軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

長女コミエルとの交流

「今度、休みを取ろうと思ってるんだ」

「え? いつから?」

「どれくらい休むの?」

「そうだな……月末から十日間くらいかな」

そう伝えた瞬間、我が家のリビングは爆発するような歓声に包まれていった。

やんちゃなパルフェが飛び跳ねて喜んでいる。ノエルやエリザがにこにこしながらこちらを見ている。フウカとクルールはやはり笑顔ですり寄ってきて、フィーニス、アリシアはそれを保護者のような顔で見守っている。

これだけ家族が多いとリアクションを確認するのにも時間がかかるな。寄ってきた子どもの頭を撫でつつ、俺は向かいに座るユミエルに対して予定を伝える。

「もう調整は済んでるから、あとは休みを迎えるだけでいいと思う」

「……そうですか。それまでは、街を中心にしたお仕事を?」

「ああ。軽く済ませられるやつをやるよ」

「最近、タカヒロくんは出張ばっかりだったもんね~?」

「国王や大臣が無茶を言ったとも聞いていますし……」

「ここらで一度、しっかり休んでおくべきだろうな」

「うんうん。お休みは大事、だよ?」

同じテーブルにはメリッサやフランソワの姿もあった。もちろんアルティやクルミアも同席していて、エルゥは暖炉前の揺り椅子に、カオルは子どもたちの傍らに、そしてルートゥーは俺の首筋に抱きつくようにして立っていた。

要するに我が家の妻子は全員ここにいるというわけだ。月に何度かある子どもたちの大集合、それに付き添う形で母親たちもフリーライフに集っていた。

(おかげでどうにも手狭な感じが……)

俺を含めて十七名、リビングと小上がりに収まるには若干数が多い気がする。元が商家で広かった分、まだゆとりがあるにはあるが、あと数名家族が増えていたらかなり厳しいところだったな……。

そんな広くて狭い家のことを考えつつ、俺は休みについての話を妻や子どもたちを交えて続けるのだった。

「父よ。父は休みの予定は決まっているのか?」

「ん? ああ、まあ、一応、お前らと過ごそうと思っててな」

「「「お前ら?」」」

「ということは、我とデートに出かけるのだな!?」

「ちげーよ。今回は子どものために時間を使うの」

またもや歓声が沸き上がった。一部の親は不満そうにしていたが、そこは別の機会にということでどうにか納得してもらった。

「ほら、最近、親子の時間をないがしろにしてただろ?」

「「「うん」」」

「ぐっ……! だ、だから、今度の休みは子どもと過ごそうと思ったんだ」

親子そろっての肯定に、いきなり心が折れそうになってしまった。それは自業自得だと反省しつつ、俺はなおも休みの計画についての考えを伝えた。

「たっぷり十日あるから、ひとり一日でも十分余るぞ? どうだ?」

もちろん、みんないっしょでもいいんだが――。

どうやらひとり一日の方がいいみたいだ。子どもたちは互いに笑ってうなずきながら、ずらりと俺の前に勢揃いをするのだった。

「順番はどうする? 今回は小さい順でいくか?」

「いや、ここは年功序列でいいと思うよ」

「いつも優先されてはかえって申し訳がありませんわ」

「そ、そうか」

「行き先は!? 行き先はどうすんだ!?」

「いや、ただの休みだから。別に遠足ってわけじゃ」

「山で滝行をするのもいいな。森に魔物狩りに行くのも捨てがたい」

「あ、あの?」

「わたしは海がいいな~」「海でお魚を釣りた~い」

「う、ううう……日光、きらいぃ……引きこもりたい……」

「わう? わふっ、ふんふん」

「あ゛~……」

クルールに頬をぺろぺろされ、俺はもう、どうでもいいような気分になってしまった。

まあ、こういう時はなるようにしかならないか。俺があれこれ決めるのは野暮ってもので、この場合は子どものやりたいようにさせるのが一番だった。

(年功序列ってことは……コミエルからか?)

