軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第15章-6 二例目

「本日は時間を作っていただき、誠にありがとうございます」

「え~っと……とりあえず、上がってください」

訪問日のお昼を過ぎた頃、サンガ公爵とアルバートとプリメラがやってきたのだが、いつもとは違い固い雰囲気の挨拶から始まり、手土産まで持参していた。サンガ公爵とプリメラの礼儀正しい姿は違和感がないが、いつも気軽な感じでやってくるアルバートには、強い違和感を覚えた。そのせいで、一瞬だけ偽物なのかと疑ったくらいだ。

「とりあえず、今日の目的を教えてください。あと、口調はいつもみたいにしてもらえると……正直、アルバートがそこまでかしこまっているのは、とても違和感があります」

「ぷっ!」

応接間に通し、早々にいつも通りにしてもらおうとアルバートをだしに使うと、プリメラが真っ先に吹き出し、アルバートは何か言いたそうな顔をしていたが、公爵の手前我慢しているようだった。そしてサンガ公爵自身はそんな二人を見て、ため息をつきながらもいつもの雰囲気になった。

「お願い……と言うか、依頼を出したいと思ったのでかしこまってみたのですが、アルバートがいる時点で無理だったようですね」

「父上、私のせいにするのは、さすがに失礼ではないですか?」

「いや、アルバートはリオンたちとセットという印象が強いからな。黙って大人しくしていると、偽物か、もしくは良からぬことでも企んでいるのかと思ってしまうぞ。それか、何か後ろめたいことでもあるのか? とかな」

三人の態度から何か後ろめたいこと、もしくはそれに近いことがあるのではないかと考えたのだが、その考えは当たっていたらしく、三人そろって苦笑いをしていた。

「確かに、良からぬことと言われても仕方がないことなのですが……実はグンジョー市騎士団第四部隊……つまり、プリメラとその部下たちの実力を見てもらいたいのですよ」

確かにその内容だと、良からぬ企みと言われても仕方がないだろう。

これまでサンガ公爵は、俺に依頼自体は何度か出してはいるが、そのほとんどが納品系の依頼だ。食べ物のようなものならば、俺が自分で選んで受けた依頼をこなしている最中に、もしあったら確保してくれ程度の依頼だとか、知り合いだけに卸しているゴルとジルの糸を、便宜上依頼として俺に出したと言った感じの、言い方は悪いがなれ合いのようなものばかりだったのだ。

だというのに今回は、自分の持つ戦力の向上が目的としか言えない依頼で、この依頼の内容が広まれば他の貴族が、「自分も同じ依頼を出すから受けてくれ」と言い出してくるだろうと予測できるものであり、さらには俺の後ろ盾である(と思われている)王家の機嫌を損ねそうな依頼ともいえる。

「テンマ君の疑問は分かります。ただ、これは事前に陛下に話を通してあり、テンマ君次第だと言うお言葉をいただいています」

王様とマリア様が、そのことを俺に知らせないと言うのも珍しいなと思っていると、

「実は、これはサンガ公爵家の一部と陛下たちしか知らない情報なのですが、我が領内に、ケイオスと同じような化け物が現れました」

「なっ!」

危うく大声を出しそうになったが、屋敷には南部自治区の諜報員であるレニさんがいるのを思い出したので、すぐに口を塞いで周囲を『探索』で探った。その結果、レニさんは厨房の方で何かしているらしく、応接間を探っている様子は見られなかった。

「聞きたいこともあるでしょうが、まずは最後まで私の話を聞いてください。その化け物ですが、結果から言えば、被害が出ることなく終わりました」

前例がケイオスだけなので、強さにおいてそれぞれにどのくらいの差があるのか分からないが、それでも無傷で倒すのはすごいと思った。だが、

「被害が出ることなく終わっただけで、倒したというわけではないのです。相対した者の話によると、追い詰められて薬を服用したまではケイオスと同じなのですが、ケイオスと違って、異形化してすぐに血を吐いて倒れたそうです。そのまましばらく様子を見ても、全く動く気配がしなかったそうで、触って確かめたところ死亡していたとのことでした」

二例目であまり情報を得られなかったのは残念だが、もしもその化け物がケイオス並みの強さを持っていたとしたら、並の強さではいたずらに死者を出すだけとなっていただろう……と、言うことは、

