軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第14章-3 責任

現在、 俺たち(・・・) はマリア様に正座をさせられた上で怒られていた。

いつもは王様やライル様やルナが怒られているのを横から見ていただけだったが、いざ自分がその立場になってみると、あの三人(たまにアーネスト様を入れた四人)が身を縮こませていた理由がよくわかる。そして、『美人は怒ると怖い』と言うが、それは本当だったのだと知った。

そんなマリア様に怒られている俺たちを見ているのは、先程リッチの報告を終えた時に部屋にいたマリア様を含む六人と、俺と一緒に来たじいちゃんとジャンヌに加え、クライフさんにサンガ公爵もいる。その中でも男性陣は、俺のことを呆れた、もしくは同情的な目で見ているが、イザベラ様は完全にマリア様と同じように怒っていて、ジャンヌは話を聞いているうちに、マリア様寄りの考えになったようだ。

(どうしてこうなった……)

今の状況を説明するには、マリア様が本当に聞きたがっていた報告をしたところまで戻らなければならない。

「それで、テンマは結婚式の仲人をする時に、サンガ公爵家のプリメラをパートナーに選んだということだけど、何故なのかしら?」

マリア様の質問を聞いた時、女性は結婚式の話なんかが気になるんだな……程度に考え、仲人をプリメラと一緒にやったことに関しては、冷やかす気なんだろうな……程度に考えていた。なので、なるべく簡潔に、

「アルバートに言われたからです。新婦に関することを男がするのはまずいだろうということになり、身分的にも問題がなく、身内の許可がすぐに出せる女性ということで、プリメラにお願いしました」

と答えた……いや、答えてしまった。

この俺の答えに、理由を知っていたじいちゃんとジャンヌは表情を変えなかったが、マリア様とイザベラ様は無表情となり、王様とアーネスト様は口を開けて驚き、シーザー様とザイン様は難しい顔をで、そしてクライフさんは、残念な生き物を見るような顔していた。

「あなた! すぐにサンガ公爵とアルバートを呼びなさい!」

「う、うむ! クライフ、手配を頼む!」

「はっ!」

マリア様の怒声に、王様は驚きながらもクライフさんに指示を出していた。

「テンマ……あなたはそこに座りなさい」

「は?」

もう椅子に座っているんだけれど……とか思っていたら、マリア様は床を指差しながら、

「 ここ(・・) に、座りなさい」

と、今度は床を指差して言った。正直、意味が分からなかったので、マリア様の隣に座っていた王様を見たが、目が合った瞬間に逸らされた。それは、シーザー様とザイン様も同様だ。そしてイザベラ様はというと、鋭い目で俺を見ながら、

「お義母様の言う通り、そこに座りなさい」

怒気をはらんだ声で、マリア様と同じようなことを言った。

「わ、分かりました……」

理由は分からなかったが、マリア様とイザベラ様がこれまで見たことがないくらい怒っているのは理解できていたので、指示通りマリア様の指差した辺りの床に正座した。

「それで、テンマ。何故、私が怒っているのか理解……できていないようね」

本当に分からなかったのが顔に出ていたのか、マリア様は言葉の途中で質問を止めた。

「それじゃあ、テンマ。仲人とは何かしら?」

マリア様の質問に、「結婚の仲立ちをする人のことです」と答えると、マリア様は頷きながら、

「そうね、意味は合っているわ。ただし、本来仲人とは、 既婚者(・・・) が受け持つものよ」

「いえ、一応プリメラには、仲人 みたい(・・・) なものと言ってますし、彼女もそれに納得してましたから」

「そういうことを言っているんじゃないの」

俺の言い訳は、一刀両断のごとく斬り捨てられた。

「それが小規模……身内しか参加しないような、本当に小規模の結婚式ならば、その言い訳も通用したでしょう。でも、テンマとプリメラが関わったのは、外部からも参加者を呼び、さらには貴族まで参加したことで、街中が知っているような規模になった結婚式よ。しかも、テンマ主催の……その言い訳は通用しないわ」