一番上のお姉さん、コミエルこそは自主と自立の塊だ。幼くしてリーダーシップを身につけた少女であり、誰かに決められるよりかは自分でバシバシと物事を決めていくタイプだった。

(自分から「やりたい」って言って何でもお手伝い屋を始めたし)

やはり俺が決めるよりかは、あいつの好きなようにさせた方がいいだろう。

バイタリティ溢れる長女のことを思いながら、俺はリビングに視線を巡らせて、

「って、あれ? コミエルのやつ、どこにいったんだ?」

特徴的な水色髪が見当たらない。母親のユミエルは目の前にいるが、その子どもであるコミエルは部屋から姿を消してしまっていた。

「自分の部屋にでも戻ったのか?」

それにしては階段を上る気配を感じなかった。じゃあどこにいるのかと、再び辺りを見回したところで――。

「……ふっ」

小上がりからニヒルな笑いが聞こえてきた。そちらを見ると、何やら雑誌を広げたコミエルがやれやれとばかりに首を振っている。

「なんだ、そこにいたのか」

笑って声をかけるも反応がない。不思議に思って近づいてみても、コミエルは依然として不敵な笑みを浮かべたままだ。

(また変な本でも読んだのか?)

いや、現在進行形で読んでいるのかもしれない。少し大人っぽい女児向け雑誌の表紙には、「時代を先取り!」だの「子どもを卒業!」だの刺激的な文言が躍っていた。

「まったく……お父さんもまだまだなんだから」

「え? ど、どういうこと?」

「わかんないの? さっき、休みが取れたとか言ってたけどさ」

「はい」

「それで喜ぶほど、もうわたしは子どもじゃないってこと」

ふー、と小さく長い息をついて、コミエルはぱたんと雑誌を閉じた。

そのまま少女は遠い目をして窓の外を見ている。いったいどんな心境なのか、その態度はどこか満足そうにも見受けられる。

ちょっと早い思春期というやつだろうか? まあ、それならそれで構わないが――。

「自分の時間はいらないってことか?」

「うん、そう」

「どこにも、別に行きたくないってこと?」

「そう」

「そっか……じゃあ、仕方ないな」

「ふふっ」

「ノワゼットのイチゴフェアはお父さんひとりで行ってくるよ」

「って、ちょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

俺がきびすを返した瞬間、背後でこたつの布団が跳ね上がる音が聞こえてきた。振り返ると目を血走らせたコミエルが見え、その子は慌てて俺の下へと駆け寄ってきていた。

「イチゴフェア? イチゴフェアって、あのイチゴフェア?」

「そうだよ」

「イチゴのお菓子祭り? ノワゼットの?」

「うん」

「古都菓子とイチゴの夢の競演。チョコとイチゴの魅惑の出会い。名物はイチゴをふんだんに使い、アイスも添えた温かいパイの……?」

「そのイチゴ祭りだ」

瞬間、「ほわーーーっ!」という奇声がリビングに響いた。コミエルは雷を受けたように痺れて固まり、そのくせワナワナと体を震わせてはカッと目を見開いている。

顔はユミエルそっくりなのに、よくもまあ、これほど表情が変わるものだ。俺が感心に近い気持ちを抱いていると――。

「お、おとーさん」

「ん?」

「わたしたちもお菓子、食べたいなー?」

ぼさっとしている間に他の娘たちが集まってきた。その母親も期待のこもった目で俺のことを見つめている。

「タカヒロくん?」

「分かっているとは思うが……」

「みんなの分も買ってくればいいんだろ? 分かってるって」

ワッと歓声が上がる中、今度は俺がやれやれとばかりに首を横に振っていた。

まあ、こうなることは予想していた。家族の前で美味しいお菓子の話をすること、それすなわち家族の分も揃えることと同義だ。

この展開は何度も体験してきたことだった。それに対して「思い出し苦笑い」をしつつ、俺はまだ震えているコミエルに向かって軽い調子で声をかける。

「で、お前はどうするんだ?」

返ってきたのはとても小さなものだったが――。

恥ずかしそうなイエスの言葉に、俺は笑って娘の頭を撫でるのだった。

ノワゼットとは美味しいお茶とお菓子を売りにした喫茶店だ。

店主はヴィタメールさんという初老の紳士が務めていて、開店から十余年、最近は複数のお弟子さんが調理の補助に入るようにもなっていた。

聞く限りではかなり繁盛しているみたいだ。口コミやガイドブックで随分と客層が広がったようで、時には上流貴族の人間も平民に紛れて来るのだとか。

今やすっかり「隠れてない名店」となってしまったノワゼット。月に何度も行列のできる喫茶店は、しかし、凪のような時間帯も存在するのだった。

「おいし~~~~♪」

午後二時過ぎのノワゼット、店にはコミエルの明るい声が響いていた。

店内には俺たちを含めて三組ほどの客しかいない。いずれも老人、老婦人のグループに会釈をしつつ、俺はクリームをつけたコミエルの口を拭ってやった。

「ちょっとはしゃぎすぎだぞ」

「はーい」

うなずいてはいるが、まだ興奮冷めやらぬといった様子だ。うちの長女はスイーツ、特に果物を使ったものが大好物で、それを美味しく食べるためなら食事を何度か抜いてしまう、というようなこともやるやつだった。

