軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第16章-19 空き部屋整理

「少しトラブルはあったけど、概ね上手くいったみたいだね」

「そうじゃな。プリメラがアビス子爵と一芝居打ったのには驚いたが……まあ、貴族の娘らしいと言えばらしいの。そう言えばプリメラの部屋も用意しないといかんが、どの部屋にするか決めておるのか?」

パーティーの帰り道、公爵家の用意した馬車で俺とじいちゃんはパーティーや今後の話で盛り上がり、その中でプリメラの部屋をどうするかと言う話が出た。

「一応考えているんだけどね……」

「歯切れが悪いのう。もしかして、テンマの部屋を共同で使用するつもりか?」

正式に婚約したからと言って、さすがに結婚前から同じ部屋を使うわけにはいかない。仮に結婚したら貴族籍を抜けることになっているとはいえ、結婚するまでプリメラは貴族なのだから、そこはしっかりとけじめをつけるべきだと思う。

「部屋が余っているんだから無理に共同で使う必要はないし、結婚前の段階で同じ部屋で寝泊まりするのはよくないからね。そうじゃなくて、一度空き部屋の整理をしようかと思ってね。どんなものがあるか分からないから、俺だけでするよりも皆に手伝って貰った方がいいし」

今うちの屋敷は女性陣と男性陣、そして来客用に場所が分かれている。これはじいちゃんが王都に住むことになった時に、王様が何かあった時の為にと自分たちやククリ村の人たちが使える部屋を作るように注文してくれたからで、じいちゃんが俺と再会して元気になってからはその必要が無くなり、完全に男女で部屋のある場所を分けることがが出来るようにしたのだ。まあ、屋敷に住んでいるのは俺とじいちゃん、ジャンヌにアウラにアムールの五人分の部屋とティーダたちが確保している三部屋なので、空き部屋が客間を含めて十程残っている。

「よくよく考えてみたら、部屋がありすぎだよね。しかもそれらを活用できずに、ほとんどが倉庫みたいになっているし……」

「そうじゃな。わし、全ての部屋がどんな風になっているのか、いまだに把握しておらぬし、客間として確保している以外の空き部屋はゴミ置き……ゴホンっ! 倉庫代わりに使っているところもあるしのう」

掃除をしているジャンヌやアウラにアイナ、それに隠れ場所として使用することのあるルナならどんな部屋があるのか理解しているだろうが、少なくとも俺とじいちゃんは自分の部屋と自分の使う倉庫(兼作業場)以外は、書庫になっている部屋を利用するくらいなので、家長と元家長なのに屋敷の中をちゃんと把握していなかったりする。

「だから、まずは俺たちの部屋の周辺だけでも整理して、人の住める部屋を増やそうかと思って」

将来的には全部の部屋を綺麗にして、部屋の割り当てを変える必要があるかもしれないが、いきなりは無理なので俺たちの近くだけでも整理してみようかと提案したのだ。

そんなことを話し合いながら屋敷の近くに来ると、

「じいちゃん、少し先の方に王家の馬車が走っているって」

「うちの方に向かっているということか? このタイミングでの登場となると、十中八九パーティー関連の話じゃろうな」

王族の誰かがうちの屋敷に向かっているとすれば、今合流した方が色々と話が早くなるので、俺だけ馬車を降りて先回りすることにした。

「全く、無茶なこと……ではないけれど、普通はあんな真似しないわよ」

無事に王族用の馬車止めることが出来た俺は、目的地がオオトリ家の屋敷だと確認してからじいちゃんと一緒にこちらの馬車に移動して……マリア様に叱られていた。

王族用の馬車の進路に先回りした俺は、合図を出して馬車を止めてもらおうとしたのだが……不審者と間違えられて、馬車の中からディンさんが剣を抜いて飛び出して来たのだった。なお、御者をしていたのはクライフさんは、合図を出しているのが俺だと気が付く前に「前方に怪しい奴がいる」と報告してしまったそうで、『怪しい奴』の正体に気が付いて後ろに伝えようとしたのと同時にディンさんが飛び飛び出したので、止めることが出来なかったそうだ。ちなみに、俺が馬車を止めようとして出した合図は、『へい! タクシー!』みたいなノリのサムズアップだった為、クライフさんは『変な合図を出している怪しい奴』と伝えたとのことだった。

