軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

335話 魔力開発施術院

王家の森で魔法予備学校の場所を決め、俺の土魔法で基礎となる建物をいくつか建造。エルフの建設部隊を呼び寄せて内装などを仕上げてもらいながら、予備学校の組織や運用についてフローレンス神殿長と決めていった。

魔力開発に関する業務はすべて予備学校に集約する。魔力開発を施術する部門と、魔力開発法の施術者を育成する部門。それと今回俺が思いついた施術を待つ間に魔法を学ぶ魔法予備学校の三つの部門だ。

施術者の育成はエルフの里でやっていたからこちらへと引っ越し、そのままエルフが受け持つ。魔力開発法の施術は神殿が受け持ち、予備学校はエルフと神殿も人を出すが、基本外部から人材を探す事となった。魔法の学習でも基礎部分のみの指導になるから、既存の魔法学校を卒業したばかりの者でも十分務まる。探すのは難しくないだろう。それからエルフと神殿の負担を減らすため、雑務を担当する人員を必要なだけ雇う。

俺の身分は神殿所属の魔力開発施術院の院長で、魔法予備学校と魔力開発施術院、魔力開発法施術者育成院の三部門を運営することになるが、あくまで名目だけで当面は神殿長が副院長として運営を担うこととなった。

予備学校以外は移転だけでいいので稼働は明日からでも可能だ。性急ではあるが、帝国中の神殿を取りまとめる大神殿は魔力開発業務のお陰で通常業務が滞っており、早急に魔力開発部門を分離したい意向だ。

「引っ越しもあるから、明日一日は休みにしよう」

引っ越しをしながら業務を中断しないようにとか言い出したのでそれは止めておく。神殿長は、はっとした様子で頷いていた。やはり神殿はブラックだわ。休みに関する就労規則とかを作ったほうがいいのだろうか?

大雑把な方針が決まると、マサル様にお任せして正解でしたと神殿長は満足そうに戻って行った。それはそうだろう。建物から組織まで二時間ほどで作り、決まってしまったのだ。実際の運営では何かしらの問題は起こるだろうが、ほとんどが既存の組織の移設で済むから大きなトラブルはないはずだ。それを見送り、リリアに聞いてみる。

「寄付金の話、知ってたな?」

「それはそうじゃろう。我らは深く関わっておるからな。マサルはそうでもなかったであろう?」

確かに寄付金に関しての当事者はエルフと神殿であって、俺は部外者といえば部外者だった。だから俺には特に知らせなかったし、多額の寄付金の分配や使途なんかを相談されても困っていただろう。リリアも俺に余計な考え事をさせるつもりもなかった。それが俺の方から渦中に飛び込んできたから、これ幸いと押し付けてみたということのようだ。

「正直我らは寄付金などどうでも良かったからの」

エルフには豊富な資金源がある。帝都でのエルフの店は順調だ。その売上はなぜか俺の懐に入ってきているが、仕入れ元であるエルフにも当然莫大な額が入っている。それからポーションの売上も堅調だ。市場価格を破壊しないように高値を維持し、生産調整もしているほどだ。安売りしてしまうと一般の錬金術師が食えなくなってしまう。

千年計画から生まれる新規事業でも更なる利益も見込めるし、基本的に自給自足でお金はあまり必要としていない。寄付金に拘る必要はないのだ。

神殿内での話し合いではエルフにいくらか分け前を渡し、残りは神殿で使えばいいという意見が多かったようだ。神殿としても運営資金などいくらあっても有り難いものだ。しかしその分配で揉めた。

誰がどこにどのくらい分配するのか。一回きりの寄付なら話し合って決めても良かった。しかし寄付金は会議の間にも増えるのだ。莫大な権益であるが、恐らく二年か三年ほどで落ち着く一時的な資金流入だと予想された。議論百出。会議は紛糾したようだ。

「そこに我らの取り分はマサルに渡せ。勇者に使ってもらうと言えばどうなるかの」

またリリアはそんなことを。当然神殿としては勇者に、使徒に対する貢献は常々必要だと考えている。しかもそれがエルフの口から出たとなると面子にも関わる。エルフは俺に全振りをしている。人も金も言われるままに出し、戦いとなれば勇者の盾とも剣ともなる。それに比べて神殿は十分に貢献していると世間に対して言えるのか?

