軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【番外編】 ブリアン夫人の独り言(3)

オーブリー卿に愛され、ダニオを産んだ女性。

シャルロットとカトリーヌの祖母に当たる女性は、南の海沿いにあるモンタン公爵領ルフォールの片田舎で余生を生きている。

彼女の返事を受け取ると、アデールは王宮の係の者を訪ねた。エルネストが手当てを受け取りに来た時に渡してくれるよう手紙を預けて、後のことは天の采配に任せることにした。

どこにも行く当てのない二人を唯一受け入れてくれる人がいるとしたら、我が子であるダニオを手放したシャルロットの祖母くらいだ。

二人が彼女を訪ねてくれればと思った。

そんな似合わないお節介をアデールが焼いたのは、シャルロットの姉のカトリーヌがきっかけだった。

妹のとばっちりを受けたカトリーヌは、もともと行き遅れと言われていた地味な娘だが、バラボー子爵が爵位を失ったことで、にっちもさっちもいかなくなっていた。

このカトリーヌ、実は少々変わった娘だった。

そもそもカトリーヌという娘には結婚願望がなかった。

読書が趣味で、自分でも文章を書いていた。

シャルロットのことで同情したアデールが何かの拍子に声をかけると、作家としてのアデールに憧れていると言って前のめりに食いついてきた。

「私をあなたの弟子に……、いいえ、侍女にしていただけませんか」

アデールはカトリーヌの書いたものを読ませてもらった。そして、これは……、と思った。

カトリーヌはいずこの国かで言うところの「オタク」であった。腐る、という表現も使うらしい。とにかく、カトリーヌは、どう考えてもコルラード卿とフェリクス卿をモデルにしているとしか思えない小説を書いていた。

「これは、世に出すには大問題ですが、萌えますね……」

「本当ですか!」

「何か、違う形で、道を探りましょう」

そんなわけで、カトリーヌを侍女兼弟子として受け入れ、一緒に暮らすようになった。

そのカトリーヌが、ある日「シャルロットのしたことは、決して許されることではありませんが」と前置きして言った。

「あの子は、最初から脇役にしかなれない人生を、受け入れるのが下手だっただけなんじゃないかと思うんです」

アンジェリクのように、何でも持っている娘が身近にいたら、自分と比べずにいるのは難しいと続けた。

「誰も比べたりしないなんて言われても、信じるのは難しいです。そして、実際に比べられるんです」

目の前にいるアンジェリクは、常に注目され、褒められている。

シャルロットはその隣で霞んでいるしかなかった。

年齢の違う自分でも、アンジェリクのことは羨ましかった。同じ年のシャルロットがひねくれてしまっても、仕方ない部分はあったと思うと言った。

「身内の言い訳ですけど」

寂しそうに笑ったカトリーヌに、アデールは「わかるわ」と言って、肩に手を置いた。

女にとって、世界は最初から不公平だ。

男にとっても同じかもしれないが、貴族の女という狭い世界の中で生きていく時、生まれた環境の違いに苦しむ者がいることを、アデールは痛いくらい知っている。

社交界の仇花のように咲いた若い日々。

その道の教育係として第一線で活躍した日々。

今は第三の人生が始まったばかり……。

いろいろなことがあった。

傷つくことを言われたこともある。蔑まれたことも。

大した人生ではなかったけれど、アデール自身が後悔するようなことはしたくないと思って生きてきた。

第三の人生の始まりに、はからずも自分の著書の影響で、シャルロットは稀代の悪女として全国津々浦々にまで知られるようになった。

運命の残酷さに慄くとともに、シャルロットに対して、すまないとまでは思わないものの、かすかな同情の念が湧いたのも事実だ。

その罪は、とうてい許すことはできないが、もしもシャルロットが心を入れ替えることに成功し、生まれ変わることができたなら、エルネストとともにどこかで生きていてほしいと思った。

這いつくばり、泥を掴んででも、生きてほしいと思った。

アデールとカトリーヌとの出会いもまた、運命の奇妙な巡りあわせだ。

かつてオーブリー卿の愛人だった者同士、ルフォールに暮らすあの人をアデールが今も知っていたことも……。

それらが全て、神の采配ならば、どうか不幸な罪人にも小さな加護があるようにと、皺の増えた手を見下ろしながら、アデールは静かに願った。

最後までお読みいただきありがとうございました。