軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第5章-12 リーナの企み

激戦を制したアムールに対して、観客席から称賛の声と拍手が送られていたが、審判から勝ちを言い渡されてもその場を微動だにしないアムール。

心配になった審判がアムールに近づいて肩を軽く叩くと、アムールはその場に倒れてしまった。

慌てた審判は、ジンのために担架を取りに行った係の者に、もう一つ担架を持ってくるように指示を出した。

その結果、闘技台の上からは敗者どころか、勝者までもが医務室へと直行され、観客達は称えるべき選手が両方共いなくなってしまったので、どういった反応をすればいいのか分からない、といった空気が感じられる。

そんな空気の中、審判から観客達に向けて、今日の試合が全て終わったので解散するよう告げられた。

俺はジンの見舞いにでも行こうかと考えたのだが、もしかするとアムールと鉢合わせるかも知れないと思ったので医務室に直接向かうことはせずに、係の一人を捕まえて医務室へと向かったはずのメナスかリーナに言付けを頼んだ。

係に言付けを頼んでから自分の控え室でのんびりしていると、リーナがやって来た。

「良かった!まだいました!」

俺が係に頼んだのは、「観客達と帰る時間をずらす為に、しばらくの間は控え室にいるから、出来たらでいいから後で顔を出してくれ」、というものだ。

下手にすぐに帰って、観客達に注目されるのもめんどくさそうなので、控え室で休んでいたのだ。

「何かあったのか?」

リーナの様子からすると、ジンの容態が悪化したとかいう感じではなさそうなので、意識が戻ったとかいう感じであろう。

「はい、ジンさんの意識が戻りました!それといくつかお願い事がありまして……」

話を聞いてみると、どうやらいくつか回復薬を分けて欲しいそうだ。

俺の作った薬の方が、市販の薬よりも効果が高かったのでジンに使ってやりたいのと、ジンとガラットを連れて帰るのを手伝って欲しいそうだ。

「それは別にいいんだが……ジン達は自力で歩けないほど酷いのか?」

ジン達を運ぶのが面倒とかでは無く、そんなに酷いならチーム戦は大丈夫なのだろうか?と思ったのだ。

「いえ、大きな怪我はあらかた治療したのですが、お医者様が言うには、頭部にかなりのダメージを受けているので、今日と明日は安静にするように言われたんです。それに念の為に肩を貸して歩こうにも、私じゃ力が足りなくて……」

