軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第9章-9 トップの交代と、跡取り問題の解決

「ふっ、しっ、しっ、しっ!」

先手はアムールだ。まあ、これは槍と刀の間合いの差が出たからで、想定内の事だ。

アムールの連撃は鋭く、俺を間合いに入れさせたくない為か、突くよりも引く速度の方が速く、たまに横薙ぎのフェイントを入れてくるのでそう簡単に踏み込む事が出来ずにいた。

ただ、いつまでも避け続けるわけにもいかず、流れを引き戻すつもりで槍の穂先に標準を合わせ、打ち下ろした。流石にこの一撃で止める事が出来るとは思っていないが、数度同じ事をすれば槍の速度は勢いを無くしていく。

「せいっ!」

「よっとっ!」

槍の速度が落ちたところで、刀の間合いまで踏み込もうとしたが、アムールは槍を引くと同時に後ろに飛び、槍の間合いを保った。

「むふ~」

どうやらアムールは徹底して槍の間合いを活かす作戦の様で、俺が進めば下がり、下がれば進んだ。そして魔法を放とうとすれば、先程よりも鋭い一撃で牽制している。

「なかなかいい作戦だけど……甘いな」

「むっ?」

俺はわざと余裕を見せてから、先程と同じ様にアムールに槍を振るわせた。そして数合打ち合ったところで、アムールが槍を引くと同時に、手に持つ刀を投げつけた。

「それこそ甘い!」

アムールが槍を二度振るうと、ガキン、ガキンという音が 二度(・・) 鳴った。投げた刀は一本だが、刀のすぐ後に鞘も投げたのだった。

それを読んでいたアムールは刀と鞘を立て続けに防ぎ、俺に読み勝ったと少し得意げだった。しかし、

「刀はもう一本あるぞ」

俺は刀を腰から抜き、アムールに袈裟斬りで 叩きつけた(・・・・・) 。

アムールは刀の間合いから逃げる事を優先し、槍で防ぐよりも後ろに下がる事を選択した。だが、

「がっ!」

俺の一撃がアムールの左肩に直撃した。完全に避けたと思っていたらしいアムールは、驚愕の表情を浮かべて動きを止めた。

「しっ!」

「うぐっ!」

アムールは俺が思いっきり力を込めた横薙ぎをくらい、三m程後方へと転がっていった。そして、

「アムール、場外負け!勝者、テンマ!」

場外へと転がり落ちた。元々王都のものより狭い闘技場だが、それでも三m転がったくらいで場外に落ちるほど狭くはない。ただ単に、アムールが必要以上に間合いにこだわった上に、俺の言葉を聞いて変に警戒した為、後半から後ろに下がる事が多くなってしまっていたのだ。

そこにタイミングを合わせて刀と鞘を投げ、後ろに下がらせつつも俺に注目させたので、自然とアムールは端の方へと追い込まれたのだった。

「む~……失敗した。でも、なんで刀が伸びた?」

「別に刀は伸びていないぞ、伸びたのは鞘だ」

場外で不思議そうな顔をしているアムールに、俺は先程の一撃の秘密を教えた。

通常、刀は刀身と同じ長さの鞘に収まっている。つまり、鞘を刀身から完全に抜かなければ、鞘の分だけ間合いが伸びるのだ。

日本刀は普通に振っただけでは鞘が飛んでいく事はあまりないが、鯉口を切った状態で上手く振れば、鞘は飛び道具の様に飛んでいってしまう。俺はそのタイミングを調整して、鞘が剣先に引っかかっている状態で殴りつけたのだ。その後、動きを止めたアムールに、横薙ぎの一撃を放ったというわけだ。まあ、鞘の一撃は取り敢えずどこかに当たればいいというものだったので、あそこまで威力が出たのは嬉しい誤算だった。

「負けた……」

落ち込むアムールに手を貸して引き上げると、観客から歓声が上がったが、一部の客からはブーイングもあった。どうも、早く終わりすぎたせいで、八百長を疑っている者もいる様だ。最も、そんな事をほざいている客は、周りから白い目で見られているが。