今日も朝、昼と、スズメのエサのような量しか食べてこなかった。おかげでお腹はぐーぐーと鳴り、店に来てからはずっとそわそわとしっぱなしだった。

まあ、そこまで耐えられるのは逆に立派と言うべきなんだろうが――。

俺の皿を狙う目つきが露骨だぞ? 半ば呆れながら、俺は娘にケーキを分けてやった。

「ほら、好きに食え」

「え? いいの?」

「いいのも何も……もうがっつり取ってんだろうが」

イチゴのザッハトルテがごっそりと娘に持っていかれた。すでにコミエルは口いっぱいにケーキを頬張っていて、それをもぐもぐしながら実に幸せそうな顔を見せている。

怒るに怒れないとはこのことだろう。わずかに残った菓子をつつきつつ、俺は店員さんに追加の注文をすることにした。

「すみませーん! お茶のおかわりとジャムのクッキーと」

「このカルディナールってやつもください!」

カウンターに向かって「はいはい!」と手を挙げる我が家のスイーツモンスター。その勢いに苦笑する店員さんに、俺はため息をつきつつうなずくのだった。

「ったく……よくそんなに食えるよな?」

「普段はセッセーしてるからね。こういう時にいっぱい食べないと!」

「意思が強いんだか弱いんだか分からんな」

そもそも節制なんて言葉は子どもが使うようなものじゃないだろ。いったいどこで覚えてくるのやら、コミエルは時々難しい単語をしれっと使うクセがあった。

「お待たせしました。まずはお菓子の方をどうぞ」

「ああ、ヴィタメールさん、すんません」

「店長さんにわざわざ給仕いただいて……」

「恐縮?」

「そう! キョーショク、です!」

また大人ぶるコミエルである。そんな十歳児を大人の余裕でふふっと笑い、ヴィタメールさんはスマートに厨房の中へと去っていった。

そんな店長をコミエルはキラキラとした目で見送っている。なにが琴線に触れたのか、娘はうっとりとした顔でヴィタメールさんの良さについてをつぶやいていた。

「はー……店長さん、やっぱりかっこいいよねー?」

「まあ、異論はないけど……コミィはイケおじが趣味だったっけ?」

「違うの! や、違わないけど、そういうことじゃないんだってば!」

新しいケーキをざっくりと切り分けて口へと運ぶ。そして幸せそうに目を細めてから、コミエルは慌てて厳めしい顔へと戻っていった。

「わたしは立派な大人が好きなの! わたしもああなりたいっていうか、早く大人になりたいっていうか」

ぶつくさ言いながら、またケーキを食べてはパーッと顔を輝かせている。まるで百面相のような表情の変化に、俺は少し笑いながらカップを口へと運んでいった。

「大人になりたい、ねえ。そんなにいいもんじゃないぞ、大人って」

「そんなことないよ。大人になるっていいことなんだよ?」

「まあ、できることは増えるだろうけど……その分、やるべきこともいっぱい増えるぞ?」

「やるべきこと? やるべきことって?」

「そうだな。まずは納税だろ? それに社会への責任ってやつも出てくる」

「社会への責任?」

「コミィにはまだ分からないだろうな。だけど自然と分かるようになってくるぞ?」

「そうなの?」

「ああ。お父さんも経験があるけど、いい歳をして働かない大人は、やれゴクツブシだのダメ人間だの、散々言われるようになっていってな……」

「えええ……?」

「基本的に減点方式で評価されるんだ。当たり前のことができていないと、ご近所さんの目が段々厳しくなっていくぞ……?」

「ええええええ……!?」

暗い顔をする俺に、さすがのコミエルも信じられないとばかりに驚いていた。

まあ、多少は大げさに言ったけど概ね事実ではある。今でこそ信用を得たフリーライフだけど、店を始めた当初はマジでいい加減で適当な店だと思われていたからな。