「俺に、第四部隊の強さを測れ……ということですか?」

仮にケイオスと同程度の強さを持つ化け物が現れた場合、第四部隊はどこまで通用するのか見てほしいということなのだろう。

「そういうことになります。ただ、そのままですと、他の貴族が同じような依頼を出してくると思われるので、依頼を受けてもらえる場合は、テンマ君が、 た(・) ま(・) た(・) ま(・) 近衛兵と訓練をしている日に、私が私兵として王都に置くことにしたグンジョー市騎士団第四部隊を 偶(・) 然(・) 連れて行き、陛下とライル様が、昔第四部隊がテンマ君に迷惑をかけた話を思い出して 悪(・) 乗(・) り(・) し、訓練と言う名目で模擬戦を行わせると言う流れになります」

依頼を頼みに来たと言う割には、俺が受ける前提で話しが進んでいるようだ。最初あった時、三人の態度がおかしかった理由はそのせいだろう。

「まあ、近衛兵や王城の騎士団とはたまに訓練を一緒にやっているので、そこに王様とライル様のわがままで加わると言うのなら無理のない流れとは思いますけど……同じことを他の貴族がやりませんかね? その条件だと、少なくともサモンス侯爵やハウスト辺境伯が同じことをした場合、俺の方に断る理由がありませんし、数が増えると俺の知らない貴族……王家に影響力を持つ公爵家などが来た場合、断りづらくなりませんか?」

サモンス侯爵やハウスト辺境伯のところだったら、騎士団とも付き合いがあったり面識があるので構わないが、それ以外だとやりたくはないし、数が増えると王様も断り切れなくなるかもしれない。そう思っていると、

「これは、王家の命令でも 依頼(おねがい) でもなく、陛下とライル様の暴走です。よって、模擬戦がちょうど終わるタイミングで、マリア様とシーザー様が騒動に気が付いてやってきます。そして、陛下とライル様は、どこかへと連れて行かれます」

「つまり、二人がいつも俺にやっている、『いたずら』だったということにしようと言うわけですか……通用しますか?」

「通用させます。その為に、陛下とライル様が犠牲になるのです」

「いや、言い方が悪いですけど、全てやらせでやるんですから、犠牲と言うのは違うんじゃないですか?」

公爵の言い間違いかなと思ったのだが、公爵だけでなく、アルバートとプリメラまでも悲痛そうな顔をして、

「いえ、あの……これはマリア様とシーザー様から口止めされているのですが、普段の行いが悪いということで、丁度いいタイミングなので、お二人にはいろいろと反省してもらうとのことでした」

俺にそんなことを話していいのかと聞くと、王様とライル様に漏らす心配のない相手ならば、公爵の裁量で話してもいいと許可を得ているそうだ。

「そういうことならかまいませんが、今回の報酬はどうなるんですか?」

「それは、王家から迷惑料として支払われることになっています。まあ、実際は王家とサンガ公爵家の折半ですが、表立って公爵家が支払うとやらせだとバレてしまうので、このような方法を取ります」

俺としては、たまに行う訓練の相手が代わるくらいなので、面倒くさいことを王家と公爵家が引き受けてくれるのならばかまわない。それに、考えようによっては、少し違う訓練をして報酬が貰えるので儲けものである。

「それで、いつやるんですか?」

「受けていただけるということですね。ありがとうございます! 第四部隊……王都の騎士団と紛らわしいので、グンジョー市騎士団と呼びますが、こちらの準備は整っていても、近衛隊や王城の騎士団の準備が必要ですので早ければ明後日、遅くても十日もかからないでしょう。予定日の前日には、テンマさんに知らせが行くように手配します」

依頼は依頼でも、書類や契約書を残すわけにはいかないので、報酬や条件などは口約束しかないのだが、王様や公爵たちが約束を破るとは思っていないので、これくらいの約束で十分なのだ。

