軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第17章-5 天然のトラップ

「なんだか、進むにつれて空気が綺麗になっていくな」

マリア様が王都に戻ってから十日後、途中で作ったお茶の効果もあったのか俺たちは順調にダンジョン攻略を進め、五階層分潜ることが出来ていた。なお、ジャンヌたちは一週間ほどで王都に戻っており、ジャンヌとアウラ(ついでにメナスとリーナ)のダンジョンを利用したダイエ……訓練は、納得の成果を上げることが出来たそうで、ジンとガラットの財布は、現れた魔物のほとんどを押し付けた結果、奢らせる前よりも増えた。まあ、増えた分俺たちに還元させたので、最終的には奢らせる前の半分よりちょっと少ないくらいに落ち着いた。

「うむ、もしかすると、セイゲンの街中よりもきれいな空気かもしれぬのう」

「手こずるような魔物もいないし、ここに家を建てたいな」

「おう、頑張れ」

「いくら空気がよくても、私は嫌だけどね。まあ、思い出して気が向いたら様子を見に来てやるよ」

「『暁の剣』も解散ですかね……プリメラちゃんのところで雇ってもらうのもいいかもしれませんね」

「軽い冗談だろ! それくらい空気が綺麗だという例え話だろうが!」

ジンのちょっとした軽口が、何故か『暁の剣』の解散話になりかけていた。

「ジンがここで余生を過ごすかどうかは置いておくとして、ここまで綺麗になってくると、逆に不気味になるな」

俺の言葉にジンは何か言っていたが、ジン以外の皆は俺と同じようなことを感じていたようで、同意するような返事が聞こえていた。

「不気味であったとしても攻略は進めなくてはならぬし、臭いよりはいいと思うしかないのう。まあ、不気味に感じるだけということもあるし、気が抜けるよりはいいのじゃろう」

じいちゃんが話をまとめると、皆気合を入れなおして先に進もうとしたが、そのとき不意に、

「誰だよ、腹が減っている奴は! せっかく気合を入れたところなのに、抜けるじゃねぇか!」

誰かのお腹の音が聞こえた。

その音にジンが真っ先に反応し、からかうようにガラットやメナスの顔を見ていたが……

「済まぬ。わしじゃ」

腹を鳴らしたのはじいちゃんだった。

「すんません! こういったときにボケるのは、ガラットかメナスだと思っていたので!」

と、即座に頭を下げてじいちゃんに謝罪したが、

「つまりジンさんは、マーリン様が ボ(・) ケ(・) た(・) と言いたいんですね?」

などと、リーナがどこか冷たい声と表情で突っ込んでいた。

「わしも歳かのう……そのうち、「テンマや、飯はまだかのう……」などと言い出してしまうのか……」

そんな風にじいちゃんがジンをからかうと、ジンは土下座までして謝っていた。じいちゃんは完全に遊んでいる様子だがジンの方は本気で謝っていたので、冗談だと分からせるのに少し時間がかかってしまった。

じいちゃんがジンの相手をしている間に、俺は周囲を『探索』で調べてみると、ここからだいぶ歩いた先に、下に続く階段があるのが分かった。

「じいちゃん、ジンで遊ぶのはその辺にして、一度ここで休憩にしない? この先また空気が悪くなったり逆に不気味に感じるかもしれないから、この場所で食事をして体を休めた方がいいと思うんだけど?」