魔力開発法を担当してくれるのは俺としては助かるが、あれは神殿に大きな利がある。いまは神殿で限定しているから、魔法を覚えたいものは神殿の門を叩き、頭を下げる必要がある。元はエルフの秘術とはいえ、それは神殿の地位を大いに高めることになる。帝都での治療や貧民窟での活動、吟遊詩人のロッソ氏が俺の名前での寄付も結構な額になっているというし、アンは今も神殿の名前でボランティア活動に勤しんでいる。

神殿と俺の目的は被っている部分も多く、同じ神に仕える身でもある。借りや貸しなんて話ではないと思うのだが、世間向けにはそうもいかない。神殿は一方的に勇者の世話になっているばかりだと取られかねない。あるいはリリアがそんな匂わせすらしたのかもしれない。

「それに神殿からのアンへの報酬も滞っておるじゃろう?」

「ああ、アンの分か……」

それについては俺も同意するしかない。アンは毎日毎日、ずっと忙しく働いている。給与はどこからも貰ってないはずだ。元はシオリイの町の平の神官だったが、俺と行動を共にするために神殿の組織からは一時離脱している。最初は冒険者としての稼ぎもあったが、最近はそれすらない。たぶん必要ならエリーからお小遣いでも貰っているのだろう。俺もそうだが、何か特別な買い物でもなければ、お金を使う機会などほとんどなくて、財布に入ったちょっとした小銭で十分事足りるのだ。

しかし帝都での大規模な治療や最近は各地で治療活動を活発に行い、土魔法での土木工事まで覚えた。もちろんどれもお金なんか取らないボランティアであるし、ブランザ領での分はともかくとして、他は諸神の神殿の名を冠した活動である。

報酬の話もよく出るのだが、アンは一律無償奉仕にしているし、まともに金銭に換算したらえらいことになりそうだ。それにアンは冒険者の時の報酬も神殿や養育院への寄付へと回してしまっている。貰ったところでまた神殿に戻すのがオチだろう。

「じゃあアンにも使い道の希望がないか聞いておくか」

夕食時にエルフの里に集まって、魔法予備校を思いつき院長を引き受け、その流れで寄付金を任された話をする。

「エルフの取り分は俺が使うから、神殿の分はアンが自由に使ってもいいぞ」

「ええっ。自由にしていいって言われても……神殿に寄付とか?」

「神殿にそのまま戻すのはなしだ。具体的に資金を入れたい場所があれば別に構わないけど」

それも問題がないとは言えないが、アンが希望するのであれば俺が口出しすることでもないし、アンがきっちり分配するのなら問題もさほどないだろう。しかしやはり具体的な何かがあるわけでもないようだし、少々額が大きい。俺でも扱ったことのない金額を見て困った顔のアンにエリーが助け舟を出した。

「マサルはどうするの?」

「俺はミズホと、あとは余ったら千年計画だな」

俺の分だけならミズホがメインになる。俺が注力しているガソリンエンジンの開発には金はかかるが、今のところ試作段階で資金は十分足りている状態だ。

「これだけあれば開拓支援金の人数制限は無くせる」

ヒラギスの開拓地への誘致はまだ数日だが、すぐに予定人数に達しそうだとウィルから報告があった。思ったよりも現金給付への食いつきは良い様子だ。それでミズホでも人数制限が必要だろうと話していたのだ。

大規模になりすぎると俺たちの手持ち資金では不足する。かといってどこかから借金してまでやるものじゃないと、人数制限をしてやるつもりだった。

「ミズホのために使うのならマサルに任すわ」

ミズホへの移住はリシュラ王国各地の養育院の子どもたちも投入されることなっている。アンは過酷な開拓生活に子どもを放り込むことに憤慨しずっと気にしていた。

だがこれだけの資金があれば子どもへの保護を手厚くできるし、やれることも増える。農業指導。子供への教育。防衛のための兵力も当面は住民からの徴兵は控えて外注してもいいかもしれない。

しかしアンも少しくらい自分のことに使えばいいのにとふと思ったが、人から見ると俺もこんな感じなんだろうか。でも優先順位の問題なだけで、贅沢も多少はやっていると思うのだ。

