軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第5章-7 山賊王の力

本日は本選一日目、個人戦の日だ。

今日の個人戦の試合は準決勝まで行われる。

今朝は早めに目が覚めて、庭でシロウマル達と軽く運動し、汗を流して朝食をきちんと食べるという余裕を持った朝を過ごしているが、内心かなり興奮していた。

これまでそれなりの対人戦を経験してきたが、そのどれもが訓練であったり殺し合いであったりと、自分の力と技を試すといった感じのものでは無かった。

なので、自分の中ではこの大会の本選がデビュー戦のような気がしてきた……本当に今更だとは思うが……

そんな変な事を考えていたら、いつの間にか心臓の鼓動が早くなっていた。

先程の興奮が緊張に変わってしまったらしい。

緊張をほぐす為に何度か深呼吸をおこない、体に酸素を巡らせていく。

「よし、行くか!」

俺は少し気合を入れて会場に向かった。

まだ試合開始には早い時間だが、本選出場者には賞金の説明などが行われる為、会場に早めに来るように言われている。

今日の流れとしては、会場で賞金やルールの確認、本選出場者の観客への顔見せ、個人戦の抽選、個人戦試合開始、となるはずだ。

今日の試合は最大で4回。すなわち、一回戦、二回戦、三回戦、準決勝だ。

今日勝ち抜けば、大会最終日の決勝戦に出る事になる。過去に15歳での優勝は無く。最年少記録はディンさんの持つ19歳だそうだ。

ちなみに、ディンさんは過去にこの大会で10回の優勝経験を持つ。最高で5連覇なのだが、大会の個人戦においての負けは二回のみ。初参加の17歳の二回戦負けと18歳の準決勝負けのみで、それぞれ相手は当時の優勝候補筆頭と言われた相手だったそうだ。

最も、その相手もディンさんとの戦いで力を使い果たしたそうで、次の試合で両方負けている。

なので、初優勝の時はダントツの優勝候補であったそうだ。

5連覇が最高なのは、王様(当時は皇太子)の護衛などで出場を見合わせたせいである。

俺は周囲から言わせれば、そんな人物の弟子と言われているようだ。

先程から会場に近づくに連れて、一般席の購入待ちの列に並んでいる人達のひそひそ話が聞こえてくる。

初耳ではあるが、ディンさんに色々と教えてもらったりしたのは事実なので、弟子と言えば弟子なのだろう。

会場の控え室に入るとすでに何人かが来ており、俺の顔を見るなり嫌そうな顔をした。

先程外で話されていた噂話を聞いた連中だろう。中にはホッとしたような顔をしている連中もいるが、それはペアの参加者のようだ。

先に居た人物の中に山賊王も壁に寄り添って立っていたが、寝ているのか反応がなかった。

視線を避けるように部屋の隅に座っていると、ほどなくして顔見知りが次々とやって来た。

「おっ!いたいた、聞いたぞテンマ。お前、『黒獅子』の弟子なんだってな!」

「ずるいよなぁ……黒獅子は俺らの憧れだぜ」

最初に声をかけてきたのはジンで次がガラットだ。その後ろにはメナスとリーナもいる。

『黒獅子』とはディンさんの異名だ。なんでも若い頃は黒の鎧に身を包み、そして黒い剣と黒い盾を装備していたので、装備が変わった今でもそう呼ばれているんだとか。

彼らと話していると、次はアグリがやって来た。その横には見慣れない青年もいる。

「おはようテンマ。久しぶりだな。なんとか私も本選に来れたよ。それとついでだから紹介するぞ。これはわしの孫で、リッキーだ」

「ついでかよ……まあいいや。リッキー・モナカートだ。テンマの噂は色々と聞いているよ。よろしくな」

リッキーは気のいい兄ちゃんといった感じの青年で歳は20歳だそうで、テイマーでは無く剣士としてソロの冒険者をしているそうだ。

リッキーと握手をしていると、今度はサモンス侯爵が現れた。

「やあ、テンマ殿。新記録おめでとう」

俺が最年少記録を塗り替えた事への祝いの言葉と同時に握手をしてくる。

サモンス侯爵が現れた事で、部屋の中のざわめきが大きくなった。

よくよく考えてみると、俺のいるこの場所には今大会注目の人物が集まっている事になる。

まずは俺、個人戦とチーム戦を最年少で予選突破して、ディンさんの弟子という事で注目されている。

次に暁の剣、ジンは上位入賞こそまだ無いが、ここ数年続けて本選出場をしており有力選手と言われている。そして、チームとしても去年、今年と本選に出場しており、メンバーのガラットも個人戦で本選に出ている。

