軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第16章-3 瓢箪から駒

「テンマ、しばらくの間世話になるぞ!」

「ああ……ジャンヌ、アウラ、ジンたちを客室に案内してくれ」

パーティーから数日後、『暁の剣』が王都に到着し、オオトリ家の屋敷に滞在することになった。一応、事前に手紙で王都の情勢を知らせ、どうするかの判断を任せたが、すぐにうちに厄介になると言う返事の手紙がテッドによって運ばれてきた。だが、俺にはジンたち以上に厄介なことが起こっていた。それは、

「その前にお聞きしたいんですけど……テンマさん、プリメラちゃんと婚約したって本当ですか?」

ジンたちのダンジョン攻略で王都の話題は『暁の剣』一択になると思っていたのだが、パーティーで俺とプリメラが踊ったことで、俺とプリメラが婚約したのではないかと言う噂が流れたのだ。大貴族の令嬢と大会で無敗記録を更新中のSランク冒険者の婚約、さらに言えば俺が冒険者として正式に活動し始めた頃からの知り合いであり、父親や家族とも親交があり、中でも嫡男とは親友と言ってもおかしくないくらいの間柄で、何度か恋仲なのでは噂があったせいで、今度こそ本当の話だと言われているのだ。

「それに関しては噂に過ぎないが……完全に俺がもの知らずだったせいだ。プリメラやサンガ公爵には、申し訳ないことをしたと思っている」

俺の落ち度……それは、未婚の女性をダンスのパートナーに選んだことだった。しかも、よりによって一曲目の相手に……

「よくよく考えれば、ダンスの一曲目は そ(・) う(・) い(・) う(・) 相(・) 手(・) とするものだよな」

ダンスの一曲目の相手は、基本的に伴侶や婚約者、もしくは恋人と踊ることが多く、特に貴族のパーティーはその傾向が強い。つまり、そんな状況でプリメラをダンスの一曲目に誘ったということは、俺がプリメラにそういう関係になりたいと態度で示し、それをプリメラが受け入れたとみなされているのだ。

「ん? それだと、アムールと踊った時は、何で騒がれなかったんだ?」

これまで一曲目は、マリア様、アムール、ハナさんの順で踊っており、マリア様とハナさんは既婚者だし俺とどういった間柄かはすでに広まっているので、そういった関係ではないと周りは理解していただろうが、アムールは独身で一応貴族令嬢なので、噂にならなかったのは何でだろうと思っていると、

「互いにパートナーがいないのを、チームメイトで間に合わせたのだと思われたのではでしょうか?」

と、リーナが言うので少し考えてみると……

「確かに、いつもと変わらない光景だったかもな。踊りも雑なものだったし」

いつもみたいにアムールが俺の周りをうろついているようなものだったし、技術の無い者同士のダンスだったので隅っこでひっそりと踊って目立たないようにもしていたので、ダンスが下手だったという以外の話題にならなかったのだろう。

ちなみにマリア様の相手をした時は、ダンスのレベルが違い過ぎて転ばないようにするので精いっぱいだったし、ハナさんの場合は周囲がワルツを踊っている中で、一人だけサンバを踊っているようなリズムだったせいで、その時も転ばないようにするので精いっぱいだった。

「とにかく、プリメラちゃんを泣かすような真似だけはしないでくださいね」

リーナがそう締めくくると、話しが終わったと判断したアウラがジンたちを部屋に案内しようとしたが、

「色男は大変だな」

「キレイどころを侍らせて、羨ましい限りだ」

ジンとガラットがからかってきた。なので、

「アウラ、ジンとガラットはジュウベエたちの所に連れていけ。隅っこなら、ジュウベエたちも許してくれるだろう。ジャンヌは予定通り、メナスとリーナを客室に案内してくれ」

「分っかりました~!」

アウラがノリノリで返事をするとジンとガラットが慌て始め、メナスとリーナは薄ら笑いを浮かべながら二人の横を通り過ぎてジャンヌについて行った。

その後、しばらくジンとガラットで遊び、満足したところでアウラに二人を部屋に案内するように指示を出した。

ジンたちを出迎えたらやることが無くなったので、おやつの大量生産でもしようかと食堂へ向かうと、食堂ではクリスさんが昼間っから飲んだくれていた。パーティーの翌日に戻ってきたクリスさんは、同僚から男性の人気が高かったことを知り、しかもその時間が短かったと聞かされて荒れているのだ。