「それで昨日の偵察はどうだった?」

だがまずはミズホの制圧が成功しないことには話にならないと話を進める。準備はすべて終わっている。ゴルバス砦の城壁の改修という名目でエルフがすでに砦に入り、城壁の鉄筋化をしつつ、物資を集積。臨時の拠点を作り上げている。

俺はすでに簡単な報告は受けているが、聞いてないメンバーのためにも改めて詳細な報告をウィルに促した。

「特に動きはない様子っす」

予備的な偵察でミズホ方面にかなりの数の魔物が流入してきている形跡があった。しかし改めて偵察をしてみてもゴルバス砦にまでは向かうような動きはないとウィルが報告をしていく。

偵察は実用化した航空機で行った。乗員は二名から最大六名。電動モーター駆動のプロペラ機で、バッテリーを何個も積んで無補給で一時間ほど飛行することができた。最高速度は魔法での加速も使って三〇〇キロほど。巡航速度は一五〇キロといったところだろうか。

バッテリーは一時間で切れてしまうから、雷魔法の使い手が随時補充をして、魔力が尽きるまで理論上はどこまでも飛行することができる。しかも魔法は充電時だけでいいから、魔力感知にかからない。夜間に高度を上げて飛行すれば、モーター駆動の静かさもあって、今のところ魔物側には気づかれた様子はない。偵察は加護持ちがやれば暗視と鷹の目で夜間でも問題なく行える。ただし軽量化のため機体は紙装甲だ。実戦にはまだ使えそうにもない。

「やはり半年の休戦後に一斉に攻める気なのじゃろうな。正直に協定を守るとは義理堅いことじゃ」

エルフの里周辺でも似たような魔物動きがあったし、ヒラギス方面でも再度魔物が集結しつつあった。それでいて攻め込む様子はない。明らかに組織立った動きだ。まあ組織というには三々五々、ばらばらに動いている感じであったが。

ダークエルフと結んだ半年の休戦協定が切れるまでにはまだ三カ月ほどあるが、大規模な軍勢を動かすとなると普通はそのくらいの準備期間が必要なのだろう。

「魔物は多いですが今のところヒラギスほどじゃありませんし、砦を築く予定の場所の警戒は特にないっすね」

それも当然といえば当然だ。砦を築くような場所は領地でも辺境で、山間部でそこだけ防衛すれば魔物の流入を防げるという隘路。平常時なら通過するだけの場所だ。ミズホ占領というこちらの意図を知らなければ警戒のしようもない。

「予定の変更はなしでいいな」

揃えた戦力で問題なく撃破できそうだ。ヒラギスとエルフの里周辺の魔物は休戦協定もあるし当面は放置だ。休戦はヒラギスとエルフの里周辺のみ。ダークエルフ側が他の地域まで責任は持てないと限定したのだ。ミズホは当然協定外で、攻め込むのになんら問題はない。

休戦協定の終わりを待って攻めて来るならむしろ大歓迎だ。タイミングがわかっていれば万全の態勢で迎え撃てる。

「よし。じゃあみんな、開戦まではゆっくり休んでおくようにな」

「マサルもよ?」と、エリー。

「俺はなあ……」

ガソリンエンジンはいまだ稼働モデルが作れていなかった。まずは据え置きの大型エンジンの試作をしているのだが、何段階もの複雑な構造はドワーフが投げ出しそうになるほどに手を焼いていた。何もかもが作ったことがないものばかりなのだ。俺がはっきりとした設計を知らなかったのもあり、部品一つ作るのにも時間がかかっていた。予算が増えたことでもあるし、様子を見に行くつもりだった。

それから魔力開発施術院のことで思いついたこともある。食堂が必要じゃないだろうか。エルフレストランはずっと満員御礼で、二号店を出店し、三号店も準備中だ。それを一部流用してもらって学食を作る。相手は将来の魔法使いだし、この時期施術を受ける者は金持ちや権力者が多い。エルフに慣れてもらう利益は大きい。

