軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第14章-9 ケイオスだったはずの化け物

「どけっ!」

ギリギリのところで腕を切り飛ばした俺は、勢いのままケイオスを蹴り飛ばしてアムールから引き離した。

「『アクアヒール』、『アクアヒール』、『アクアヒール』! エリザ、アムールを頼む!」

「わかりましたわ!」

アクアヒールの三連発で見える範囲にある傷は塞がったが、アムールは集中力が途切れたのか気を失ってしまった。骨折もしているだろうし静かに運んだ方がいいのかもしれないが、ケイオスがいる以上のんびりできないので、アムールはエリザに任せて俺はケイオスを始末することにした。

「エリザ、騎士にもこの薬を使ってくれ」

作った中でも効果の高い回復薬や傷薬を出来る限りだし、アムールとぐったりとしている騎士の治療に使うように頼んだ。

「出来るならうちまで運んでくれ。無理そうなら、なるべく遠くへ。その間に、俺はあいつを殺す」

本当ならケイオスは無力化して騎士団に引き渡し、情報を引き出さないといけないのだろうが、目の前のケイオスには無理だと判断した。何故ならケイオスは、切り飛ばしたはずの腕に新しい腕を二本はやしていたからだ。他にも、先程よりも体が一回り程大きくなり、体が黒ずんで目は赤く染まり、髪の毛は抜けて血管が浮き、大きく脈打っていた。

「まるで魔物だ。何があったか知らないけど、あそこまで行くと哀れだな」

人間とは思えない姿に怒りが薄れかけたが、ゴーレムを素手で破壊する上に馬鹿みたいな再生能力を持つ化け物では、騎士に引き渡した後で被害が出るかもしれないし、何よりも皆を危険な目に合わせたこいつを許すわけにはいかなかった。

「うごあぁああ!」

「速い! けど……『ストーンブリット』!」

すごい速さで差を詰めてきたケイオスの進路を予測して、二発の『ストーンブリット』を頭部と胸部を狙って放った。

「あれを防ぐか……なら!」

俺の魔法を、ケイオスは二本になった右腕で二発とも防いだ。『ストーンブリット』はケイオスの腕を貫通することが出来ず、途中で止まったようだ。防いだとはいえ、魔法を食らったのにもかかわらず、ケイオスは前進を止めなかった。

そんなケイオスに対し、俺は武器を小烏丸からハルバードに変えて、体を回転させる勢いで横に薙いだ。

「これでおわ……らないのか」

両断したと思ったのだが、当たる瞬間にケイオスが急ブレーキをかけたせいでタイミングがわずかにずれ、ケイオスの上半身と下半身は、数cmだけつながった状態で地面に崩れた。

普通ならこれで終わりだが、ケイオスはその状態でもまだ生きており、倒れたまま強引に上半身と下半身の傷口を合わせると、見る見るうちに傷が塞がっていった。

「ヒドラよりも回復力が高いんじゃないか?」

ケイオスの異常な再生力からヒドラを想像し、ジンたちはどうなっただろうかと考えている間に、ケイオスは立ち上がり、襲い掛かってきた。

「頑丈で再生力も高くて、力も強くて速度も上がっている。普通に考えたら苦戦しそうな相手だけど……知能は低くなっているみたいだな」

頭の中まで筋肉になってしまったのか、ケイオスは馬鹿正直な攻撃ばかりを繰り返していたので、かわすのは簡単だった。

「ふんっ!」

攻撃をかわしつつ隙を待って、勢いをつけた一撃をお見舞いすると、今度は左腕が宙を舞った。

「また生えてくるのか。まあ、そろそろ打ち止めみたいだけどな」

今度も傷口から腕が二本生えてきたが、右腕に比べて細く短かった。胴体を繋ぐのに多くの力が必要だったのだろう。

しかし、ケイオスの勢いは変わらない。ただ、右と比べて左腕の強度は下がっているようで、地面や壁を殴るたびに皮膚が裂けて血が飛び散り、骨がむき出しになっていた。

「そろそろ……終わらせようか!」

化け物となったケイオスにも体力の限界というものはあるようで、明らかに動きが鈍ってきた。俺はここぞとばかりにハルバードを振り回し、ケイオスを押し返していく。ケイオスはもう抵抗する力もないようだが、それも両腕をふるい続けている……が、