「うむ、なかなかの試合であった!」

そんな中、一番大きな声で試合を賞賛したのは、意外な事にロボ子爵だった。

――――――――――――

「あなたがテンマを褒める様な事を言うなんて意外ね」

「ふんっ、あの小僧がどう言われようが俺には関係ないが、アムールが馬鹿にされるのは我慢ならん!」

「あっ、そう」

あの試合を見て批判する奴は目がいかれているか、理解するだけの実力がないかだけど、素直に認められないのも同じ様なものだと思うのよね。

「まあ、そこそこやる様だが、流石にブランカに勝つ事は出来んだろう。小僧が調子に乗れるのも次の試合までだな」

何か浮かれながら次の試合の予想をしているけど、果たしてこの人はブランカの状態を知っているのかしら?ちょっと試してみようかな。

「なら、私と賭けをしない?私はテンマが勝つ方に賭けるわ」

「いいだろう、俺はブランカだ。で、何を賭ける?」

「そうね……それは後で決めましょうか?今はじっくり考えている暇はないし」

「それもそうだな。だが、あいつをアムールの婿にすると言うのは無しだぞ!」

「ええ、いいわよ」

かかった!やっぱりこの人は、ブランカを信頼……と言うより、テンマを過小評価している。仮にも王都の武闘大会の優勝者だというのに、ブランカにたまたま勝ったから優勝できたとでも思っているんでしょうね。

このままだと、アムールの為にも南部の為にもならないから、少し痛い目にあってもらいましょうかしらね。 反論した(ダダをこねた) 際の切り札も手に入った事だし。そう、とびっきりの切り札がね……

―――――――――――

「ハナさんがすっげぇ悪い顔してる……ロボ子爵の負けフラグが立ったな」

「フラグ?」

俺の呟きに、近くにいたアムールが反応した。フラグという言葉は前世と同じ意味で使われてはいるが認知度は低く、主に物語などで使われている為、本をほとんど読まないアムールにはわからなかった様だ。

なお、こういった言葉の使い方のほとんどが、俺と同じ転生者から広がったと思われるのだが、俺が死ぬ少し前から使われ始めた様な言葉(例えば、前出のフラグやオタク的な意味での『萌え』など)もあり、それらがどこから広がったかは不明だ。本命はナミタロウだが、あいつも俺が死ぬだいぶ前に転生しているので、これらを広めたかどうかは微妙なところだ。

「なるほど……確かにお母さんがあんなあくどい顔をしている時は、アレがいつも痛い目にあってる気がする」

アムールに言葉の意味を説明すると、感心した様に頷いていた。それにしても、よほどアムールはロボ子爵を父と呼ぶのが嫌なのか、いつも『アレ』とか『あいつ』とか言っている。まあ、ロボ子爵の性格を考えたらアムールが嫌う気持ちはわからんでもないが、同じ男として少し同情してしまうところもある。

「そろそろ、ブランカの試合が始まる」

考え事をしながら控え室に戻ると、丁度ブランカが試合の開始位置に着いたところだった。

「そういえば、なんで叔父のブランカを、アムールは呼び捨てにしているんだ?」

「みんながブランカって呼んでいたから、その影響で叔父の意味を知る前からブランカって呼んでた……らしい。前に一度『叔父さん』って呼んだら、ブランカ自身が嫌そうな顔をしたから、そのままブランカって呼ぶ事にした」

との事だった。もしかしたらブランカは、嫌そうではなく恥ずかしかったのかもしれないが、本人や周りが何も言わないなら指摘しなくてもいいか。

そんな事を考えていたら、いつの間にかブランカの試合は終わっていた。

ちゃんと見ていたアムールとスラリンによると、ブランカの突進からの右ストレートで相手が崩れ落ちたそうだ。

二人(一人と一匹)がその瞬間の真似をしながら(ブランカ役がアムールで、相手役がスラリンだった)教えてくれたが、殴られて崩れ落ちるという動きを球体に近いスラリンが再現しようとしたので、ただ単に殴られたボールが床を転がっただけにしか見えなかった。

そんな俺の感想を聞いたスラリンは、珍しく落ち込んでいた。

「テンマ、ひどい」

「いや、色々と器用なスラリンにも、苦手な事はあるんだなと思っただけだ」

スラリンは俺のフォローに少し元気を取り戻した様で、部屋の隅で体を伸ばしたり震わしたりしていた。もしかしたら、演技の練習でもしているのかもしれない。

「何か騒がしいが、どうした?」

俺の控え室の前を通りかかった試合終わりのブランカが、ひょっこりと入口から顔を出した。正式な大会ならブランカの行為は御法度かもしれないが、そこまで格式張った大会ではないので、八百長などを示唆する様な事を言わない限りは、係は何も言わなかった。