「それで気になったことがあるのですが……私兵として王都に置くと言いましたが、今後プリメラは王都に住むのですか?」

私兵として王都に置くということは、部隊長であるプリメラは王都に移住するということになる。

「完全にではないですが、王都にいる時間の方が多くなります。グンジョー市騎士団ですが、ここ数年入隊者が増えていて、団員が余りかねない状態になっているのですよ。そこで、プリメラの拠点を王都に移し、公爵領の各地の街や村と王都を行き来する、連絡専門の隊を創設することになりました。幸い、プリメラの隊は貴族の血縁者が多いので身分がはっきりしており、緊急性の高い情報を運ぶ際、関所などの通過が容易になりますからね」

「ああ、それで実力を知っておきたいのですか」

二体目の化け物が出た以上、三体目もいると考える方が自然だし、その為の連絡員が必要なのも当然だ。ただ、その連絡員が化け物に出会ってしまった場合、倒せなくとも逃げ切るか、時間を稼ぐだけの実力が必要となる。それが出来るか知りたいのだろう。そしてそれは、王家にとっても知りたいことで、あわよくば公爵家の情報も狙っているかもしれない。

「まあ、王家とは情報を交換することで合意していますから、ぎすぎすすることはないですよ」

と、俺の心配に気付いた公爵が、王家と問題が起こることはないと断言した。

「とりあえず、依頼に関してはこれくらいですかね? あとは……普段のアルバートの話でも聞かせていただきましょうか?」

「父上!」

「それなら、じいちゃんやアムールたちも呼んだ方がいいかもしれませんね」

「テンマ!」

「テンマさん、兄様がいつもいつもご迷惑をおかけして、申し訳ありません」

「プリメラ!」

俺たち三人からいじられたアルバートは、抗議の声をあげていたが……

「違うのかい?」

「違うのか?」

「違うんですか?」

意図したわけではないが、三人に揃って言われるのはダメージが大きかったのか、アルバートは分かりやすく不貞腐れた。

その後で、本当にじいちゃんとアムールを呼んでアルバートの恥ずかしい話が暴露されると、アルバートは応接間を逃げ出して、どこかへと逃げて行った。まあ、逃げた先はジュウベエたちの小屋の中で、屋敷の外で待機していたステイルにバッチリ見られていたので、探しに行ったプリメラにすぐに連れ戻されていた。

「いやぁ、今日はいい日だった。依頼は受けてもらえるし、料理はおいしかったし……アルバートの面白い話は聞けたし」

「そうですね。前々から兄様……カイン兄様にリオン兄様もですが、テンマさんに世話になりすぎなのではと思っていましたが……世話になりすぎどころか、甘え過ぎのようですね」

依頼の話が終わった後で、三人は夕食を食べて行くことになった。夕食は自然乾燥で多少味が向上した干物と午前中に完成した燻製を使ったものを中心に出したので、公爵家で食べるものに比べると貧相なものだったかもしれないが、公爵もプリメラも美味しそうに食べていた。

帰り際の公爵は、酒が入っていたのもあって上機嫌だった。そして同じく酒の入っていた(二杯目は公爵に止められていた)プリメラは、色々な話を聞いているうちにアルバートに対する評価が暴落したようだ。まあ、王都にいることが多くなるということは、アルバートと一緒にうちに来ることが多くなるということで、うちに来ればアルバート(+カインとリオン)の三馬鹿と呼ばれる所以を見る機会が増えるということだ。評価はさらに落ちる可能性がある。

「今度、カインとリオンも連れてこよう……」

妹の評価が下がり続けているアルバートは、カインとリオンも道連れにすることに決めたようだ。その瞳は、暗く濁っている……ように見えた。

「それでは、模擬戦の時は遠慮なくやってください。では、これで」

「テンマさん、失礼します」

「次来る時は……三人だ」

アルバートの「三人だ」と言うのは、次はカインとリオンも連れてくると言うだけなのか、プリメラに評価を落とされて軽蔑されるのは三人になるという意味なのか、いまいち判断が付かなかったが……多分後者だろう。

三人が去ってやることも無くなり、その日はいつもより早い時間帯から酒盛りに突入した。

「それにしても、クリスさんの嗅覚はすごいね。お酒のつまみが多い日に、なおかつ公爵が帰った後を狙いすましたかのように来るなんて」

レニさんにお酌してもらっているクリスさんは、どや顔をしながら干物に手を伸ばしていた。

「今日の私は、自分でも感がさえていたと思うわ。何せ、何となく気まぐれでジャンさんの仕事を手伝ったら、公爵様と鉢合わせなくて済んだんだからね。いや、まあ、顔を合わせたからって、何か不都合があるわけじゃないけど、やっぱり余計な気を使っちゃうからね。互いに……それに何よりも、ジャンさんに恩を売れたのは最高だわ!」