先程マリア様が言った無茶なこととは、俺なら王族の馬車を止めたとしても気にしないが、誰か分からない状況では斬り捨てられてもおかしくないからと言う意味らしい。

俺はマリア様に叱られながらも来訪の理由を尋ね、危惧していたことが予想よりも早くなったのを知った。まあ、その対応の為にマリア様が来たとのことなので、確実に面倒事は半分以下になるだろう。

「ジャンヌとアウラは来ていないようですね。気が付いていないのか、忙しいのか……どちらにせよ、減点ではありますが」

屋敷の門を通り、玄関のドアの前まで来た俺たちだったが、いつもは門を開閉する音で玄関を開けるジャンヌとアウラが来なかったので、代わりにアイナがドアを開けようとした……が、

「テンマ様、少し面白いことになっているようなので、代わりに開けてみてください」

などと言い出した。まあ、自分の家のドアなので自分で開けることに抵抗は無いが、何が面白いことなのだろうと思いながらドアを開けると、

「テンマ君、どういうこと!」

「お兄ちゃん、説明して!」

ドアを開けたすぐ先に、仁王立ちしているクリスさんとルナがいた。なので、俺はそっとドアを閉めた。

「今クリスとルナの声が聞こえたが、どうなっておるのじゃ?」

俺の反応を不審に思ったじいちゃんが、俺を押しのけてドアを開けたが……

「ふむ」

と言ってすぐに閉めた。

「やっぱりここに来ていたのね……アイナ」

「はい」

俺とじいちゃんを見て全てを悟ったらしいマリア様は、俺たちと場所を変わりアイナにドアを開けさせた。すると、

「テンマ君! さっきから……ひぃ!」

「クリス、邪魔! お兄ちゃ……鬼!」

俺がふざけているのかとでも思った(どうやら二度目の時は、じいちゃんだと気が付いていなかったらしい)のか、三度目のマリア様&アイナの時に二人は思いっきり詰め寄ってしまい、相手が誰なのかに気が付いて凍り付いていた。そして、クリスさんよりもルナの方が失言があった分だけまずいことになりそうな雰囲気があった。

「とりあえず、中でお話ししましょうか?」

「「はい……」」

マリア様に睨まれた二人は一瞬俺に恨めしそうな目を向けた後、大人しく食堂へと移動していた。その間に俺は、じいちゃんと一緒に二階に上がって空き部屋の確認に向かった。すると、

「テンマ、クリスさんとルナ様がマリア様に説教され始めたけど、どうしたらいいの?」

ジャンヌとアウラとアムールがやってきた。三人は食堂に居た(クリスさんとルナが玄関に陣取っていたので、からまれないようにじっとしていた)らしいが、そこにマリア様を先頭に三人が入ってきて、その雰囲気からクリスさんとルナが叱られるのだと察して避難してきたそうだ。

そんな三人に、プリメラの部屋を確保するついでに倉庫にしている空き部屋を整理するというと、三人揃って手を挙げて手伝いを申し出てきた。まあ、この三人も空き部屋を勝手に倉庫代わりにしているので、俺やじいちゃんに漁られるのは避けたいのだろう。

「皆でするんだったら、プリメラも誘った方がよかったかな?」

結果的に皆で空き部屋の片付けをするんだったら、プリメラも呼んで希望する部屋を選んでもらえばよかったと思ったのだが……

「それは無理だと思われます」

背後から気配を消して近づいてきたアイナに無理だと言われた。さすがにこのパターンには慣れてきたので、俺とじいちゃんはさほど驚かなかったが、他の三人は突然の登場に驚いたようで、その場から飛びのいて距離を取っていた。特にアムールの驚きようはすごく、耳と尻尾をピンと立てて、ジャンヌとアウラを盾にするようにして隠れていた。

「パーティーの後片づけで忙しいからか?」

公爵家くらいになると使用人が全て片付けてしまうだろうが、もしかすると参加客関連で何かあるのかもしれない。そう思ったのだが、

「恐らくプリメラ様は今頃シーザー様にお叱りを受けているはずなので、例えテンマ様がお誘いになったとしても、公爵様から何らかの理由をつけられて断られていたでしょう。ですので、プリメラ様がいない分、私がお手伝いします。丁度、アウラとジャンヌがどういう風に空き部屋を占拠しているのか気になっていたところですし」