理由は理解したが、少しだけ引っかかる事があった。

それは、俺に頭を下げずに馬車などを手配すればいいのでは?という事だ。

仮にもリーナは貴族の出なのだし断られる事は考えにくいし、暁の剣が馬車を手配できない程の金欠であるとは思えない。

何か考えがあるんだろうが、俺を騙そうとしている感じは無いし、断るほどジン達との付き合いが浅いわけでもないので、リーナに引き受ける事を告げて帰る準備を始めた。

リーナと医務室へ向かうと、そこにはベッドで上半身だけを起こした状態のジンが、ボーッとした表情でおとなしくしていた。

アムールはこの部屋には居なかった。どうやら勝者と敗者を一緒の部屋にするのはまずいと考えて、別々の部屋にしたのだろう。

「よっ!来てやったぞ!」

わざとに明るい感じで声をかけると、ジンはゆっくりと反応した。

「あぁ、テンマか……わざわざ悪いな……」

いつものジンからは想像がつかないくらいの落ち込みようで、そばに居たメナスとガラットも釣られたように暗い顔をしている。

「元気がないな……そうそう、リーナから薬を頼まれていたんだった!え~っと……あった!これだ!」

俺は、バッグの中から薬の入った小瓶を取り出してジンに渡した。

「俺の作った薬の中でも効果の高いやつだ!ほれ、ぐいっといけ!」

俺に急かされるままに緩慢な動きで蓋を開けて、ぐいっと口に含むジン。しかし……

「ぶほぉ!にげぇえ!」

ジンは緑色の液体を上手に霧状に吹き出した。しかも、メナスとガラットのいる方向に……

「きたなっ!苦っ!」

「め、めがっ!おぇっ!」

メナスはジンの吹き出した薬が口に入っただけだが、ガラットは目と気管に入ってしまったようで、咳き込みながら吐きそうになっている。

リーナがジンとガラットにタオルを渡し、メナスは顔を洗いに行き、俺は医務室に居た医者に怒られている。

ひとしきり怒られた後で、医者は瓶に残っていた薬を舐めた。

「うん、なかなかいい薬草を使っているな……この薬がまだ残っているのなら、もう一人分出してくれないか?もちろん代金は払う」

その言葉に、俺ではなくジンが反応した。

「おい!まさか山賊王に使うつもりじゃないだろうな!」

「何か、問題でもあるのか?」

しれっと医者はアムールに薬を使うと認めた。その事にジンは怒りを顕にした。

「大ありだ!テンマの決勝の相手が山賊王だと知っているだろうが!なんでテンマが、わざわざ敵を助けなきゃならないんだ!」

「そんな事は私には関係がない。私は目の前にいい薬があるから、それを患者に使ってやりたいだけだ。それに君もテンマに薬をもらっているのだろう?確か君は、チーム戦でも本選出場を果たしているはずだ。ならば君もテンマの敵のはずだろ?」

「うぐっ」

医者の言葉に反論が出来なくなってしまったジン。ガラットとリーナも、チーム戦で俺と当たる可能性があること思い出したのか、気まずそうな顔をしている。

「それはちょっと違うんじゃないのかい?」

そこに戻ってきたメナスが口を挟んだ。

「確かに私達のチームは、テンマと大会でぶつかる可能性があるさ。でも私達とテンマの付き合いは大会で対戦相手になるかもしれないからって、敵だの味方だのって区別しなきゃいけない程の浅い間柄では無いよ」

メナスの言葉にジン達は勢いを取り戻し、メナスを援護しようとしている。

対照的に医者は顔をしかめる。

「まあ、確かにジン達とはそんな事くらいで壊れるような 縁(えん) では無いよな」

俺はメナスの言葉に相槌を打った。

そして相槌を打ちながら、バックから薬を取り出して医者に渡した。

「はい、これが薬。一応、害が無い事をあんたが確かめてから使ってくれ」

「助かる。それと悪かったな、あんな言い方をして」

医者は薬を受け取りながら、俺とジン達に謝り、代金を支払おうとした。

「代金はいらないよ。どうせ優勝賞金をいただくからな……その分のおすそ分けだ、とアムールに伝えておいてくれ」

そんな軽口を叩いて、医者から代金を受け取らなかった。

医者は苦笑いを浮かべながら、部屋を出て行った。

「おい、良かったのか?あの薬のせいで、山賊王はだいぶ回復するはずだぞ。恐らくは決勝までには完全に回復するはずだ」

身を持って薬の効果を体験しているジンが俺に話しかけてくる。

「大丈夫だ。アムールが完全な状態でも、俺が勝つさ!」

「そう言い切られると、俺としてはなんだか複雑なんだが……」

ジンは俺の言葉を聞いて、何とも言えないような表情になった。

「いや、決してジンが弱いと行っているんじゃないぞ。ただ、ジンとアムールじゃ相性が悪かった、ってだけで……それもアムールが最初からあの毛皮を脱いでいたら、対策を取ったジンが勝っていたと俺は思っているし」

俺は実際にそう思っているのだが、ジンはお世辞だと受け取ったらしい……いつもならここら辺で調子に乗るはずなのだが、アムールに負けた事がまだ心に引っかかっているようだ。正直面倒臭い。

