軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第19章-20 悪夢

クリスSIDE

「クリス! 勝手な行動をするな!」

上空に連れ去られようとしているテンマ君を見て、私はすぐに馬を走らせようとしたが、ジャンさんが私の馬の手綱を掴んで止めた。

「何故止めるんですか! テンマ君が連れて行かれているんですよ!」

「だから、お前だけでどうやってテンマを助けるつもりだ! マーリン様!」

「う、うむ。わしが先行して、何とかあの女からテンマを引きはがす。ジャンたちは支援を頼む!」

マーリン様はいつもなら真っ先に飛び出していそうなのに、テンマ君があんな状態になっていることがショックだったのか反応が遅れていた。まあ、すぐにジャンさんに指示を出して飛んで行ったけれど……やはり距離があるせいで、飛び出してすぐには追いつかない。

「そこにいるあなたたち! 私に付いて来なさい!」

「おい!」

「ジャンさんはすぐに軍をまとめて追いかけて来てください!」

目に付いた騎乗している騎士を指差し命令し、すぐにマーリン様の後を追おうとしたが……ジャンさんは未だに手綱を放さなかった。

「テンマを倒すような奴が相手だぞ! 少しでも戦力をまとめて、一丸となって向かうんだ!」

とジャンさんは怒鳴るが、

「そんな相手にマーリン様を一人だけで向かわせてるんですよ! 私たちにはあいつに対する効果的な攻撃手段がないとしても、足元で騒ぎ立てて気を散らせることくらいは出来るはずです! 元々私たちは、テンマ君とマーリン様のサポートをする為に集まっているんです! こんな時に役に立たないでどうするんですか! それに、リッチみたいなのがもう一匹出てきた以上、私よりもテンマ君の方が絶対に必要です!」

そう怒鳴り返して、私は強引に馬を走らせた。すぐに動けた騎士は十人くらいしかいなかったけれど、ちゃんと私に付いてきているようだ。

「全員、周囲に気を付けながらあいつを追いかけなさい! 魔法が使える者は、届かなくてもいいから上空に放つのよ!」

テンマ君とあいつは、かなり上空に上がってしまっているから私たちの魔法では届かないとは思うけど、それで少しでもこちらに注意が向けばマーリン様の助けになるかもしれない。もしかすると逆に邪魔になってしまうかもしれないけれど、こちらが後手を踏んでいる以上、少しでも可能性があるのなら試すべきだ。それに、マーリン様なら例え魔法が雨あられのように放たれたとしても、迷わずにテンマ君のところへ行こうとするはず。

「マーリン様がテンマ君のところに到着するまで、あと少し……なのに私たちは、あいつの足元までまだまだ距離がある……」

一瞬でもいいからこちらに注意を引けないかと、騎士たちに魔法を撃たせてはいるけれど、距離が離れているせいで効果は全く無いように見える。

「クリス様! 少し大きな魔法を使います! 時間をください!」

ついてきた騎士の一人がそう叫ぶので、彼の近くにいた騎士にサポートをさせることにした。彼が集中している間に、マーリン様は後数十秒でテンマ君に手が届くというところまで近づいている。

「いきます!」

彼はそう言うと、両手でボールを上にすくい投げるような動作で魔法を放った。その魔法は、かなりの速度で放たれたが角度が上過ぎている。これでは女のところまで届かないと思った時、

「上空を見ないでください! 目を逸らして!」

その叫び声を聞いてとっさに目を閉じながら下を向くと、そのすぐ後でまばゆい光が辺りを包んだ。

「光るだけの魔法です! 危険はありませんので、そのまま進んでください!」

彼の言葉に従い、足が止まった馬を進めさせようとしたが、馬は光に驚き暴れ始めてしまった。それでも何とか宥め、テンマ君との距離を詰めるべく走らせたが、あの光に全ての馬が驚き、半数の騎士が馬から振り落とされてしまった。振り落とされた騎士のうち、半数はすぐに騎乗しなおすことが出来たが、残りは遠くの方へと馬が逃げてしまった為、これ以上は付いてこれそうにない。

「あなたたちはすぐに戻りなさい! ここからならまだ敵は少ないわ!」

落馬した騎士たちに指示を出して馬を走らせようとした時、丁度マーリン様が女に追いついたところだった。

マーリン様は愛用の杖で女の頭を打ち据えようとしたが、女は何と開いている方の手で振り下ろされた杖を掴んでいた。そしてそのまま、マーリン様と女の力比べとなった。

「何て奴なの! 両手のマーリン様の一撃を片手で防ぐなんて!」

だがしかし、両者の力比べは一見すると拮抗しているようにも見えるが、少しづつ女の高度が下がってきていることから、マーリン様の方が若干優勢のようだ。

「今のうちに追いつくわよ! 飛ばしなさい!」

今はまだ届かない高さだけど、このままマーリン様があの女を押し続けたら、私たちの攻撃でもギリギリ届くところまで降りてくるかもしれない。

「クリス様! あの女の下に、ゾンビも集まってきているようです!」

私にはまだ見えない距離だけど、目の良い騎士には見えているようで、このままの速度だと私たちが少し早く女の下辺りに着くかもしれないとのことだった。

「全員、気を引き締めなさい! 着くと同時に戦闘が始まる可能性が高いわよ!」

例えギリギリこちらが早かったとしても、あの女に攻撃を仕掛けている間に敵が襲い掛かってくるでしょう。それに対し、ここまで全力に近い速度で走ってきた私たちの馬が逃げ切ることは難しいはず。