一応、ジャンヌたちには空き部屋は自由に使っていいと言ってあるとアイナに伝えたが、そのことを理解した上でも確かめたいと言われたので、断ることは出来なかった。

アムールは、アイナの標的がジャンヌとアウラだと知り、二人をからかう素振りを見せていたが……先程からアイナが何度かアムールを見ていたので、標的は二人ではなく三人のようだ。もしかすると俺とじいちゃんも含めて五人かもしれないが……俺とじいちゃんは基本的に物はマジックバッグに放り込むスタイルだし、この屋敷の主と元主なので、そう厳しいことは言われないはず……と思いたい。

そうして始まった空き部屋の整理だが……俺とじいちゃんは、「ちょっと埃っぽいですが、 思(・) っ(・) た(・) ほ(・) ど(・) 散らかっていませんね」で済んだのだ。ジャンヌに関しては、「まあまあ片付いていると言いたいところですが、メイドとしてはギリギリ赤点を回避したというところですね」と、かなり厳しい評価を与えられていた。そして本命のアウラとアムールだが、「論外ですね。さあ、始めなさい」と、有無を言わさず監視付きで掃除を始めさせられていた。

そんな二人を、俺とじいちゃんとジャンヌは、アイナを刺激しないように遠巻きに見ながら、空き部屋をどうするか話し合っていた。するとそこに、

「お兄ちゃん! 婚約したのを、何で黙っていたの!」

解放されたのか逃げ出してきたのかは分からないが、ルナが二階にやって来て騒ぎ出した。

「ルナ、マリア様はここに来てもいいって言ったのか?」

もし逃げだしてきたのなら、一刻も早くマリア様のところに連れて行かないと俺にまで飛び火しそうだから聞いたのだが、

「大丈夫! おばあ様が、お兄ちゃんの手伝いをしてきなさい言って言ってたから!」

「ルナがそう言うなら大丈夫か。それよりもアイナ、さっき言っていたプリメラが叱られるってどういうことだ?」

先程の会話で出てきて気になっていたところだったが、アイナがすぐに空き部屋のチェックに入った為聞きそびれていたことを今聞いてみることにした。

「テンマ様は気にしていないようですが、プリメラ様は婚約の話をアビス子爵に話してしまいましたから、そのことに対するお叱り……と言うよりは、注意を受けているはずです。命令ではありませんでしたが、王家、サンガ公爵家、オオトリ家が同意した形でパーティーまでは秘密にするということになっていましたので、全て上手くいったとは言え、王家としては注意くらいはしておかないと面目が立ちませんので」

「それなら、俺も残っていた方がよかったんじゃないか?」

三家が同意したことが破られたというのなら俺も無関係ではないだろうと思ったのだが、アイナが言うには『一応の注意』ということなので、俺がいると逆に大事になりかねないとのことだった。つまり、オオトリ家は同意が破られたことなど知らず、王家とサンガ公爵家の『政治的判断』で秘密裏に解決したということにしておきたいらしい。

「まあ、大したことじゃないのに話し合いをするのも面倒だし、うちには貴族の面子なんか関係ないからな。かなり後になってそんなことがあったと知ったふりをして、いつか笑い話にしようかな?」

「それがいいかと思います」

貴族同士の話し合いと言っても実際には何の問題もなかったわけなので、シーザー様とサンガ公爵にプリメラがからかわれて終わりだろう。

気になっていたことも聞けたので、他の空き部屋の整理でもしようかと思ったら、

「お兄ちゃん! さっきから私のこと無視しているでしょ!」

俺の進路に先回りしたルナが怒っていた。実はアイナとの会話中、何度かルナが話しかけて来ていたのだが面倒臭そうな内容だと確信していたので、対策を思いつくまで無視していたのだ。まあ、思いつくには思いついたのだが、もしかしたら諦めるかもしれないと思って気が付かなかったふりをしてみたのだが無理だったようだ。