「そうだとして、いったい何が問題になるのでしょうか?」

何故怒られなければならないんだという思いもあったので、つい感情的な反論をしてしまったが、マリア様は俺を見ながらため息をつき、

「テンマは冒険者で男性だから、問題はないと言えばないわ。あったとしても、大したことではないわね。それに比べて、プリメラは貴族で女性よ。言い方は悪いけど、女性としての評価は下がるわね」

それくらいで何故? と思っていると、

「理解しがたいかもしれないけれど、貴族の女性には貞淑が求められるの。それは、貴族社会において女性は、確実に伴侶の子を産むということが求められるからよ」

イザベラ様の言っている意味は分かる。仮に結婚した相手以外の子を産んでしまうと最悪の場合、旦那側の血筋が途切れてしまう恐れもあるからだ。

「その理由は分かります。けれども、俺はプリメラと仲人のようなことをしたというだけで、実際に肉体関係を持ったわけではありません」

「それでも、よ。普通なら既婚者がしないといけないことを、恋人でもない男性と簡単にやってしまうような、軽い女と思われるかもしれないのよ。それに、そんなこと実際にはないと分かっていてもプリメラの、サンガ公爵家の評判を落とそうと、わざと尾ひれを付けて噂を流す輩も出てくるかもしれないわね」

軽く考えて頼んだことが、プリメラとサンガ公爵家の評判を下げることになりかねないと知り、背中に嫌な汗が流れた。その時、

「マリア様、サンガ公爵様とアルバート様を案内してまいりました」

「あら? 早かったわね?」

予想以上の速さで、クライフさんがサンガ公爵とアルバートを連れてきた。もしかして、俺の怒られているところを見たくて急いだのかと、一瞬失礼な考えが頭をよぎったが……

「門のところで、王城に向かって来るサンガ公爵家の馬車が見えましたので、そのままお連れいたしました」

「そう、公爵も同じ心配をしたのね。サンガ公爵はこちらへ、アルバートはテンマの横に座りなさい」

マリア様は、サンガ公爵に自分の隣側(イザベラ様の反対側)を進め、アルバートには俺の横に正座するように命令した。渋い顔をしたサンガ公爵は、クライフさんの用意した椅子に黙って座った。その間も、俺のことは見ていないようだった。そして俺の横には、青い顔をしたアルバートが正座したが、体が震えていたせいで、座る時に前につんのめりかけていた。

「ふむ……さて、アルバート。あなたは、サンガ公爵家を貶めたいのかしら? それとも、プリメラを犠牲にしてでも叶えたい野望でもあるのかしら?」

マリア様はサンガ公爵に一度視線を向けてから、アルバートに質問した。その声は、俺を責めている時よりも静かではあったが、目が全く笑っていないせいで逆に怖かった。

「テンマにも言ったけれど、プリメラに仲人をやらせたせいで、今後のプリメラの評価は下がるでしょうね。尻軽女として」

先程よりも表現が悪くなっているが、今のアルバートにはその方が効果的のようで、顔色がさらに悪くなっていた。

「アルバート……あなたは、サンガ公爵家の嫡男として、プリメラが仲人をするのを許可したのよね? それも、自分がテンマに頼ませるような形で。それって、卑怯じゃないかしら? 指名したのはテンマで、受けたのはプリメラ。アルバートは許可を出しただけで、評判を落とすのはテンマとプリメラ。まあ、テンマの方は貴族でないから大したことはないでしょうが、女性であり貴族でもあるプリメラはそうはいかないわよね?」

アルバートは、俺が説明してもらわないと理解できなかったところの意味を一度で理解したようで、明らかに慌て始めた。

「あの、それは本人が結婚願望がないと言っていたからであって、その……」

「願望がないのと縁がないのは違います。今はなくても、結婚願望は突然生まれることもあります。そして、今回アルバートが仕組んだことのせいで、縁が薄くなったでしょう。もしくは、安くみられるようになるでしょうね」

俺と同じように、アルバートもマリア様に完全に論破されていた。そんなアルバートを、サンガ公爵は鋭い目で見ているが、俺と目が合うとすぐに逸らして咳ばらいをしていた。その間、じいちゃんを始めとする男性陣は、完全に空気と化していた。むしろ、進んで空気になっているようにも見える。ジャンヌはマリア様の話を聞いて思う所があったのか、怒られても仕方がないという感じだった。

