軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

はじめての依頼

お昼を済ませ、お昼寝休憩を終え、再び営業中の札を出したフリーライフ。春の陽光が差し込む店内は、しかし、何やら黒い雰囲気に包まれていた。

「このまま座していても事態が好転することはないよ」

「そ、それは分かっているけど……」

「ならばためらうことはないはずさ。私たちには私たちの武器がある。それを遠慮なく使い、見事、店を繁盛させてみればいい」

「ううう……」

沈む長姉を五女ノエルが諭して――いや、そそのかしている。黒髪のエルフは不敵な笑みを浮かべ、神話のヘビのごとくコミエルの耳元にすり寄りつつささやいている。

「結果がすべてだよ、姉さん。結果を出せば姉さんのすべては報われるんだ。細かいことにこだわるべきじゃない。まずは目的を果たしてみせるんだ」

「で、でも、そんなの反則っていうか、実力じゃないっていうか……」

「なにを言っているんだい? 伝手だって立派に実力のうちさ! 父さんも伝手を頼って商売を繁盛させてきたんだよ?」

「それは……そうだけど……」

「私たちの武器を使えばいい。いや、むしろ積極的に使うべきだろう。徒手空拳で戦う虚しさは、もう骨身に沁みて分かってきた頃じゃないのかな?」

「う、うう……ううう……!」

「誰も姉さんを責める人なんていないはずさ。私たち姉妹も絶対に責めない。だから、さあ、今すぐ武器を手に取るんだ」

「うううううううう……!!」

「太い実家に頼るという、強大なる武器を……!」

「うわーーーーーーーっ!! やっぱり、ダメーーーーーーッ!!」

コミエルが叫んだところで黒い雰囲気はパッと霧散した。魔女めいたエルフは苦笑しながら身を離し、元の席、自分の定位置へと大人しく戻っていく。

その隣では次女フィーニスが我関せずとばかりにハンドグリップを握っている。三女アリシアは刺繍に励み、六女エリザベートは優雅に本などを読んでいた。

残る姉妹は一ヶ所に集まり、みんなでお昼寝をしている、といったところか。店内には客が訪れる気配さえなく、それゆえに少女たちはヒマを持て余してしまっていた。

「もー、ノエちゃんったらー」

「ごめんよ姉さん」

形だけでも妹を叱るコミエル。こんなやり取りも客がいないからこそできることだ。開店休業中のフリーライフ・プティ。店に巣食った閑古鳥はかなり手強いようだった。

「太い実家に頼る、か。そう悪い話ではないように思えたがな」

「フィーちゃんまで!? ダ、ダメダメ! 実家の力に頼っちゃ!」

「えー? なんでー? 頼れる相手がいるのはいいことだと思うけどなー?」

「アーちゃんも! 誘惑に打ち勝つ心を強く持って……!」

「当家はいつでもお姉さまの訪問を歓迎いたしますわ。お手伝いの仕事がご所望なら、いくらでも紹介できると思いますが」

「わたしを甘やかさないで……!」

ひいい、と情けない声を上げ、どうにか堪える長姉コミエル。

実のところ彼女もよく分かっていたのだ。仕事が欲しければ実家の伝手で回してもらえばいい。それは厳然たる事実というもので、漠然と客を待つよりかはよほど確実なやり方でもあった。

コミエル自身、何度そうしようと思ったことか。大貴族のフェルディナン家。ギルドマスターを務めたカスティーリャ家。手伝い程度の仕事ならより取り見取りで――しかし、だからこそ、少女はそれに頼るわけにはいかなかった。

「わたしの目的はあくまで自立! 親に頼っていたら、いつまで経っても自立なんてできはしないよ!」

こころざしだけは常に立派なコミエルだ。再び燃え上がった少女は、ふんすと鼻息を荒くして何事かを考え始める。

「ポスターでも作ろうかな? それとも映像水晶でコマーシャルを作る? あんまり時間をかけるとお父さんが帰ってきそうだし……」

口元に手を当て、ぶつぶつと考えをまとめ始める少女。八人姉妹の長女はいつも前向きでくじけない性格の持ち主だ。

たまに盛大にやらかして、目も当てらないほど落ち込むようなこともあったが――。

それも愛嬌というものだろう。試行錯誤を繰り返し、その度に成長を遂げる姉のことを、妹たちは深く信頼していた。

「よーし! じゃあ、まずは宣伝をしてみるぞー!」

「「「おー!」」」

妹たちのかけ声に合わせ、店内はやにわに熱気と活力に満たされていく。昼寝をしていた妹たちも目を覚まし、フリーライフ・プティは「何でもお手伝い屋」としてのにぎわいを取り戻していった。

このままコミエルたちはポスター作りに励むことだろう。上手くできればそれを店の前へと貼り出すはずだ。余力があれば別の通りで宣伝活動をするかもしれない。そんな光景が目に浮かんだところで、タイミングがいいのか悪いのか――。