「テンマ君……私の価値って、何なんでしょうね……」

面倒くさいのに捕まってしまった。気が付かれる前に逃げれればよかったのだが、少し考えごとをしていたせいでクリスさんに気が付くのが遅れてしまった。

「さぁ? 人の価値は人それぞれですから、俺には分かりません」

当たり障りのない返事をし、関わらないように厨房に逃げた。そして、厨房でおやつ作りの準備をしていると、

「ジャンヌ、もっと奥の方に行って!」

「ちょ、ちょっと、押さないでアウラ……あれ?」

ジャンヌとアウラが慌てた様子でやってきた。恐らく、俺と同じようにクリスさんから逃げてきたのだろう。

「何かやることがあるのなら場所を譲るぞ?」

二人に仕事があるのなら、俺の方はいつでもいいので邪魔にならないようにどこかに行こうと思ったが、

「いや、あの……別に仕事で厨房に来たわけじゃ……」

ジャンヌが言いにくそうにしているのを見て、二人が仕事ではなくクリスさんから逃げてきたのだと理解できた。

「じゃあ、俺の手伝いをしてもらえるか?」

「「喜んで!」」

二人が暇だと分かったし、クリスさんのところに追い返すのもかわいそうだったので、俺のおやつ作りを手伝ってもらうことにした。二人も、クリスさんのところに戻らなくてもいい理由が出来たとばかりに、食い気味に返事をしてきた。

「マジックバッグに入れているお菓子が心もとないから、量を重視して作りたい。そこで、アウラとジャンヌはクッキーを中心とした焼き菓子。俺はパンケーキを作る。何か質問は?」

「む! 試食係は任せろ!」

「私も焼き菓子の方に参加しますね」

ジャンヌとアウラに向けて話したつもりが、いつの間にか近くにアムールとレニさんも来ていた。

「レニさん、お願いします。アムール、残念ながら試食係の募集はしていない。まあ、手伝ったらその限りではないけどな」

「……了解」

自信のないと言った感じのアムールだったが、お菓子を食べる為にも手伝うことに決めたようだ。

「それじゃあ、改めて……ジャンヌとアウラはクッキー以外の焼き菓子で、アムールとレニさんはクッキーを量産、俺はパンケーキを作る。では、それぞれ開始してくれ」

アムールとレニさんを組ませて、比較的簡単なクッキーに限定させれば大丈夫だろうということで、慣れているジャンヌとアウラには他のお菓子を担当してもらうことにした。

「こういう時、広い厨房でよかったと感じるな」

王様がじいちゃんの為に建てた屋敷だが、自分たちも利用するつもりだったからなのかククリ村の人たちも利用することを考えてのことなのかは分からないが、建物の大きさの割に食堂と厨房は広く作られている。そのおかげで、三種類のお菓子を同時進行で作ることが出来るのだ。

「何か、パンケーキと言うより、どら焼きの皮を焼いているみたいだな」

大きな鉄板の上に小さめの生地を何枚も並べて焼いていると、どうしても焼き色が濃くなってしまうものがでる。その濃いめの焼き色が、パンケーキと言うよりどら焼きの皮のように見えるのだ。

「焼き色が濃いやつは、あんこやクリームを挟む用に分けるか」

小豆は南部産のものがあるので、あんこを作ればどら焼きっぽいものが出来るだろう。まあ、あんこは作ったことは無いがぜんざいは作ったことがあるので、それを煮詰めればあんこっぽいものが出来るだろう。

ある程度皮になるものが出来たので、次は鉄板の温度を下げてパンケーキの量産に入った。すると、

「テンマ君……私のことをどう思っているの……」

亡霊のようなクリスさんがやってきた。

「クリスさんはクリスさんですよ」

「そんなことを聞いているんじゃないの!」

いつもとは違うからみ方に辟易していると、食堂に誰かが入ってきたのを気配で感じた。入ってきたのは三人で、先頭で入ってきたのがアルバートみたいなので、いつのも三馬鹿だろう。