「もし怖気付いた者がいるのなら今からでも戻って、ジャン隊長たちと来なさい」

一応聞いてみたけれど、ここに来て引き返す者はいなかった。まあ、もし本当に引き返す者がいたとしたら、その騎士は今後の出世は見込めないでしょう。それはこの戦いに参加している他の騎士たちから軽んじられるのと、送り出した上役の顔に泥を塗るという二重の意味で。

「大分下がってきているけど、まだ高さがあるわね……誰か、弓矢を持ってる?」

「一応支給されたものをそのまま持ってきましたが、私はあまり得意な方ではありません」

届きそうな武器ということで弓矢を持っているか尋ねたところ、騎士の一人がマジックバッグに支給された弓矢一式を持っているというので受け取った。

出来れば魔法が得意な騎士が残ってくれていればよかったのだけれども、その魔法が得意な騎士は先程の光る魔法を放った際に落馬してしまったので仕方がない。

「確か、魔力を弓に流しながら、それとは別に風魔法を矢に使って……」

これまで、テンマ君やマーリン様が武器に魔法をかけて性能や威力を上げているのを見ているので、その方法を試してみることにしたのだ。魔法の使用に失敗すればそれなりに危険はあるだろうけど、今あの女に届くような攻撃方法は、これしか私には思い浮かばない。

「念の為、あなたたちは私から少し距離を取りなさい!」

そう叫ぶと、騎士たちはすぐに私から数m離れた。本当なら、どんな失敗をするのか分からないので、もっともっと離れて欲しいところだけど、あまり離れすぎると敵が潜んでいた時などの対応が出来ないのでこれが限界と判断したのだろう。

「一発目……いつっ!」

最初の一発目は、弓を強化して矢に風魔法を使用するところまでは上手くいった。しかし、矢が指から離れた瞬間に矢にかかっていた魔法が弾けてしまい、その衝撃で頬から血が流れた。その時の矢は普通に放つよりも飛ばず、十m程の高さまでしか上がらなかった。

「二発目……くっ!」

二発目は、風魔法の使い方に注意しながら放ち、一発目とは比べ物にならないくらい飛びはしたもののまだ魔法のコントロールが甘いらしく、矢が指から離れた瞬間に右手に無数の傷が出来た。しかし、女のすぐそばをとまではいかなかったが、その二十mくらい下を通過していった。

「大体分かったわ。次は届く!」

マーリン様のおかげで女の高度は下がってきているし、こちらも近づいているので次は女のすぐ近くまで行くはず。それに何となくだけどコツのようなものも分かったし、自分でもすごくいい形で集中出来ているのが分かる。ただ、ひとつ問題があるとすれば、魔法のコントロールに関しては上手く行く気がしないことだけど……完璧にコントロールできなくても届くことは分かったから、弓を引けなくなるくらいの怪我をするまでは痛みに耐えればいいだけのことね。

「ふぅ……ふっ! ……惜しいっ!」

三発目にして、矢は女のすぐ近くを通過した。その代わり、今度は左手にも傷が出来たけれど、少しづつ魔法のコントロールに慣れてきているようで傷は小さかった。

「クリス様! ゾンビたちは我々よりも遅れているようです! しかしこのままだと、オオトリ殿の下を通過してあまり間を空けずに衝突すると思われます!」

「それじゃあ、その前にあの女を撃ち落とさないとね!」

続く四発目は三発目よりも大きく外れたけれど、これは女が私の矢を警戒して強引に躱そうとしたからだった。そして、その隙をマーリン様が見逃すはずもなく一気に押し込まれ、ついに女の高度は十数mくらいまで降りてきた。これなら矢でなくとも届きそうね。

「あなたたちは威力が低くてもいいから魔法を撃ちなさい! 当てる必要は無いから、あの女の数m下を狙うのよ!」

ここまで近くなると、いくら魔法が得意でないとはいえマーリン様に当たる可能性がぐんと上がるから、あえて当たることのない場所を指定する方が分かりやすくていいはず。それに、そもそも私たちの魔法を一発二発……どころか数十発まともに当てたとしても、あの女に大したダメージが与えられるとは思えない。