実際問題、俺が仕事にやる気がなかったせいでもある。人生投げやりになってた時期とはいえ、あの頃は本当に黒歴史になるレベルでダメ人間だった……。

「そもそも、俺がコミィの歳の頃は大人になんてなりたくなかったけどな」

「えー? なんで?」

「なんでって言われても……大人になるって発想がまずなかったな。十代半ばになっても、友だちと遊ぶことしか考えていなかったぞ」

「えーーーーーーーーーっ!?」

俺の爆弾発言にコミエルは大声を上げて驚いていた。それを静かにさせつつ、ついでにお茶のおかわりを受け取りつつ、俺は娘に向かって話を続けた。

「お父さんの生まれた国は二十歳でようやく成人って認識だったからな。成人になっても学校に通う人はたくさんいたし、その意味ではみんな等しく子どもっぽかったのかも」

「なにその国ー? 変なのー」

「まあ……変だったかもな。AIによる適性検査なんてこともやってたし」

「えーあいによるてきせいけんさ?」

「ああ。簡単に言ったら、AIっていう名の神様がいて」

「うんうん」

「その神様が、どんな職業に向いてるのか、全部調べて伝えてくれるんだよ」

「えーーーーっ!? なんで? なんでそんなことするの!?」

「その方が効率がいいんだって。たとえば、魔法の才能がない人が魔法使いを目指しても無駄だろ? それを事前に伝えておいて、代わりに何が向いてるのか、その神様は国民みんなに教えてくれていたんだよ」

「え、え? でも、それでも魔法使いになりたい人はどうしてたの……?」

「頑張ってた人もいるけど……まあ、あまり報われてはいなかったな」

「えーーーー……!?」

同程度の努力をした場合、どうしても適性値の高い人の方が世間に評価をされていた。元の世界では適性検査の結果が進学や就職にも影響を与えていて、そこから道を逸れることは、あまり普通の人のすることではないと思われていた。

(れんちゃんたちも検査通りの道に進んだしな……)

何度も会っている次元の魔女……じゃなかった、魔法少女マジカルロータス……でもなかった、幼馴染の蓮華から、元の世界のその後については定期的に話を聞いている。

れんちゃんこと倉本蓮次は政治の道に進み、オタク気質のあった上島優介は工学系の大学に進学していったみたいだ。聞く限りでは早くも目覚ましい成果を出していて、やはり適性検査は大いに正しいということになっているそうなんだが、

(でもなあ……)

俺自身はあまりいい思い出がないんだよな、あれ。いや、珍しい結果が出たんで、ある意味では俺も注目されてはいたんだけど。

「ねえ、お父さん」

「ん? なんだ?」

「お父さんはどんな結果が出たの?」

「うっ……!?」

「何に向いてるって言われたのかな?」

「ううう……!!」

やはり来たか……! 予想していた質問に、しかし強い緊張感を覚える俺。

い、いや、大丈夫だ。きっと大丈夫なはずだ! 俺は娘を信じている! たとえ何を伝えようと、娘は失望なんてしないはず!

自分に言い聞かせるように心の中で唱えながら、俺は重たい口を……実に重たい口を、およそ十数年ぶりに開くのだった。

「ええと……だな。その評価って、AからEまでの五段階評価、でさ」

「うん」

「その評価って……その……職業ごとに、全部付けられてて、さ」

「うん。それで?」

「俺の評価は…………全部C…………」

「は?」

「全部平均的な……C評価だったんだ……!」

ここまで言い切った俺は顔から火が出る思いだった。自分の予想以上に根深く残っていたんだろうな、きっと。当時のクラスメイトからも散々ネタにされた「超平均的評価」に、コミエルはぽかんと口を開いたままだった。