「ちょっと~テンマ君聞いてる~? それで、私とプリメラ、どっちがいいお嫁さんになりそう~?」

少し意識を逸らしているうちに、クリスさんの話は変な方向に行っていた。

「それだと、プリメラですね。クリスさんみたいに、酔っぱらって俺にからんでくることがないですから」

プリメラの場合、からむ前に酔い潰れることが多いので、よくあるいいお嫁さんの基準とは違うだろうが、人によっては重要な基準ではあるだろう。

「そ、それじゃあ、お母さん! どっちがいいお」

「プリメラです。昼間っから頻繁にお酒に酔う女性が、子供にいい影響を与えるとは思えません」

「ふぉっ!」

これに関しては、クリスさんも思い当たるところがあるのだろう。まあ、頻繁に酔っぱらうからと言って、まともに子育てを出来ないとは限らないが……聞こえはよくないだろう。

「そ、それじゃあ……」

「プリメラで」

何を言おうとしたのか分からないが、酔っぱらいにまともな対応はしなくていいだろう。

「クリスさん、邪魔だから食堂に戻って」

「はい……」

クリスさんを追い返して、残りの生地で次々にパンケーキを焼いて行った。

「生地もなくなったし、これくらいあればいいか」

大量に生地を作ったので、直径が十cmほどの大きさのパンケーキが百枚、同じ大きさのどら焼きの皮が五十枚出来た。しかし、形の崩れたものや焦げがひどかったものが五十枚分出てしまったので、これらは味見と言う名のおやつに回すことにした。

パンケーキを焼き終えてからしばらくして、ジャンヌたちもそれぞれのお菓子を作り終えたようだ。作ったものの中で、失敗作から優先的に試食に回すことにして、残りはマジックバッグに保存した。

「それじゃあ、皆で味見しようか……と、その前に……レニさん、アムールどうしました?」

大量のクッキーを目の前にして、アムールが大人しくしているのだ。しかも、声をかけても一向に返事をせず、それどころか口を開く様子も見せない。

「実は、その……出来立てを数枚頬張りまして、口の中をやけどしました」

「……アムール、こっち向いて口を空けろ……『アクアヒール』」

何のことはない、いつものアムールだったというだけの話だった。出来立ては美味いだろうと欲張った結果、口の中をやけどしてしゃべることが出来ない状態と言うだけだ。

「死ぬかと思った……焼きたてクッキーは凶器!」

アクアヒールで治療をすると、いつもの騒がしいアムールに戻り、クッキーの危険性を訴えてきた。

「待たせたなアルバート、カインとリオンも食べるだ……ろ?」

ほったらかしにしていたアルバートに軽く謝罪し、カインとリオンにもおやつを進めようと声をかけたところ……アルバートの近くに座っていたのはカインとリオンではなく、サンガ公爵とプリメラだった。

「テンマ君、私をどちらと間違えたのかな?」

サンガ公爵は楽しそうに訊ねてきたが、カインならともかくリオンと間違えましたとは言えないだろう。まあ、元々アルバートたちは三人で一セットというイメージから確認していなかっただけなので、カインとリオンのどちらかと間違えたと言うわけではない。

「いえ、どちらと間違えたとかではなく、ただ単にアルバートが三人組でうちに来たら、ほぼ百%の確率で相手がカインとリオンだったので間違えただけです。まあ、今回の件で九十九%くらいに下がりましたけど……今後は気を付けます」

「ああ、それなら仕方がないですね。むしろ、そんなにお邪魔しているアルバートたちに原因があるとも言えそうですし」

サンガ公爵は、俺が間違えた理由を聞いて笑い、アルバートは公爵から「遊びに行きすぎだ」と言われたと思ったのか、苦笑いを浮かべていた。

「それで公爵様、今日は何の用事で……の前に、プリメラはどうしたんですか?」

プリメラはテーブルに突っ伏して、俺の方を見ようとはしなかった。その様子は、奇しくもクリスさんと全く同じ格好……なのだが、プリメラの原因は分からないがクリスさんは飲みすぎで酔い潰れているだけなので、同じなのは格好だけ……のはずだ。