(どうしてこうなった……)

いやまあ、その元凶は俺自身にあるわけだけど、アルバートのアドバイスを受け入れたことも原因の一つなので、あの時間に戻って俺とアルバートを殴ってでも止めたいくらいだ……などと考えたのが悪かったのだろう。

「テンマ? あなた、いまいち反省が足りていないようね?」

「いえ! あの、その……反省は、しています」

「反省はしているとして、責任はどうとるつもりなのかしら?」

「責任……ですか?」

こういった場合の女性に対する責任と言えば、一つしか浮かばなかった。つまり、

「プリメラと結婚する気があるのかと聞いているのよ」

だった。確かに、プリメラやサンガ公爵家への評判を考えると、これ以上分かりやすい責任の取り方はないだろう。

「確かに、プリメラは公爵家の出という事で貴族的な身分は高く、一冒険者ではとてもじゃないけれど釣り合いの取れるものではないけれど、幸いテンマの養父養母のリカルドとシーリアは貴族の出であるし、テンマ自身のこれまでの功績を考えたら、おかしなものではないでしょう。それで、どうするの?」

条件も問題ない。サンガ公爵がマリア様の提案に口を挟まないと言うことは、サンガ公爵もこの提案には賛成なのだろう。そうなると、俺の返事次第ということになるわけだけど……このまま流れに任せて話を進めると、何も学んでいないということになる。

「テンマ?」

「自分にできることならなんでもやりますが、結婚となるとプリメラの気持ちが一番大事です。そのプリメラのいないところでする話ではありませんし、してはいけない話だと思います」

「貴族の結婚となると、本人の意思よりも当主の意向が重要よ。サンガ公爵がプリメラに、『結婚しろ』と言えばそれで済む話なのよ?」

「それだと、アルバートがしたことと同じです」

「プリメラに不満があるのかしら?」

「いえ、結婚相手と考えれば、プリメラの性格と人柄は好ましいと思いますが、その話とこの話は別です」

しっかりと考えた上で、はっきりと答えた。これまで考えたことはなかったが、結婚するとなるとプリメラはかなり優良な相手と言えるだろう。

「とのことだけど、公爵家としてはどうするのかしら?」

マリア様がサンガ公爵に意見を求めたのでそちらに目を向けると、サンガ公爵は先程よりも渋い顔をしていた……が、

「ぶっ! も、もう我慢できない!」

いきなり笑い始めた。爆笑といっていい笑い方だ。その様子に、俺とアルバートは何が起こったのかわからないと言った感じで顔を見合わせたが、その様子にマリア様達が笑い始めた。よく見ると、シーザー様にザイン様も口元を押さえながら笑っている。

この場でこの部屋の雰囲気の変化についていけていないのは、俺とアルバートにじいちゃんとジャンヌの四人だけだった。

「いやいや、申し訳ない。実は事前に、プリメラから手紙を貰っていたんだよ。その中に、テンマ君と一緒に結婚式の仲人をしたことと結婚式の感想、それにアルバートが何か企んでいるみたいだけど、そのことにテンマ君は一切関係ないとも書かれていてね。これはテンマ君の窓口を自負するマリア様に報告せねばと思ってね」

マリア様に報告した結果、今回の騒動となったようだ。そのことを知って、俺とアルバートは気が抜けてしまったのだが、

「ただ、アルバート。私は、君に対してはとても怒っているんだよ。何せ、勝手に公爵家の名前を使ってプリメラを利用したどころか、テンマ君を巻き込んだんだからね」

「そうね、そこはいただけないわね。以前王家から貴族に向けて、『テンマを利用しないように』と通達を出したはずだけど……それを破ったということなのだからね」

プリメラが事前に手紙で説明していたことで、俺への怒りはなかったみたいだが、アルバートに関してはそうではないようだ。

サンガ公爵はマリア様の話が終わったタイミングで、アルバートに手紙を渡していた。おそらくあれが、プリメラから送られてきたという手紙なのだろう。

「まあ、その話に関しては屋敷に戻ってからするとして……今日はいい話が聞けた!」

サンガ公爵の喜びように、今日の俺の発言をよくよく思い返してみると……

「確かに、テンマがプリメラのことを、『結婚してもいいくらいには好ましく思っている』なんて、私としても嬉しい話ね。これは、テンマの子を抱くことも遠い話ではないわね!」

少し脚色されているような気もするが、おおむねそんな感じだった。

(めちゃくちゃ恥ずかしい!)

