軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

フリーライフの姉妹たち

グランフェリアは変わりゆく都だと言われている。

人の出入りが多い。店舗の入れ替わりが激しい。流行り廃りは道行く者の装いを変え、区画整理は時に強引に街の形を変えてしまう。

地方の村々では考えられないほどの大きな変化だ。おかげで王都は「覚えにくい街」としても知られていて、そのせいで旅人や行商人が毎年迷子になるのだという。

まるで生きているかのように様相を変える広大な都市。蠢くように変化していくイースィンドの王都において、それでもなお、変わらない景色は存在していた。

そこは中級区にある住宅街の一角だ。まばらに商店が並び、しかし商店街と呼ぶほどでもない場所に、その店、フリーライフは建っている。

住居の一階部分を店舗として使っている建物だ。元は雑貨店だったというこの店は、その頃の面影を残したまま、今は何でも屋として使われている。

貴大とユミエル、ふたりが暮らす家でもある。知人、友人の訪問はあるが、基本的には静かで穏やかな時間が流れる場所だ。

ここだけはもう 十数年(・・・) も変わっていない。ふたりが何でも屋の看板をかけた頃から、今も変わらず王都の片隅に存在している。

変化の激しい大都会において、この店だけは違う時間が流れているかのようだ。恐らくはこの先も、十年、二十年と同じ景色が見られる――はずだったが――。

変わらないフリーライフに、ほんのわずかな変化が見られた。

元からある看板に付け足すように下げられた看板。「フリーライフ・プティ」「何でもお手伝い、いたします」と書かれたそれは――。

とある少女たちがかけたもので、そんな彼女らは今、店の中で何やら仕事めいたことをしているのであった。

「「「いらっしゃいませ~♪」」」

事務所の中、明るく元気のいい声が響いている。

そこにいたのは店主である貴大――ではなく、従業員のユミエル――でもなく、見覚えがあるようなないような、合計八人にもなる少女たちだった。

それぞれ違う外見を持ち、しかし、姉妹のように息の合った彼女らは、まるで子ネズミのようにちょこまかと事務所の中を駆けまわっていく。

「はい! お婆ちゃんに頼まれてた湿布薬!」

「こちらは限定スイーツだったな。無事に確保してきたぞ」

「お守りに祝福をかけておいたよ~♪」

「ふふっ。わたくしは鑑定を済ませましたわ」

水色髪の妖精種。黒髪の竜人。白髪のシスターに、恐らくは上流階級の金髪の娘。

その周りには東洋人、褐色赤毛、黒髪のエルフや犬獣人の少女もいて、彼女らもまた、頼まれていたものを客の手に渡していくのだった。

「あうぅ……こ、これ……下ごしらえしたお野菜……」

「オレはすっげえきれえな石を見つけたぜ! きっと『でんせつきゅー』のお宝だ!」

「きみは強くなれる薬が希望だったね。大丈夫。効果のあるものを調合しておいたよ」

「よくねむれるマクラ。わう、ルーの、えっと……おすみつき?」

いずれもお使い程度の簡単な仕事だ。依頼主も近所のおじさん、おばさんが主で、そこに交ざって老若男女、やはり顔見知りの相手が訪れていた。

他国にも名が知られる「何でも屋・フリーライフ」の事務所とは思えないような光景だ。それもそのはず、今だけは「何でもお手伝い屋・フリーライフ・プティ」として動いていて、その店主は貴大ではなく、例の水色髪の少女となっている。

少女たちの年齢は十歳に届くか、届かないかといったところか。働くにはまだ早い年頃と言えるが、物売り、職人の子弟等、同じ歳で働く者がいないことはない。手伝い程度ならあり得ない話でもなく、それを理由に、少女たちは店主不在のフリーライフを乗っ取った……もとい、借り受けていたのだった。

「ふう。こんなところかな」

水色髪の少女がパンパンと手を叩いて事務所内を見回す。

頼まれていた仕事は先ほどのやり取りで終わってしまった。客のほとんどが知り合いである以上、今日のピークが過ぎたことも実感として分かる。昼を過ぎた曖昧な時間帯、これから新規で訪れる者もいないだろう。それでも「ひょっとしたら」という気持ちが心にあるのか、少女は休憩の用意をしつつも、扉に準備中の札はかけなかった。

