作品タイトル不明
第16章-12 初めての夜
「ジンが苦労したのも分かるな」
ジンが模擬戦をした二日後。ケリーによる改良が施された騎士型ゴーレムと模擬戦をやってみたが、想像以上の性能を持っていた。
「いやぁ~思った以上の化け物に……なりかけているね。これは先が楽しみだ!」
ケリーは俺の相手をしている騎士型ゴーレムを見て、楽しそうに笑っていた。よっぽど自分の関わったゴーレムが強くなるのが嬉しいのだろう。
「それじゃあケリー、後二体分の鎧を頼む。まあ、中身が出来るのはニ~三か月後くらいになると思うから、無理せずにゆっくりやってくれ」
「了解した! それじゃあ、早速工房で頑張るとするか!」
絶対に分かっていないと思うが……時間がある分だけ、ケリーも急いで作ったりはしないだろう、多分。
嬉しそうに工房に向かうケリーを見ていると、また女性ドワーフたちに無理をさせるんじゃないかと心配になってしまうのだった。
「それで、誰か模擬戦やってみるか? 一応、ゴーレムに経験を積ませるのが目的だから、力は抑えさせているけど」
「うむ!」
「私が!」
模擬戦の立候補者を募集してみると、アムールとクリスさんが同時に手を挙げた。
「クリス、私の方が早かった」
「アムール、目と耳が悪くなったのかしら?」
ゴーレムの次の相手を張り合い始めた二人だが……いつものことなので誰も気に留めることは無かった。
「それじゃあ、二人で相手してみる? ゴーレムは二人を相手にしている経験が積めるし、二人は連携の練習になるだろ? ただし、訓練だから手加減はしてもらうけどね」
二人共、相手より先にゴーレムと戦ってみたいと言った感じだったから、妥協案としてペアを組んで戦う事を提案した。
「むぅ……仕方がない。クリス、足は引っ張らないように」
「アムール……普通に考えて、あなたの方が人と連携を取るのが苦手でしょ? 私の指示に従って戦うのが当然の戦法よ」
方向性の違いで睨み合いを始めた二人だったが……
「それじゃあ、始め」
それを無視して俺は開始の合図を出した。すると、
「テンマの鬼! クリス、左に回る!」
「この鬼畜! アムール、あなたは足元を狙って、出来るなら転がしなさい!」
即座に連携を取り始めた。クリスさんが牽制をしながら注意を惹き、アムールがその一撃の重さを生かして動きを止める作戦のようだ。ジンの戦い方を参考にするのなら、有効的な戦い方だけど……
「クリス! ちゃんと注意を引き付ける!」
「分かっているわよ! だけどゴーレムが乗ってこないのよ!」
ゴーレムはクリスさんの攻撃よりもアムールの方が危険と判断したらしく、クリスさんに背を向けてアムールを優先するようだ。
「なら、私が転がすまでよ!」
クリスさんが、騎士型ゴーレムの膝関節を狙って突きを放ったが、
「痛っ!」
正確過ぎて、膝の裏に追加されたガードに阻まれてしまった。
「クリス!」
クリスさんの動きが止まった瞬間、ゴーレムは振り向きざまに武器である 物干し竿(てつのぼう) を振りぬいた。
「ああ、もう! 厄介なゴーレムね!」
ゴーレムが無理な体勢から攻撃を放ったこともあって、クリスさんは余裕をもって回避したが距離が開いてしまい、ゴーレムは改めてアムールに向き合ったが、
「隙あり!」
アムールに強烈な一撃を貰ってしまった。
「むぅ……硬い……」
愛用のバルディッシュをゴーレムの胴体に叩きつけたアムールだったが、あまりの硬さに顔をしかめていた。だが、そのおかげでゴーレムは尻餅をついた状態になり、
「取った!」
ゴーレムの首に、クリスさんの剣が付きつけられていた。
「そこまで!」
クリスさんの剣は寸止めされていただけなので、例えそのまま突き刺したとしてもゴーレムが止まることは無いはずだが、模擬戦なら勝負ありだと判断して終了の合図を出した。
「クリスがいいところを持って行った! 泥棒!」
「戦場で役割が変わるのはよくあることよ。運が悪かったと思って、諦めなさい」
「それにしても、割とあっさり負けたのう」
「まあ、初めて複数を相手にした模擬戦だったからね。多分だけど、ジンにやられた膝関節を攻撃してきた方を脅威と認識したんだと思う」
二人の言い争いはいつものことなので無視して、じいちゃんと騎士型ゴーレムの戦い方を分析した。
「なるほどのう……それで目の前にアムールがいたのに、簡単に背を向けたというわけか。一つ一つの脅威に対応すると言う意味では間違いではないが、同時に対応する必要がある場面では間違った選択じゃったというわけじゃな」