「ふぅ……はっ、はぁ!」

ハルバードの二連撃で両腕を付け根の辺りから失った。体の強度が体力の低下と共に落ちたらしく、左腕を切り飛ばした時より柔らかく感じたので、魔力を使って強度を上げていたのかもしれない。

「う……あ……ごぶっ……」

「はっ! ……ん? ふぅ……ふっ!」

腕を切り落とした後で、止めに袈裟懸けにハルバートをふるったのだが、左の鎖骨辺りから入った刃が胸の中心部で何か固いものに当たり止まった。なので、そこから少し角度を強引に変えて、もう一度力を込めて切り裂き、先程のように再生しないように上と下を離れたところに置いた。ケイオスは息絶えたようだが、念を入れた方がいいだろう。

「ジャンヌ、アウラ、屋敷に戻ってじいちゃんを呼んできてくれ。それとスラリンも。エリザは、スラリンが来たらアムールと騎士をスラリンの中に運んでくれ。エイミィは、エリザと騎士のそばから離れないように」

「テンマ、何事じゃ!」

指示を出し終わってすぐにジャンヌとアウラは走り出そうとしたが、この場から離れる前にじいちゃんがやってきた。じいちゃんと一緒にシロウマルも来ていたがスラリンは留守番しているようで、シロウマルに戻ってもらいスラリンを連れて来てもらうことにした。

「何やら変な気配がしたので来てみたが……魔物が現れたのか?」

じいちゃんはケイオスの死体を見て魔物と判断したようだが、俺が事情を話すとじいちゃんは驚き、死んでいるのを確かめた上で、死体を調べ始めた。

調べ始めてすぐに、こちらに向かってきている一団が見えたが、

「テンマ、この死体を他の者が見る前に隠すのじゃ」

じいちゃんがケイオスの死体を隠すように言ってきた。どうしてなのか訊ねようとしたが、いつにない真剣な顔をしていたので、理由を尋ねる前に死体をマジックバッグに入れた。

「こちらで争っている者がいるという知らせを受けたのですが……マーリン様!」

やってきたのは、よく屋敷の周辺を見回っている衛兵たちだ。顔見知りなので、すぐにじいちゃんだと気付いたようだ。

「いったい何が? 争っていたのは、マーリン様なのですか?」

リーダー格の衛兵が周囲の様子を見てじいちゃんに訊ねたが、じいちゃんは否定して俺と暴漢が戦ったと言った。その時に相手を殺したと言ったので、俺に詰め所まで同行してほしいと頼んできたが、

「済まぬが、それはできぬ。今回の事件は、恐らく王族預かりになるであろう。そういう理由もあって、この後すぐに王城に行かないとならないのだ」

じいちゃんはそう言って、現場の処理を衛兵に任してこの場から離れようとしたが、衛兵は納得が出来ないと食い下がった。最低でも死体を確認し、王族預かりになる理由を話してもらいたいと言ったが、

「死体を見せることは出来ぬが、理由なら教えよう。今回の犯人は、貴族殺害未遂の容疑がかかっておる。しかも、襲われたのが南部子爵家令嬢とシルフィルド家令嬢じゃ。他にも色々疑わしい部分があり、あまり事件の詳細を広めるのはまずいのじゃ」

貴族の中でも、扱いを間違えれば国が割れる二人だとじいちゃんが脅したことで、衛兵たちの顔が強張り、どうしていいのかわからないという雰囲気になった。

「とはいっても、そちらも仕事をしなければならないのであろう? そこで、誰かがわしたちに同行して、王城で……近衛の誰かが来るじゃろうから、その者にそちらから説明するといい」

そんなじいちゃんの提案を衛兵が受け入れ、リーダー格の衛兵が付いてくることになった。ただ、何があったかの記録は残さないといけないと言うので、その場で『アムールたちが襲われ、アムールと騎士の一人が負傷、その後俺が駆けつけて暴漢と戦闘し、その結果殺害した』と証言した。衛兵は俺の証言をその場で書き取り、最後に『正当防衛の可能性高し』と書いたものを二枚作り、そのうちの一枚をリーダー格の衛兵から近衛に渡すことになった。