そう提案するとすぐにじいちゃんが賛成したので、ようやくジンも立ち上がって休憩の準備を手伝い出した。

「それにしても、大分雰囲気が変わったよな」

「案外、終わりが近いのかもしれないね」

ガラットの言う通り最初の方と比べれば雲泥の差で、メナスの言う通りボス部屋が近いのかもしれない。

「でも、こんなところにいるボスは何でしょうね? 上のヒドラよりも深いところにいるから、あれ以上に強い魔物なのでしょうか?」

「じゃが、ここまで強い魔物に出会ってないからのう……案外弱いかもしれぬが、どちらにしろ万全の体調で挑めるようにせぬとな」

と言う感じでゆったりとお茶を飲んでいたのだが……その間もジンは大人しかった。

「ふと思ったんですが、セイゲンの地下にこんな巨大で深くて複雑な穴が存在するのに、地盤が沈下したとかいう話は聞きませんよね? なんででしょうか?」

「いきなり怖いことを言い出すんじゃないよ!」

「確かに怖いが……気になるっちゃあ、気になるな」

リーナの急な発言に、メナスは考えたくもないとでもいうような声を出し、ガラットは怖さよりも好奇心が勝っているという感じだった。ジンは……無言でじっとこちらを見ているだけなので、メナスとガラットのどちらに近いのかよく分からない。

「まあ、昔から言われているのが、ダンジョンとなったことで地質が強化されたというものと、ダンジョンが生き物と同じという考えから、壊れた場所や脆くなった場所が自然と修復されておるというものじゃな」

じいちゃんの言う通り、その二つがダンジョンを説明するときに使われる有力な説として使われてきた……が、

「そのことだけどさ、それだと『ワープゾーン』の説明が付かないと思うんだよね」

俺の考えは少し違っていた。

「ふむ……なら、テンマはどういうものだと考えておるのじゃ」

「確証があるわけじゃないけど、ダンジョン……全てのものがとは言えないけど、セイゲンに限って言えば、『ディメンションバッグの中に出来たダンジョン』じゃないかな?」

そう言うと、じいちゃんたちは揃って「何を言っているんだ、こいつ?」みたいな顔になった。

「つまり、俺たちのいるこのダンジョンは、自然発生……かは分からないけど、『空間魔法』の中に存在しているダンジョンなんじゃないかって思うんだ」

「仮に今いるダンジョンが空間魔法の中に存在している物だったとして、それがどう『ワープゾーン』と繋がるのじゃ?」

「いや、本当に関係しているかどうかは分からないんだけど、『ディメンションバッグ』と『ワープゾーン』が似ているから、このダンジョンが超巨大な『ディメンションバッグ』だった場合、その中に似た魔法の『ワープゾーン』が発生していてもおかしくは無いなって……」

直感的に思いついた説なのでちょっと自信がなかったが、とりあえず思ったことは言えた。しかし、

「真逆の魔法じゃから似ておるとは……いや、確かに似ておるのかもしれぬのう。むしろ、同一の魔法と言ってもおかしくないのかもしれぬ」

ジンたちは俺の言っていることが分からなかったようだが、じいちゃんは俺の言いたいことが分かったようだ。

「ディメンションバッグは、中の空間を広げる魔法だよね? それに対してワープゾーンは、中の空間を縮めているんだ」

「うむ、言われるまで気が付かなかったが、もしかするとテンマの説が一番正解に近いのかもしれぬ」

ジンたちに説明したつもりだったが、ジンたちが反応する前にじいちゃんが一人で納得してしまった。

「あの~……全然意味が分からないんですけど……」

『暁の剣』の中で、一番魔法の知識があるリーナですらちんぷんかんぷんな状態だったのでジンたちに至っては、俺とじいちゃんが異国の言葉でも使っているような目でこちらを見ていた。

「え~っと……ディメンションバッグの場合、バッグの外側を『1』とすると、バッグの内側が『2』、そしてバッグの中の空間を『3』とするだろ? その『1』と『2』に特殊な魔法を使って『3』を広げたのがディメンションバッグだと思ってくれ。ここまではいいか?」

「ええ、何とか……」

自分なりに分かりやすく説明したつもりだったが、その説明で理解できた(それでも完全にではないが)のはリーナだけで、ジンたちはまだよくわかっていないようだ。

「それに対してワープゾーンは、入り口を『1』として、出口……まあ、目的地だな、を『2』とする。そして、そこに至るまでの距離を『3』と考えて、その『3』を魔法で縮めたのがワープゾーンだと思うんだ」

