軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1016 ヒルトとコルベルトとアドル

「ウアアアアアアアアアアアアア!」

『やっぱ速いな!』

「でも、もう見える!」

「オン!」

巨大抗魔の速度に慣れてきたフランたちは、余裕はないものの、その攻撃をしっかりと回避し始めていた。

「らぁぁ!」

「黒雷姫! こっちじゃ!」

回避力と結界を駆使して、躱し続けるフランとセリアドット。それに対し、多少の攻撃はほとんど効かない巨大抗魔。

大型の魔獣相手にはよくある構図だろうが、今回は相手が硬すぎる。再生力も高く、多重カンナカムイで半分ほど砕けた拳が、数秒で再生してしまうほどだ。

また、魔力が際限なく高まっていくのが分かった。魔力が外部から無限に供給されるとしても、普通は溜め込める魔力には限度がある。

それを越えれば暴走し、生命力が減少し始めたり、肉体に影響が出るはずなのだ。フランが強化系の能力を使った後に自滅しかける原因の1つが、それだった。

しかし、巨大抗魔の魔力容量の限度は底なしであるらしく、供給された分をどんどん吸収し続けている。

もう、出現した時よりもかなり強くなっているだろう。

だが、フランもセリアドットも、全く落ち込んではいなかった。気が滅入ってもおかしくはないのだが、やる気を維持したまま戦い続けている。

援軍が、着実に近づいてきてるのが分かるからだろう。

いや、各部隊の超越者たちにとっては、既にこの距離は射程内であった。

第一部隊から、一発の魔力弾が飛来する。大きさはさほどでもないが――。

ドン!

薙ぎ払おうとした巨大抗魔の左腕が砕け飛んでいた。あの魔力弾一発が、俺のカンナカムイ多重起動と同等の威力があるってことなのだ。

『ちっ。さすが神剣だな!』

(ん)

あの神属性の魔力には覚えがある。始神剣・アルファだ。今の魔力弾を放ったのは、神剣騎士アドルなのだろう。

援護してもらったが、素直に感謝はできんな。フランも同じらしく、どこか悔し気だ。聖国への好感度は最低だからね。

さらに反対側からは、幾条もの黒い閃光が放たれる。魔術師たちが放った、高位の暗黒魔術だろう。巨大抗魔の障壁をぶち破り、その巨体を揺るがしていた。

あれだけの魔術を放てるのは、魔国の魔術師団だろうか? ともかく、アドルと魔術師たちのお陰で、巨大抗魔が動きを鈍らせた。

その間に俺たちは僅かに距離を取り、大技の準備をすることができたのである。

しかも、頼りになる気配が、巨大抗魔の背後に突っ込んできていた。

「師匠! ウルシ! 合わせる!」

『了解だ!』

「オン!」

「最大出力衝撃結界じゃ!」

俺たちは同時に、念動と魔術を全力で放つ。セリアドットも、同じことを考えたらしい。巨大抗魔の背中を押すように、結界を発動していた。

同時にそこへと飛び込んでくる、一つの影。

「てりゃあああぁぁぁ!」

深緑色のサイドポニーをはためかせた軽装の美しい女性が、巨大抗魔の背中に華麗な跳び蹴りを食らわせていた。

インパクトの瞬間、女性の背中から魔力が放出され、凄まじい衝撃が生み出される。背中の装甲が陥没し、ひび割れるほどだ。

俺たちの攻撃も後押しとなり、巨大抗魔はつんのめるように地面へと倒れ込んでいた。爆弾でも爆発したかのような轟音と、衝撃。舞い上がる土煙が周囲の視界を急激に悪化させる。