「アムールたちを連れて行った方がいいんだろうけど、あの怪我だと安静にさせた方がいいよね?」

「うむ、アムールの証言は後でもいいじゃろう。今は怪我を治すことが優先じゃ。アレックスたちも、怪我人に無理をしてでも来いとは言わんじゃろう」

そういうわけで、王城に行くのは、俺、じいちゃん、エリザの三人と言うことになった。ジャンヌとアウラは、アムールの看病に残り、エイミィも屋敷で待機となった。エイミィの護衛の騎士は、交代の騎士が到着するまで屋敷で待機して、後で報告に来るそうだ。

「スラリン、屋敷の警備は任したぞ。最悪の場合は屋敷を放棄して、皆を連れて逃げてくれ。それと、申し訳ないですけど、サンガ公爵家とシルフィルド伯爵家に知らせてください」

アムールと騎士の治療を終えてスラリンに指示を出した後で、ふとサンガ公爵家のパーティー帰りだったことを思い出した。公爵家に招かれた帰りの出来事なので、一応知らせた方がいいだろうと思ったからで、シルフィルド家は実の娘が巻き込まれたのだから、知らせるのは当然だろう。

そう思って頼んだのだが、頼んだ後でこういったことはやって貰えないのかもしれないと思ったが、被害者の関係者に連絡するという形で引き受けてもらえた。ちなみに、アムールたちの怪我だが、騎士の方は全身打撲と脳震盪で、アムールは脳震盪と左腕の複雑骨折だった。両者共、治療中に意識を取り戻したので命に別状はなさそうだが、アムールの左腕は骨を繋いだとはいえ、しばらくは動かせないだろう。

「テンマ、マーリン様!」

王城に着き、門番に訪問理由言って近衛の誰かを呼んでもらうと、ライル様がやってきた。その後ろには、エドガーさんとシグルドさんもいる。

「ライル様、テンマ君からの報告よりも、衛兵の報告を先に聞いた方がいいかと思います」

ライル様は、真っ先に俺から話を聞こうとしていたが、エドガーさんが衛兵を優先させるように進言した。ライル様はエドガーさんの進言に頷き、衛兵の持ってきた報告書を読んだ。そして、

「報告ご苦労だった。今後は私が受け持つ。それと、今回の件はこの報告書に書かれていることを全てとせよ」

ライル様からの箝口令を受け、衛兵は敬礼して戻って行った。

「ライル、お主が来たと言うことは、ある程度の予想が出来ておるということかのう?」

「はい。ほんの少し前に、ケイオスが収容されていた鉱山より脱走したという知らせが来まして、ケイオスが恨みを抱いていそうな相手……テンマの周辺を警戒する為の準備を行っていたところです。そのことをお知らせに行く寸前で、直接来られたという連絡が入り……」

「急いで来たということですか」

「まあ、その通りだ……申し訳ない! 知らせが来た時、すぐに騎士を送るべきだった!」

ライル様は、やるべき順番を間違えたと言って、王城の入り口で頭を下げて謝罪した。

「いや、俺やじいちゃんは怪我はないし、被害と言う程のことをされてないからいいんですけど……問題はアムールとエリザが巻き込まれた事ですよね?」

共に有力貴族の娘なので、ライル様が非を認めた以上、二人に対してライル様、もしくは王族が責任を取る必要がある。しかも、アムールに至っては殺される寸前まで行ったので、どういう風に責任を取るのかが問題だが、

「その辺りのこともあるので、父上たちとの話し合いに参加してほしい。それとその場で、今回の事件について分かっていることを教えてほしい」

と、言うことなので、ライル様の先導で王様たちが居るという部屋に案内されたのだが……部屋の空気が重過ぎだったので、思わずドアを閉めてしまいそうになった。

「テンマ、マーリン殿、こちらに。エリザベート・フォン・シルフィルドはこちらへ」

俺とじいちゃんはシーザー様の近くの席に、エリザは王様とマリア様の目の前の席に案内された。案内したライル様はそのまま王様の隣に座り、王様たち三人とエリザの話し合いが始まった。

ちなみに部屋には、王様とマリア様、シーザー様とライル様に、ディンさんとジャンさんの六人がおり、ライル様に付いて迎えに来たエドガーさんとシグルドさんは、ケイオスの捜索及び警戒の準備していた騎士たちの所に向かう為に部屋の手前で別れたのでいない。