特に、王様達男性陣の視線が恥ずかしかった。そんな視線を向けるくらいなら、いっそのこといじってくれと言いたくなるくらいだった。まあ、いじられたらいじられたで恥ずかしいのだろうが……

「おっと、マリア様。プリメラの子を抱くのは、順番的に私が先ですよ!」

「その次くらいが、わしの番かのう」

サンガ公爵は、マリア様に釘を刺しながらはしゃいでいる。そして、そこにじいちゃんも加わった。もう、色々ときつい……

助けを求めようと王様達の方を見たが、王様とアーネスト様は三人の話に混ざるタイミングを見ていたし、シーザー様とイザベラ様とライル様は、三人で昔話をしている。そしてジャンヌは、クライフさんにお茶の準備を手伝わされていた。

したがって、残されたのはアルバートのみとなるのだが……そのアルバートは、プリメラの手紙を読んで固まっていた。

(プリメラ、手紙を何枚も書いたんだな)

横から軽く数えただけでも、軽く五~六枚はある。あの量からすると、全てが結婚式の報告や感想、アルバートの企みに関するものだとは思えないので、何枚かはアルバートの悪口や非難する手紙なのかもしれない。だとしたら、少し読んでみたい気もする。

「あら? テンマ、もう椅子に座っていいわよ」

マリア様は、ようやく俺のことを思い出したようで、サンガ公爵たちとのおしゃべりを中断して椅子に座る許可を出してくれた。そして、俺と同時にアルバートも手紙から目を離さずに、のろのろと立ち上がったのだが、

「アルバート、君はまだ座っていなさい」

といったサンガ公爵の言葉で椅子に向かうのを止めて、のろのろと元の場所に座りなおした。

「テンマ、お茶!」

「あ、ありがとう?」

椅子に座るとジャンヌがお茶を出してくれたが、何故か機嫌が悪いようで、少しばかりカップを置くのが乱暴だった。

「まあ、気持ちは分かるので、アイナには黙っておきましょう」

クライフさんは乱暴にカップを置いたジャンヌを見て、そんなことを言っていた。

「それにしても、テンマ。今回はプリメラのフォローのおかげで事なきを得たけれど、本来ならば即結婚するなりして誠意を見せなければならないところよ」

「はい」

「マリア様、その辺りで。こちらとしては、テンマ君がプリメラに好意を持っていると分かっただけでも、収穫があったわけですし……でも、テンマ君。もう、こういったことをプリメラ以外の女性としないでくださいね。プリメラが納得した上でしたこととは言っても、同じことを他でやられてはいい気はしないでしょうし、父親としても穏やかな気持ちでいられるとは限りませんし……ね」

「は、はい!」

今のサンガ公爵は、怒っている時のマリア様と同等かそれ以上の怖さがあった。武力とは違う、貴族の持つ怖さを初めて知った気がした。ちなみに、マリア様の怖さは逆らってはいけないという本能に訴えるようなものだ。なお、王様からは怖さを感じたことはない。何故なら、ふざけているところか情けないところか、もしくはだらしないところしか記憶にないせいで、国王というよりは親戚のおっさんと言う感じしかしないせいだ。それは、アーネスト様とライル様にも言えることで、俺の中にある王家の優先度ランキングでは、マリア様が頂点でその三人が最下位である。

「マリア様、扉の向こうでこそこそとしている者を、そろそろ呼び寄せてはいかがでしょうか?」

「そうね。ちょっと注意しないといけないこともあるわけだし」

「……ステイルの他に、誰かいるのですか?」

クライフさんの提案に、マリア様は軽く笑いながら答えた。サンガ公爵は、最初護衛のステイルのことかと思ったみたいだが、二人の話から違う人物だと判断したようだ。

「クリス、入ってきなさい。マリア様がお呼びです」

クライフさんは足音を立てずに近づき、扉を開くと同時に入ってくるよう言った。扉を開けた時に、何かにぶつかる音と悲鳴が聞こえたが、クライフさんは何事もなかったかのようにマリア様のうしろに戻ってきた。

