軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1034 草木の神

上空から、光が降ってくるのが見えた。不吉なほどに強力な、神属性の魔力を放っている。

次第に光は輪郭を帯び、球形になっていく。眩い光を放つ、大きな光の玉だ。

俺は一瞬身構えたが、他の面々は反応できていない。何らかの異変を感じても、それが危険なものかもしれないとは微塵も考えていないようだった。

イザリオやオーファルヴでさえ、棒立ちである。意識を逸らされてるというか、敵意を持つことができていないというか。ともかく、実力者たちが武器を手にすることすらできていない。

俺は周辺の者だけでも助けようと、何とか障壁を張り巡らせた。他の奴らはもう間に合わない!

『くっ!』

予想される衝撃に対し、身構える。

だが、何も起こらない。

『?』

「安心せよ。汝らに対し害意はなし」

代わりに、硬い声が響き渡った。ちょっとアナウンスさんに似ているかも?

『え? 誰?』

「我は緑を司りしモノに連なる一柱。汝らが、草木の神と呼ぶ存在である」

はぁぁ? 神様? 草木の神ってことは、森樹の神の子神か?

なんで? 他の奴らは、神の放つ気配に触れて動けなくなっているようだ。

いや、数人は大丈夫か? イザリオやヒルト、フランはすでに硬直から抜け出しているようだ。

俺が最初から動けたのは、邪神に操られないのと同じ理由だろう。地球生まれの魂だから、神の気配に耐性があるのだ。

地面から数メートルの場所に浮いている光の玉は、俺たちの態度などには構わず、話を続けた。

「我が降臨せし理由は、神罰を下すため」

光の玉――草木の神が一際輝いたかと思うと、光の粒が周囲へと放出される。だが、すぐに神の前へと渦巻くように集まり、次第に形を成していった。

姿を現したのは、人だ。それは、見覚えのある少女であった。

『メルトリッテ……』

巨大抗魔と共に消滅したはずのメルトリッテが、大地に寝そべっている。

「ここは……。私は、なんで……?」

「この場に残りし魂を核に、肉体の再構成を行った。汝、罪を償う必要あり。罰を下すこととする」

神の放った静かでありながら有無を言わせぬ言葉に、その場にいる全員が息を呑んだ。

ざまあみろと思っている者はいない。神罰というのは、それだけ恐ろしいものという認識なんだろう。

セリアドットは、また少し違う表情だ。顔色が悪いし、呼吸も乱れている。怖れていた事態が起こってしまったからだろう。神を見上げながら、震える声で呟いた。

「自然神……」

『どういうことだ?』

(剣か? 人間の形をした神であれば、情や憐れみに期待できるのじゃ。だが、人の形をしていない自然神の場合、それがない)

『つまり、情状酌量とか、そういったもんがない、血の通わない判断になると?』

(そのとおりじゃな……。怒りで水増しもない代わりに、可哀想だからと軽減もされないのじゃよ。それに、神罰は他者への見せしめの意味が強いからのう。自然神が担当すると、凄惨な内容になることも多いのじゃ)

『というか、神様によって、神罰の内容や規模も変わるのか?』

(人間の世界とて、判決を下す側によって、罰が違うことだってあるじゃろう? 同じ刑だとしても、執行する人間で差異も出る。神も、そこはおんなじなんじゃよ)

鞭打ち10回の刑だとしても、ムキムキの男と痩せた男が執行した場合、痛みに違いが出るだろう。もっと言えば、裁判官が違えば、同じ罪でも判決が変わり得る。

そして自然神の場合、より四角四面で情の入らない罰になることが多いらしい。

(自然神は、そもそも人に興味がないのだろうな)

『そういう感じだな』

にしても、よくそんなこと知ってたな。

(あの毒使いのやったことが許せんで、神罰がなぜ下らんのかと調べたことがあるんじゃよ。まあ、神は人同士の争いには関わらんと分かっただけじゃったがのう)

セリアドットはあえて口に出してはいないが、邪神の欠片の力を利用することも考えたんじゃないか?

相手は、恐ろしく強い毒使いと、闇奴隷を多数抱える組織なのだ。1人で戦うには強大過ぎる。そして、邪神の欠片を利用すると神罰の対象になると知って、諦めたんじゃなかろうか。

俺の想像でしかないが、メルトリッテが神罰を受けると確信していた様子だったし、その辺りの知識があるんだろう。

(それに、これほど早いとは……)

『それは、この場に神剣があるからだろうな』

(それはどういう――いや、神剣は、神の力の一部を与えられし眷属。神剣を通して、人の世を見ているのか?)

『どうもそうらしい』

(そういうことか……。儂にとって、運がいいのか悪いのか…)

あとは、獣蟲の神が降臨した直後だって言うのも、関係なくはないだろう。神々が現れやすくなる条件がそろっていたのだ。

セリアドットが青い顔で見つめる前で、光の玉がチカチカと瞬いた。

「罪人、メルトリッテよ。汝が罪は、邪神の欠片への不正な接触と、私的かつ一方的な利用である」

「――!」

メルトリッテが何か言い返そうとしているが、声が出ていない。反論は必要なく、すでに決まった罪状を受け入れろってことなのだろう。自然神に限らず、多くの神は人に興味がないんじゃないかと思うことがある。今回の神罰も、人を虐殺したという点には一切触れていない。神にとっては罪じゃないからだろう。

ただ、セリアドットは、少し意外そうな顔だ。

(罪状を告げるか……)

『他の神は、神罰を下す際に理由を言わないのか?』

(神によるとしか言えん。だが、自然神の場合は神罰を下すとだけ告げ、問答無用な場合も多いのじゃ。何も知らずに滅ぼされた町や人間の話、枚挙にいとまがない)

『うわぁ。それは怖いな』

そう考えると、目の前の光の玉は、自然神なのにしっかりと理由を告げている。意外と優しい神様?

「ただし、直接的に邪神の欠片と関わったわけではなく、他者を通しての間接的な接触であったこと。また、神器を使っての力の授受は、契約を交わしたとみなすこともできる。よって、罪科は汝個人への罰として処理する」

これって、明らかにセリアドットに聞かせているよな? やはり、気配りのできる神様っぽかった。

セリアドットは、崩れ落ちるのではないかと思うほどに安堵している。ローレライの未来が守られたんだから、無理もないが。

「汝は、この大陸で抗魔を狩り続けよ。ゴルディシア大陸の邪神の欠片が、解放されるその日まで」

神がそう告げた瞬間、メルトリッテの体が大きく光り輝く。

「これで汝は、罪人トリスメギストスと同じ体となった。永久不変の牢獄の中で、償いを続けるのだ」