軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

36話 神殿騎士団

午後はサティの読み書きを見てやりながら過ごした。いつものように椅子を並べて、この前アンジェラにもらった童話を読んでやる。エルフやらドラゴンやらモンスターは出てくるが日本の昔話みたいな雰囲気がして懐かしい。昔はアニメでよく見たものだ。

「森から……エルフが……あ……あ?」

「現れて、誰何した」

「あらわれて……すいかした」

サティの教育は順調に進んでいる。料理も既に一人で簡単なものなら作れるし、文字も簡単なものなら読めるようになった。やはりやる気の問題だろうか。習得がすごく早い。この分なら1ヶ月もあれば読み書きは問題がなくなりそうだ。そろそろ算数でも教えてみるか?

いつも通り夕方にティリカちゃんがやってきて、続いてアンジェラも来た。

アンジェラは料理中などにこちらをちらちら見るが、さすがにサティとティリカちゃんがいる中で好きだのなんだのは無理なのだろう。おれも無理だ。どっかで2人きりにならないと。学校なら校舎裏か屋上に呼び出すところだが。

食後、サティとティリカちゃんがお風呂に入ってる間を狙おうとしたら、アンジェラも一緒に入っていった。3人がキャッキャウフフしてるのを想像してちょっと悶々とした。

お風呂からあがると今日はもう帰ると言う。玄関まで送っていく。さすがにアンジェラもこのまま帰るのはどうかと思ったのだろう。

「あの、朝のことなんだけど」

「う、うん」

「その、マサルのことは好きなんだけど、マサルの気持ちも考えてなかったなって……」

「あー、うん。おれもアンジェラのことは好きだよ。ただちょっと急でびっくりしたというか」

「そ、そう?そうだよね。急だったよね」

「だからもっとゆっくりでいいんじゃないかと思うんだ」

「うん」

「だから今まで通り普通にしてくれると嬉しいな」

「そうだね。マサルがそういうならそうするよ」

そういうとパタパタとアンジェラは帰っていった。

今のでいいよな?ちゃんと好きって言ったし。なんか最後のほうはいいお友達でいましょうみたいな雰囲気になっちゃった気がするけど。

ちなみに風呂あがりの女の子を一人で帰すのはどうかとマサルは最初思ったのだが、アンジェラは魔法だけでなく、メイスを使った戦闘もできる。目立たないように小さめのメイスも持ち歩いていたりもする。治安もいいし地元民でもある。ましてや神官に手をだそうという命知らずはまずいない。

何がそんなに恐ろしいのかというと、神殿騎士団の存在である。どこの国家にも属さず、強大な戦力を誇る神殿騎士団は国家規模の戦闘力を有している。そして日夜、モンスターと戦い民を守っているので尊敬もされている。神殿の関係者というだけで、犯罪者でもびびるのである。

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

翌朝、朝食を食べているとアンジェラが来た。

「どうしたの?ああ、スープとパンならまだあるよ。食べていきなよ」

「ありがとう。それでね、今日神殿騎士団がうちに逗留することになったんだよ」

「へー?」

「ほら、エリーと同じ任務だよ」

なるほど。魔境に開拓村を作るやつか。

「マサル、昨日野うさぎいっぱい狩ったって言ったよね。ちょっと分けてくれないか」

「そういうことなら、ある分全部あげるよ。お金はいらない」

どうせ一日で穫れる量だし、また狩りにいけばいい。

「ええ?そりゃ安く売ってもらおうとは思ってたけどただは悪いよ」

ギルドで売った価格が市場では倍くらいになる。それを知っているから直接売ってもらおうとアンジェラは考えたのである。半額で売ったとしてもマサルには損はない。

「寄付だよ、寄付。それにエリザベスと同じ所に行くんだろ?」

「うん」

「暁の戦斧の関係者から寄付だって言えば、ちょっとは向こうでエリザベスのことを気にしてもらえるんじゃないか?」

アンジェラも喜ぶ。エリザベスのことも助けになるかもしれない。一石二鳥じゃないか?

