軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1008 今のフランの最高

「黒雷神爪っ!」

フランの身に纏う黒雷が俺の刃に収束し、全体を覆い尽くす。

『この技の制御も完璧だなっ!』

流れるような黒雷の操作である。これもまた獣蟲の神の加護のおかげだろうか。やはり、神属性に関係する技の制御が、驚くほど滑らかになっていた。

しかも、剣神化を未だに維持し続けながら、黒雷神爪を使っている。奥の手と奥の手の融合であった。

さすがに、ここまでくると消耗が凄まじいらしい。俺の耐久値がガリガリと減り始めていた。多用できる技ではないな。

「覚悟っ!」

「くっ……!」

フランが、これ見よがしに俺を振りかぶった。冷静さを欠くメルトリッテは、その動きにあっさりと引っかかる。

咄嗟に十字の魔剣を頭上にかざして、フランの攻撃を受けようとした。だが、すぐに剣を引いてしまう。

剣で受けることを嫌ったのだ。黒雷を纏った俺を見て、十字の魔剣が危険だと感じたのだろう。

そうしてがら空きになったメルトリッテの腹部に、フランの前蹴りが突き刺さっていた。

「がふぅっ!」

硬い胸部にヒビが入る音と共に、その体が後方へと飛ぶ。それを追って跳んだフランは、今度こそ大上段に俺を構えた。

錐もみ状態で自分の動きを制御しきれていないメルトリッテと、空中跳躍でどんな動きも可能なフラン。

次の一撃は確実に当たるだろう。

『今は押せ押せで行けてるが、抗魔化しているメルトリッテを倒せるかは分からん。それよりも――』

(剣!)

メルトリッテが危険と感じたように、俺もまた自信を持っていた。今までの打ち合いで、向こうの硬さは凡そ理解できている。

剣神化と黒雷神爪の力を纏う俺なら、確実に十字の魔剣を断ち切ることができるのだ。

(あれ壊せば、メルトリッテの計画を邪魔できるかもしれない)

『そういうことだ』

「ん!」

狙いを付けたフランは、軽く息を吸い、吐いた。それだけで、準備ができたのが分かる。

「ここまできてぇぇぇ!」

フランの狙いが自分ではなく、その手に持った十字の魔剣であると悟ったのだろう。メルトリッテが絶望的な表情で叫ぶ。

その顔は、普通の人間に見えた。戦士でも強者でも抗魔でもない。

世界を恨んで嘆くだけの、ただの女性だ。きっと、復讐心なんて抱かなければ、平穏に一生を終えたのだろう。

フランが一瞬だけ、切なそうな顔をした。だが、すぐに覚悟を決めた顔に戻ると、黒雷の刃を振り下ろす。

「らああぁぁぁぁ! 天断!」

剣神化、黒雷神爪ときて、天断だ。これこそ、今のフランが放てる、最強の一発だろう。

「やめろぉぉぉぉっ!」

自分の体で十字の魔剣を抱え込んで何とか守ろうとするメルトリッテ。しかし、未だに宙を吹き飛んでいる状態では、上手くはいかない。

そもそも、十字の魔剣は非常に大きく、小さなメルトリッテの体では隠しきることなどできないのだ。

黒い刃が、十字の魔剣を――。

ガアアアァァァン!

「!」

剣同士が打ち合わされたとは思えないほどの爆発音とともに、黒雷と金色の魔力が激しく飛び散る。

「ぬぅぅぅ!」

「っ!」

俺がぶつかり合ったのは、十字の魔剣ではなかった。神速で振るわれた俺の刃が十字の魔剣を斬り裂くと確信した刹那、白銀のファルシオンが割り込んできていたのだ。

邪魔をしたのは、金色の竜人であった。無理な体勢で攻撃を受け止めた男は、凄まじい勢いで弾き飛ばされる。

自分たちの間に割って入った男を見て、フランとメルトリッテが同時にその名前を口に出した。

「トリスメギストス……!」

「トリスメギストスッ!」

どちらも、苦々し気な顔だ。

邪魔されたフランはともかく、なんで助けられたメルトリッテまでトリスメギストスを睨んでいるんだ?

ファルシオンを伝わった黒雷に焼かれたうえ、相殺しきれなかった攻撃で肩口から深々と斬り裂かれたらしい。焼け爛れた手で傷口を押さえながら、立ち上がる。しかし、金の竜人は自分よりも、愛剣が気になるらしい。赤い血に濡れた手で刀身を撫でて、何度も頷いている。

「魔力を纏わせていなければ、危なかったかもしれんな。なるほど」

必殺の一撃を受け止められたフランは、トリスメギストスからバックステップで距離を取って剣神化を解除した。

これ以上は危険だと、本能が理解したのだろう。実際、俺の耐久値の減りが、加速し始めていた。危険な領域を見極めることができるようになったらしい。

(止められた……)

『ああ。トリスメギストスの莫大な魔力を剣に伝導させているみたいだしな。今のあの剣は、それこそ神剣並みの強度でもおかしくないぞ』

(ん……)

荒い息を吐きながら、悔し気なフラン。自分の全てを込めた乾坤一擲の攻撃が、あの程度のダメージで防がれたのだ。それも仕方ないだろう。

神竜化を使っている状態の化け物にかなりの手傷を負わせ、さらにぶっ飛ばすことに成功しただけでも凄まじいと思うんだがな。

フランが息を整えている間にも、メルトリッテはトリスメギストスに食って掛かっていた。その目は、完全に敵を見る目だ。

「……なぜ、私を助けたの! トリスメギストス!」

「我が愛剣ファンナベルタが、そうした方がいいと言ったからだ」