今回の模擬戦で 経験を積んだ(しっぱいした) から、次は違う方法で対処しようとするだろうが、もしかしたら三人を相手にした時に同じ間違いをするかもしれない。これは単純な動きしかできないゴーレムを相手にしていては経験できないことだ。
「じいちゃん……俺、明日セイゲンのダンジョンに向かうことにする。そして、ダンジョンの攻略にゴーレムを連れて行くよ。あそこなら、普通の模擬戦じゃ積めない戦いを経験できるからね」
ダンジョン攻略は俺一人で行う予定だったが、そこに騎士型ゴーレムを連れて行くことにした。騎士型ゴーレムの防御力なら、最下層付近の魔物の攻撃にも耐えられるだろうし、危なくなったらマジックバッグに戻せばいい。それに、魔力を補充すれば動き続けることが出来るので、俺の強行軍にもついてこられるはずだ。
「わしも一緒に行きたいところじゃが……テンマの本気について行くのは難しいじゃろうな。どうせアムールたちがダンジョンに行きたいと言うじゃろうから、わしはそっちについて行くとするかのう」
じいちゃんはアムールがごねるのを見越して、そちらの面倒を見るつもりらしい。それは俺にとってもありがたいし、いずれじいちゃんやアムールたちも最下層の下にある新発見のダンジョンに潜ることを考えれば、俺に遅れてでも攻略を進めた方がいいに決まっている。それに、俺がダンジョンの攻略に成功してからじいちゃんたちと合流すれば、じいちゃんたちのサポートに回ることも出来る。
「テンマに手伝ってもらってダンジョンを攻略するのがいいことかどうかは分からんが、新発見のダンジョンの探索を考えれば、戦力は多いにこしたことは無いしのう……まあ、いずれもう一度潜らせて、攻略に足る能力を身に付けさせるとするか」
功績の前借りと言うことにするらしく、最低でももう一度、出来れば二度三度と、アムールたちにダンジョンを攻略させるつもりらしい。
「ライデンを連れて行くけど、じいちゃんたちはどうやって来る?」
「こっちは人数が多いから、ライデンを使いたいところじゃが……どうするかのう? やはり、テンマと一緒に行くのがいいんじゃないかのう?」
ダンジョンでは別行動になるにしても、セイゲンまでは一緒に行った方がいいと言うのは分かるが……
「俺やじいちゃんはよくても、ジャンヌやアムールたちの準備があるし、屋敷の管理のこともあるからね。いつも通りアイナやマークおじさんたちに頼めばいいだろうけど、向こうにも予定があるだろうし……」
今すぐにでも両方と連絡を取り、今日中に打ち合わせと準備を終えることが出来るのなら、一緒に行くことが出来ないことも無いが……
「確か、レニさんはもうそろそろ南部に帰る予定だし、ジャンヌとアウラはアイナの指導の予定が入っているよね?」
レニさんは王都から去る前にお土産や情報を仕入れておきたいだろうし、ジャンヌとアウラの指導はアイナが自分の休みを削ってまで入れている予定なので、今更キャンセルするのは申し訳ない。アムールは予定が入ってはいないが、レニさんが残る以上連れて行くことは出来ないし、そもそも婚約した身で未婚女性を連れて、ダンジョンのような場所で男女二人っきりになるのはよくないだろう。それが例え、同じパーティーのメンバーだとしても。
「確かに、急に予定を変えるわけにもいかんのう……なら、わしとテンマでセイゲンまで行き、テンマを残してわしだけ帰ると言うのはどうじゃろうか? それなら、わしたちもライデンの馬車が使えるし、王都に戻るまでに準備は出来ておるじゃろう」
確かにじいちゃんの言う通り、ライデンはセイゲンに着けば使うことが無いので、連れて帰られても問題は無い。それに、セイゲンまでライデンなら三~四日(ただし、御者の負担は考えない)で、往復なら一週間ほどだろう。それだけの時間があったら、屋敷やジャンヌたちの準備も終わっているだろう。
「なら、じいちゃんの案で行こうか。じいちゃんも、準備の必要はほとんどないでしょ?」
「うむ、今からでもダンジョンに潜ろうと思えば潜れるのう」
俺とじいちゃんは普段からマジックバッグに必要なものをぶち込んでいるので、いつでも出発できる状態になっているのだ。
「それじゃあ、さっさと屋敷に戻って、食事の準備だけしようかな?」
なので、旅やダンジョン攻略の前にすることと言えば、移動中や休憩中に食べるお菓子や食事を準備するだけだ。まあ、お菓子はすでに準備しているし、食事も屋台などで買いそろえればいいので、あまり時間はかからない。
「今回は、牛丼とかも準備しようかな?」