そう考えながら弓に矢を番えた時、

「ぬおりゃあぁー--!」

「テンマ君!」

マーリン様がすごい気迫と共に女をさらに押し込み、そのはずみでテンマ君を掴んでいた女の手が離れた。

落ちていくテンマ君を見て、私は反射的に弓矢を放り投げて馬を走らせたけれど、受け止めるにはどうあがいても間に合いそうにない。ただ、位置的にマーリン様や女よりも先にテンマ君のところに着くのは私が一番早いだろう。

「お願いだから、変な落ち方だけはしないでよ!」

テンマ君の頑丈さを考えれば、十mくらいの高さから落ちて無傷だったとしても驚きはしないけれど、それはしっかりと意識のある時の話だ。

あの状態のテンマ君に意識があるとは到底思えないし、もし頭から落ちでもすれば即死してもおかしくない。逆に足の方から落ちれば、大抵の怪我なら意識を取り戻したテンマ君が自分で治してしまうだろう。

なるべく軽い怪我でとどまって欲しいと願いながら落下予測地点を目指したけれど……テンマ君が地面に叩きつけられる光景が訪れることは無かった。

クリスSIDE 了

マーリンSIDE

クリスたちの援護の甲斐あって、女をさらに押し込むことが出来たのじゃが……その結果、テンマが落下するという非常事態が起こってしまった。

せめてクリスが真下にいる時ならよかったのじゃが、運の悪いことにクリスはまだ数十mは離れておる。このままではテンマが無防備な状態で落下してしまう! ……そう思った時、想像を超える出来事が起こった。何と今の今までわしに押さえられて身動きの取れていなかった女が、一瞬で目の前から姿を消したのだ。いや、消えたように錯覚するほどの速さでテンマを追いかけ、地面に激突する前に追い抜いてそのまま 空(・) 中(・) で(・) 受け止めおった。

これが数十mの高さであったなら、同じことをわしでも出来るとは思うが、十m程の高さからでスタートの時に抑え込まれておる状態であったことを考えると、とても真似できるとは思えない。テンマならばとも思うが、テンマでも出来るか怪しいところじゃろう。

「クリス、逃げるのじゃ!」

女の動きに驚いてしまったせいで一瞬動きが止まってしまったが、今の状況で一番危ういのはクリスじゃった。クリスはテンマを確保するために持っておった武器(弓矢)を放り出し、馬を走らせることに集中しておったのじゃ。

そんな無防備なクリスの目の前に、突如として割り込んできた謎の 女(てき) ……しかも、それまで自分に対し攻撃を仕掛けておったのが誰なのかというのは、当然ながら気が付いておるはずじゃ。ならば、女が次にする行動は容易に予想が付く。

「ひぎぃっ!」

クリスは、女がどこからか取り出した黒い槍のようなものの横なぎの一撃を食らい、馬上から数m飛ばされて地面に激突した。

女の槍(のような武器)は、一見すると黒く長い棘のようなもので、先端に刃が付いているようには見えないが、横なぎの時にクリスの前にあった馬の首を容易く跳ね飛ばしていることから、とても殺傷能力の高い武器だということが分かる。

「クリス!」

幸い……と言っていいのか分からぬが、クリスは馬のおかげで威力が落ちたからなのか、馬の首のように両断されることは無かったが……それでも槍の衝撃はかなりの物じゃろうし、何より地面に激突したせいでピクリとも動いておらんかった。

そんなクリスに女は槍を振りかぶったので、

「させぬ!」

手から離れる前に、上空から女とクリスの間を狙って魔法を放った。

女は魔法でタイミングを外されたからなのか振りかぶった槍を持ち直していたので、その隙を突いて上空から杖の一撃をお見舞いしようとしたが、

「この卑怯者がっ!」

あろうことか女は、テンマを盾にするかのごとくわしの前に突き出しおった。とっさに杖を止め、無理やり体をひねって女から離れた所に着地したが、これでテンマの救出は振出しに……いや、さらに難しくなってしまった。そこに、

「やめろ! お主らは逃げるのじゃ!」

クリスと共にテンマの救出に来ていた騎士たちが、一斉に女に襲い掛かった。

女がわしの方へ体を向けておったので、今が好機だと判断したのじゃろうが……あの女に、あのような 常(・) 人(・) の(・) 仕(・) 掛(・) け(・) る(・) 奇襲などが通用するはずもなく、仕掛けた騎士たちは、瞬く間に女の槍の餌食となってしまった。

騎士たちが倒され、今いる味方はわしの後方におるクリスのみ。しかし、そのクリスは生きておるのかすら定かではない。

このどうすることも出来ない状況で、あの女はテンマの胸ぐらをつかみ……

「なっ……」

自分の体に押し付け、体内に取り込んだ。それはまるで、テンマが頭から食べられておるようにも見えた。

「ふふっ……ようやく手に入った……」

女はそう呟くと、わしとクリスにはもう興味が無くなったかのように一瞥すらせずに、どこかへと飛び去って行った。

わしは先程の光景が衝撃的過ぎて、飛び去って行く女をただ茫然と見送ることしか出来なかったのじゃった。

マーリンSIDE 了