボラを徹底的に叩き、マールを含めた上陸部隊で一気に制圧する。それがレイドスの作戦であったが、上陸前に俺たちが現れてしまったらしい。

ともかく、聞きたい話はだいたい聞けた。

『フラン。こいつらはバルボラで引き渡そう』

(……ん)

フランとしてはある程度痛めつけて留飲が下がったのか、普通に回復魔術で止血を行ってやった。

さっきまでのフランじゃ、用済み扱いで殺しかねなかったからね。

魔糸でぐるぐる巻きにして、拘束する。糸の先端はフランが握っているし、足はまだ再生していないので逃げることは不可能だろう。

周囲を見ると、水竜艦以外のレイドス王国の船は、ほとんどが撃沈していた。沈んでいない船も半壊以上だ。シードラン海国の国旗を掲げた船は残っているが、マストや櫂を破壊され、航行不能状態である。

魔道具を使って動くことも可能だろうが、巨大な狼が見張っている状態で逃げ出すほどの勇気はないらしい。

『ウルシ、俺たちはバルボラに降りる。船団の監視を続けてくれ』

「逃げ出す船は、沈めちゃっていいから!」

「オン!」

最後にフランが大声で叫んだ。あえて残った船に聞かせているのだろう。ウルシの返事に続き、悲鳴のようなものが聞こえた気がした。