軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

94話 エルフの里防衛戦⑤

「も、もちろんそれだけというワケでもないのじゃ」

俺が呆れ顔をしたのに気がついたリリ様が、続いて説明してくれる。

ダークエルフの一族はエルフの権力闘争にやぶれた一族だ。遡れば今のエルフの王族とも血縁関係がある。

数百年前の当時は王国の成立前。エルフの里もなく、帝国のとある場所に小さな領地を構えるのみだったそうである。放浪するエルフも多く、ダークエルフの一族も旧エルフ領を出て行った。どのような権力闘争があったのかはリリ様も詳しくは知らなかったが、それはどこにでもあるような普通の政治闘争だったそうで、血なまぐさい面はなかったとリリ様は強調する。

追い出したわけではない。ダークエルフは自ら領地を出たのだ。今も昔もエルフの数はそう多くはないので、エルフ同士争うことがあっても、死者が出るほど激しくなることはほとんどない。

しばらくすると彼らは帰還した。すっかり変わり果てた姿となって。黒い肌に銀髪。そして強化された肉体。

エルフは魔力が強い反面、肉体的には人族の中でも最弱である。それが人間どころか、獣人やドワーフ並みの力を得て戻ってきた。それにともなって、何故か女性エルフはみな胸が大きくなっていた。

彼らは新しい神に宗旨替えすれば、素晴らしい肉体に、魔物に脅かされることのない広大な領地、地上の楽園が得られると約束した。

約束は本当であったが、なんのことはない、新しい神とは邪神であって、魔物を配下として従えているだけなのだったが、当時はまだ魔王の存在が知られる前。長寿であるエルフは知恵があり、安定志向だ。軽々に信奉する神を裏切るようなものはほとんどいなかったが、それでも少なからぬ若いエルフが新天地を求めてダークエルフについて行ってしまった。

そしてその後の魔王軍による本格的侵攻。

そこからは極めて血なまぐさい、物理的な闘争だ。

エルフは一族の総力を挙げ、死力を尽くし、ダークエルフを狩った。密かにだ。こんなことが公になれば色々と不名誉だ。

魔王も魔族も、勇者の証言のみで存在すら疑われるほど表には出てこなかった。そのお蔭もあってダークエルフの一件は一般には知られることはなかった。

知った者も、エルフが刺し違えてでもダークエルフを倒し、多くが散っていったのを知り、見れば口をつぐんだ。

今では魔族は魔族であり、謎に包まれている。そういうことになっている。

「エルフの男は魔王側にはつかなかったんですか?」

「元々我らの男性は数が少ない。それもあってかあっちについたのはほとんどが女性じゃったようじゃ」

それで胸につられて裏切ったのだろうという話になったらしい。

「胸か地上の楽園か。真相はわからんが愚かなことじゃ。この里こそ、エルフにとっての真の楽園じゃというのに……」

里の中心部の、美しい白亜の城を見ながらリリ様がつぶやく。

「こんなことを話したのも、そなたらが陸王亀を倒し、里を助けてくれたからじゃ。努々、漏らすでないぞ?」

リリ様も救ったとは言わない。まだ戦いは継続しているのだ。

「許せませんね。神様を裏切って邪神につくなんて」

アンからすればそうだろうな。

「全くじゃ。じゃがもし見つけてもあまり近寄らんほうがよいぞ。恐ろしく強い。やるならさっきみたいに遠距離から不意打ちじゃな」

今もなお、エルフは魔族を狩るべく追手を放っているのだが、何度も返り討ちにあっているそうである。もうちょっと具体的な話も聞きたかったが、基本、裏でやっている活動でリリ様もそれ以上は知らないという。

「お任せください。必ずや見つけだして倒して見せます。ね、マサル?」

「ああ、うん。もし見つければね」

「やつらも狙われてるのはわかっておるからの。滅多なことでは見つからんよ」

そいつを倒して敵が引いてくれるなら、俺とサティが隠密をしつつ……いや、だめか。いくら隠密が高レベルといっても、これだけの数の敵がいるのだ。効力がどこまであるのやら。それに敵にも探知持ちがいるかもしれない。

城壁の外に出て、どこにいるかもわからない敵を探すなんてかなり自殺行為だな。ただでさえ強いって話だし、倒したところでこの大量の敵が撤退するかは不明だ。

リリ様の話を聞いているうちにあたりが騒がしくなってきた。敵はと見ると相変わらず距離を取って様子見なようだが、先ほどから伝令らしきエルフが何人も隊長さんのところへと来てなにやら報告している。そしてこっちにやってきた。