エリザと分けられ後回しの形になった俺とじいちゃんだが、謝罪の順番が関係していると思われるので仕方がないだろう。まあ、俺もじいちゃんも気にしていないので問題はないと思っていたが、

「テンマ、マーリン様、お茶とお茶菓子です」

ジャンさんがものすごい気を使っていた。シーザー様もディンさんも、言葉の端々から気を使ってくれているの感じがするが、ジャンさんは一目見て分かるくらいだった。

何故そこまで気を使っているのかと聞いてみると、ジャンさんが慎重論を出し、それが採択された為初動が遅れ、その結果アムールたちが襲撃されたと思っているからだそうだ。

最初、ライル様は即座に手の空いている騎士たちを捜索及び警戒に送り出そうとしたが、ジャンさんが『天候に不安がある中で、仮にも元武闘大会優勝者との戦闘は、例え可能性であっても避けるべき』と反論し、さらに『王都に来ているという保証もない以上、ある程度戦力を整えてから事に当たるべき』とも言ったので、責任を感じているとのことだった。

「全てが裏目に出たということか……じゃが、それは仕方がないじゃろう。普通に考えれば、ジャンの言ったことは正しいからのう」

「結果論で言えば、怪我人は出たけど死人は出ていないわけですし。それに、これも結果論ですが、準備の出来ていない騎士を送り込んでも、逆に死人が増えていたと思いますよ」

「それは……いや、三人がかりで仕留めることが出来ず、アムールが殺されかけたことを考えれば、間違いだとは言えないか」

ディンさんが反論しかけたが、すぐに納得していた。アムールは武闘大会でクリスさんに翻弄されたとは言え、純粋な戦闘力ではアムールの方が上だし、そもそもが三対一で負けて殺されかけたのだ。派遣されたのが近衛兵だったとしても、一人二人では死ぬ可能性が高かっただろう。

「色々と気にはなるが、詳しい話は父上たちと一緒に聞いた方がいいだろう」

シーザー様の言葉を聞いたからではないだろうが、タイミングよく王様たちの話が終わり、今度は 俺とじいちゃんが呼ばれた。

「テンマ殿、マーリン殿、今回は私の判断が間違っていたせいで危険にさらしてしまい、誠に申し訳ありませんでした」

「謝罪を受け入れます。俺の方は怪我もありませんから、あまり気にしないでください」

「わしの方は、そもそも終わった後で駆けつけただけじゃからな。気にする必要はない」

「そう言ってもらえると助かります」

「ただ、アムールは死にかけたくらいですから、俺のことよりもアムールの方をお願いします」

「それは十分承知している。後日、必ず謝罪に行こう」

いつもとは違うライル様に戸惑ったが、謝罪なので当たり前なのだろう。

「アムールには、私も謝罪と礼を言いに行こう。アムールが奮闘してくれたおかげで、被害が最小限に抑えられたと言っても過言ではないからな」

確かにアムールの奮闘がなければ、あの場にいたうちの何人かは死んでいたかもしれないし、他の場所で他の人が被害にあっていたかもしれない。

「とは言え、テンマの功績が大きいことには変わりがない。本当に助かった」

王様の謝罪も受け入れ、次の話に移ることになった。

「では、犯人はケイオスで間違いなく、途中まではアムールに圧倒されていたというのに、怪しげな薬を飲んでからは逆転され、三人がかりでも危ういところまで追い詰められたということか……いや、嘘を言っているとは思わぬが、分らぬことが多くてな」

最初から話をすることが出来るのはエリザしかいなかった為、エリザが中心となって説明したが、王様達はいまいち要領を得ないと言った感じだった。

「恐らくじゃが、身体能力を大幅に上げる麻薬のようなものじゃろうな。もっとも、わしの知る中で、あのように姿形を短時間で変えてしまうと言ったもの該当する薬は無いが……」