「何で婚約の話を私だけ仲間外れにしたの! お兄様は知っていたのに!」

「マリア様が理由を話したんじゃないのか?」

説教の中でその話が出てこなかったとは思えないので聞いてみたが、「私だと話が広がりそうだから教えなかったじゃ納得いかない!」と言って引かなかった。まあ、俺がルナの立場だったとしても腑に落ちないだろう。もっとも、俺の場合だと「直接の関係者じゃないから」で納得するとは思うが。

「ルナ、秘密にしていた件だが、ティーダがどうなったのか聞かされて……ああ、その前にうちに来たんだったな」

「お兄様がどうしたの?」

わざともったいぶった感じで俺とプリメラの婚約話を知っていたティーダに何かがあったのだとにおわせると、予想していた通りルナは食いついてきた。

「俺がダンジョン攻略の報告で王城に行った時に、ルナとティーダと一緒にマリア様のところに行ったことがあったろ?」

「うん」

「あの時にルナはイザベラ様に連れて行かれてしまっただろ? 実はその後にティーダの前でうっかり口を滑らせてしまって婚約がバレたんだけど、マリア様がティーダに絶対に誰にも言わないようにと釘を刺してな。ティーダはそれを忠実に守ってエイミィにも言わなかったんだ……でも、今日の発表でそのことについてエイミィに詰め寄られてな。もしかしたら別れてしまうんじゃないかと心配するくらいエイミィが怒ったんだ」

「本当に?」

「まあ、 俺(・) に(・) は(・) そ(・) う(・) 見(・) え(・) た(・) ……ってことだけど、実際にティーダは疲れた様子だった。ティーダですらそうなったのに、ルナの場合……婚約の話をバラした時にルナを怒る相手は、マリア様とシーザー様とイザベラ様だろうから、単純計算でティーダの三倍は疲れることになるぞ。しかも、ティーダは秘密にしていてそうなったのに、ルナは話を漏らしてしまったらだから、三倍どころじゃないだろうな」

と言うと、

「私はそんなドジしないもん!」

と返ってきた。だが、

「言っておくけど、ティーダはエイミィにすら話を漏らさないようにいつも気を張っていたというから、黙っておくだけでもものすごい負担だったそうだぞ。エイミィは俺の関係者だから、バレても問題ないと言えばないんだが……ルナは仲のいい友達に、ずっと秘密を守ることが出来たと自分でも思うのか?」

「それは! その……あの……えっと……」

さすがのルナも、そこまで言われると大丈夫だとは胸を張って言えないようで、だんだんと勢いがなくなっていった。

「もし俺が婚約の話を教えてしまったら、ルナが余計な苦労をしてしまうと思って、 あ(・) え(・) て(・) 教えなかったんだ。まあ、俺やプリメラはそう言う感じだったけど、王家の方は多分マリア様が王様が決めたんじゃないかな? 理由が知りたいのなら、二人のうちどちらかに聞かないと……さすがに俺には王家側の理由は分からないな」

とにかうそれっぽい理由を並べてまくし立て、最後は王様とマリア様に注意を向けさせれば作戦完了だ。いくら孫とはいえ、さすがのルナもマリア様には強く出ることは出来ないだろうから、矛先が向くとすれば王様だろう。これならば王様以外苦労しなくてすむ。

「なんだか詐欺師の手口みたいですね。断言せずに、どうとでも言い訳できるような言葉を使う辺りが」

「アイナ、うるさい」

アイナがルナに聞こえないように小さな声でからかって来るが、嘘は言っていないので問題はない。もしかするとルナが勘違いしてしまうかもしれないが、それは人それぞれ解釈が違うので、時には話の意図が上手く伝わらないこともあるだろう。

「ルナ、せっかくだから自分の部屋の掃除でもしておけよ。いつマリア様がチェックに入るか分からないぞ」

掃除と聞いて嫌な顔をしたルナだったが、マリア様の名前を出すと慌てて自分が確保している部屋に向かって行った。

「アウラ、ちゃんと掃除をしておくのですよ」

アイナは手伝いをする為か監督をする為かは分からないが、アウラに釘を刺してすぐにルナを追いかけた。

「アイナのおかげで、俺とじいちゃんの方は大体終わったかな?」

「そうじゃな。それでプリメラの部屋じゃが、婚約中はジャンヌたちの近くに部屋を作って、結婚した後は本人の希望次第でテンマの近くに移動するでいいな。結婚した後は、わしも部屋を移動することにしよう。テンマとプリメラの夜の営みの邪魔になってはいかんから、のっと!」