「お姉さま。お茶の準備ができましてよ?」

「あっ、ありがとー、エリちゃん!」

「今日のお茶請けは私が作ったクッキーさ。紅茶には合うと思うよ」

「うんうん。ノンちゃんもありがとね?」

貴族風の娘、それに黒髪のエルフの頭をよしよしと撫で、少女はふたりを連れて事務所の端の方へと近づいていく。そこには子ども用のソファ、子ども用のローテーブルがあり、そこには山盛りの菓子とかわいらしいカップが並べられていた。

「ふぁふふぁーふふぁ! ふぉふぉふぁふふぁーふぁふぁ!」

いかにもやんちゃそうな褐色赤毛の少女が、早くもクッキーを頬張っているが――。

「ううう……疲れた……引きこもりたい……」

「むにゃむにゃ……すう……」

東洋人の娘は毛布を被り、犬獣人の少女はそれに寄り添って昼寝をしているが――。

いつも通りと言えばいつも通りの光景である。水色髪の少女はさして気にも留めず、他の少女たちが待つソファの中心へと腰を下ろしていった。

「はー、やれやれ、どっこいしょー」

「おとぅさんの真似かな?」

「違うよー。自然に出たのー」

「今日もよく働いたからな」

「子どもにしては、だけどね」

両脇の白黒少女と受け答えしつつ、少女は「はふー」と息をついてソファの背もたれに体を預けた。その動作と口調は彼女の父親とそっくりであり、それをよく知る少女たちはくすくすと笑って、だらける 長姉(・・) のことを微笑ましげに見つめていた。

「一番の年長とはいえ、お姉さまもまだ十歳ですものね?」

「体がついていかないよねー? わたしもすぐお昼寝したくなっちゃう」

「オレは全然元気だけどな!」

「そう言って、いつもスイッチが切れたように寝てしまうくせに」

指摘したそばから褐色赤毛がソファで仰向けになっていた。その腹を毛布で隠しつつ、竜人少女は再び姉へと声をかける。

「まあ、店を手伝いたい、父や母の助けになりたい、という気持ちは立派だ」

「お父さまもユミエルお母さまもお忙しい方ですものね?」

「わたしも、いつも『手伝ってあげたいなー?』とは思ってたよ?」

「その願いが叶い、つい先日、何でも手伝い屋を始めたわけだが」

「できれば、おとぅさんと一緒に働きたかったなー」

「「「ねー?」」」

声を揃えて同調する妹たちを、長姉たる少女は体を起こしてじろりとにらむ。

一体どうしたというのだろうか? 彼女は不満げな表情を見せると、未だによく分かってなさそうな少女たちに向かってこのようなことを言い始めた。

「それじゃ意味がないでしょー?」

「そうなの?」

「そうなの! これはわたしたちが大人になるための第一歩……! 立派なレディになるための訓練みたいなものなんだよ!」

「我々はまだ子どもなのだが」

「んんんん、そうなんだけどね?」

「末っ子のクルールなどまだ六歳だよ?」

「んんんんんん……そ、そうなんだけどね?」

早くも追い詰められてダラダラと冷や汗を流し始めた。脇が甘いというか、いまいち隙が多い少女である。そんなうかつな姉に対し、次女である竜人少女がため息混じりに問いかけてみた。

「それで、本心は?」

「わたしを子ども扱いするお父さんを見返してやりたい!!」

拳を握って叫ぶ長姉に、今度は妹たちが大きなため息をつく番だった。

「い、いいでしょ!? いいでしょ! ちゃんと許可は取ってあるんだから!」

「まあ、以前から店の手伝いはしていたから……」

「ご近所の依頼を請ける分は構わないと思いますが……」

「が……が!?」

「いや、あえて言うまい」

「おねぇちゃんがやりたいことをわたしたちは手伝うよ!」

「お姉さま。わたくしたちがついていますからね?」

「むがーーーーーーーーっ!!」

白い肌を真っ赤に染めて、水色髪の少女は優しい目を振り払うように立ち上がった。

それでも妹たちの見守りが止むことはない。少女は、いや、少女たちはいつも誰かに見守られている。留守を預かるシャドウドラゴンたちが我関せずとばかりに控えている。通りには庶民に扮した大公爵家の護衛の姿があり、それに交ざって老練の冒険者、教会所属の聖騎士などの姿もあった。

少女たちはいつも誰かに見守られている。そして少女たちは姉妹同士でいつも見守り、時には助けとなって互いのことを支えていた。

大いなる輪の中、見守りの巣とも言える環境の中で、それでも少女は自立を目指し、こうして一歩を踏み出すのだった。

彼女の名はコミエル。

貴大とユミエル、ふたりの間に生まれた子どもであり――。

それぞれ母親が異なる、八人姉妹の長女でもあった。