とりあえず、非合法な薬をケイオスが使用したということは分かっているが、それ以外はほとんど分からなかった。そこへ、

「陛下、シルフィルド伯爵様とアルバート様が参られました」

クライフさんが、エリザの父親とアルバートが到着したと知らせに来た。

「二人同時に来たのか?」

「はい。なんでも、シルフィルド伯爵様がサンガ公爵邸を訪れる途中で、知らせを受けて王城に向かうアルバート様と出会い、合流なされたとか」

「とにかく、ここに二人を通してくれ」

同時に来たと言うところに驚いた王様だったが、すぐにこの部屋に案内するようにクライフさんに指示を出した。王様は別々に来るだろうと思っていたので驚いたようだが、俺にはすぐにその理由が思い浮かんだので、全く驚くことはなかった。多分だが、シルフィルド伯爵はエリザがアルバート主催のパーティーに参加しなかったことを詫びに行こうとしていたのだと思う。その途中でアルバートと遭遇し、今回の事件を聞いて慌ててやってきたのだろう。

そんな俺の予想は見事的中し、シルフィルド伯爵は王様達にあいさつした後で、エリザを叱りだした。途中でマリア様に止められ、部屋にいる皆に不作法を謝罪していたが、あの様子だと帰ってからが本番になりそうだった。

「陛下、エリザベート嬢も今回の事件で疲れているでしょうし、シルフィルド伯爵と話さなければならぬことがあるでしょうから、今日のところはこの辺りでよろしいのではないでしょうか?」

シーザー様の言葉でエリザは帰宅することになったが、実際にはじいちゃんがシーザー様に耳打ちしていたので、エリザたちには聞かせられない理由があると思われる。

「それと母上、これからケイオスの死体を見分しなければなりませんので、自室にお戻りください」

「ええ、そうね。流石にそれは女性にはきついわね」

マリア様は、シーザー様の言葉に何か重大な問題が発生していると分かったみたいだが、何も聞かずに部屋を出て行った。

「それで、ケイオスの死体に何か問題があったのですか?」

「うむ、少し他には知られたくない情報がな……正直言って、この目で見たわしも信じられぬことじゃ」

王様も、マリア様を遠ざけたのがじいちゃんの指示だと分かっていたらしく、シーザー様ではなくじいちゃんに直接質問した。じいちゃんも、衛兵から死体を隠すようにと言った時と同じ真剣な顔だった。

王様とじいちゃんが話している時、シーザー様とライル様が俺を見たが、俺も理由は聞かされていないので首を横に振った。

「テンマ、汚してもかまわんディメンションバッグはないか?」

「この部屋の半分くらいの奴ならあるけど?」

「それを出してくれ。ただ、場合によるとバッグを破棄しなければならんが……かまわんか?」

ディメンションバッグの予備はいくつかあるので、破棄を前提に提供することにした。まあ、例え破棄する必要がなかったとしても、ケイオスの死体を出したバッグは使いたくないので、前提と言うより決定であった。

「あの……私は帰った方がいいのではないでしょうか?」

ディメンションバッグを出したところで、存在を忘れられていたアルバートが遠慮がちに発言した。王様は忘れていたというような顔を一瞬したがすぐに元に戻し、残るように言った。一応、サンガ公爵の代理としてきているし、俺以外の若い者の意見も聞きたいからとのことだったが、ここまで聞かれた以上はこちらに引き込んで、逃げられないようにすると言った感じだろう。

そんな王様の考えを理解したのか、アルバートは青い顔をしながら 命令(・・) を受け入れた。

「クライフ、この部屋に誰も入らせるな。例えそれが、マリアであってもだ!」

「了解いたしました」

命令を受けたクライフさんが部屋を出たのを確認し、皆でディメンションバッグの中に入ったところでケイオスの死体を出すことになった。

「テンマ、ここに出してくれ」

じいちゃんに言われ、二つに分かれたケイオスの死体を真ん中辺りに出した。出した直後、皆顔をしかめて一瞬目をそらしたが、すぐに視線を戻した。

「マーリン様、確かに色々と不自然ではありますが、ここまで周囲を気にするのはなぜですか?」

ライル様の疑問に、じいちゃんを除いた全員が頷いた。

「腕が増えたと言うくらいなら、魔道具を使ったとか魔法を使ったとかでごまかすこともできるじゃろうが、これは無理じゃ。そして、これは出来る限り秘密にしなければならぬ」

そう言ってじいちゃんはナイフを取り出し、ケイオスの胸の中心を切り開いた。

じいちゃんの行動に驚いた俺たちだが、すぐにそんなことはどうでもよくなった。何故なら、

「魔核……」

ケイオスの体から、俺がよく見慣れたものが出てきたからだ。それも、魔物からしか出てこないはずのものが……