「ちっ!」

最後の方でふざけたので、突っ込み代わりにわき腹に親指でも突き立ててやろうとしたが、じいちゃんはそれを読んでいたようで、横っ飛びで回避されてしまった。

「それじゃあ、次にプリメラさんが遊びに来るまでは、空き部屋は綺麗にしたままにしておいた方がいいですね」

ジャンヌが何事もなかったかのように締めくくったので、じいちゃんに攻撃を当てることは諦めて、三人で食堂へと向かった。すると、

「あら? 用事はもう終わったの?」

二階に上がって来るマリア様と鉢合わせた。その後ろにはディンさんもいるので、クリスさんへのお説教は終わったのだろう。

「テンマ、クリスがちょっと荒れ気味だから鎮めておいてね。方法は任せるから」

「頼むぞ」

完全に丸投げされた形だが、いずれクリスさんをどうにかしなくてはいけなかったのだ。なので、

「テンマ君! 何で黙っていたのよ!」

「ちょっとテンマ君、聞いてる?」

「もしも~し、聞こえていますか~?」

「もしかしてテンマ君、怒ってる?」

食堂に入るなりクリスさんが詰め寄ってきたが、俺は完全に無視していないものとして扱った。しばらくすると、

「お兄ちゃん、お腹すいた!」

「確かに」

「全く、ルナときたら……」

アムールやアウラ、それにマリア様たちがやってきた。

「ジャンヌ、お茶を 九(・) 人(・) 分(・) 用意してくれ」

「十人分じゃなくていいの?」

「俺にじいちゃん、アムールにジャンヌにアウラ、マリア様にルナにディンさんにアイナの九人だろ? 他に誰がいるんだ?」

「え~っと……ちょっと待っててね」

「ジャンヌ! 十よ、十! 十人分であってるのよ!」

「ジャンヌ、慌てなくていいから、ちゃんと九人分頼むな」

俺がわざとクリスさん以外を指折り数えると、ジャンヌはクリスさんをちらちら見ながらお茶の準備に向かった。その後ろ姿にクリスさんが自分の分も主張していたが、俺は九人分だと念押しした。

そんな俺たちのやり取りを見ていたマリア様たちは、俺がクリスさんをいないものとして扱っていることに気が付き、クリスさんと目を合わせないようにして席に着いた。まあ、アムールとルナはクリスさんを笑いながら見ていたので、クリスさんが存在をアピールしようと近寄られていたがアムールは、

「テンマ。大きな虫を捕まえたから、ちょっと庭に捨ててくる」

「なるべく遠くに頼むな」

などと言ってクリスさんを羽交い絞めにして、庭へと引き摺って行こうとした。すると、

「テンマ君、謝るからもう許して! 婚約のことで何も文句は言いませんから、せめて人扱いしてちょうだい!」

ついにクリスさんが降参した。

「あれ? クリスさん、いつの間に食堂に居たの? 姿が見えなかったから、てっきり帰ったものとばかり思ってたよ」

「うむ、虫を捕まえていたはずなのに、いつの間にかクリスになっていてビックリ!」

などと、三流役者にも劣る演技でクリスさんの存在を認めたのだった。

「ひどい目にあわされるところだったわ……」

外に捨てられそうになったクリスさんは、ジャンヌの持ってきたお茶をちびりちびりと飲みながら俺を恨めしそうな目で見ていたが、大人しく席に座ったままだった。

「このまま結婚式まで静かだったらいいのに」

と、何気なく呟くと、

「それは無理でしょうね。『龍殺し』の婚約に サンガ公爵家嫡男(アルバート) の結婚……それだけで今年一番の話題は『結婚関連』になりそうなのに、テンマが公爵家の結婚披露パーティーでグンジョー市でやったようなことをすれば、間違いなく今年は例年より結婚式を挙げるカップルが増えるでしょうね」