と説明すると、リーナは「なるほど……」と言って、何かを呟きながら考え事をし始めた。しかし、

「テンマ……すまないけど、それでも私には何を言っているのか理解できない」

「俺もだ」

「俺も……」

メナスたちには伝わらなかったようだ。それにしても、ようやくジンがしゃべったと言うのに、たった三文字でまた静かになってしまった。正直言って、こんなにジンが静かだと調子が狂う。

ジンのことは今は置いておくとして、どうやったら分かりやすく説明が出来るのかと考えていると、

「つまりですね、テンマさんの持っている馬車の出入り口から入って、一番遠い窓から出たとします。すると、馬車の外見から想定していたよりも数倍の歩数を必要としますよね? それが空間を広げる魔法の原理……ディメンションバッグということです。逆に空間を縮める魔法が施された馬車の場合、出入り口から入って一番遠い窓から出ようとすると、思っていたよりも少ない歩数で出ることが出来ます。これがワープゾーンの原理です」

「なるほど、同じ場所を広げるか縮めるかの違いということだね」

「外から見る分には、広いか狭いかなんて分からないしな!」

「そう言われると、確かに似てるな!」

リーナの説明でメナスはちゃんと理解できたようだが、ガラットとジンはちょっと違う気がする。まあ、過半数が俺の言っている意味を理解してくれたということなのだが……それと同時に、俺の教え方が下手だと証明された気もする。

「エイミィは、本当に優秀だったんだな……」

「安心せい、テンマ。わしはあの説明でもちゃんと理解したぞ」

などと、じいちゃんは慰めてくれたが、何となく「わしはあの」の後に「下手な」と入ってそうな気がした。

「テンマさんの教え方が下手かどうかはどこかに置いておくとして……つまりテンマさんが言いたいのは、セイゲンのダンジョンがディメンションバッグのように、中の広さに比べて外の大きさがそこまでないから、街が沈まないと言いたいのですよね?」

「まあ、そんなところ。それに加えてこれまでの説にあったように、地質が強化されたり修復されたりもしている可能性もあるけどね」

「なるほどのう……確かにテンマの言う通りならば、セイゲンの街が沈まない説明が付くのう」

などと、俺とじいちゃんとリーナの三人で盛り上がっていると、

「なあリーナ、テンマ。そろそろ進まないか?」

ガラットが遠慮がちにそんなことを言ってきた。そこでじいちゃんの名前を出さない辺り、やはり『賢者』に提案するのはハードルが高いのだろう。

「そう言えば、とっくに休憩の時間を過ぎておったの。申し訳ないことをした」

じいちゃんが謝ると、ガラットだけでなくメナスとジンも慌てていたが、実際に俺たちの方が悪いので気にしないように言ってからテーブルなどを片付けた。

「ん? なんだか甘い匂いがしないか?」

先を進み始めてすぐ、あと少しで下に続く階段が見えてくるというところで、ガラットがそんなことを言い出した。

「俺は何も感じないぞ?」

「私も感じないね」

「私もです。ガラットさんの勘違いじゃないですか?」

「わしも感じないのう……テンマはどうじゃ?」

「ちょっと待って……微かにだけど、ガラットの言う通り甘い匂いがする」

「獣人であるガラットと、感覚の鋭いテンマがそう言うのならそうなのじゃろうな」

甘い匂いはこの先の階段の方から来ているようで、階段の目の前まで行くともっとはっきり匂いを感じることが出来た。まあ、それでもじいちゃんたちには、「ちょっと甘い匂いがした気がする」程度だった。

「こっちの方からだな」

「それにしても、魔物が現れなくなったな」

下の階層に降りると、まずは匂いの元を辿ろうということになり、ガラットの先導で進んでいるのだ。だがその最中、ジンの言う通り魔物の気配を全くと言っていいほど感じなかった。一応、『探索』と『鑑定』で周囲に探りを入れたが、この階層自体に魔物が少ないようで、『探索』を広げている範囲内にほとんど魔物の反応が現れなかった。

(それに、匂いの元が下の階層から来ているというのが、なんか嫌な予感がする)