「分かりませんか……本当に、分かりませんか?」

サンガ公爵が念を押すように聞いてくるが、全く覚えがなかった。

「テンマ……クリス先輩との厨房でのやり取り、食堂まで聞こえていたぞ」

「食堂の……やり取り? ……あっ!」

そう言えば、クリスさんとプリメラのどちらがいいお嫁さんや母親になりそうとか質問してきたので、全てプリメラと答えたんだった。面倒くさかったのもあるが、真剣に考えたとしても俺の答えは変わらなかっただろう……と言うか、選択肢が二つで相手があの状態のクリスさんであれば、プリメラ以外の答えは出なかっただろう。

「ただでさえ世間では、テンマと婚約しただとかいう噂が出ているんだ。噂自体は気にしていなくても、テンマの口から好意的な言葉が出たので、恥ずかしがっているんだろう。そっとしてやってくれ」

「まあ、噂に関していえば、プリメラの自業自得のところがありますからね。気にしなくても……いや、この場合は気にしてもらった方が、プリメラの為になるのかも……」

サンガ公爵は、途中から考え込んで呟いていたが……近くにいたので丸聞こえだった。多分、わざとだろう。

「それでサンガ公爵様、今日は何の用事なのでしょうか?」

少し強めの口調で聞くと、サンガ公爵は呟きを中断して居住まいをただし、真剣な顔になった。

「実は婚約の噂のことで来ました」

やはりそうかと思っていると、

「と言うのは嘘……ではないですけど、今日は『暁の剣』のことで来ました。アルバートとプリメラを連れてきたのはカモフラージュで、一緒に来れば世間は勝手に婚約の話で来たと思うでしょうし、改革派の貴族にもそういう言い訳が出来ます……と言うわけで、『暁の剣』の皆さんを呼んで貰えますか?」

本当の目的はジンたちに会う為だった。さっきから、俺をからかって楽しんでいるようだ。

「アウラ、ジンたちを呼んできてくれ」

そうして連れてこられたジンたちだが……めちゃくちゃ緊張していた。まあ、くつろいでいたところに、いきなり公爵からの呼び出しを食らったのだ。いくら俺を通してサンガ公爵のことを知っていたとしても、リーナを除いて直接話をする機会はほとんど無いと思うので、緊張するのも無理はないだろう。

「まずは、このたびのセイゲンダンジョンの攻略、おめでとうございます」

「あ、ありがとうございます」

ジンが礼を言うと、それに続いてガラットたちも礼を言った。

「それで、ダンジョンの核を王家に献上したいとのことでしたが、その対価に何を望みますか?」

セイゲンダンジョンの核を献上する対価に、正式な爵位と領地をそれぞれに与えるとのことだ。しかし、ジンたちは領地を経営する能力が無いことと、そもそも貴族になる意思がないことを理由に辞退した。

「それだと困りましたね……対価が金銭だと、買い取ったのと変わりがありませんから……宝石はかさばるから嫌なのですよね?」

王家としてはジンたちに何らかの特別な報酬を与えたいが、金銭だと公爵の言った通り買い取ったのと変わらないし、宝石以外に価値のあるものだと、ダンジョン核に見合うだけのものを用意できない。

「結局、王家としては爵位を与えるのが手っ取り早く分かりやすいというわけですか」

「テンマ君のように、数多くの功績を積み重ねているのに爵位を断る人もいますからね。『暁の剣』の皆さんの言い分も通るでしょうが……」

「俺の場合、ジンたちと違って金銭で済むような功績ですからね」

ドラゴンゾンビは非公式となっているし、地龍や走龍は一冒険者としての功績で、献上などせずに必要のない部位を売却しただけだ。一応、南部でダンジョンを攻略しているが、小規模だった上に南部自治区領での功績なので、報酬はハナさんより貰っている。なお、ハナさんはアムールを報酬として渡そうとしてきたが、俺とロボ名誉子爵の意見が珍しく一致した為、金銭や南部の特産品と言ったものに収まった。

「クーデター騒動の時に、強引にでも爵位を与えるべきだったかもしれませんね」

「王様が強引にことを運ぼうとしたら、マリア様に泣きつくだけですから」

卑怯な手ではあるが、マリア様を味方に付けることが出来れば、王族関係のことに関して言えば大抵のことは何とかなるのだ。

「まあ、今はテンマ君のことは置いておくことにして、本当にどうしましょうかね?」

サンガ公爵は、困っていないような顔で困ったを連発するので、

「貸しにしておけばいいんじゃないですか? ジンたちも、今は冒険者として活動しているので爵位に興味がないみたいなので、冒険者を引退する時に爵位を与えるということにすればいいんじゃないですか?」