「お母さんがあくどくて、ヤツが風前の灯火で、スラリンが大根だっただけ」

「お、おう、そうか……」

何気にスラリンの悪口が混じっている事に本人は気が付いていない様だが、言われたスラリンはしっかりと気が付いており、またも落ち込んでいた。

アムールの説明に困惑したブランカは、俺に説明を求めて視線を送ってきたが、落ち込むスラリンに更なるダメージを負わせるわけにはいかなかったので、苦笑いで説明を拒否した。俺が拒否した事で、ブランカは更に困惑した様だが、スラリンのダメージとブランカの困惑ならば比べるまでもなかった。

「とにかく、次の試合はよろしくなブランカ」

「あ、ああ」

困惑した状態のブランカと無理やり握手をしてから、ブランカとついでにアムールを控え室から追い出した。

追い出される際にアムールはかなり抵抗していたが、何かを察したブランカにより連れ出されていった。

その後、二人のいなくなった控え室で雪辱に燃えるスラリンの特訓に付き合わされて、他の選手の試合を見逃す俺だった。

「まあ、ブランカに勝ったら、後は特に問題はなさそうだけどな」

「何か言ったか?」

スラリンの特訓のおかげ?であっという間に時間は過ぎ、現在ブランカと会場で向かい合っている状態だ。しかも、なんとなく呟いた言葉がブランカの耳に届いた様だ。

何でもないと誤魔化して、試合開始の合図を待つ事にした。ブランカも特に興味が無かった様で、そうかとだけ言って、手に持つ槍を握り直していた。

審判が俺とブランカを交互に見たので、そろそろ合図がかかりそうだった。俺は合図と共に動ける様に刀を抜き、ついでに鞘も腰から外して、右手に刀、左手に鞘の二刀流状態で開始線の前に立った。

「試合、開始っ!」

「お「せいっ!」」

試合開始と共にブランカが雄叫びをあげようとしたが、俺はそんなブランカに刀を投げつけた。

刀は一直線にブランカの眉間目掛けて飛んでいったが、ブランカは慌てながらも槍で刀を弾いた。

「オラっ!オラオラオラオラ、オラっ!」

俺はブランカが刀を弾いた隙に近寄り、最初の一撃で槍を持っていた腕を叩いて槍を手放させ、武器なしとなったブランカに続けざまに鞘で連撃を浴びせた。

ブランカも最初のうちは連撃の隙をついてパンチやキックで反撃していたが、俺がブランカの攻撃をかわしながら周りを移動して攻撃を続けているうちに、ブランカは防御で手一杯になっていった。

「そいっ!」

「がっ……がぁあああ!」

ブランカの顎に突きが綺麗に入ったので、チャンス到来と畳み込もうとした瞬間、いきなりブランカが大きく吠えた。一瞬命の危険を感じ、大きく後ろへ飛び退いたが、ブランカはファイティングポーズを取り、俺を睨んだまま動かなかった。最初は足が動かないので、俺が近づくのを待っているのかと思って警戒したが、よく見てみるとブランカは瞬きもしていなかったので、恐る恐る近づいて、鞘でブランカの腕をつついて見た。すると、

「うわっ!」

突然、ブランカの右手がすごい速さで突き出された。騙されたのかと思って鞘を正眼に構えたが、ブランカは右手を突き出したままの状態で、また動きを止めていた。審判が近づいて確かめたところ、ブランカは立ったまま気絶していた。最後の一撃は、意識が飛ぶ前に行おうとしていた行動が、外部からの衝撃に反応して放たれたのだろう。なので、

「勝者、テンマ!」

俺の勝ちが宣言された。この試合は、後々まで語り継がれる事になった。俺の容赦ない連撃に加え、その連撃に気絶してなおも立ち続けた『ブランカの立ち往生』として。完全に俺は悪役の立ち位置だった……

ブランカの一方的な敗退に、選手や観客達の反応は二つに別れた。一つはブランカの負け方に納得できず、何らかの不正行為か取引があったのではないかという者達と、ブランカの負けは仕方がないと受け入れている者達だ。大体の比率は三対七くらいで、前者の代表格はロボ子爵、後者の代表格はハナさん(とブランカと予選で戦った猛者達)だ。ロボ子爵はブランカの負けが信じられないのか放心状態になっており、隣にいるハナさんの言葉に何の反応も示していなかった。