クリスさんは頭を押さえながら、どこかばつの悪そうな顔でマリア様の前へと進んだ。そして、

「クリス、こうならないように、あなたを付けたのだけど?」

「あの……暇しているなら、テンマを手伝えって感じで……」

「何か?」

「申し訳ありませんでした!」

アルバートの横で怒られた。

クリスさんへの説教はしばらく続きそうだったので、俺はマリア様のそばをこっそりと離れた。アルバートは当たり前のように置いていったが、いまだに手紙のショックが抜けていないようだった。

「テンマ、大分疲れたようだな」

「あれは仕方がないですよ。テンマさんが悪いんですし」

「まあ、冒険者に貴族のことを当てはめるのもどうかと思うが……」

「それでもです! 女性に恥をかかせるような真似は、貴族だろうとも冒険者だろうとも許されるものではありません!」

「それでは、これで帰らせてもらいます」

シーザー様のフォローにイザベラ様が反論している。そんな二人を横目で見ながら、ザイン様はそそくさと部屋を出て行った。

「ザインは相変わらずだな」

「夫婦仲が良好なのは、義姉として喜ばしいことです」

シーザー様は少し呆れ気味ではあったが、イザベラ様には好ましいものという認識があるようで、微笑んでいた。

「シーザー様、申し訳ありませんが、そろそろ私たちもお暇させていただきます。この度は、アルバートがご迷惑をおかけして、誠に申し訳ありませんでした。テンマ君、申し訳なかった」

サンガ公爵はシーザー様と俺にあいさつをすると、マリア様と王様にもあいさつをしてアルバートを回収した。アルバートは長時間の正座で足がしびれているのか、非常にのろのろとした動きではあったけれど、早くここから離れたいのか、一生懸命に足を動かして部屋から出て行った。

「そういえば、エイミィのことで相談があるんですけど」

「ティーダが何かしたか?」

公爵とアルバートを見送ったあとでエイミィの名前を出した瞬間、シーザー様が食い気味に警戒した。ティーダは関係ないと言うと、ほっとした顔で警戒を解いていたが、その様子がよほどおかしかったのか、イザベラ様は声を出して笑っていた。

「イザベラ、どうかしたのか?」

「何やら、楽しそうじゃのう」

イザベラ様の笑い声を聞いたアーネスト様とじいちゃんが、俺たちのところへやってきた。この人数で立ち話もどうかということで、説教中のマリア様たちから離れたテーブルへと移動したのだが、遠ざかる俺たちにクリスさんが一瞬目を向けたようで、マリア様に叱られていた。マリア様の隣にいる王様は、立場上クリスさんが怒られているのを放っておくことができないようで、楽しそうな俺たちをうらやましそうに見ていた。

「それで、相談というのはなんだ?」

「今度、学園でパーティーがあるとのことですが、エイミィの家族が仕事の都合上来れないそうで、その代理を受け持つつもりなんですが……」

「そのことなら問題はない。そもそもオオトリ家が王都での保護者となっている以上、たとえ親御さん方が参加したとしても、テンマにも別口で招待状が届くはずだ」

招待状が届いていなかったのは、遠隔地の保護者と王都の保護者では、招待状を出す担当者が違うからだろうとのことだった。距離にもよるが、遠隔地への招待状の方が、王都の招待状よりも一か月以上早く出されるとのことらしい。

「それと、アルバートたちの予想では、エイミィに婚約を申し込む生徒が出てくるとのではとのことなのですが?」

「それは十分にあり得る話だ。テンマが後ろにいるとは言っても、多少強引に行けば平民のエイミィは断れないだろうと考える生徒がいてもおかしくはない。王家としては騒ぎを起こしてほしくはないが、エイミィがティーダの恋人ではない以上、エイミィ本人が決めた場合は手出しは出来ないからな。そのことをティーダが心配して、少々過敏になっているところがあってな……」