「そうなると、今年の話題の中心はテンマと言うわけになるのじゃな」

「ええ、その通りですマーリン様。それにもしかすると、テンマの結婚式を真似たいと貴族のみならず平民からも要望が寄せられるかもしれません」

そうマリア様が反応し、そこにじいちゃんが楽しそうに合いの手を入れていた。

俺としては許可を取らなくてもいいから、各々で勝手にやってくれと言う感じだったが、そんな俺の様子を見て考えていることを読んだマリア様は、

「まあ、大貴族とその身内のやり始めたことを、他の者が勝手に真似するのは気が引けるでしょうね。貴族にしてみればパーティーの手法を盗んだともとられかねないし、平民からしてみれば、勝手に真似して咎められたら命に関わるかもしれないと考えるでしょうからね」

貴族の間にはいろいろとめんどくさいことがあり、貴族ですら遠慮していることを平民が勝手にやるのもまずいということらしい。しかも、俺が始めた結婚式のやり方は、俺が平民のままだったなら貴族も平民も勝手にやっても問題なかったかもしれないが、俺が平民でありながらサンガ公爵家の身内となったことで、俺に対しても貴族と同じような配慮をしなくてはいけなくなったということらしい。

「面倒くさいですね……俺以前にも同じようなことをした人はいたでしょうに」

「まあ、同じようなことをした者はいたかもしれないけど、あくまで同じようなものであって、テンマのように高級品を一人一人にコース料理として出したり、あれだけのデザート……特にあの巨大なケーキを出した者は、私の記憶にも王城の記録にもないから、テンマオリジナルの結婚式と言っていいでしょうね」

こんなところでマリア様にお墨付きをもらってしまったが……ますます面倒なことになってしまった。

「面倒事を避けたいのなら一度あの人の口から、『グンジョー市での結婚式は、テンマの考えたオリジナルのものだった』と他の貴族の前でそれとなく言ってもらった方がいいかもしれないわね。そうしてその後で、『同じ様式で結婚式をしたいのならご自由に』とテンマが言えば、勝手にやり始めると思うわよ」

とのことらしいので、その辺りの話はマリア様から王様に伝えてもらうことにした。ただし、俺からの承認に関しては、『アルバートの結婚式以降なら』付け加えることにしたのだった。そうすれば、俺がサンガ公爵家に配慮しているとも取れるので、公爵家と実は不仲であるとかいう噂は出ないだろうとの判断からだ。

「そうね、どんなに仲は良好だと宣伝しても、言う者は出てくるしそれを信じる者も出てくるでしょうけど、大多数は噂だと聞き流すでしょう。それに、『自分たちの結婚式ではなく義兄の結婚式の後で』と言うのも、好印象を持たれると思うわ。何せ、テンマの結婚式だと、半年以上も先になってしまうけれど、アルバートなら数か月待てばいいもの」

アルバートとエリザの結婚式はなるべく春のうちにするつもりとのことなので、待つとしても数か月で済むし、そもそも冬に結婚式を挙げるカップルは他の季節に比べて少ないとのことなので文句は少ないはずだ。

「アルバートにも頼まれてますし何より義兄になる人の結婚式ですから、色々と頑張ってやりますよ」

「まあ、ほどほどにしておきなさいね」

「今から結婚式が楽しみだね!」

マリア様と話していると、それまで大人しく話を聞いていたルナが会話に割り込んできた。俺が頑張ると言ったところに反応したみたいだが、そこに反応するということは……

「食事やデザートに期待するのはかまわないが、ルナだと呼ばれない可能性の方が高いからな」

「何で!」

ルナは驚いた顔をしていたが、王族からの参加者となると王様とマリア様、もしくはシーザー様とイザベラ様のペアになるだろう。もしかしたら、エイミィの関係でティーダも呼ばれるかもしれないが、そうすると王家から三人は出席する可能性があるということなので、それ以上になると出席しすぎだとなるだろう。さらに言えば、その五人と比べるとルナの重要度はかなり低くなるので、どう考えても呼ばれない可能性の方が高いだろう。

「お兄様の代わりに出る!」

「ルナ、上位貴族の結婚式に出席するのも王家の務めになるはずだから、それは出来ないと思うぞ。俺の結婚式の時にはちゃんと呼ぶから、春は我慢しろ」

それでも納得できなかったルナはわがままを言い続け、最終的にはマリア様に叱られて渋々ながら静かになったのだが……何故かわがままを言わない条件に、結婚式で出した食事とデザートを確保するように要求されたのだった。