「取り敢えず、ブランカを運ぶか」

観客達がざわつく中、誰も立って気絶しているブランカを運ぼうとしなかったので、仕方なく俺がブランカを背負って控え室に向かう事になった。

ブランカは立っていた時は微動だにしなかったのだが、強引に背負うと体から力が抜けて、俺の背中に体を預けてきた。ただ申し訳ない事に、俺とブランカとでは体格の差がかなりあったせいで、時折足を引きずりながら運んでしまった。

つま先に余計な傷を負ってしまったブランカは、控え室に向かう途中でようやくやって来た係に背負われる事となった。

「おかえり~」

控え室に戻ると、アムールが侵入してした。しかも、おにぎりと熱いお茶まで用意して寛いでいる。

「いや、もうブランカとの試合が終わったからいいけど……寛ぎすぎだろ」

「まあまあ……でも、ブランカはついてなかったね」

「まあな」

俺の嫌味を軽く流したアムールは、寛ぎながらもしっかりとブランカを見ていた様だ。今回、俺がブランカをあっさりと倒せた訳は、簡単に言うとブランカの運の無さのおかげだ。ブランカが勝ち抜いた予選の組は、メンバーがそのまま決勝で戦ってもいいくらいの猛者ぞろいであり、最後には数名での乱戦になったのだ。いくらブランカが強かろうと、南部自治区の上位者達とのガチンコの戦いを繰り広げた際のダメージは、一日二日で抜ける様なものではなかったのだ。その為、ブランカは一回戦でかなりの格下に奇襲を仕掛けるまで追い詰められていた。

そんなブランカが相手ならば、奇襲をかけて先手を取った時点で俺の勝利が確定した様なものだった。まあ、ブランカが予想以上に頑丈で守りが堅かったせいで、思った以上の手数を必要としてしまったけれどな。

「ブランカがまともな状態だったら、まだ会場で戦っていたさ」

ただし魔法を使わなければ……という言葉が後に続くが、なしならば未だに試合は続いていただろう。それくらい、本来のブランカは強い。

「取り敢えず……テンマ、優勝おめでと」

「まだ二試合残っているが、ありがとな」

気の早い話だが、アムールとブランカを倒した以上、後は普通に戦いさえすれば、ダメージを負う事もなく勝てるだろう。残りの選手達とアムールとブランカの間には、それくらいの差がある。案の定、

「勝負あり、勝者テンマ」

準決勝は向かってきた相手の顔面めがけてのカウンターで終わり、

「そこまで、優勝はテンマ」

決勝戦は、相手の槍をかいくぐってからの抜き胴で終わった。決勝・準決勝とあっけなく終わったので、対戦相手に対して観客からブーイングが起こっていたが、俺に対してはあまり起こらなかった。

まあ、目の肥えた者を中心に、今回の大会は予選が全てだったという論調が広がったのも理由の一つだったのかもしれない。

その後、会場で表彰式を行い、優勝賞金の十万Gをハナさんから受け取って大会は閉幕となったのだが、終始ロボ子爵が姿を現さなかったのが少し気になった。

――――その日の夜、子爵邸にて――――

「さて、皆集まったわね」

本来ならば、大会の終了とテンマの優勝のお祝いをするべきなのだが、宴会の準備に時間がかかるのと、家族会議を優先させる為に後回しする事にしたのだ。

この家族会議に参加しているのは、 私(ハナ) とロボとアムール、そしてサナとブランカの五名だ。

アムールとブランカは何の話し合いなのか分かっていないみたいだが、あの人とサナは大会中に行った賭けに関する話だと勘付いているみたいだ。その証拠に、先程からあの人は何か理由をつけてこの場から逃げ出そうとしているし、サナはそんなあの人をブランカを上手く使いながら抑えている。

「それで、これは何の話し合い?」

テンマのところに行きたいのであろうアムールが、早くしろとばかりに質問をしてきた。ちょうどいいので、今後の話しだと答え、ついでに大会中にした賭けの事を話した。

「つまり、義姉さんは兄貴との賭けに勝ち、それが子爵家の今後に繋がると言いたいのか?」

「そうよ、この人はブランカの勝ちに賭け、私はテンマの勝ちに賭けた。その結果、私が賭けに勝ったのよ。何を賭けるかは決めていなかったけど、条件の一つに『テンマをアムールの婿にしない』というのがあったわね」