「えっと……それってすごいの?」

「す、すごくはない、かな。珍しくはあったんだけど」

「全部Cって……何でもそこそこにできるってこと?」

「多分……確かに、何でもそつなくこなせはしたけど」

一流にはなれないって確信だけが強まっていったんだよな。器用貧乏とはまさに当時の俺のことで、評価B、評価Aの人間がいた場合、即座に取って代わられるような危うさだけが俺にはあった。

(どんな人にもひとつは長所があるって言われてたんだけどな)

AはまだしもBはあって当然のような評価だった。「Bがいくつあるか」が普通の人の基準であって、「Cがいくつあるか」、これは大多数の人が数えることもしない事柄だ。

そんな世界で職業適性値オールC。いまいちやる気のない人間になったのも当然の話で、むしろここまで成長できたのが立派に思えるくらいだった。

しかし、同じ話を聞いて、娘は違うことを考えついたのか――。

コミエルは何てことのない顔をすると、実に自然な調子でこんなことを言い始めた。

「でもさ。お父さん、いまはちゃんと働いてるよね?」

「え? あ、ああ、うん」

「ぶっちゃけ、この街一番の何でも屋だよね?」

「そう……なるのか?」

「うん。だから、わたし思うんだけど」

コミエルはそこで少し溜めてから……最後の言葉を放つのだった。

「その神さま、実はポンコツなんじゃない?」

(言い切ったーーーーーーーっ!?)

か、科学と文明の結晶に向かってなんてことを! AI信者に向かって言ったら問題発言にもなることを、しかし、コミエルはためらうことなく次々と口に出して言っていく。

「だいたい、人の才能なんて将来どうなるか分からないじゃん」

「歳を取って芸術に目覚める人もいるし、逆に神童がパッとしないこともあるでしょ?」

「人生、才能よりもやる気があるかどうかにかかってると思うよ」

「お父さんみたいな例もあるし、神託をそこまで妄信するのもどうかと思うな」

すらすらと水のように流れ出てくるコミエルの言葉。そのどれもが筋の通ったものに感じられ、俺は思わず「おお」と感嘆の声を漏らしてしまう。

(子どもの成長は早いと聞いていたけど)

いつの間にか、立派な子どもになったんだなあ……。

「まあ、全部『グランフェリアンアン』に書いてあったことだけどね」

「雑誌の受け売りかよ!!」

ちょっと感動して損した気分だ! 思わずズッコケた俺に対し、コミエルは特に悪びれることもなく話を続ける。

「雑誌はともかく、わたしはわたしがなりたい自分になろうと思ってるよ」

「なりたい自分? なんか目標でもあるのか?」

「うん! わたしは立派な大人になる! サヤマ家長女の立場もあるし、そこは譲れないことだと思ってるの!」

「立派な大人になる。なるほど……それで?」

「え?」

「立派な大人になってどうするんだ?」

「それは……ほら! フリーライフを大きくしたりするの!」

「ふわっとしてるなあ」

これが十歳児の限界ということか、コミエルは具体的な将来像みたいなものはまだ持っていないみたいだった。

(とにかく大人になりたいってだけか)

話が元に戻ってきたなと感じつつ、俺は微笑ましい目で娘のことを見守った。

「まあ、頑張れよ」

「なにその目……! なんか妙に生温かい!」

「がんばりなされ……」

「頑張りなよ……?」

「うわあ!? ま、周りの人たちまでこっちを見てる!?」

常連客で顔見知りのお爺ちゃんたち。それに店員さんまでもがコミエルのことを生温かい目で見守っていた。

背伸びをしたとて子どもは子ども。十歳児はまだまだ社会に保護されるべき存在だ。

それを不服と感じることこそ子どもの証で、しかし、それを止められないコミエルは、周囲の見守りを振り切るようにして改めて叫んだ。

「わたしは絶対、大人になるから!」

「はいはい」

「むーーーーっ! ロゼッタちゃんと協力して、大人になってみせるから!」

「それはマジで止めとけ!?」

ご近所に住むイヴェッタさん。その娘であるロゼッタが、あの女児向け雑誌の供給源だったか……。

妙なところで納得しつつ、俺は必死にコミエルのことを止めようとする。それでも暴走を続ける我が家の長女を、周囲はやはり微笑ましげな目で見守っていた。

俺とユミエルの間に生まれ、愛情を受けてすくすく育ったコミエルは――。

どうやら俺とは違う形で、騒動の中心になるような少女だった。