ガラットの進んでいる方向には下に続く階段があり、ガラットはほぼ最短の道筋でそこに向かっているのだ。ここまで来ると、じいちゃんたちでもはっきりと甘い匂いを感じることが出来るそうだが、その反面、俺とガラットには匂いが強すぎるくらいに感じられるので、ちょっと気分が悪くなってきた。そのまま我慢して進むと、思った通り下の階層に続く階段から匂いが溢れていた。

下の階層に降りると匂いは一層強くなり、じいちゃんたちもはっきりと感じられるくらいの強さになった。そして不思議なことに、匂いが強くなるにつれて魔物の数も少なくなってきている。まるでこの匂いが魔物を遠ざけているようだった。

「すまん、ちょっと休憩させてくれ……」

それまで先頭を進んでいたガラットが、ついに匂いに耐え切ることが出来ずに休憩を求めてきた。

「そんなに匂いがきついのか? 甘い匂いが強くなってはいるが、俺にはそこまできついとは思えないけどな? まあ、匂いが邪魔になって疲れやすくなっているのかもしれないな」

ジンは、ガラットが匂いのせいでいつもより余計に神経を使っていると思ったようで、不思議そうな顔をしながらも休憩できそうな場所を探し始めた。

「皆! こっちに休憩できそうな行き止まりがあるから、ちょっと来てくれ」

俺は、休憩が決まってすぐに『探索』を使って周囲にちょうどいい場所がないか探し、その付近を探すふりをして皆を呼んだ。

「正直、俺もあの匂いはきついと思ってたんだ」

「やっぱりきついよな! ジンは不思議そうにしていたけど、匂いに敏感な俺たちからすれば、あれは拷問に近いぞ!」

いつも通り虫を駆除した後、中に籠っていた甘い匂いを魔法で押し出し、ほぼ完全に無臭状態にした後でそう言うと、ガラットがよく言ってくれたと言わんばかりに同意した。

「ただ甘いだけなら、お菓子作りなんかで経験したことがあるけど、あれはそう言った匂いとは違う感じがした。このまま先に進むんだったら、匂いの原因が分からない以上、それなりの対策をしておいた方がいいと思う」

そう言って俺は、布の切れ端をさらに小さくしたものを数枚と、大きな布を数枚取り出した。

「完全な対策にはならないだろうけど、この布を鼻の穴に詰めるのと、こっちの大きな布を何枚か重ねてマスクをした方がいいと思う。それと、ここから先は俺かじいちゃんが先頭に立って、風魔法で匂いを散らしながら進もうと思う。ジンたちはその後ろで固まるようにして移動して欲しい。それと、少しでも体調に異変を感じたらすぐに報告するようにして、今後は撤退も視野に入れて行動しよう」

「「おう!」」

「うむ」

ガラットとようやく調子を取り戻したジン、それにじいちゃんは俺の渡した小さな布を受け取ると、躊躇なく丸めて鼻に詰めた。それぞれ、「これでだいぶ楽になる!」とか、「呼吸がしづらいが、そのうち慣れるだろう」とか、「昔、ゴブリンの巣を潰しに行ったときに、同じようなことをしたのう」とか言っていたが、

「なあ、テンマ……今からやらないといけないのか?」

「出来れば休憩中はやりたくないんですけど……」

「しなくていいと思うぞ。この空間は魔法で空気を入れ替えてから完全に外と遮断したから、あの甘い匂いはほぼしないし」

「「「あっ……」」」

と言った感じに、鼻栓に乗り気でないメナスとリーナにより、三人は勇み足をしたことに気が付いたのだった。

「それじゃあ、改めて攻略を開始するぞ」

一時間ほど休憩した俺たちは、鼻栓とマスクを装着してから甘い匂いの充満している外へ出た。鼻栓と風魔法のおかげで甘い匂いは気にならないが、この匂いが口から入ると体に害を及ぼす可能性もあるので、これまで以上に連携を密にしないといけない。ちなみにじいちゃんたちの鼻栓は、勇み足で入れてしまった後、水洗いしてから再使用している。