店には待望の客が訪れるのだった。

「いらっしゃいませ」

初めに対応に出たのはシャドウドラゴンたちだった。メイド服を着たふたりの竜人、その片方がちらりとコミエルの様子をうかがってから声をかける。

「お嬢様。コミエルお嬢様。お客様ですよ」

「お客さま? お店のお客さん? それなら話を聞いてみてください」

「私どもが受けてもよろしいのですか?」

「もちろんですよ。来週に延ばしてもいい仕事ならお父さんたちがやりますし、そうでないなら別の何でも屋さんを紹介できますし。まずは話を聞いて、どんな依頼があるのか、どんなことに困っているのか、それを正しく掴んでですね…………って!!」

長い空白のあと、ようやくコミエルは気がついたようだった。

待望の客が目の前にいる。何か困った様子で店の入り口に佇んでいる。

待ちに待った相手をみすみす本店に譲ってなるものか! 少女は紙やクレヨンを放り投げると、実に素早い動きで客の前へと飛び出すのだった。

「いらっしゃいませ~♪ フリーライフ・プティへようこそ!」

妙にプティの部分が強調されている。額には汗が浮かんでいるようだ。

どうにもぎこちなく、少し息切れをしている少女は、それでも精一杯のスマイルを浮かべて客を応接机に誘導していく。

「あ、あの……?」

当然客は戸惑いの表情を浮かべたが――。

メイドたちのうなずきを見て、素直に進んでいくのだった。

「さて! ようこそ当店にいらっしゃいました。わたしは代表者のコミエル。何でもお手伝い屋、フリーライフ・プティの店長です」

「は、はあ」

「この子たちは当店のサポーター。お手伝い屋のお手伝いのようなものですね」

「そ、そうですか」

応接セットで向かい合い、コミエルは客に対し自慢げに胸を張ってみせた。アリシアやパルフェ、一部の妹たちも誇らしげに腰に手を当てている。

どうやらプティなる店は店員すべてが子どもで構成されているらしい。困惑顔の客人を前に、コミエルはどんどん話を前へと進めていく。

「どんな困り事もズバッと解決!」

「安心、安全、明瞭会計!」

「さあ、何でもオレたちに打ち明けてくれ!」

ババーンとポーズを取って、またドヤ顔を見せたコミエルたち。そんな少女たちを前に、客はどうしたものかと本気で悩み始めた様子だったが――。

「まずは先方の話を聞かないか」

「フィーちゃん? 何を……って、あーだだだだだだだ!?」

「先走るのは姉の悪い癖だ。いつも私たちが注意しているではないか」

「分かった! 分かってる! 分かってるから……あーーーーっ!?」

妖精のような少女が竜人の少女に頭を鷲づかみにされて浮かんでいる。幻想的と言うよりは非現実的な光景に、客人はただただ目を丸くするばかりだ。

この中で冷静なのはフィーニスくらいのもので、彼女は姉をポイと放すと、何事もなかったかのように客と向かい合うのだった。

「失礼をした。客人よ、改めて話を聞かせていただこうか」

「は、はい」

「この店の名はフリーライフ。十年以上の実績を持つ何でも屋だ。貴殿はその評判を聞き、フリーライフの店主に依頼をしようとして参ったのかな?」

「い、いえ。わたしはただ、何でもお手伝いをしますという看板を目にして……」

「ふむ。まさかプティ、何でもお手伝い屋の方が目当てであったか」

「そうです。少し、手伝っていただきたいことがありまして……」

深刻そうな顔で語尾をにごす少女。

少女。そう、少女だ。客とはひとりの少女だった。淡い草色の髪が特徴的な、いかにも育ちが良さそうな十歳前後の少女。彼女はどうにも困った顔を見せていて、それを見たフィーニスは「ふむ」とつぶやいて話を続けた。

「プティは見ての通り子どもの集まりだ。重たい案件であれば別の店を紹介するか、あるいは頼りになる者を呼んでくるが」

「い、いえ! それほどのことではありません。すぐにどうこうという話ではありませんし、それに……」

「それに?」

「普通の方だと、少し難しい話だと思います」

皆さんは普通ではないようなので、と続ける少女に、フィーニスはまた「ふむ」と小さくつぶやいている。相手の素性、それに真意を見定めようとしているのだ。爛々と光る瞳は妹たちにさえ重圧を与え、その場は緊張感によって張り詰めていったのだが――。