「そうだね。そういうことなら」

食後準備を整えて、ギルドに行く前に孤児院に向かった。

「あらー、その子がサティちゃん?可愛いじゃない。それでこっちがティリカちゃんね」と、シスターマチルダが出迎えてくれた。

サティたちはシスターに任せておいて、食堂に行く。器を準備してもらって野うさぎの肉を積み上げていく。

「マサル殿、ご寄付ありがとうございます。これだけあれば足りるかもしれません」と、司祭様。

足りるかも?野うさぎの肉、かなり多いんだけど。

「何人くらい来るんですか?」

「100人ほどと聞いております」

100人!?そりゃ大変だ。アンジェラが肉の買い出しに来るはずだわ。

聞けば今回の開拓村、神殿もかなり本腰をいれて協力をしているそうである。最初に1個拠点を作り、そこを足がかりに最終的に5個の開拓村を作る。そうして5つの村とゴルバス砦の間を安全地帯とする。計画自体も壮大である。

「騎士団の人たちはどのくらいに来るんですか?」

「昼くらいだと」

100人分の昼食と夕食分か。これは足りないな。追加で狩ってこよう。

「わかりました。今から追加で狩ってきます。同じくらいの分量は取ってこれると思います」

「わざわざすいません、マサル殿」

「いえ、神殿には常々感謝しておりますから」

主にアンジェラに、だけど。

訓練場にサティを預けて草原を探索する。100人分だ。ちょっと本気でやってみようか。

3時間ほど草原を駆けまわり野うさぎを狩る。気配察知をLv3にあげておいたのが功を奏した。このまま続ければ最高記録を更新しそうな勢いである。途中森の近くではぐれオークも1匹しとめた。だが、あまり時間もかけられないし、これでもう十分だろう。

神殿に戻ると、既に騎士団が到着していた。揃いの鎧を着込んだ騎士たちが、中庭や神殿ホールでたむろしている。中庭ではどこからか机や椅子が運び込まれており、食堂では昼食の準備で何人もが忙しく働いている。アンジェラもそこに混じって働いていた。

気配を殺して食堂まで行くと、司祭様が騎士団の人となにやら話しあっていた。

「おお、マサル殿。早かったですな。こちらは神殿騎士団金剛隊の隊長テシアン殿です」

紹介され、握手をかわした。テシアンさんはちょっとヒゲを生やした壮年の厳つい顔をした、いかにも歴戦といった感じの人だ。

「今マサル殿の話をしておりましてね。野うさぎの肉を沢山寄付してくれたとか。いやー、うちの連中は大食らいでね。あまりこちらに迷惑をかけるわけにもいかんし、助かりますな」

「いえ、魔境に行く騎士団の方々の助けに少しでもなればと」

「殊勝なことです。マサル殿のご厚意と神に感謝いたしましょう。聞けば冒険者のご友人も今回の作戦に参加されてるとか?」

「はい、暁の戦斧というパーティーの魔法使いでエリザベスと言って、わたしの魔法の師匠なのです」

「師匠どのですか。覚えておいて気をつけておきましょう」

まあ覚えてもらって何が変わるわけでもないとは思うが、少しでも恩を売っておけば何か助かることもあるかもしれないし。こんな強そうな人がエリザベスの盾に少しでもなってくれれば、ちょっとは安心できそうだ。

「ありがとうございます。それでは今狩ってきた分を出しますね」

食堂の机はすでに食事の準備が始まっていたので食材庫に移動する。食材庫は冷蔵庫も設置してあるが、部屋自体がひんやりと氷で冷やされていた。

食材庫の床に野うさぎを三十数匹どさどさと出す。さすがにアイテムボックスでの解体はしなかった。こんな短時間で数を狩って、解体までしたとなると怪しさは半端じゃないだろう。それに解体しないほうがいいこともある。解体すると毛皮と肉だけになるのだが、内臓や脳みそなんかも食べられる。

「朝からだけでこんなに?野うさぎハンターとは聞いてましたが、これほどとは……」と、司祭様。

「解体は悪いですが、そちらのほうでお願いします」

「もちろんですとも。うちの隊員にやらせましょう。いや、新鮮な野うさぎか。楽しみですな」

隊長の人はそういって、野うさぎの1匹を持ち上げ見ていた。

「急所をナイフで一撃。若いのにいい腕をしている。それに短時間でこの数。加えてマサル殿は回復魔法や攻撃魔法もかなり使えるとか?」

「ええ、まあ」

「どうですかな、神殿騎士団に入ってみませんかな?とりあえずのお試しでも構いませんよ」

うちは給料は安いですが、神に仕えて戦う立派な仕事です。神殿騎士団に勤めてるともなれば箔もつきます。怪我や老後で引退してもばっちり面倒をみますよ、うんぬんかんぬん。