その言葉を聞いて、アムールはわかりやすく落ち込んでいたけれど、ブランカは何かに気が付いた様な顔をしていた。

「ま、まあ、負けてしまったのは仕方がない。それでハナは、アムールとテンマの結婚以外で、何をさせる気なのだ」

「お義兄さん、姉さんはテンマをアムールの婿にしないと言っただけで、結婚させないとは言ってませんよ」

「は?」

サナの指摘に、あの人は間の抜けた顔をしている。ブランカは、やっぱりか、といった顔をしているので、薄々私が何を企んでいるか思い当たった様だ。

「今回の賭けの景品として、アムールをテンマに連れて行ってもらうわ」

「は?」

「この話はテンマにはしていないけど、マーリン殿の了承は得ているから、ほぼ問題はないでしょうね」

「よしっ!」

あの人は理解出来ていないみたいだが、アムールはマーリン殿の了承を得ていると言うと、拳を握って喜んでいた。

「ちょっと待て、アムールは嫁にやらんぞ!」

「嫁にやるんじゃなくて、経験を積ませる為に送り出すのよ。可愛い子には旅をさせろ、ってね。まあ、その過程でテンマと愛を育んだとしても、それは仕方の無い事よ」

「うちの跡取りはどうなるんだ!」

「元々うちは名誉子爵だし、他の優秀な者が襲名すれば問題ないわ。そもそも、名誉爵はお父さんが貰ったものをあなたが継いだのよ」

「それでも、やはり爵位を継ぐのは血筋から出すのが……」

「それも問題ないわ」

何かと反論するこの人を黙らせる為、切り札の一つを切る事にした。

「サナ!」

「はい、実はこの度……子を授かりました」

「「マジで!」」

私の切り札その一は、サナとブランカの子供だ。この事はブランカにも知らせていなかったので、あの人と一緒に驚いている……と言うか、驚きすぎて固まっている。それもそうだろう、何せ結婚してから十数年経つが、一向に妊娠する気配がないので二人共諦めていた節があるのだ。そのせいで何度かサナが苦しんでいたが、ブランカがサナにベタ惚れだったおかげで夫婦としてやってこれたのだ。アムールが二人に懐いていた事も大きい。何せ、実の父親よりブランカに懐いていたし、下手すると私よりサナの方に懐いていたかもしれない。

「サナ、それは本当なのか?」

「はい、ここにちゃんといます」

サナはそう言って、ブランカの手を自分のお腹に持っていった。今は目立つ程ではないが、後一ヶ月もすればよりわかりやすくなるだろう。

「多分だけど、この子は男よ」

「そうか……」

こういった時のサナの勘はよく当たる。何せ、私のお腹の中にアムールがいるとき、あまりに暴れまわるので皆が男だと言う中で、サナ一人だけが女の子だと言い当てたのだ。それからも、幾度となく妊婦のお腹にいる子供の性別を当て、その正解率は九割を超える。

「これで跡取りは問題ないわね。生まれてくる甥には申し訳ないけど、未だに男が継ぐという事にこだわる奴もいるし、アムールに当主としての資質が欠ける以上、頑張ってもらわないとね……あっ、それと、この度私は子爵に任命されたから」

「「「「は?」」」」

ここぞとばかりに、皆に秘密にしていた二つ目の切り札を切った。この話は、王妃様の手紙に書かれていたのだ。テンマから書簡を受け取った時に、何故か私宛の手紙が入っていたのだが、恐らくは私に首輪を着ける事で、テンマの婚姻話に口を挟みにくくする為だろう。だけど私は、アムールの結婚に関して正室にこだわるつもりはない。最悪、結婚しなくても、テンマのそばにアムールがいるだけでもいいのだ。なので、この話は旨味の方が多いと判断し、正式に受けるつもりだ。その為の返事もすでに書き上げてある。後はテンマ経由で渡して貰うだけだ。

「つまり、名実共にお母さんが南部のトップ」

アムールの言葉に、あの人は自分の立場を思い知らされた様だ。これまでは名目上のトップはあの人だったので色々と好き放題できていたのが、私の方が爵位が上になった事で、これからは私に許可を取らなければならないのだ。決定権を握れたのはかなり大きい。なので、

「アムールの事は、子爵家 新(・) 当主の決定だから、文句は受け付けないわ」

「のぉおおおおおーーーーー!!!」

絶望に染まったあの人の野太い叫び声が、屋敷のみならず外まで響き、そのおかげで瞬く間にアムールが南部自治区から旅立つ事と、サナの妊娠がナナオの人々に知れ渡る事となった。