軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

103 コルベルト

料理コンテストへの出場が決まってしまってから1時間後。

俺たちは冒険者ギルドにやってきていた。本当はもっと町を見て回りたかったんだが、時間がないしな。用件をさっさと済ませて、調理できる場所を探さないといけないのだ。

『とっとと素材売って、錬金術系の情報を調べられる場所を聞いて、できれば誰にも見られずに調理ができる場所を紹介してもらう』

「ん」

『貴金属はしばらく持っておけばいいよな?』

お金が使えないような場合でも、持ってれば安心だからな。

「あれがギルド?」

『そうみたいだな……。でっけー!』

「おっきい」

「オフ」

アレッサのギルドも大きかったが、バルボラのギルドは桁が違った。建物の規模も、豪華さも、貴族の館かと思うほどのレベルだ。

「お城?」

『まじで城にしか見えんな』

だが、これまた巨大な入り口の上には、冒険者ギルドの看板が掲げられている。

ただ、中に入ってみると、そこはまあまあ豪華な程度だった。外に比べると、ショボいかも? まあ、冒険者なんてアウトローな奴ばかりだし。下手に豪華な調度品とか置いておいたって、盗まれるか壊されるかするんだろう。

カウンターが7個もあり、50人以上の冒険者がたむろしていた。こんな沢山の冒険者が集まり、何か事件でもあったのかと思ったら、これで普通っぽい。どんだけでかいんだバルボラギルド。

「いらっしゃいませ。当ギルドは初めてですか?」

「ん」

「では、説明させていただきます。よろしいですか?」

「お願い」

「はい。まずはカウンターから。ここは案内カウンターです。館内への連絡などもここから行えます」

隣の3つが依頼カウンター。さらに向こうの3つが買取カウンターだった。

上層階には資料室や職員の職場、さらには初心者用の訓練施設や、初心者用の宿泊施設まであるらしい。訊いてみるとメチャクチャ狭くて、いまさら使おうとは思わんけど。駆け出しには有り難い施設だろうな。

「なるほど。大きい理由が分かった」

「当ギルドにどのような御用ですか?」

「ん。素材を売りたい」

「冒険者カードはお持ちですか?」

「これ」

「確認させていただきますね」

いつもの流れだな。この後の展開も予想できる。と思っていたら、受付のお姉さんは「え? ランクD?」とも「うそ、こんな少女が?」とも言わなかった。

「ランクD冒険者、フラン様ですね。では、6番の受付へお進みください」

「ん」

さすが大ギルドの受付、よく教育されている。全く表情を変えず、普通にフランを案内している。こんだけ無反応なのは初めてじゃないか?

買い取りカウンターのお姉さんも同様で、フランのカードを見ても驚く素振りを見せず、淡々と手続きを進めている。

というか、このお姉さんたち、冷静過ぎないか? 驚かれるのもウザいが、何もないのも物足りないな。

ただ、周囲でこちらを窺っていた冒険者たちは、受付嬢程冷静ではいられなかったようだ。巨大な艦砕マグロの角が取り出された瞬間など、大きなどよめきが起こっていた。

査定の結果、海で獲った魔獣の素材は、5万ゴルドほどになった。ほとんどの素材は安かったが、やはり艦砕マグロの角が高かったみたいだ。槍や兵器など、色々と使い道があるらしいからな。身や骨も売ってほしいと言われたが、そちらは断っておいた。料理に使えるし、フランも気に入っているしね。

代金を受け取っていると、一人の男が近づいてきた。

名称:コルベルト 年齢:38歳

種族:人間

職業:鋼拳士

状態:平常

ステータス レベル:41/99

HP:428 MP:202 腕力:249 体力:154 敏捷:203 知力:91 魔力:101 器用:189

スキル

格闘技:Lv6、格闘術:Lv6、危機察知:Lv3、拳聖術:Lv2、拳闘技:Lv9、拳闘術:LvMax、硬気功:Lv4、剛力:Lv6、瞬発:Lv7、水泳:Lv4、大海耐性:Lv2、投擲:Lv4、生活魔術:Lv3、眠気耐性:Lv3、麻痺耐性:Lv4、料理:Lv2、鷹の目、ビーストキラー、腕力小上昇、気力操作

固有スキル

鋼拳

称号

熊殺し、虎殺し

装備

水竜革のグローブ、老水虎の拳法着、老水虎の拳法靴、赤兜熊のバンダナ、赤兜熊の外套、痛覚鈍化の腕輪、衝撃耐性の腕輪

かなり強い。冒険者ランクはC以上は確定だろう。ジャンには及ばないものの、ステータスの総合的にはドナドロンドにも勝っている。

面白そうなスキルは、硬気功かな。肉体の一部に魔力を集中させ、強化できるらしい。素手で刃物を受けたりも可能にする、攻防に使えるスキルだ。

あとは、拳が鋼のように固くなる鋼拳だ。拳法家にこのスキルは、かなり相性が良いだろう。このスキル構成じゃ、素手で魔獣を倒してるんだろうし。是非戦闘シーンが見てみたい。マンガみたいな、素手で魔獣をブッ飛ばす絵面が見れるかもしれん。