「リリ様。南門付近が敵の猛攻を受けておりまして、増援をくれないかと……」

そう言いつつ、俺たちのほうを見る。

俺たちに行って欲しいようだが、リリ様は王族だし、俺たちは護衛の冒険者だ。命令などできようはずもない。

「妾はかまわんが……エリー、どうじゃ?」

エリーにまず聞くあたり、エリーがリーダーとでも思ってそうだ。一見するとそう見えるのはよくわかるが。

「そうですね。魔力はまだ余裕がありますし。マサル、どうする?」

「そうだな……」

ここで敵を待ちかまえていても意味はなさそうだ。敵が多い場所に移動できるならそのほうがいい。少々危険ではあるが。

「そなたらはもう十分働いてくれた。これ以上戦えとは妾からは要求もできぬ」

「戦います。我々はリリ様の護衛ですから。救援に行きましょう」

「おおっ。よう言ってくれた!」

想定してたより状況は厳しいが、なんとかクエストをクリアして、リリ様を連れて逃げるような羽目にはならないようにしないと。

「では……」

リリ様が精霊魔法を展開しようとしたところに、新たなエルフが走りこんできた。

「こちらにおられましたか、リリ様! 王が探しておいでです」

たぶん陸王亀を倒した件だろう。王様には倒しますって宣言だけして、特に口止めしてなかったっけ……

「父上には南門の救援に向かうと伝えよ」

「リリ様!?」

「よし、そなたらゆくぞ」

リリ様の周りに全員集まると、リリ様がフライを発動した。そして一旦、城壁の内側に下降すると地上に近い部分を高速で飛行する。

早くていいのだが、これって敵に魔力探知持ちがいたら丸見えだよな。それに魔力は節約したほうがいいんじゃないだろうか。そんなことをリリ様に言ってみる。

「探知に関しては諦めるしかないの。時間的余裕がない。それと言わんかったか? 精霊は攻撃魔法が苦手なのじゃ。使えないことはないのじゃがの。すごく嫌がる」

主(あるじ) がよっぽどの危機にでもならないと攻撃魔法は使ってくれないし、それも威力が低い。陸王亀でも精霊魔法は余り役に立たなかったそうである。ただ、防御面は優秀だし、落とし穴も精霊の力で巨大なのを掘った。それに戦闘以外の用途も多いし、攻撃魔法は自分の魔力で賄えばいいのだ。

話してるうちに南門のある戦場に到着した。城壁に降り立つと、危ないというだけあって、矢が飛び交っている。こちらにも飛んで来るが、それは精霊の風の盾が防ぎ止めてくれている。

矢に注意しつつ眼下を確認する。

「うわっ、城壁に取り付かれてるじゃないですか!?」

城壁の外は敵だらけ。堀を越えて、すでに沢山のオークが壁に取り付き、梯子や縄で城壁を攻略しようとしている。落ち着いて対処しようにも敵の矢が激しく降り注いでおり、俺たちの近くにも何本も着弾している。