そしてアグリは今大会の最年長選手で、過去にもこの大会に出ており優秀な成績を何度か納めた事があるそうだ。

最後にサモンス侯爵、この人が最大の原因と言っても過言ではない。何せ 侯爵(・・) だ。貴族が出場するのは珍しくはないが、侯爵クラスが出場するのは珍しい。そして当然の事ながら、この場にいる誰よりも偉い人だ。普通は間近で侯爵を見る機会などない。

その事をさりげなく侯爵に聞くと……

「まあ、過去には王族も出場しているからね……現国王が若い頃に……」

との事だった。ちなみにその時出場したのはチーム戦で、王様のメンバーには、父さんと母さん、ディンさんにクライフさんであり、なんと優勝したそうだ。

だが王様はあまり役に立てなかったと思っているそうで、今でもその時の事は『優勝できるメンバーに入れてもらった』、『私は味方の足を引っ張っただけであった』と言っているそうだ。

だが、決勝戦で相手チームの一人を倒しているそうなので、王様だけがそう感じているだけのようだ。

まあ、そんな特殊な例外は置いておくにしても、プリメラのように上位貴族の家族が出場するのも稀であるから、侯爵自身が出場したという事は俺のいる場所の注目度を上げるには十分すぎる。

そして、俺達が目立ちすぎる事に憎悪を滾らせている者達も当然ながらいるようだ。

先程から殺気に近い気配が漂っている。流石に殺気を侯爵に向けてはいないが、どちらかというとアウトである。しかし、侯爵自身がさほど気にしてはいないので、護衛兼メンバーの騎士達も警戒を強めるだけに留めている。

その後準備が整ったようで、係員に呼ばれて闘技場に移動した。

そこで初日と同じように王様のありがたい話を聞かされて、個人戦の参加者だけ残されて抽選が始まった。

ただし、今回は3人分出場枠が少ないので、引かれなかった札の相手がシードとなる。

抽選順は会場に来た順で、俺は10番目だった。

山賊王は一番目で、23の札を引いていた。

淡々と抽選が進んでいく中で、俺の一つ前の順番の選手に対して大きな歓声が起こった。どうやら前回の優勝者のようだ。

前回優勝者の男が引いた札は10。

俺の番になり札を引くと、その数字は1。これにより順当に行けば、前回の優勝者と準決勝で当たることになり、山賊王とは決勝まで当たる事はなくなった。

俺の次はジンである。ジンの引いた札は32。

その次はガラットなのだが、引いた瞬間とても嫌そうな顔をした。

ガラットの手には24の札が握られている。つまり、一回戦の相手は山賊王だ。

そのまま順番は進み、最後の29人目が引き終わったところでシード権が決まった。

引かれなかった札は、9、21、31。つまり、ジンと前回の優勝者とその他一名がシードに選ばれた。

全ての個人戦参加者の名前がトーナメント表に書かれると、ある事実が判明した。

「すげえ偏り具合だな……」

「ああ、前回の大会で活躍した奴のほとんどが若い番号を引いたな……」

前回の大会で本選出場を果たした者で、今回も本戦に出ている者はジンを含めて12人いるのだが、その内ジンを除いた11名が俺のいる方に固まっているのだ。

俺と9の枠を除けば、こちらの人数は14。その内11人が前回の本選出場者で、残りの3人も本選出場経験アリ。

前回の出場者の中には当然、優勝者、準優勝者、三位入賞者がいる訳で、俺は一回戦で準優勝者、三回戦で三位入賞者(予定)、準決勝で優勝者(予定)となる。

対して反対側は、そのほとんどが初出場の者ばかりだ。大会前から注目されている者も、ジンと山賊王くらいだ。そして、その二人は準決勝まで顔を合わせることがない。

「準決勝まで行かないとたいした奴はいないな」

ジンはそう言うと小さくガッツポーズをしている。反対にガラットは肩を落としてため息をついていた。

「一回戦がよりにもよって あいつ(山賊王) かよ……この大会で最も当たりたくない二人の内の一人だぜ……」

そんなガラットの言う『当たりたくない相手』のもう一人は俺の事らしい。

ガラット曰く、『得体の知れない化物と、得体の知れている化物の相手だけは嫌だった』そうだ。

とりあえず、俺の事を化物と言ったガラットに対して、俺はヘッドロックを決めてお仕置きをしておいた。一応試合前なので手加減はしておいたが、ガラットは目に薄らと涙を浮かべて痛がっていた。