「そういうことであれば! わたしたちがうってつけだと思います!」

「うおっ!?」

復活したコミエルが重苦しい沈黙を打ち砕いていた。次女の背後から飛び出した長姉は、自信がありますとばかりに胸を張って言い始めた。

「わたしたちはそれぞれが特殊な能力を持つスーパーガール。特殊な案件もばっちりお任せの万能集団なのです!」

「特殊な能力? それはどのようなものなのでしょう?」

「ふふふ、それはですね?」

得意げに笑ってもったいぶる少女。彼女はひとつ咳払いをすると、待ってましたとばかりに能力についての話を始めるのだった。

「まず、次女のフィーニスちゃん! この子は武術の達人で、どんな相手でもあっという間に倒してしまうくらいの強さを持っています!」

「まあ、相手にはよるがな」

「お次は三女のアリシアちゃん! この子は癒しと浄化のプロフェッショナルで、そのうえなんと、分身スキルまで身につけているのです!」

「「どうもどうも~♪」」

「四女のフウカちゃんは隠密スキルを持っていて……」

「姉よ。もういないぞ」

「み、見ての通り、こっそり行動することに長けています」

「気を取り直して、五女のノエルちゃん! この子は小さいながらも学者さんで、知らないことはないってくらいに物知りさんです!」

「それほどでもないがね」

「六女のエリザベートちゃん! この子は驚異の鑑定眼持ち! どんなものでも良いか悪いか見分けることができるそうです!」

「ふふっ。それだけではありますけどね」

「七女のパルフェちゃんも目の良さが持ち味で」

「見つけるのが得意だぜ! 何を見つけるかは自分でもわかんねーけどな!」

「だ、そうです!」

「おう!」

「そしてそして! 末に控えしクルールちゃんは、なんと動物と話ができる能力の持ち主! 聞き込み調査では大活躍をすること間違いなしです!」

「むにゃ……わう?」

「以上、我ら八姉妹はスーパーガール、それぞれが特別な力を持っていて」

「八姉妹? あの、それではあなたも、何か特別な力を?」

「うっ……!」

「よければおうかがいしても?」

「えと……その……わたしはなんていうか……その……」

「はい」

「人より【コール】が得意っていうか……それだけっていうか……」

「まあ……連絡係さんなんですね?」

「司令塔って言ってくださいー!」

おっとりしている客人に、コミエルは目端に涙を浮かべながら叫んだ。

誰にだってコンプレックスというものはある。少女の場合は特殊能力がまさにそれで、なるべくそこに触れられないよう、強引にも話を先へと進めていった。

「さ、さーて! そろそろ依頼についての話をしましょうか!」

「依頼についてのお話、ですか?」

「ええ。お客さんは何を頼みにうちに来たんですか? 少し手伝って欲しいことがあるって言ってましたけど」

「ああ、はい。その通りです。わたし、実は少し困っていまして」

「ほほう……ふむふむ、それで?」

「みなさんの力をお借りできれば、と。そう考えているのですが……」

「おおお……! これは間違いなく……依頼だ!」

歓喜によってわなわなと震えるコミエル。祝儀抜きではこれが初めての依頼であり、それゆえに彼女は得も言われぬ喜び、それに充足感さえも味わっていた。

「くうう……! 依頼! なんていい響きなの……!」

「あ、あの……?」

「もー、全部わたしたちに任せてください! どんな依頼も受けますんで!」

ドンと胸を叩くコミエル。安請け合いをする代表に、少女はしばし呆気に取られてしまっていたが――。

困っているのはどうやら本当のことだったらしい。小さく息を吸うと、真面目な顔をして依頼についての話を始めるのだった。

「あの、ですね。みなさんに頼みたいことというのは、ですね」

「はい!」

「落とし物のことなんです。小さな宝石がついた年代物のネックレス。それを探すのを、みなさんに手伝っていただきたいのです」

「なるほど……落とし物探し! 遺失物捜索の依頼ですね!?」

「え、ええ」

「警邏隊の詰め所には行ったか? 大抵はそこで見つかるのだが」

「見つかっていないようです。物品自体も特殊なものなので、普通の人にはまず見つけることさえ難しいかと」

「普通の人、か。なるほど、貴殿もどうやら普通の人ではないようだが」

フィーニスの視線に楚々と微笑み返す少女。わずかに漂った緊張感は、しかし、すぐにもコミエルによって吹き飛ばされた。

「どこで落としたとかは分かっているんですか?」

「いえ。ただ、この辺りで力を感じたので、近くにあるのかな、と」

「力を感じる……! な、なんだか話が大きくなってきた……!」

「私も興味が出てきたね。実物をぜひ見てみたいものだ」

興奮する長姉に身を乗り出してくる妹たち。待ちに待った本格的な依頼に、彼女らはわちゃわちゃと歳相応の「落ち着きのなさ」を見せ始める。

「シャド子さん! これは? これは!?」

「構いませんよ。どうぞお手伝いに励んでくださいませ」

「やったーーーーーー!」

保護者代わりのメイドからも許可が下りた。そうなれば姉妹を阻むものは何もなく、コミエルを中心に、子どもたちはすぐにも捜索に乗り出そうと動いていた。

「今回の依頼は落とし物の捜索! 目当ては小さな宝石がついたネックレス! ちょっと変わったものらしいけど……」

そこでコミエルは話を区切った。周りにいる妹たちの視線を受け、少女は大きく声を張って高らかに叫ぶ。

「姉妹一同、力を合わせて……がんばるぞー!」

「「「おーーー!!」」」

かくしてフリーライフ・プティは初めての仕事に乗り出していった。

謎めいた少女の謎めいた依頼、それは果たしてどのような結果に繋がるのか?

それは分からなかったが、分からないからこそ、少女たちの胸は期待と興奮で高鳴るのだった。