要は報酬を先送りにすると言うことだが、王家として確約さえすれば報酬として通用するのではないかと思ったのだ。

「そうですね。それがいいかもしれませんね」

サンガ公爵は、俺の提案をあっさりと採用した。多分、俺がその案を言い出すのを待っていたのだろう。ジンたちも、爵位を受け取るのが今すぐでなく、何十年後かならと言う感じで納得していた。

「もしかして、初めから俺をジンたちと王家の間に入れるつもりでした?」

「まあ、その通りです。『暁の剣』の皆さんが爵位を拒むのは想像できていました。なので、王家と『暁の剣』の双方と深い関わり合いがあり、なおかつ貴族や世間に影響力のあるテンマ君が出した折衝案なら、反対する者が現れても抑え込むことが出来るというものです」

王様たちに利用された感が半端なかったが、王様たちとジンたちの間に立てるのが俺しかいなかったというのなら仕方がないだろう……俺の案が採用されたら、王様にちょっとしたお願いをしてみよう。

「テンマ様、お客様です」

サンガ公爵がいるタイミングで誰が来たのだろうと思っていると、

「邪魔するぞ」

じいちゃんの親友(アーネスト様) だった。しかも、王族らしく許可を出す前に屋敷に入ってきている。

「帰れ! ジャンヌ、塩じゃ! 塩を撒けい!」

突然のアーネスト様の登場に、じいちゃんが怒鳴り声をあげてジャンヌに塩を撒くようにと叫んだ。その声に驚いたジャンヌは、急いで塩の入った壺を取ってきたが……どうしていいのか分からずに俺に渡してきた。

「じいちゃん、追い返されても困るよ。ようやく黒幕っぽい人が来てくれたのに……とりあえず、その辺に適当に座ってください。ジャンヌ、これを戻してくるついでに、水でも持ってきて」

「ジャンヌ、こやつに出すカップは、流しのところにあったシロウマルのお古を使うとよい……と言うか、それを使うのじゃ!」

シロウマルのお古って……使わなくなったうえにひびが入っていたので、廃棄する予定だったやつだ。水でもてなそうとする俺もひどいだろうが、じいちゃんはもっとひどかった。

「ジャンヌ、やっぱり普通にお茶を持ってきてくれ」

これ以上ふざけるとじいちゃんがマジになりそうだったので、ここら辺で止めることにした。

「それで、今日の目的は『暁の剣』の報酬の件でしょうか? それならジンたちの望みはまとまりました。後日、サンガ公爵様が王様に報告する予定です」

「これでお主の仕事は終わったじゃろ? さっさと帰ったらどうじゃ……と言うか、帰るのじゃ!」

じいちゃんはしきりにアーネスト様を追い返そうとしているが、アーネスト様の仕事がジンたちの報酬についてだったとしたら、用事はすでに終わっているはずだ。なので、ここで追い返しても問題は無いはずなのだが……アーネスト様は他にも話すことがあるのかじいちゃんを無視してサンガ公爵の近くの席に座った。

「ふむ、そっちの話はまとまったのか、それは重畳。それでサンガ公爵、本命の話はどうなっておる」

「はっ! その話は今からするところでした」

そ(・) の(・) 話とは何だろうと思ってアルバートを見ると、アルバートも分からないようで首を横に振っていた。一応プリメラの方も見たが……目が合うとすぐテーブルに顔を伏せた。

ジンたちは、自分たちの話から俺の個人的な話に移ったと判断したようで、アーネスト様とサンガ公爵に断りを入れて自分たちの部屋に戻って行った。

「それで、本命の話とは?」

嫌な予感がするが、話をするまで二人は動きそうにないので聞いてみると、

「実は、時間が余ったらと思っていたのですが……思った以上に報酬の話が早く終わったので、私的な話が出来ますね」

サンガ公爵の気配が、いつもとは全く違うものに変化したように感じた。

「単刀直入に言いますと……テンマ君、プリメラと婚約してくれませんか?」

「は?」

「ふぇっ!」

サンガ公爵の言葉に驚いたが、俺以上にプリメラが驚いていた。その他にも、じいちゃんやジャンヌやアウラは驚きすぎて固まっているし、アムールとレニさんは驚きで耳や尻尾を逆立てて固まっている。なお、アルバートは驚くと同時に混乱したようで、変な動きをしながらプリメラの周りをうろうろしていた。