最近のマイブーム(オオトリ家のブーム)が牛丼なので、ジンたちに渡したように、具を入れた寸胴とご飯を入れた寸胴を複数用意すればいいだろう。
「牛丼を用意するのなら、わしたちの分も頼むぞ」
もしかすると、牛丼の量産のせいで明日出発することは出来ないかもしれない……
「とにかく、早く戻って料理をしないと」
ゴーレムを回収し、ジャンヌとアウラとレニさんに説明すると、すぐに帰る準備を始めた。
「それじゃあ、帰ろうか。道すがら屋台や店に寄っていくから、途中で俺だけ降りるな。先に戻って、料理の準備を頼む」
帰り道で別行動することを伝え、俺たちは馬車に乗り込んだ。
「よし、出発!」
「はい! 行きます!」
全員が乗り込んだことを確認した……ような気がした俺は、御者のアウラにライデンに合図を出させた。
「あ~~~! 待って、テンマ~~~!」
「ちょ、ちょっと、ま、ぶっ!」
走り出してすぐにアムールの声が聞こえたので屋根に上って様子を見ると、丁度アムールがクリスさんの両脇腹に抜き手を入れてこちらに走って来るところだった。
「アムール! 待っていてやるから、クリスさんを回収!」
よほどいい一撃が入ったのか、クリスさんは地面に寝そべって身もだえていた。そんなクリスさんをアムールは、
「むぅ……面倒。んっと、重い……」
ベルトを掴んで持ち上げ、半ば引き摺る感じで 持(・) っ(・) て(・) き(・) た(・) 。
「いたっ! いたたたたぁーーー! じ、自分で動けるわよ!」
まあ、途中でクリスさんは自力で立ち上がってこちらに向かってきたが……脇のダメージと新たに受けた両足のダメージのせいで、時間をかけながらの歩みだったが。
「それじゃあ、帰るよ」
クリスさんが乗り込んだのを確認して、アウラに再度ライデンを進ませた。ところが、
「テ、テンマ君! もっとゆっくりお願いーーー!」
馬車の振動が脇に響くのか、一度馬車を止めて回復魔法を使う羽目になってしまった。
改良ゴーレムの模擬戦から五日後、俺はセイゲンに到着した。セイゲンの手前でじいちゃんと別れた俺は、そのまま一直線にダンジョンを目指し、キリのいい六十階層までワープゾーンを使って潜った。
「それじゃあ、この辺りから始めるとするか」
ガラットに貰った地図を見て数階層下までの道筋を頭に叩き込み、騎士型ゴーレムを起動させた。
「よし、走りながら攻略を進めるぞ。近寄って来る敵は排除しろ」
騎士型ゴーレムには模擬戦で使わせていたような棒ではなく、厚みのある刀身を持つ両手剣を持たせている。普通なら両手で使うような重さを持つ剣だが、騎士型ゴーレムは片手で楽々と振り回していた。
「いい具合に魔物が寄って来るな。ゴーレムの訓練にはもってこいだ」
走っていると騎士型ゴーレムの鎧が盛大に音を立てるので、多くの魔物が俺たちに気が付いて襲い掛かってきた。俺だけなら逃げ切ることも出来るが、騎士型ゴーレムを置いて行かないように速度を落としているので、足の速い魔物に追いつかれ交戦となり、その間に足の遅い魔物も追いつかれた。他に進路を塞ぐように前方から現れるものもいるので、自然と囲まれた状態での戦闘を余儀なくされたが……これこそ騎士型ゴーレムの為に求めていた状況なので、俺は積極的に魔物を倒さず、騎士型ゴーレムに相手をさせていた。
「これがもっと上の階層だったら問題になっただろうけど、ここなら俺以外にはジンたちかじいちゃんたちしか潜って来れないから、安心して闘えるな」
チラリと横目で騎士型ゴーレムを見ると、飛び掛かって来ていたゴブリン数匹をまとめて切り飛ばしているところだった。
「とはいえ、これじゃあ普通のゴーレムをまとめて相手していた時とさほど変わりないな。ここが落ち着いたら、ある程度強い敵が現れるまでは逃げるか」
まとめて切り飛ばしたり殴り飛ばしたりするだけなら、俺の持つゴーレムを相手にさせればいいだけなので、次からはある程度強くて群れている敵が現れた時だけ、騎士型ゴーレムを戦わせることにした。
「それに、無駄な時間がかかりそうだからな」
魔物をおびき寄せて倒すということは、倒した分だけ死体が出来るというわけで、そのままほったらかしにしていくのも衛生的によくない。限られた空間で、疫病でも流行ったら目も当てられないし、責任問題にもなって来る。
なので、回収か焼却処理をしないといけないのだが、ダンジョン内での手間を考えたら回収した方が早い。だが、このペースでいけば、どれだけ回収することになるのかは考えたくはない。だったら、せめて後から活用できる魔物の時に活躍してもらった方が、後々の処理が楽なのだ。
