軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1006 メルトリッテの体

「竜人を滅ぼすためには、多少の犠牲はしかたないじゃない!」

興奮したのか、肩を上下させながら荒い息を吐くメルトリッテ。美しい顔が、般若のような形相に歪んでいる。

今の彼女の精神は、正気が狂気に侵食されているようだった。

「……復讐したい気持ちは、わかる」

フランのその言葉には、強い気持ちが籠っているのが分かる。以前の自分が、青猫族全体を恨んでいたことを思い出しているのだろう。

「おためごかしはいいわ! じゃあ、私のやることを見逃すとでもいうの?」

「それはない。小さな犠牲が仕方ないなんて、絶対に間違い。それに、この大陸には守りたい人がいっぱいいる。だから、私はあなたを倒す」

フランは悲しげな表情で、俺を構えた。メルトリッテを説得するつもりはないらしい。多分、自分の身と置き換えて、理屈では止まらないことを理解しているのだ。

フランだって黒猫族が同じ目にあったら、どうなるか分からないしな。

「まずはあなたから殺してあげる! そして、この大陸でのうのうと暮らす全ての罪人どもに、罰をくれてやる! それまで、私は止まらないわ!」

「やらせない」

「死ね!」

その叫びが、戦闘開始の合図であった。

メルトリッテとフランが同時に動き出し、互いの武器を叩き付け合う。

「その剣……。ただの魔剣じゃないわね! この剣と切り結んで、折れないなんて!」

「最高の剣!」

メルトリッテは、想像よりも遥かに強かった。ステータスがかなり高い。下手したら、上級抗魔並なんじゃないか?

俺の刀身に叩きつけられた細腕には、異常なほどのパワーが秘められていた。その華奢な外見に反してステータスが凄まじく高いのだろう。

動体視力も人間離れしているようで、フランの剣を良く捌いている。だが、剣の腕前は明らかにフランが勝っているだろう。次第に防御の手が回らなくなり、ついに俺の魔術がメルトリッテを捉えた。

「くぁ! 魔術も使うのねっ!」

本体には大してダメージは入っていないようだが、雷鳴魔術と火炎魔術に焼かれ、半壊していたローブが完全に燃え落ちる。

その結果、俺はメルトリッテを完全に鑑定することに成功していた。

『種族がただのローレライじゃない? 抗魔だと? ナディアと同じか!』

上級抗魔並というか、その肉体が半分抗魔と化しているようだ。よく見ると、服の下の肉体が硬質化している。

顔や手などの末端には特徴が表れていないが、胴体はすでに抗魔の物に変異しているようだった。

フランがそれを見て、目を見開く。ナディアとダブって、動揺を抑えきれなかったのだろう。

そんなフランの驚きを、メルトリッテも感じ取ったらしい。剥き出しとなった胸甲を軽く弾きながら、ニヤリと笑う。

「これ? 素晴らしいでしょう?」

「……抗魔の、体……?」

「ええ。そうよ。あなたは廃棄神剣って知っているかしら?」

「ん」

「へえ? 説明が早くていいわね。この剣は、2本とも廃棄神剣なの。その素晴らしい力を使って、この体を手に入れたのよ」

まさか、オーバーグロウスの他にも廃棄神剣が残ってたとは! しかも、2本が融合している状態だ。

フォールダウンと、エビル・イータだったか? そのどちらかに、オーバーグロウスに似た能力があったのだろう。

「自分で、やったの?」

「その通り。戦う力を得るためなら、なんだってやるわ!」

抗魔化がバレたことで、もう力を抑える必要がなくなったのだろう。メルトリッテは抗魔としての特徴的な魔力を全開にして、今まで以上に速く動き出した。

だが、その攻撃がフランに当たることはない。

「なぜ、避けられる!」

「速いけど、それだけ。どう攻撃するか、バレバレ」

「なら、これよ! はぁぁぁ!」

「当たらない」

「くそっ! やるじゃない!」

身体能力と、廃棄神剣である十字の魔剣のトリッキーさ。それによって最初こそ受けに回ったが、慣れてしまえばフランの相手ではなかった。

剣術のレベル差が大きすぎるのだ。メルトリッテは確かに強いが、どちらかと言えば後衛としての強さだからな。

今度はメルトリッテが防御に回る番だ。人間を超越した反射神経を発揮して、なんとかフランの攻撃を受け止めることができている。

しかし、全てを完璧に防御することはできず、浅い傷がその肌に刻まれていった。

どうやら、内部は外見以上に抗魔化が進んでいるようだ。傷からは全く血が流れず、瞬時に再生してしまう。その様子は、上級抗魔と同じであった。

これはチマチマした攻撃では意味がないだろう。大技で、一気に仕留めなくてはならない。メルトリッテにまだ余裕が残っているのも、自身の不死性に自信があるからに違いない。

そのことを察したフランは、攻撃をしながらも冷静に力を練り上げた。メルトリッテの攻撃を封じる程度の手数を出しつつも、自身の内側に眠る魔力に意識を向けている。

魔術を二重で起動するだけで頭痛を覚えていたフランが、並列思考をこれだけ使いこなせるようになるとはな。フランの内側で、戦闘に使っている魔力とは別に、神属性の魔力が練り上げられていく。

メルトリッテも気づいたらしい。余裕ぶった笑みが、微かに引き攣った。だが、もう逃げる暇などない。

(師匠)

『おう!』

フランが踏み出すタイミングに合わせて、俺は全力の念動をメルトリッテが手にする十字の魔剣に叩き付けた。

鋭敏になっている感覚で不可視の力にも気づいたようだが、この近距離では躱すことなどできやしない。

剣を手放しはしなかったものの、剣と手が真上に大きく跳ね上げられる。メルトリッテが十字の魔剣を引き戻そうとした時には、もうフランが目の前にいた。

「っ!」

間に合わないと悟ったメルトリッテの顔が、悔しさに歪む。まさか、ランクS冒険者のおまけの少女に、ここまでしてやられるとは思っていなかったのだろう。

(今なら、使える)

フランが、神属性の魔力をその体に纏った。黒雷に青白い光が混じり、輝きを放つ。

「剣神化」

フランの呟きと同時に放たれた神速の斬撃が、メルトリッテの胴を薙いでいた。