重症なジンをどうしようかと考えていると、メナスが俺の肩を叩いてきた。口に出してはいないが、どうやら任せろということらしい。

ジンと付き合いの長いメナスがどのように励ますのか気になったので、メナスにベッドの横を譲ると、いきなりメナスはジンの頬を平手打ちした。

「ふげっ!」

「いいかいジン、よくお聞き!」

メナスの迫力に押され、ジンは姿勢を正した。

「テンマがそんなくだらない嘘をつくはず無いだろ?何せ、テンマだよ。相手を情け容赦なく、叩き伏せるのが大好きなテンマだよ。もし本当に、ジンが山賊王にかなり劣るのならば、テンマは正直どころか、かなり誇張して、あんたが立ち直れないくらいに馬鹿にするはずだよ!しかも、山賊王は決勝でのテンマの相手なんだ。そんな相手の実力をテンマが読み違えるもんか!わかったね!」

ジンを励ますのかと思いきや、どう聞いても俺の悪口を言っているメナス。しかし、メナスの言葉は効果があったようで、ジンは少しだけ気持ちを立て直したように見える。

言いたい事を思いっきり言ってすっきりした感じのメナスに、俺は横から液体の入ったコップを差し出した。

「ああ、ありがとう」

中身を確認せずにコップの中身を一気に 呷る(あおる) メナス。しかし、次の瞬間には綺麗に中身を吹き出した……ジンに向かって……

「ぶぅーー!」

「ぎゃあああーーー!目がっ、目がぁあああーーー!」

コップの中身の正体は、ジンに飲ませた薬に唐辛子を漬けておいた酢を混ぜたものだ。

その味は想像したくないが、間違いなく薬の使用方法ではなくなっているだろう。

「そうだぞジン。俺はこんな事が大好きな男なんだ……だから、本当にジンが弱かったなら、もっと面白おかしくいじっているさ!」

ジンというよりは、メナスに言い聞かせるようにしたのだが、二人はそれどころではなかった。

メナスはもう一度部屋を飛び出して行き、ジンは水差しに入っていた水をタオルに含ませて顔を拭いている。

そんな感じで騒いでいたら、案の定、戻って来た医者に俺達は怒られてしまった。

医者はついでとばかりに服を脱いでいたジンとガラットを診察し、明日一日は絶対に安静にしておくように、と二人に帰るように言った。

医者としてその行動はどうかとも思ったが、どうやら会場の閉鎖時刻が近づいているようで、いつまでも二人をベッドに寝かせておくわけにはいかないようだ。

仕方が無いので俺がジンを背負い、メナスがガラットに肩を貸し、リーナが俺達を先導する形で会場の出入口へと向かった。

会場の出入口付近までは係の者以外とはすれ違う事は無かったが、出入口の所に怪しい行動をとっている者が一人いた。

その人物を見つけたリーナはなぜか警戒を強め、バッグから杖を取り出していた。

俺はそんなリーナの行動に違和感を感じていたが、指摘する前に俺達の前方で怪しい行動をとっている男に声を掛けた。

「そんな所で何をしているんだ?アッシュ?」

怪しい男の正体は、俺の一回戦の相手だったアッシュ・ボーグマンであった。

俺の声にアッシュは一瞬驚いて動きを止めたが、相手が俺だとわかるとホッとした表情になった。

「ああ、テンマだったのか……驚かせないでくれ」

アッシュはそう言って額の汗を拭っている。

「いや、驚いたのはこっちの方なんだが……何せ、いかにも不審者です、みたいな行動をとっている男がいるんだぞ……俺の知らない奴だったら、声を掛けずに係に通報しているところだぞ。一体何をしていたんだ?」

俺の言葉を聞いて、自分の行動を見つめ直すアッシュ。

そして、俺の言っている事が正しいと理解した彼は、顔を赤くしてほほを掻いた。

「確かにテンマの言う通りだな……確かに、係に通報されてもおかしくない行動をしていたようだ」

リーナは、俺とアッシュが話している様子を見て、幾分警戒を解いたようで、杖をバッグにしまい込んだ。

「で、アッシュは本当に何をしていたんだ?」

俺の質問にアッシュは困ったような顔をしたが、俺が質問を取り下げる気が無い事を察したようで、渋々ながら教えてくれた。

「テンマ、あそこに女性が立っているのが見えるか?」

アッシュが怪しい行動をとっていた所から、そっと顔を覗かせてみると、会場の外で従者を引き連れた女性が立っているのが見えた。詳しくは分からないが、明らかにアッシュよりかなり年上に見えるその女性は、仕立てのいい服や従者を引き連れている様子から、おそらくは貴族であろうと思われる。

試しに『鑑定』を使ってみると……

名前…ミディア・オーリオ

年齢…36

種族…人族

称号…オーリオ子爵家三女

と出た……何かがおかしい気がする……36歳で称号が子爵家三女のまま……何か事情でもあるのだろうか?