それからポーション作り、錬金術部門を併設してもいいかもしれないと考えた。錬金術は千年計画の根幹を為す技術だ。正直もっと科学技術をメインにしてほしいのだが、現状そうなのだから仕方がない。それでエルフに広めて有用だったし、一般にもっと広めてもいいのではと考えたのだ。

「わかったわかった。今日のうちに指示だけ出しておいて、二日間は絶対に休む」

俺が休まないとエリーもアンもリリアも休みづらいだろう。俺の返事にエリーが頷く。

「それがいいわ。どのみちしばらくは離れることになるんだし、私たちの不在に慣れさせておかないとね」

やろうと思えばミズホ攻略中でも転移で戻って通常の仕事を、なんてことはできなくもないが、さすがにそれは魔物を舐め過ぎだろうと完全にミズホに注力することになっている。

今後も魔物との戦いで長期の不在はあり得るから、慣れてもらおうという意図もある。予定では最短で一〇日だが、場合によっては一カ月二カ月と長期化する可能性もある。それでブランザ領の運営や千年計画に問題が発生するようなら、根本的な運営方法の修正を考える必要がある。

それで二日間はヤマノス村へ戻って、シオリイの町と後はブランザ男爵領へもエリーは顔を出す予定だ。そして休暇が終わった翌日、王都で俺の子爵への叙任式を行い、その場でミズホへの出陣の公表、王様からの勅命を受けることになる。

ミズホ攻略はまだ伏せている。王都にダークエルフは居ないだろうが、どこに情報源を持っているかわからないから用心のためだ。ミズホに集結している魔物にも指揮系統くらいは存在するだろう。俺たちの動きを察知されたくはない。完全な奇襲で戦いを終わらせる。

あとは長居すると俺がなにかのトラブルに巻き込まれる危険もある。さっと行ってさっと出陣してどこにも隙を与えないのが肝心だ。王様とは仲良くさせてもらっているが、王国方面で俺の知名度や影響力は不明だし、王様自体の権力が財政難や失政もあって揺らいでいる状況だ。ミズホ攻略開始前のリスクは避けたい。

「俺がどこかに行くと何かとトラブルに遭うのはなんでなんだろうな?」

新しい場所ならなおさらその傾向が強い。

「我らとてトラブルは多いのじゃぞ?」

リリアはまあそうだろうな。

「わたしもそうね。分かれて行動している時はそれなりに問題は起こってるわよ?」

ふむ。エリーもそうか。領地関連で問題は多そうだ。

「私もそれなりにあるかな」

アンやティリカもそう言って頷いている。二人も色々出かけているし、ティリカなんかは真偽官がそもそもは問題を持ち込まれることが仕事ですらある。

「でもあんまりそういう話をみんなから聞かないんだが?」

俺の言葉にリリアとウィルが答える。

「それはマサルに言うまでもない程度のことじゃからな」

「ほとんどは自分のところで処理して終わりって感じっすね」

じゃあみんな同じくらいトラブルには巻き込まれている? それが普通で俺が気にしすぎってことか?

「それじゃなんで俺だけ動くなって言われるんだ?」

矛盾してないか?

「規模がね、トラブルの大きさが違うの」

そうエリーが言い、ウィルも頷いて続ける。

「そうっすね。俺らのトラブルなんて所詮は普通のことで、普通に解決できるようなことですし」

「マサルが動けば周囲が右往左往するからのう」

「今日も治水工事をやって終わるのかと思ったら、魔力開発院なんて作って来るし。毎度のことだけどびっくりするわよ」

そうリリアやエリーも口々に言う。なるほどなるほど。影響力の差か? 使徒だ勇者だなんてことはどうしても周囲が放っておかないし、魔法や剣術関連もどれも影響力は大きい。

「別にマサルが悪いというのではないのじゃぞ? マサルがやることで大きな利益もあるし、間違ったことはせんからこれまで通り好きに動いてくれても良いのじゃ」

考え込んだ俺にリリアがそうフォローする感じのことを言ってくる。それもそうだ。トラブル体質だからってそれで行動を制限するのもまた違うだろうし。

「でも休みの間くらいは大人しくしていてくれるとわたしたちとしても助かるのよね?」

しかしエリーの言葉に皆が一斉にうんうんと同意するので、俺もそうだなと頷くしかなかった。