「冒険者稼業が性にあってまして。それに当分はこの町を拠点にするつもりなので。お誘いは嬉しいですが、すいません」

「そうですか。いや有望そうな若者がいたらつい、スカウトする癖がありましてな。まあ困ったことがあればわたしを訪ねてきてください。できることがあればお助けしますよ」

そして頼ったら神殿騎士に入れられてしまうんですね。怖い怖い。

「あと解体したあとの毛皮はどうしますかな?」

「うーん。孤児院のほうでいりますか?」

今日はオークを1匹仕留めたから金銭的には特に持って帰る必要もない。

「そうですね。冬に備えて毛皮があればありがたいですが」

「ではそのように」

「ありがとうございます、マサル殿」

食堂を抜けるときにアンジェラと目があったので軽く手を振って庭にでた。アンジェラは今日はさすがにうちには来ない。

隊長の人と司祭様に挨拶して行こうとしたら、隊長の人に引き止められた。

「少しお待ちを。マサル殿。おい貴様ら、起立して注目!」

一斉に騎士団の人たちが立ちあがりこっちを見る。一体何が起こるんだ!?

「冒険者のマサル殿が大量の野うさぎの肉を寄付してくださった。感謝の言葉を」

「「「ありがとうございます、マサル殿!」」」

バッと揃った声で、礼もタイミングがきっちり合っていた。あれか、子供たちがやっていたのはこれが元か。

恥ずかしいのでどーもどーもと言いながらそそくさと神殿を後にする。

ギルドに寄ってオークの報酬を受け取ってから、訓練所にサティを迎えに行くと、サティが教官3人に囲まれていた。

「あの、サティがなにか……?」

サムソンさんに声をかけてみる。

「おお、マサル。この子は天才だな!この短期間でこんなに上達するとは。いい剣士になるぞ」

「いやいや、サティちゃんはアーチャーが似合っておる。一流のアーチャーになれますぞ」

「ここはバランスよく育ててですな」「いや特化したほうが……」などと議論が始まる。サティが困った顔をしている。

レベル2にしただけでこれか。おれがレベル4で練習してたときはこんなこと一度もなかったのに。何この扱いの差。そりゃサティは可愛いけどさ。

でもどうしよう?適当にレベル3にあげるつもりだったが、少し危ないか?それとも天才だってことで押し通そうか。

「ええと、サティには剣と弓両方やらせようと思ってまして」

「そうだろうそうだろう。バランス型が一番なのだ」と、一人の教官が言う。

「まあ主人がそういうならその方向で鍛えてみよう」と、もう一人の教官。

「よし、じゃあマサル。ちゃんと毎日連れてくるんだぞ?」と、サムソンさん。

「はあ。まあ仕事もあるんでなるべくってことで。じゃあサティ、帰ろう」

サティに浄化とヒールをかけてやりながら言う。

「ありがとうございます、マサル様。ではサムソン教官どの、マックス教官どの、ニコライ教官どの、失礼しますね」

「またなーサティちゃん」と、教官たちに手を振ってもらい訓練場を後にした。教官たち、サティにかかりっきりでいいのか。他の冒険者困るだろうに……

ティリカちゃんに挨拶をしてギルドを出る。ティリカちゃんはちょくちょく訓練場にサティを見に来て、休憩時間にお話とかをしているらしい。相変わらず仲がいい。

「今日もあそこでご飯にしようか」

野うさぎ狩りで体力使ったし楽がしたい。竜の息吹亭にしよう。

「はい、マサル様。それでその、今日アンジェラ様来られないんですよね」

「うん、朝にもそう言ってたね。さっきも見に行ったんだけど、騎士団の人がいっぱいきててね。すごく忙しそうだった」

「それでティリカちゃんも今日は来ないって……」

ふーん。ん?んんん?なんですと?ていうことは今夜は2人きり?

「あの、ティリカちゃんはなんて?」

「チャンスだって……」

やっぱりかあああああああああああ。

「あの、マサル様、前にお風呂で約束してくれましたよね。でもなかなか機会がなくて、その」

「ああ、うん。いいんだ」

そろそろ覚悟を決めるか。いろいろ我慢が限界になっていることでもあるし。サティの手をぎゅっと握りながら考えた。

「うん。約束だからね。約束」

「は、はい」

その日の昼食はいつもと同じ日替わり定食を頼んだが、味がよくわからなかった。