俺が鑑定結果に頭を捻っていると、俺の背中に居たジンと、その後ろから覗き込んでいたリーナがミディアの事を知っている様子であった。

「あ~……厄介なのに目を付けられているな……」

「本当ですね……よりにもよって、あんな行き遅れのおばさんなんかに……」

どうやらただの行き遅れの様である。前世ならば36歳でも未婚というのは珍しくは無いが、この世界において、しかも貴族で36歳の未婚は初めて見た気がする。

まあ、見た感じでは、ミディアが未婚であると言われても納得である。

何せ、お世辞にも美人であるとは言えず、さらには濃い化粧をしており、目つきも悪い。そして、先程からそばに控えている従者を怒鳴り、蹴りを入れているのである。そりゃ、未婚でも仕方が無い。

これが伯爵以上の家柄や、何かミディアとの結婚を差し引いてでもうまみのある家ならば相手はいたかもしれないが、子爵家ではなかなかに難しい注文かもしれない。

「で、そんなおばさんから、なんでアッシュは隠れているんだ?」

ジンとリーナの言葉から大体の事は想像できたが、一応アッシュに事情を聞いて確認する事にしたのだが、俺の質問にアッシュが答えるよりも早く、リーナが口を開いた。

「どうせ、自分の愛人になれ!……とかそんなところでしょうね」

リーナの推測に、黙ってうなずくアッシュ。どうやらストーカー被害に遭っているようだ。

これがただの一般人ならばアッシュ自身が力で解決しても問題は無いが、相手は一応貴族なので、どうしても強硬策に出る事を戸惑っているみたいだ。

「他の出入口から帰ればいいんじゃないのかい?」

メナスの言葉にアッシュは首を振った。どうやら、あのおばさんは全ての出入口に見張りを立てているそうだ。

困っているアッシュには悪いが、面倒臭そうなので俺としてはさっさと帰りたくなってきた。

しかし、なぜだかリーナが真剣な顔で対策を考えてようとしている。俺が小声で早く帰ろうと言っても、リーナは気付かないほどだ。

もしかして、リーナはアッシュに惚れたので、真剣になって考えているのでは?と思っていたら、リーナが突然俺の方を向いた。

「テンマさん、何とかなりませんか?」

リーナがあまりにも真剣な顔をしているので、アッシュに惚れているのならば、友人として少しくらいは手伝ってやろうと、俺も案を出す事にした。

「まずはここから出る事が先だな。これは簡単だから俺に任せろ。でも、一番の問題はあのおばさんにアッシュを諦めさせる事だ。一番手っ取り早いのは、アッシュが 貴族の彼女(・・・・・・) をつくる事だな。できれば 子爵家くらい(・・・・・・) の……」