などと言っているが、要は猫を被るのが面倒くさいということなのだろう。それに、ジャンさんに恩を売れたと言うが、ジャンさんは恩とは思っていないと思う。むしろ「やって当然」、「今後も手伝わせよう」……とか思っていそうだ。まあ、面白そうなので、今クリスさんには言わず、後でアイナ辺りに確かめてみよう。

「それにしても、テンマ君たちは贅沢ね。この干物が可もなく不可もなくなら、一般の兵士が食べているものなんて、いまいち以下よ。近衛兵が食べているものは、いまいちよりちょっと上くらいになるかしらね?」

王都では干物があまり売られていないせいか、兵士が食べるものとしては割と美味しい部類に入るのだそうだ。

「兵士は有事に備えて、日持ちする食料に慣れる必要があるからね。たまに出される食事が、干し肉や干物、干し野菜と言ったものばかりになることがあるのよ。有事に備えてのものだから、これみたいに少し生っぽいものじゃなくて、カチンカチンに干して固くなったやつね」

そんな特殊なやつと比べられても……と思ったが、兵士にとって乾物とはそれが普通らしいし、一般家庭でも保存食として備蓄している物は、兵士の物とそんなに変わらないらしい。

「生や半生の物を食べられるのは、貴族の中でも高位の人か、マジックバッグに余裕がある人だけよ」

クリスさんはそう言うと新しい干物を噛みながら、「この、贅沢者め!」と言ってお酒を飲んでいた。

「それで、テンマ君。サンガ公爵様は、何の用事で来たの?」

クリスさんは、何となく思った事を口にしたみたいで、言った後で「機密情報とかだったら、言わなくていいけど」と付け足していた。だが、この場合はぐらかしたようなことを言えば、それは「機密情報です」と言ってしまうのと一緒だろう。クリスさんが今回の件でどこまで知っているのか分からないが、全く知らないと思った方が安全で、互いに安心できるだろう。

「ああ、大したことじゃないよ。なんでも、プリメラの部隊を王都のサンガ公爵家付きにするからってことで、あいさつに来たみたい。まあ、アルバートがいつも迷惑をかけているからってことで、ちょっとかしこまったあいさつになっていたけどそれは最初だけで、後はいつも通りだったよ」

と、本当のことだけど大事なところだけ言わずに教えると、クリスさんは「まあ、アルバートだから仕方がないわね。そんな事よりも、プリメラが王都に配属とはね……なんだか、面白くなりそう」と言っていた。

次の日の早朝、

「それじゃあ、明日の午後に向かえばいいんですね?」

早速王城からの使者がやってきた。サンガ公爵が『早ければ明後日』と言っていたが、王様とライル様の性格を考えれば当然のような気がしてきた。

手紙を持ってきた使者に確認すると、「そのように聞いております」との返事があり、一礼をして去って行った。

「テンマ様、何か依頼ですか?」

最初に使者の応対をしたアウラが、興味深そうに手紙の内容を聞いてきたが、詳しく教える事は出来ないので、

「明日、騎士団の訓練に参加しないかっていうお誘い」

と、半分だけ教えた。ついでにアウラも参加するかと聞くと、慌てて「お洗濯が」とか、「お掃除が」とか言いながら離れて行った。

「こういう時、アウラは扱いやすくていいな」

逃げるアウラを見ながら、俺は受け取った手紙をマジックバッグに放り込んだ。あとでこの手紙は燃やした方がいいかもしれない。

「それじゃあ、じいちゃんたちの様子でも見ておくか」

昨日、いつもより早い時間から飲み始めたのと、おつまみとなる干物の数が多かったので、じいちゃんとクリスさんは二日酔いで寝込んでいる。まあ、珍しくない状況だ。レニさんは抑え気味に飲んでいたので無事だし、調子に乗って飲みそうなアムールは、レニさんに止められたので二日酔いにはなっていない。

今日のご飯は胃に優しいものだなと思いながら、二日酔いに効く薬を思い出しながら屋敷に戻ったのだった。