軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1000 内にいる邪神の欠片

超越者同士の凄絶な殺し合いが行われている横で、フランは深い呼吸を繰り返しながら静かに集中していた。

動と静。

同じ空間にいることが不思議なほどに、両者が身に置く雰囲気は違っている。

「ふぅぅぅ……」

『……』

フランだけではなく、俺も同様に力を練り上げ続けている。フランが攻撃に転じた時に、その威力を最大まで上げられるように。

神竜化を意識して、魔力に神属性を纏っていく。俺の刀身が神属性で覆われていくが、まだ足りない。

あの化け物みたいな竜人王に痛打を与えるためには、もっと力が必要だ。

スキルを全開にしても、まだ足りない。

そうして自らの内に意識を向けて力をかき集めていると、今まで分からなかった色々なことが分かった。俺の内にある神の加護から、わずかに神属性が発せられているということ。

邪気支配や金式といった特殊なスキルを、より強く感じることもできた。

神竜化によって、感覚が研ぎ澄まされているおかげなのだろう。今まで自分では理解できていなかった、フェンリルやアナウンスさんのことも、僅かながら理解できる。

俺の内に在って、今は眠っているのだ。彼らが大きく破損し、傷を癒している最中なのだということも分かった。

そして、俺はさらに自身の奥へと潜っていく。視覚的に何かが見えているわけではないのだが、闇に包まれるような感覚があった。俺の精神に纏わりついてくる、漆黒の闇。

この闇には、覚えがある。

玄奧に存在する、邪神の欠片を封印した領域だ。邪神の欠片だけではなく、その周囲も同じように、暗黒に満ちていた。

以前なら恐怖を抱いたのだろうが、今は全く恐ろしくない。この闇が、敵ではないと分かるからだろう。

その闇の中心。そこで、俺は出会う。

凄まじい力を持った、悍ましい何か。意識するだけで、強力な邪気が纏わり付いてくる。俺の精神を覆い尽くし、撫で回すかのような邪気。その邪気は、囁く。

「全て喰らえ! 全てを喰らえ! 全て――」

『あー、はいはい。それいいから』

邪神の欠片だ。その存在が放つ全てが悍ましく、微かな呼気すら濃密な瘴気。なるほど、こちらの世界の人々が、邪悪と評する理由がよく分かる。

だが、俺は少し違う印象を受けていた。

その存在を感じているだけで不安を覚えるようなナニかではあるが、ただ単純に邪悪なだけであるとは思えなかった。

邪気の海を掻き分け、そこを目指す。耳元では『全てを喰らえ』という声が幾重にも重なって合唱され、邪気の触手が俺の精神を締め付けようとしていた。

だが、俺は無視する。無視できる。きっと、こちらの世界の人々であれば、とっくに邪神に操られているはずだ。

だが、俺には通用しない。地球人だからだろう。

そして、大量の邪気を突き抜けたと思ったら、さらに濃密な邪気を感じ取っていた。なんというか、ただの邪気ではない。

神属性に似ているだろうか? 神属性を得た邪気という感じだった。

ただ、不思議なことに、邪悪さは弱まった気がする。何となく、ではあるが。

その邪神気を放つのは、小さな存在だ。小さくとも途轍もない力を秘めた。しかし、何らかの力で縛り付けられ、拘束された哀れな存在だ。

ここまでくれば、俺でも分かる。

『ウゥゥゥゥ……』

『……お前は、邪神の欠片なのか?』

『……ウウウウウウゥゥゥウ……』

『おい』

『ウウウゥ……ウウウウゥウゥゥ』

ダメか。俺が感じ取っているのは、不思議な力でギュッと押し固められた、邪神気の塊だ。これが、俺の内に封印されている邪神の欠片なんだろう。

以前、混沌の女神と会話できたことを思い出して声をかけたのだが、邪神の欠片は呻き声を上げることしかしなかった。

俺は、なんで声をかけたんだろうな? よしんば会話が可能だったとして、何を話すつもりだったんだ?

いや、思わず声をかけずにはいられなかった。何故なら、邪神の欠片が放つ呻き声が、幼い少女の泣き声のように聞こえてしまったのだ。

不気味で悍ましい声が、どうして少女のものに思えたのか……。

『ウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥ!』

『うるさ!』

俺の意識が近づくと、呻き声がより大きくなる。やはり、幼子が怯えて、泣きわめているように感じられてしまった。

『うーむ』

『……ウウウゥゥゥウ』

なんか、調子狂うな。まあいい。言葉は通じずとも、力を引き出すことはできる。邪気支配で、邪神気を引き出せば――。

『いや、待てよ』

こいつが邪神の欠片だということは間違いない。その力を一方的に支配して使ったら、神を利用したことになるか? え? でも、前も邪気を使ったけど……。あれ? ヤバイ?

いや、以前感じた邪気は、漏れ出したカスみたいなものだ。た、多分大丈夫……だよな? ただ、邪神の欠片から力を貰うのはヤバイ? でも、この邪神気を使えたら、絶対にフランの役に立てるんだが……。

「それはやめておけ」

『うぉ! だ、誰だ!』

「ん? 師匠?」

『は? フラン? なんでここに……? いや、ていうかそっちの人はどなた?』

ここは俺の潜在意識下のような場所のはずだ。場所と言うか、単に俺が自分の内側に意識を向けているだけだ。

そんな意識の内側に、なんでフランがいる? 幻覚ではない。明らかに、本物のフランである。それに、凄まじい存在感を放つ巨大なナニかが、その隣にいた。

神気の塊のようなトンデモ存在だ。一見すると、獣人のようにも見える。

全身毛むくじゃらで、狼と獅子と熊を併せたような、不思議な顔をしていた。ただ、頭にはカミキリムシのような長い触角を備え、四つ並ぶ目は複眼だ。そして背中にはトンボのような翅が生えている。

「新たな資格者に加護を与えるためにやってきたのだがな。まさか、混沌の女神たちの使徒に出会うとは……」

『混沌の女神様とお知り合いで?』

もしかして、もしかする? 神気の塊で、獣と蟲を併せたような姿。しかも、混沌の女神様と知り合い。いやいや、まさかご本人じゃないよね?

「そのご本人様だ」

『マ、マジっすか? 獣蟲の神様?』

「うむ」

『うぇぇぇぇ!?』