「確かにそれが一番よさそうだね。リーナ、あんたの家は子爵家だったろ?誰か心当たりは無いかい?」

俺の言っている事を理解したメナスが、リーナに分かりやすいパスを出した。

しかし、リーナは……

「いませんねぇ……私自身、あまり人付き合いをしてきませんでしたから……」

見事に空振った。しかも……

「そんな事よりも、まずはここから出ましょう!作戦を教えてください!」

メナスのナイスなパスをそんな事呼ばわりし、歯牙にもかけていないといった感じのリーナ。

俺とメナスは顔を見合わせて首をかしげるが、リーナはミディアが居るであろう方角を睨むようにして見ていて気付いていない。

「あ、ああ分かった……ちょっと待ってくれ、もう少しで……来たみたいだ」

その時ちょうどいいタイミングで、排水溝より液体の様なものが溢れて来た。

「何でスライムがここに!」

驚いたアッシュが剣を抜こうとしたが、隣にいたジンとガラットが肩を抑えて止めた。

「慌てるなって、あれはテンマの眷属だ」

ジンの説明で、アッシュは俺のチーム戦のメンバーにスラリンがいた事を思い出したようで、しきりに謝ってきた。

「それで、作戦に何でスラリンが……まさか!」

アッシュは不思議そうな顔をしていたが、暁の剣の面々はこれから行う作戦に心当たりがあるようで、 とても(・・・) 嫌そうな顔をしている。

「侵入、脱出の時の作戦だ。スラリン……ゴー!」

俺の合図と共に、スラリンは体を広げて口を開けるようなしぐさする。

口の様に見える部分は、薄暗い幕や扉の様にも見え、それがジン達の不安をより一層に煽っている。

「マジでやるのか?」

「マジだ。これが一番気付かれにくい」

ジンの質問に、俺は真面目に答えた。実際に、強行突破をするよりもリスクが少なく簡単であり、おまけに実績もある。前に使った時に、この方法は実用性がかなり高いと確信したので、あれ以来、スラリンと何度か練習をしていたのだ。

「理解したのなら、さっさと入るぞ」

俺はジンを背中に担いで、スラリンの中へと入っていった。

「ちょっと待て!心の準備くらいは……」

背中でジンが騒いでいるが、気にしない事にする。

俺とジンが入った事で、他の面々も恐る恐ると入ってきた。全員が入り終えた事を確認したスラリンは、来た時と同じように体を小さくして排水溝に入り、来た道を戻って行く。

「テンマよぉ……これはスライムの中とは、とてもじゃないが思えんぞ」

スラリンのバッグの中に設置した、ソロモンのお気に入りのソファーに腰を掛けていたジンが、信じられないといった感じで呟く。

それはジンだけの意見では無い様で、ジンの言葉を聞いて他の皆も頷いていた。

「そうか?でも、自分が一時的とは言え過ごす場所なら、過ごしやすくするのは当然の事だろ?」

俺の言葉にあきれるジン。しかし、その言葉は女性陣の共感を得る事が出来たようで、メナスとリーナはなる程という感じで頷いていた。

ちなみにアッシュは、スラリンをただの強いスライムと思っていたようで、スラリンの規格外な所の連続で半分惚けていた。

「ところでリーナ。俺に何か隠し事をしていないか?」

俺の言葉に、スラリンの中に入ったとたんに警戒を解いたリーナに、思い切って直接聞いてみる事にした。

「な、何の事でしょうか……」

そっぽを向いて誤魔化そうとしているリーナだが、誰から見ても明らかに誤魔化そうとしている事が丸わかりであった。

そんなリーナの様子を不審に思ったメナスが、リーナと俺を隅の方へと引っ張っていった。

「リーナ、何を隠しているんだい。わざわざ手伝ってくれているテンマへの隠し事は、止めておきな」

少し強めの口調のメナスに問い詰められて、リーナはさすがに観念し、俺を呼んだ本当の理由を話し始めた。

「見間違いかもしれませんけど……『シャドウ・クリムゾン』のメンバーらしき者を見かけました……」

その言葉にメナスは顔をしかめたが、俺はその名前に聞き覚えが無かった。

「なんだ、それ?」

俺の言葉に少し驚いたような二人だが、何か勝手に納得したようで小さな声で教えてくれた。

「外道の集まったパーティーの名前だよ。あまりにもひどい連中で、冒険者を隠れ蓑にして盗賊行為や殺人、誘拐に人身売買なんかを繰り返していたんで、ジンとガラットが他の冒険者達と依頼を受けて壊滅させたんだ」

「ほとんどの連中は死刑か犯罪奴隷に落とされたんですけど……三人のメンバーが捕まっていなくて、現在も指名手配されています」

そのためジンやガラットはもちろんの事、関係者であるメナスとリーナも狙われている可能性があるそうだ。

「メナスとリーナは参加しなかったのか?」

そう聞いてみると、どうやらその依頼はジンとガラットの他に、知り合いの男性冒険者達だけで臨時のパーティーを組んで行ったそうだ。メナス達を外した理由は、ほぼ確実に殺し合いに発展すると考えたジン達が、男だけで行おうと呼びかけた為だそうだ。