そんな風に遊んでいると、係員から俺の試合がもうすぐ始まると呼び出された。

忘れていたが俺の引いた札は『1』。つまり、一番最初に試合があるという事だった。

試合は2試合同時進行で行われる。32の枠を16ずつのAとBのグループに分けて、それぞれの札の数の若い方から試合をやっていくようになっている。

とりあえずバッグから『小烏丸』を出して闘技場に上がる。

そこにはすでに対戦相手の男が待っていた。

男の名前はアッシュ・ボーグマン。前回の大会で準優勝となり、本戦へのシード権を獲得した男だ。

歳は24で優勝経験は無いが、本選には4度進んでおり、前々回の大会でも3位入賞を果たしている。

前回が準優勝であったので、今年こそはと気合が入っているそうだ。

戦い方は『派手さはないが、とくに穴もない。ただし、どれもが高いレベルでまとまっている』というもので、右手に剣、左手に小さめの盾を装備した人気の高い選手だそうだ……主に女性からの。

女性から人気が高いという事から想像がつくと思うが、彼はイケメンである。

短めの銀髪に碧眼で身長も180cm程と高く、本人の性格も良いそうだ。

聞いた話では、前回の優勝者より人気が高いらしい……最も、それに関しては優勝者の性格が悪いというのも関係しているようだが……

そんな人物が現れたので、観客席からは黄色い声援がそこら中から沸き起こっている。

俺に対して彼の女性ファンから罵声が飛んでこないのは良かったのだが、正直言ってやりづらい。

審判は声援を静めるつもりはないようで、俺とアッシュにルールの確認をしている。

「テンマだったね、よろしく。私は君が子供だからといって、侮るつもりはないよ。最初から全力で行かせてもらう」

アッシュはそう宣言すると右手を差し出してきた。

「ええ、こちらこそ全力で行かせてもらいます」

俺もそう答えて、アッシュの手を握った。

審判は俺達が手を離すのを待ってから、互いに間を取るように指示し、右手を上げて……

「本選一回戦第一試合、テンマ対アッシュ・ボーグマン。試合開始!」

振り下ろすと共に開始の合図を出した。

先手は俺が取った。アッシュが前に出るよりも早く、俺は小烏丸を鞘から抜きつつ間を詰めて、居合い切りの要領で斬りかかる。

アッシュはわずかに反応が遅れていたが、ギリギリのところで左手の盾で防ぎ、剣で攻撃をしようとしていたが、俺の一撃が思っていたよりも強かったようで、体勢がわずかに崩れ、腕の力だけで振るった一撃となってしまっていた。