再開後、すぐに下の階層に降りて一時間ほど歩くと、これまでで最速と言っていいくらいの速さで次の階層に降りることが出来た。しかし、

「ワープゾーンが見つからないな……」

「俺も周囲には気を配っていたが、それらしきものは見当たらなかったぞ」

ダンジョン攻略における生命線とも言えるワープゾーンが見つからなかった。俺が見落としただけかとも思ったが、俺の呟きを拾ったガラットも見つけられないと言っている。

「かなり戻らないといけなくなるけど、ここで一度引き返すか?」

「だけど、再開して一時間ちょっとくらいだからな……もう少し先に進んでみて、さっきみたいに空気を遮断できる場所が無ければ引き返すでいいんじゃないか?」

俺とジンの意見が割れたので多数決を取ったところ、俺とじいちゃんとリーナ、ジンとガラットとメナスと言う具合に、同数で分かれることになった。なので、三枚のコインを地面に投げて、裏表の多さでどちらにするか決めることになった。その結果、

「じいちゃん、あそこに下に続く道がある」

先を進むことに決まった。次の階層には、コイン投げから一時間ほどで降りることが出来たが、その間もワープゾーンは見つからなかった。

「大分速いペースで降りることが出来ておるのう……もしかすると、最後の階層が近いのかもしれぬな」

ヒドラのいた最下層の近くも、割と早いペースで進むことが出来ていたので、じいちゃんはこっちのダンジョンもそうなのかもしれないと思ったそうだ。そして、じいちゃんの勘は間違っていないのかもしれなかった。何故なら、

「テンマ、気を付けろ……ヒドラの時と同じような雰囲気になってきた」

何がとははっきり言えないが、進むにつれて不気味な雰囲気が漂い始めたからだ。その不気味な雰囲気に対し、セイゲンのダンジョンをクリアしたジンたちは、「ヒドラを発見する前と同じ感じがする」と言って警戒心を強めていた。さらには時折、空気中に 靄(もや) が漂ったりしているのだ。偶然かもしれいが、靄が漂い始めた辺りから、魔法の精度が少し落ちてきている気がする。

靄に関しては気圧の変化で発生しているだけなのかもしれないが、何となくあの甘い匂いが濃くなって漂っているようにも感じられ、それが不気味さを強調させているようにも思えた。

「おい、あそこに坂道があるぞ!」

もう一度引き返さないかと提案しようとした矢先に、ガラットが下に続く道を発見した。その坂道を下っていくと、

「違うみたい……だな」

「ここがダンジョンの終点と言うわけではないだろうから、単に道を間違えただけみたいだな」

行き止まりだった。

「なんだか、悪い空気が溜まっているみたいな感じがしますし、上に戻りましょう」

「そうだね。リーナがそんなことを言ったせいか、目がかゆくなってきたし、のどもイガイガしてきたし……」

などと言い合いながら、ジンたちは上に戻ろうとしたが、

「この壁、崩落か何かで出来たみたいだぞ」

「うむ。何か何処からか、空気が漏れているようじゃ」

空気が漏れてくるということは、向こう側に空間があるということだ。

「よし、少し調べてみるか!」

そう言ってジンは、壁を軽くたたきだした。それに続いて、ガラットとメナスも壁を調べ始める。じいちゃんとリーナは、風魔法で甘い匂いを遮断しつつ周囲の警戒をし、俺は天井や壁が壊れないように見張っていた。

「ここが脆いみたいだぞ」

「それじゃあ、そこを中心に道を作るぞ」

しばらくすると、ジンが壁の脆くなっている部分を見つけたので、俺が土魔法で穴を広げることになった。しかし壁に穴をあけた瞬間、思いもよらない事態が起こった。それは、よく考えてみれば分かるようなことだったのだが、皆揃って壁の向こう側の空間に気を取られていて、想像力が欠如していた。

「よしあい……皆、逃げろ!」

壁に穴をあけた瞬間に、すごい勢いで靄が噴き出したのだった。