想定していた攻略法に修正を加えた俺は、周囲の魔物がいなくなったところで死体を回収し、ほぼほぼ回収が終わったところで騎士型ゴーレムをマジックバッグに戻して走り出した。
「ガラットに貰った地図と『探索』を組み合わせれば、魔物に遭遇しないで進めるな」
たまに遠回りしてしまうこともあったが、突破できそうなときは魔物がいてもその横を通り抜け、追撃を振り切ったり奇襲で倒したりして下の階層を目指した。
「一日目は六十五階層まで来れたか。この調子でいくことが出来れば、一週間ほどで最下層まで行けるんだけど……七十を超えたあたりから一気に難易度が上がるとか言っていたから、一日一階層突破出来たら上出来と思った方がいいかな?」
多少強引に進んだかいもあって、日付が変わる前に五階層突破することが出来、休憩をするのにちょうどいい場所も見つけることが出来た。
ここまではかなり調子がいいが、この先はそううまくはいかないだろう。今俺がいる辺りは下層の中では楽な方らしく、ジンたちも地図があれば問題なく進めると言っていたが、七十階層を過ぎた辺りからは地形の起伏が目立ってきて、魔物も強くて一癖二癖あるやつが増えるのだそうだ。
ただ、逆に九十階層辺りからは上に続く通路と下に続く通路が比較的近くにあるそうで、一日もかからずに突破出来るだろうと言っていた。もっとも、その情報をくれたジンたちは、まさか降りてきた通路のすぐ近くに下に続く通路があるとは思わず、無駄に時間をかけてしまったこともあったそうだ。
「無事に最下層に到達出来たら、改めてジンたちに礼をしないとな」
ジンたちが数年かけて得た情報のおかげで、俺は数か月(この調子だと、一か月ちょっと)で最下層に到達できるかもしれないのだ。どれだけの礼をすればいいのか見当がつかないが、追々考えて行こうと思う。
「何にせよ、まずは最下層に到達しないと。その為にも、明日は七十階層まで行きたいところだな」
目標を立てた俺は手早く牛丼を作って頬張り、食べ終えたどんぶりを洗わずにマジックバッグの中に入れた。マジックバッグに入れておけば、どんぶりに付いた食べかすなどが腐敗することが無いので、次の時に使っても汚くない(雑菌が繁殖することがない)し、水や時間の節約になるのだ。普段はやらないが、割と知られている冒険者の知恵である。まあ、洗うのが面倒くさいと言う理由もあったりもするのだが……今回はちょっとした理由があって、この方法を使っているのだ。その理由とは、
「スラリンがいない野営は、何気に初めてだな」
今回、後発でやって来るじいちゃんたちの為に、スラリン・シロウマル・ソロモンは連れて来ていないのだ(なお、 残りの二匹(ゴルとジル) は、屋敷に残って 好きに過ご(糸を量産) している)。これは、じいちゃんだけでジャンヌたちのフォローは難しいということで、ある意味一番頼りになるスラリンに手伝って貰うことにしたのだ。
野営に関しては、幼いころからスラリンとはずっと一緒だったので、『大老の森』で父さんに初めて夜の狩りに連れて行ってもらった時も一緒で、俺の冒険者としての経験の多くの場面にスラリンが登場するのだ。
「そう考えると、少し寂しく感じるな……まあ、ジャンヌたちの安全を考えたら、これがベストな形だから仕方がないけど」
そんな感じで、俺の初めての夜は更けていった。
ちなみに、今回時間を知るのに使ったのはロウソクで、あらかじめ無風状態でどれだけロウが減るのかを計測し、実験に使ったものと同じ種類のロウソクに一時間単位で印を付けて使っているのだ。
このロウソクを何本も用意して連続で使用し続けることで、多少の誤差はあれど、大まかな時間と日付を知ることが出来るようになるのだ。
基本的にディメンションバッグの中に置きっぱなしで、交換の時以外は外に出しはしないが、このやり方で大きな問題が無かったら今後も使うつもりだし、サンガ公爵の伝手を使って商品化してもいいと思っている。まあ、使用する前提条件として、ディメンションバッグか、最低でも風を遮断するランタンのようなものが必要だし、無酸素状態にならないように気を付ける必要はあるが、それらさえクリアできればなかなか面白く有用な品物だと思っている。
「寝る前に、ロウソクの交換をしとかないとな。後は、護衛にゴーレムたちを出しておくか」
いつものように、ダンジョンで休憩する時と同じく魔物や虫が入ってこられないようにはしているが、何か不測の事態が起こった時の為に、時間稼ぎ用のゴーレムと護衛代わりの騎士型ゴーレムを出して待機させ、この世界に生まれてから一番静かで寂しい夜を過ごしたのだった。