「凶悪犯罪に手を染めていた割には、そこまでの強さは持っていなかったそうだけど、逃げた三人がずる賢くて、そのせいであいつらの悪行がなかなか発覚しなかったんだ」

「なので安全確保の為に、テンマさんを利用しました。ごめんなさい」

「私からも謝るよ……でもリーナ、そんな大事な事は、ちゃんと仲間に報告しな!」

メナスは俺に謝った後、自分の隣で頭を下げているリーナに拳骨を落とした。

痛みに身もだえていたリーナであったが、頭を押さえながら黙っていた理由を話し始めた。

「でも、大怪我をしているジンさんとガラットさんに、それらしいのがいた、と言うだけで心配をかけるのはどうかと思いまして……メナスさんには単純に忘れていただけですけど……いたっ!」

最後に余計な事を付け加えたリーナは、本日二発目の拳骨を落とされていた。

「言わない方が危ないだろうが!」

そんな二人をやり取りを見ていたら、俺は利用された事などどうでもよくなっていた。

「まあ、俺を利用した事はメナスの拳骨に免じて許すよ。その外道達の生き残りに関しては、俺の方から王城の知り合いを通して報告してもらうし、俺も気を配るようにしとくよ」

取りあえずそう締めくくり、ジン達の所へと三人で戻って行った。

「おい。三人だけで何を話していたんだ?」

ジンが仲間外れにされた事に対し、少し腹を立てながら聞いて来た。ガラットはジン程では無いようだが、やはりメナスが自分達では無く俺を連れて行った事が少し気になっている様子であった。

「ま、まあ、それはだね……」

「え~っと……」

言いにくそうな二人に変わり、俺がジン達に説明する事にした。

「実はだな、ジン……」

「お、おう」

俺が急に真剣な顔をつくって話し始めたので、つられてジンとガラットも自然と真剣な顔へと変わった。

「……リーナが、ジンが重い上に汗臭くて、肩を貸すのが辛いので俺を連れて来た、とゲロったんだ。その事を聞いたメナスがさっきリーナを怒っていたんだ」

真剣な表情でそんなふざけた事を言ったので、ジンとガラットは何を言われたのか、一瞬頭がついてこなかったようだ。しかし、俺の行った事を理解した瞬間、ガラットは大笑いし、ジンは慌てて自分の体を嗅ぎ始めた。

「はぁはぁはぁ……た、確かに今のジンは汗臭いな!」

ガラットにまで言われて落ち込むジン。リーナは何か言おうとしていたが、メナスに後ろから口をふさがれて何もしゃべれなかった。

「そ、そうか……すまなかったな……帰ったら急いで体を洗う事にするさ……」

心の中でジンに謝りながらも、今は本当の事は話さないでおこうと思った。

「ああ、それはそうと、ジン達は今日のところは俺の家に止まるといい」

そう告げると、俺の顔を見て何かを言いたそうにするジン達。

ジンが口を開こうとした時、先にスラリンの口が開き、外と繋がっている出入口が現れた。

念の為俺が先に出てみると、そこは会場からだいぶ離れた路地裏であった。

周囲に人がいない事を確認し、スラリンの中からジン達を連れだした。

「アッシュはこの辺りで大丈夫か?」

俺の言葉を聞いて、それまで静かだったアッシュが周囲を確認し頷いた。

「ああ、大丈夫だ。ここからなら俺の宿も近い。結構いい宿をとったから、中に入ったらいかに貴族といえどもそうそう手出しは出来ないさ。ありがとうテンマ、助かったよ」

そう言って俺と握手をして、アッシュは路地から出て行った。

「それじゃあ、俺達も行くか」

そう言ってバッグからタニカゼと馬車を出して繋ぎ、皆を乗せて家へと帰る事にした。