「もし婚約に抵抗があるようでしたら、そばに置くだけでもかまいません。まあ、分かりやすく言えば、『愛人』という形ですかね」

婚約者と愛人とでは、かなりの開きがあるし父親が娘を愛人として置いてくれと言うのはどうかと思っていると、

「いやまあ……普通なら例えテンマ君が相手でも、プリメラを愛人にしてくれなどとは言いませんよ。ただ、今回はちょっとした事情がありまして……」

サンガ公爵が少し言いにくそうにしていると、

「先日、プリメラ嬢がテンマと踊ったのを見た貴族たちの中には、プリメラ嬢には結婚の意思があると思った者がいたらしく、テンマの代わりに自分の息子をと言い出す馬鹿もいるのだ。それと、テンマがプリメラ嬢と結婚しないのは無責任だと言う者もおる。その者たちは口にこそしないが、無責任なのは放置する公爵も、知りながら口を出さない陛下も同じだとにおわせておってのう……本人たちは否定するじゃろうが、少なくともわしにはそう思えた」

アーネスト様がサンガ公爵の代わりに口を挿んだ。確かに本気でそう思っている奴もいるだろうし、嫌がらせで言う奴もいるのだろうが、それでも貴族社会では俺とプリメラの行動は非難される面もあるのは事実とのことだった。

「その者たちを物理的に黙らせることも可能ですが、それをすると国を二つ三つに割る大混乱が起こってもおかしくはありません。非とは言いませんが、貴族の世界ではおかしいと思われても仕方がない面もありますから、絶対にこちらが正しいとも言い切れないのです。そこで、プリメラがテンマ君の婚約者、もしくは愛人だということにすれば、批判をかわすことが出来るのです」

貴族が有力者に娘を愛人として差し出すことは珍しくないし、批判している貴族の中にもそういったことをしている者はいるので黙らせることが出来る。それに、俺とプリメラの間を裂くような真似をしようとしたと逆に非難することも出来るのだとか……まあ、それに関してやや強引な気もするが、そもそも王族や大貴族に難癖をつけたようなものなので、その結果相手がどうなろうと自業自得ではあると思う。

「そういうことですので、プリメラを愛人ということにして、そばに置いてもらえませんか?」

サンガ公爵は世間話をするかのようにさらっと言っていたが、結構大事になりかけている気がする。

それにしても、プリメラを愛人にか……初めて会った時にはそんなこと考えられなかったな……とか思っていると、

「サンガ公爵の頼みを聞いてもらえるのなら、王家が責任をもってうるさいハエどもの処理をすると約束しよう」

俺が悩んでいるとアーネスト様が勘違いし、騒いでいる貴族たちを抑えると言い出した。

「いやまあ、婚約するのはいいんですけど、初めて会った時はこんなことになるとは思いもしなかったなと考えていただけです」

「そうですか、愛人として置いてもらえますか。まあ、ふりだけでいいですので、あまり気にせずに……もっとも、一緒にいるうちに結婚したくなったら、ふりだとか気にせずにしちゃっても……あれ?」

サンガ公爵は、俺の言葉に違和感を感じたようで、途中で話を止めて周囲を見回し始めた。

「ええっと……愛人ではなくて、婚約にするの? 本当に? 冗談ではなくて?」

「はい、そう言いましたけど」

「プリメラちょっとこっちに。アルバートも来なさい」

サンガ公爵はまだ信じられないのか、プリメラとアルバートを呼び寄せた。二人も、俺の言葉が信じられないようで、驚きの声を出すことなくサンガ公爵の言うままに近寄った。そして、

「んっ!」

「いだっ! いだだだだっ!」

サンガ公爵はプリメラの頬を優しくつまみ、アルバートの頬を思いっきりひねり上げ、

「ふむ……アルバートの反応を見る限り、幻聴というわけではないようだな……プリメラ、おめでとう」

と言って、頬に真っ赤な跡がついたアルバートを放り投げるように捨てて、プリメラに祝福の言葉を送っていた。