そういった事情から、シーザー様は俺の口からエイミィの名前が出た時に、てっきりティーダが何かやらかしたと思ったそうだ。

「それに、最近のティーダを見ていると、父上の姿と被る時があってな……」

「それは心配ですね」

俺の言葉に、その場にいた全員が頷いた。

「まあ、色恋で少しおかしくなるのは仕方がないじゃろう。同じ年くらいのアレックスなど、年中おかしかったからのう」

「そうじゃったな……あやつの尻を何度叩いた事か……」

じいちゃんはかなり失礼なことを言っている(ただし、誰一人として否定しなかった)し、アーネスト様は自分の手のひらを見ながら呟いていた。

「まあ、変なのに引っ掛かるくらいなら、エイミィに夢中になっていてくれた方がいいんですけど……フラれた時のことを考えると……ねぇ」

イザベラ様の心配もわかる。このまま二人がくっつけばいいが、そうでなかった場合、ティーダが暴走しないかが心配なのだ。

「エイミィはティーダのことを嫌いではないようですから、焦らなければチャンスはあると思いますけどね」

「そう願いたいな。もっとも、付き合ったとしても平民という身分が問題になるかもしれないが……その時は、テンマも手伝ってくれるのだろう?」

「ええ、エイミィは俺にとって大事な 弟子(・・) ですから、出来ることはするつもりです」

教え子と言う言葉では、馬鹿から守るには弱いと思って弟子という言葉を使ったが、その言い方にシーザー様は満足そうに頷いていた。

「その時になったら、テンマを頼らせてもらおう。まあ、その前に色々と条件はあるが……年齢を考えれば、そう遠い未来の話ではないだろう」

とりあえずティーダが動き、エイミィがそれを受け入れた時の協力体制はできたという感じだろう。そう思った時、ふとマリア様とした話の中で気になるところが出てきた。

「シーザー様、マリア様は『貴族の結婚は、本人より当主の意向が大事』と言ってましたけど、そうなるとクリスさんはどうなるんですか?」

クリスさんは、借金返済と財産目当ての結婚が嫌だったから家出したと言っていたが、そんなクリスさんを助けた王家の行動と、先程のマリア様の言葉には矛盾があるように感じた。なので、シーザー様に質問してみると、シーザー様だけでなく、イザベラ様とアーネスト様まで気まずそうな顔をしていた。

「その話だがな……さすがの母上も、十二歳の少女をバツ三で四十過ぎの男に嫁がせるのはかわいそうだと思ったそうだ。それに、その男は前々から問題になっていたのでな」

「問題っていうのは、最初の奥さんこそ同い年くらいの女性だったのだけど、二番目が成人したての十五歳で、三番目に至っては成人前で当時のクリスと同じくらいの女の子ね」

シーザー様はぼかそうとしたみたいだが、イザベラ様が暴露した。さらに、

「最初の奥さんと結婚している時に、二番目の奥さんと浮気していてね。それがバレて離婚して、そのあとすぐに再婚したんだけど……三人目の時も同じ理由だったのよ。どうも最初の奥さんは性癖を偽装する為の結婚で、本当は 女性(・・) ではなくて 女の子(・・・) が好きだったみたいね。そして、二番目も三番目も、成長して好みから外れたから別れたそうよ」

最初の奥さんに性癖がバレてからは一切隠そうとしなくなり、二番目と三番目の奥さんの時は離婚というよりは捨てたといった感じだったそうだ。

「テンマにはああ言ったが、母上はそんな男に女の子を嫁がせるほど鬼ではない」

その言い方だと、シーザー様はマリア様のことを、そこまでではないにしろ鬼に近いと思っているとも言えそうだが……言葉の綾ということにしておこう。まあ、これがライル様だったら遠慮せずに突っ込むところだけどな。

「そういうことでしたか。つまりクリスさんの男運のなさは、生まれた時から始まっていたということですね」

「それもあるけど、クリスは理想が高すぎるのよ。子供の頃に父親で苦労したせいで、妥協したくないという気持ちが強いんでしょうね」

イザベラ様の言葉に俺達は頷き、揃ってマリア様に怒られているクリスさんの方を見たのだった。