エルフたちの怒号が飛び交う。俺たちにかまう余裕もないようだ。魔力がもうないのか、みな弓で応戦している。怪我人も多い。

幸いまだ侵入はされていないようだ。空の魔物もまだ遠くに待機している。

「急ぎましょう。まずは敵の集団を殲滅しないと!」

「エリー、俺がやろう」

【メテオ】を詠唱開始――

顔を出すと矢が飛んでくるので壁に張り付いたままだ。狙いはつけなくてもいい。ほとんど見渡す限り敵だ。範囲も広く設定する。まずは敵の弓兵の排除だ。

――――詠唱が完了した。普通のメテオなら制御にも何の問題もない。

「メテオ!」

壁に隠れたまま、適当な狙いでメテオをぶっ放す。

敵のはるか上空に多数の隕石が生成される。

それは赤熱しつつ、ゆっくりと降下を始める。

普通の威力のメテオではあるが、範囲を広くしたために、残った魔力の半分以上がなくなった。しばらくは撃てないだろう。

落下する隕石は空を飛んでいた魔物も多数巻き込む。どうやら攻める機会をうかがって後方待機をしていたようだ。

そして着弾。轟音。

矢の雨がやみ、戦場に一瞬の静寂が訪れる。

壁から顔を出して戦果を確認する。

メテオにより森の木は広範囲でなぎ倒され、もうもうと煙があがり、所々火の手があがっている。

「お、おお……マサルはすごいのう」

「驚いている暇はありませんよ。残っている敵を排除しないと」

壁と、壁の近くの敵は丸々残っている。堀には簡易の橋がかけられているようで、そこからまだ敵が城壁に渡ってきている。

「わたしたちもやるわよ!」

エリーにアン、ティリカが攻撃魔法の準備をする。

サティはすでに残敵の掃討にはいっていた。エルフたちも驚きから冷めて反撃を開始している。敵の矢さえ来なければここは高さが五十mはある安全な城壁の上だ。

そしてみなと交代で俺はまた休憩である。メニューをチェックすると今のでレベルが2つあがっている。残りのポイントは42P。

弓術をレベル3から5に上げ、更に鷹の目も取る。これで残り23P。

アイテムボックスから自分の弓を取り出す。

「マサルは弓も扱えるのか」

「ええ」

もともとレベル3あったとはいえ、実戦ではあまり使ったことがない。ちょっと練習が必要だろうな。

弓を手にサティの横につき、鷹の目を発動して戦場を見渡す。

俺の視力はごく普通に1.2ほど。それが、ちょっと注意を向けるとその部分だけ詳細にくっきりと見えるのだ。双眼鏡ともずいぶん感じが違う。全体をみつつ、細部も見える。視覚の急激な変化にちょっと頭がくらっとする。

それだけじゃない。リアルなオークの面や、戦場に折り重なる死体もはっきりと見えてしまう。

敵で魔物だとはいえ、大量の死体はおぞけをふるうものだ。だいぶ慣れたとはいえ気分のいいものじゃない。

だが戦場の光景に怯んでいる場合でもない。メテオの焼け野原を越え、新たに進軍してくるオークが見える。矢も再び散発的にだが飛んでくる。

鷹の目で弓を撃っているオークをみつけ、弓を構え、放つ。

外れた。ずいぶん手前に矢が落ちた。鷹の目と弓を一気にあげたので調節が難しい。

もう一度、放つ。今度はオークの頭を越えて飛んでいった。

もう一発。今度は顔面に突き刺さりオークは倒れた。

今ので感じは掴めた。止まっている的ならほぼ狙える。だが慎重に狙って撃つ必要があるな。

隣にいるサティはさくさく撃ってるんだが、同じようにはできそうもない。俺の使っているのが安物の弓というのもあるのだろうが、同じレベル5でも経験の差は大きいようだ。

サティとともに敵の弓兵を殲滅していく。メイジがいないか魔力感知もしてみるが、今のところ反応はない。

エルフの弓兵も腕は悪くない。ただ遠距離になるとさすがに命中率が落ちるようだ。使っている弓の種類もあるのだろう。大方のエルフが使っているのは俺やサティの使っているのより小型の弓だ。

オークの弓兵はパワーがあり、エルフの矢が届くか届かないかぎりぎりの距離から撃っているにもかかわらず、城壁の上までびゅんびゅん飛ばしてくる。だが狙っている様子はない。数で押す感じだ。

だがそれもサティの狙撃で見る間に減っていっている。

「このあたりの敵はだいたい片づいたわね」

俺が10匹ほど倒したあたりでエリーがそう言ってきた。壁に取り付いたオークや、堀に渡された橋みたいなものを破壊し終えたらしい。再開した敵の矢もほとんど止まっている。

だが鷹の目で確認すると、門付近は落ち着いたものの、さらに向こう側には相変わらず敵があふれている。

一体どれほどの魔物が戦場にいるのだろうか……

「魔力の残りはどうじゃ?」

「メテオはしばらく休憩しないと無理ですね」

「もう一戦くらいならいけます」

エリーがそう言う。みんなの魔力をチェックすると残り3割ってところだろうか。そろそろ転移分の魔力は温存してもらわないと。

「マジックポーションはもっておらんのか?」

「ありますが、効果が・・・」

手持ちの魔力回復薬では飲んだところで気休めレベルだ。

「我らのをもらってきてやろう。ちょっと待っておれ」

リリ様はそういうと、手近にいるエルフに声をかけ、一緒にどこかに行ってしまった。

「エルフ製のポーションならかなり回復するわよ」

エリーがそう言う。エルフ産のポーションはエルフの里の特産品の一つで大層効果があるそうだ。でも高い。魔力回復薬は総じて値段が高く、その中でもエルフ産ポーションは最高級品。良い物だと一本で家が買えるくらいはするそうだ。

「これじゃ」

戻ってきたリリ様にポーションをもらい飲む。

「あまりいいものがなかったんじゃが、とりあえずはそれで我慢してくれ」

それでも俺が買って持っているポーションの10倍くらいの回復量があった。少し魔力が回復したので弱めのメテオならあと一発は撃てそうだ。

だがたった一発。エリーたちもあと一戦すれば魔力は底をつくだろう。

南門の正面の敵は殲滅したが、その更に向こうの敵はまだまだ健在。メテオで破壊した奥からも敵が進軍してきている。

敵が多すぎる。

このクエスト、本当にクリアできるのか・・・?