その一撃に対して俺は鞘で防ぎ、一旦距離を取った。

その間わずか5秒足らず。その僅かな時間の中で互いに一撃を放った事に観客の思考はついていけず、会場は静まり返っていた。

俺とアッシュが間合いを取って少し動きを止めたところで、ようやく観客の思考が追いつき、会場は興奮の 坩堝(るつぼ) と化した。

俺達は観客の声援を合図に動き出し、互いの間合いを詰めていく。

また斬り合いが始まる、観客がそう思った瞬間、アッシュが左手を前に突き出した。

「ライト!」

アッシュの放った魔法が俺の目に発生する。魔法自体は最も簡単な部類に入る光魔法の『ライト』。

これは光を灯すだけの魔法だが、最も簡単な部類というだけあって攻撃力がない代わりに発動までの時間がとても短く、魔力消費量も少ない。

アッシュは『ライト』を目晦ましにして、今度は腰の入った一撃を俺に向かって振るう。

しかし、剣を振るった先に俺はおらず、剣を振り切った瞬間にアッシュの体が横に吹き飛んだ。

転がりながらもなんとか体勢を立て直したアッシュだったが、何が起こったのか理解できていないようであった。

アッシュの視線の先には半身の体勢で腰を落として立っている俺がいる。

アッシュは急いで立ち上がろうとしたが、その時に左脇にかなりの痛みが走ったようで、顔をしかめて膝をついた。そしてそのまま……

「降参だ……」

右手を上げて審判に申告した。会場はアッシュの降参宣言に静かになり、審判は俺とアッシュの間に来て俺を指差した。

「勝者、テンマ!」

審判の声が会場に響くと観客達は大きな声援と拍手で俺をたたえ始めた。

観客達には俺のした事が見えていた者も居るようで、俺の動きを興奮しながら周りの人と再現している者もいた。

アッシュは救護班に肩を借りながら俺と握手をした後、救護室へと連れて行かれた。

「おう、テンマ。おめでとさん」

闘技場から控え室に戻る途中で、ジンとガラットが俺を出迎えた。

「ありがとよ……っていうか、かなり適当な言い方だな」

俺がそう言うと、ジンはガラットと顔を見合わせて笑っていた。

「勝つと分かっていたんだから、こんなもんでいいだろ」

「相手も強いと知っていたが、テンマの方が上だと思っていたしな」

との事だった。

「ところで、あいつをなんの攻撃で吹き飛ばしたんだ?」

ジン達の位置からは俺の動きが見えにくかったようで、首をかしげながら聞いてきた。

「ただ単に、アッシュの左腕の下を潜っただけだ。アッシュからは腕で見にくくなっていた上に、ライトの魔法の効果で一瞬だけ俺が見にくくなったんだろう。俺は避けた後に、アッシュの脇腹に肘鉄を食らわせただけだ……恐らくは肋骨の2~3本は折れているな。ついでに肺と心臓にもダメージが入ったかもしれない」

俺の言葉に、ジン達は自分達が思っていた以上のダメージがアッシュに入ったと知り、アッシュに同情していた。

「エゲツねぇな……」

「ま、まあ、アッシュもテンマに対して本気を出していたから、それだけで済んだのかもな……」

俺達が話している間にも試合は進んでいく。俺の試合が早く終わってしまったので、Aグループは次の試合に進んでいるが、Bグループはまだ最初の試合が行われている。

本選出場者達は自分の試合があるまで、それぞれの控え室に篭ったり、注目している選手の試合を見たりと自由にしている。

俺もジン達と分かれて自分の控え室に戻っていったのだが、何故かジン達もついて来た。

「自分達の控え室に帰れよ」

俺がそう言うと、

「もうすぐガラットの試合があるんだから、一緒に応援しようぜ!」

とジンが言い、

「どうせ、目当ては山賊王だろ……」

とガラットが呟いた。

結局、俺の控え室にジン達は居座る事となり、係員に俺の控え室にいると言って、出番が来たらここに知らせに来るよう伝えていた。

どうやら知り合い同士が本選に進んだ時に、互いの控え室を行き来するのはルール違反ではないようで、係員も了承していた。

そのまま意見交換をしたりして時間を潰していると、ガラットの試合がもうすぐ始まりそうだ、との知らせがきた。

ガラットは緊張した面持ちで体を動かしたり、武器の準備を始めた。

知らせが来てから15分程でガラットは呼ばれ、俺達もギリギリのところまでついて行く事にした。

ガラットが闘技場に上がったところで、ジンが話しかけてきた。

「なあ、どっちが有利だと思う?」

「8-2で山賊王」

俺の言葉にジンは軽く笑い……

「厳しいな……俺は6-4で山賊王だ」

「ジンも山賊王が有利と思っているんじゃないかよ……」

俺の呆れた声に、ジンはさらに言葉を続けた。

「まともにやりやったらの話だ。恐らくだが、山賊王は若い奴だと思う。街中で何度か見かけたが、行動が少し子供っぽいところがあった。だから、ガラットが自分のペースに持ち込めたら、経験の差が出て逆に6-4でガラットが有利かもしれない……最も、お前みたいに若い奴でも規格外はいるがな……」