「よう。お嬢ちゃん、そいつは自分で獲ったのかい?」

台詞はフランを馬鹿にしている様にも聞こえるが、その顔はこちらを見下す様な表情ではない。どうやら、自力で獲ったのか、本当に確認がしたいだけらしい。

「ん。釣った」

「はあ? 釣ったぁ?」

「船の上で1本釣り」

「そりゃあすげえ! 普通は魔術でぶっ飛ばすんだが」

お? こいつ、一発で信じたぞ。もっと色々聞かれると思ってたのに。

「信じるの?」

「あ? ああ、勿論だ。よほど目が節穴じゃなけりゃ、足運びや身のこなしである程度の実力は測れるからな」

その言葉を聞いた冒険者たちの何人かが顔を逸らした。目が節穴の皆さんだろう。

「実は俺は艦砕マグロが大好物でな。でも、中々出会える獲物でもないし。お嬢ちゃんが獲ったんなら、肉の方は売らないのか? 釣り上げたんなら、身は大量に取れただろ?」

「売らない」

「他に卸す先が決まってるのか?」

「? 自分で食べる」

「はぁ? あの量をか?」

「ん」

「そうか……。売らないか……」

めっちゃ残念そうだな。よほど肉が欲しかったみたいだ。ちょっとかわいそうに思えてきた。フランを認めてくれたし、少し分けてあげても良いか?

と思っていたら、フランが何かを取り出して、コルベルトに差し出した。

「これあげる。マグロの握り寿司」

船上で作った寿司を、適当な小箱に入れた物だ。すでに醤油が垂らしてあり、いつでも食べられるようにしてある。酔っぱらいサラリーマンの必需品、寿司の折詰にそっくりだ。

『いいのか? 寿司もお気に入りだったろ?』

(宣伝のためには仕方ない)

『宣伝?』

「お嬢ちゃんが作ったのか?」

「ん。これは私の師匠が作った」

いやフランの体を借りて俺が作ったが、一応フランが作ったことになってるんだよ?

「握り寿司? 生の切り身を乗せてるのか? 初めて見たぜ」

「ん」

フランが突き出した箱から、コルベルトが恐る恐る寿司をつまみ上げる。そして一瞬の躊躇の後、寿司を口に放り込んだ。

「もぐもぐもぐ」

「はむはむはむ」

フランも一緒に寿司を頬張っている。2貫どころか、3貫喰いだ。

「う、美味い! 美味すぎる! なんだこりゃ! 単なる生の切り身を米に乗せただけの手抜き料理じゃないぞ! き、切り口が違うんだ! 鋭い刃物でスパッと切ることによって、身が熱を持って劣化することも、繊維が潰されることもなく、艦砕マグロの旨みが最大限に引き出されている! しかも、米もただ握り固めただけじゃない。僅かな酸味で味付けされたコメは、繊細な力加減で握ることで、口の中でゆっくりとほどけるんだ! これは料理だ……。握り寿司と言ったか? そうだ、ただ握るという行為が、調理工程として昇華されているんだ!」

うわー。なんか、語り出した! 料理スキルを持ってるし、興味があるんだろうとは思ったが……。こいつと言い、審査員のおっさんと言い、バルボラはこんな奴ばっかりか? ちょっと馴染めるか心配になってきた。

「こ、これをお嬢ちゃんのお師匠さんが作ったって?」

「ん」

「至高の料理人だ……。どこかで店を構えてらっしゃるのか?」

いきなり敬語だ。

「ううん」

「どこかに勤めてらっしゃるとか?」

「ううん」

「じゃあ、どこに行けばお師匠さんの料理が食べられるんだ!」

「今度の料理コンテストで屋台出す」

「おお! じゃあ1次予選は通ったのか! この腕なら当然だな。そうか、絶対に行くぞ! 毎日行く! 何で勝負するんだ?」

「カレー」

「聞いたことないな。そ、それもお師匠さんのオリジナル料理なのか?」

「そう」

「くーっ! どんな料理なのか、今から楽しみだぜ!」

そうか、これがフランの狙いだったか。明らかにランクが高い冒険者だし、こいつが周りに宣伝してくれたら、宣伝効果が見込めるだろう。策士だなフラン。

「俺はBランク冒険者、鉄爪のコルベルトだ」

「鉄爪?」

「俺の異名だ。そりゃあ、鬼子母神のアマンダや、百剣のフォールンド、皆殺のジャン・ドゥービーに比べりゃまだまだ知名度は低いが、いつか大陸中に轟くぐらい有名になってやるんだ!」

異名とかあるのか。いや、フランも魔剣少女とか言われ始めてるけど。鬼子母神のアマンダは分かる。異常なくらい子供好きなアマンダにはピッタリの異名だ。ただ、ジャンの皆殺ってなんだ? かなり物騒なんだが。

「わたしはランクD冒険者、フラン」

「へえ? ランクDなのか。こりゃあ、将来有望そうだ。今日は握り寿司なんてとんでもない物食わせてもらって、まじで感謝してる。人生が変わった気がする」

「握り寿司の良さが分かるとは、見どころがある」

「へへっ。これだけの腕前のお師匠さんに習ってるんだから、フランも相当な料理人なんだろ? そんなお前に褒められるとは、照れるな」

ガッチリと固い握手を交わす二人。気が合ってしまったようだ。

「じゃあ、何か手伝えることがあったら、遠慮せずに来てくれよな。これでも多少は伝手もあるし、助力は惜しまないぜ? お師匠さんの手伝いができるなんて、むしろ光栄なくらいだからな!」

という事で、俺はいつの間にかファンを獲得してしまったらしい。何かあったら遠慮なく頼らせてもらおう。悪いやつではなさそうだし。

ただ、毎回思うけど、高ランクの冒険者は変わり者ばかりだな。もうちょっとフランには常識を身に付けさせようかな……。問題はこの世界の常識を俺もまだ分かってないってとこだが。