そんな中でも、纏う魔力によって光り輝く女性の姿を見失うことはなかった。蹴りを入れた反動で滞空する女性から、元気な声が降ってくる。

「待たせたわね。フラン」

「ヒルト!」

巨人を飛び蹴りで転倒させたのは、デミトリス流の現当主、ヒルトーリアであった。

1人で先行して、救援に駆けつけてくれたのだろう。

魔力の反動で空を数度蹴ると、フランの横に華麗に着地した。

「凄まじい力を持った抗魔ね」

そう言うヒルトが放つ魔力も、相当なものだ。全身を、神属性の魔力が巡っていた。デミトリス流の奥義、龍を使っているらしい。

以前の武術大会では、神属性を使った単発の攻撃しか放てなかったはずだ。それが、今は龍を発動したまま動けている。

この大陸で成長したのは、フランだけじゃないってことなんだろう。

「背中の傷も、あっさり治ってくじゃない」

「多分、深淵喰らいから魔力もらってる」

「なによそれ……。あと、あなたはイザリオ殿と一緒だったはずよね? あと、トリスメギストスの姿も見えないようだけれど……」

「……わかんない」

「そう」

眉をハの字にして首を横に振るフランを見て、何となく事情を察したらしい。ヒルトーリアは崩れた城を見た。だが、それも一瞬のことだ。

「ウオオオオオオァァァ!」

「探すにしても、こいつをどうにかしないといけないわね」

「ん!」

ヒルトーリアは、起き上がろうとしている巨大抗魔を睨みつけると、静かに構えた。

左掌を開いて前に突き出し、右拳は脇に折り畳んで引き絞る。下半身は左を前にして、右足は地面を蹴る準備をするように後ろに引いていた。

所謂、正拳突きの構えだ。

「ふぅぅぅ……。龍気が巡っている内に、もう1発お見舞いしてやるわ」

ヒルトの全身を循環していた龍気が、その右拳に集中するのが見える。そこから繰り出されるのは、予想通りの正拳突きだった。

拳は届かずとも、放たれた龍気の弾丸が巨大抗魔に襲い掛かる。螺旋回転を加えられた龍気の塊は、正に弾丸という表現が相応しい姿と威力だ。

「アァァァァ――!」

「すごい!」

「オン!」

ヒルトの放った神気弾が、巨大抗魔の頭部を爆散させる。奴の分厚い障壁と外殻をあっさりと貫くその威力は、さすがデミトリス流の奥義と言えるだろう。

だが、巨大抗魔にとって致命傷とはならず、即座に再生を開始していた。

「ちっ。さっきもそうだったけど、龍気の傷もあっさり再生するのね」

どうやらヒルトは、神属性に耐性を持った抗魔を相手にするのが初めてであるらしい。彼女がこれまで戦ってきた上級抗魔は、神属性で倒せば再生しなかったのだろう。

疲労の滲む顔に、驚きを浮かべていた。

俺たちは、ナディアの救出作戦の時から数回、神属性をものともしない抗魔に出会っているが、全ての上級抗魔がそうではないらしい。

むしろ、神属性でのダメージを即座に再生できるような耐性持ちが珍しいのかもな。

「ヒルト、だいじょぶ?」

「大丈夫よ。まだね」

かなり魔力は減っているが、まだ動けないほどの消耗ではなさそうだ。ただ、大技を連発できるほどではないのだろう。

それに、巨大抗魔を消滅させることはできなかったが、かなり時間を稼ぐことはできた。再生中は動きが鈍るし、再び自分の重さを支えきれずに倒れ込んだのである。

その間に、他の面々が到着していた。

「フラン! 無事か?」

「コルベルト!」

一団の先頭にいたコルベルトが、駆け寄ってくる。明らかに、別れた時よりも強くなっていた。抗魔の軍勢との連戦で、レベルも技量も増したということなんだろう。放つ存在感が、一段上昇している。

「お嬢さん。1人で突っ込んでいっちまわないでください!」

「それでフランを助けることができたんだから、いいでしょう!」

「そりゃあ、そうですが……。お嬢さんが死んじまったら、うちの流派は終わりですよ?」

「簡単には死なないわよ。心配性なんだから」

「誰のせいですか」

「ふん」

相変わらず、甘々シュガシュガな空気を醸しやがって! コルベルトの小言に対し、ヒルトが毒づくのだが、完全に恋人同士のじゃれ合いにしか見えんぞ。

コルベルトも、まんざらじゃなさそうじゃない? もしかして、2人の仲が進展したの?

こ、これが吊り橋効果ってやつの力なのか? どちくしょうがっ! 戦場で愛を育んでんじゃねぇよ!

(師匠?)

『なんでもねぇよ! それより、あっちからはアドルの野郎がくるぞ。すぐに聖国の奴らもくるだろう。偽装の腕輪はしっかりしてるな?』

(ん。でもこれ、トリスメギストスには効かなかった)

『竜眼とやらは特別視る力が強いっぽかったし、城の中だと強化されるっぽいしな……。それに、完全に見えてるわけじゃなかったっぽいぞ』

俺の内部を構成する要素や、システム的な部分は何となく理解はできていたようだ。ただ、フェンリルさんと成長能力の関係なんかは、見えていないように思えた。

それは、偽装の腕輪のお陰かもしれない。まあ、聖国の鑑定士に対しては以前もしっかり効果を発揮していたようだし、今回も問題ないだろう。

「アド――」

「どけ!」

アドルはこちらに駆け寄ってきたかと思うと、そのまま駆け抜けていった。

「?」

『情報交換もせずに突っ込んでいきやがった。なんか、焦ってるな』

(ん)

いや、開放状態をさっさと解くために、巨大抗魔を速攻で倒したいのか? それくらい、アドルの状態は厳しいということなのかもしれない。

実際、以前見た時よりも、動きが僅かに遅い。レベルがかなり下がっているようだった。