ジンはそう言って、真剣な目でガラットを見つめていた。

ガラットの方はというと、特に気負いもなく山賊王と向き合っている。

山賊王の方は虎の毛皮で顔を覆っている為表情が読めないが、決して油断しているような素振りは見せていない。

「第十試合、アムール対ガラット。試合開始!」

審判が試合の合図を出し、後ろに下がった。

俺はこの時になって初めて山賊王の名がアムールだと知った。最も、偽名の可能性もあるのだが……

山賊王の武器はバルディッシュと呼ばれる大きな斧で、柄の長さと刃の部分を合わせると2m近くありそうな武器だ。

一方のガラットは片手剣の二刀流。いつもはもう少し小さな物を使っていたが、今回は少し大きい物を使っている。

ジリジリと差を詰めてくる山賊王に対して、ガラットは軽快なステップを踏み、山賊王に詰められた距離の分だけ後ろに下がっている。

山賊王は時折フェイントを使ってガラットとの距離を詰めようと試みるが、ガラットはその全てを冷静に見極めて対処している。

次第にガラットと闘技場の端の距離が無くなってくると、ガラットは今度は横に移動を始めた。

山賊王はここぞとばかりにすごい速度で距離を詰めてきた。

しかし、ガラットが横移動から急に山賊王に向かって走ってきたので、山賊王は慌てて武器を振るってガラットを迎撃しようとした。

しかし、ガラットは巧みな動きでその一撃を避けると、山賊王の背後へと回り込んだ。

山賊王は直線的な動きは早いが小回りは苦手のようで、ガラットの連撃を背中に受けてしまった。

たまらずといった感じでたたらを踏んでよろける山賊王に対して、ガラットは攻撃の手を緩めずに連続で斬りかかった。

山賊王は不十分な体勢ながらも、斧でガラットの攻撃を防いでいくが何発かは体で受けてしまっている。

なおも続くガラットの攻撃。山賊王はその勢いに押されて闘技場の端の方まで追いやられてしまっている。

「おいおいおいおいっ!ガラットの奴やるじゃねえか!完全に山賊王の奴を押さえ込んでいるぞ!」

ジンはガラットの攻勢を見て、かなり興奮している。観客達もジンと同様に興奮しているようで、先程からガラットを応援する声が聞こえている。

ガラットがその声援に応えるかのように山賊王に向かって剣を振るった時、山賊王の一撃がガラットを襲った。

「ぐおっ!」

かろうじてガラットは山賊王の一撃を剣を交差して防いだものの、ガラットの体は後ろに20m近く弾き飛ばされてしまった。

なんとか無事に着地を決めたガラットであったが、片方の剣は折れ曲がり、もう片方も刀身が欠けていた。

「クソっ!この馬鹿力が!」

ガラットは山賊王に悪態をつくが、その間にも山賊王はガラット目掛けて突進をしている。

山賊王が斧を振るう瞬間、ガラットは山賊王の顔めがけて折れ曲がった剣を投げつけた。

うまい手だとは思う。顔の前に物が飛んできたら、大抵は避けるなり叩き落とそうなりのリアクションをするはずで、それが大きな隙となるはずだ……あくまでも相手が普通の人間だったら、の話ではあるが……

案の定、山賊王は普通の人間に当てはまらずに、投げつけられた剣を頭に喰らいながら斧をガラットに叩きつけた。

ガラットは山賊王が何らかの隙を見せるだろうと思っていたのに当てが外れて、逆に隙を見せてしまう形となっていた。

「ぐふっ」

叩きつけられた斧を、咄嗟に残った剣で防いだので多少ダメージを軽減する事が出来たようだが、斧の勢いは殺す事はできずに吹き飛ばされ、そのまま地面に叩きつけられてしまった。

ガラットの体は何度か跳ねながら20m近く転がり、ようやく動きを止めた。

それを見た山賊王は審判を振り返り、試合の終了を求めた。

審判も試合を終了させようと片手をあげようとしていたが、ガラットの方を見て途中で腕を止めて下ろした。

山賊王が怪訝そうに審判の視線を追うと、そこにはヨロヨロと立ち上がるガラットの姿があった。

ガラットはほとんど意識が飛んでいるような状態ではあったが、折れた剣を構えて足取りのおぼつかない状態で山賊王へと歩き出した。

そんなガラットを見た山賊王は、審判が試合続行の声をかけると同時にガラットに迫り、斧の背の部分でガラットを横薙ぎに叩き伏せた。

またも転がっていくガラット。それを見ていた観客達や審判、山賊王までもが終わりだと感じていたが、それに反してガラットはまたも立ち上がった。

今度は立ち上がるまでの間が先程よりも短かった為、審判の声がかからなかった。

それに気づいた山賊王がガラットへと迫り、斧の刃の先端で突きを繰り出そうとしている。

山賊王の動きにろくな反応を見せないガラット。その後に発生するであろう惨劇に思い当たった観客達は、悲鳴を上げて目を覆ったり逸らしたりしている。

ジンも飛び出して山賊王を止めようとしていたが間に合いそうにない。

俺もジンと共に飛び出しはしたが、ガラットが立っている場所が俺達のいた場所から少し離れているので、俺がジンより素早いと言っても数秒足りない。

「クソっ!間に合わない!」

俺達が止めに入るよりも早く山賊王の一撃がガラットへと届き、山賊王は斧の先端で突き刺すようにしてガラットの体を持ち上げていた。