軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

325話 ライナス川治水計画の開始

朝食はエルフの里にて、全員揃っての家族会議である。昨晩は遅くまで計画のことを話していて寝るのがすっかり遅くなってしまって寝不足気味である。

研究所のリーダー、天才エルフさんは最近は俺の知識や知能の限界を把握してくれたのか無理な質問はせず、電気関連、特に各種発電所から送電網、社会全般の電気の活用法まで幅広く俺から情報を引き出していった。この対話型の方法は俺がうんうん唸りながら書くよりもずっと早いし、必要な知識を俺より頭のいいエルフさんが的確に引き出す、なかなかいい方法だった。

そのあたりの寝不足な理由と千年計画の進捗に少し触れたあとはドワーフとの交渉の報告をリリアが始める。

「――というわけでオリハルコン加工の秘密も見事に暴き、ドワーフもマサルの軍門に下ったわけじゃ」

そう得意そうにリリアは交渉の経緯を話し終えた。別に軍門には下してはいないがまあいいだろう。

「でもオリハルコンの予想が外れていたらどうするつもりだったんだ?」

「その時は錬金術の加工法でオリハルコンを超えると宣言してやれば良い。できるであろう?」

「たぶんな」

それよりもドワーフのことはもう少し話していく。神国ドワーフはともかく、帝国の長老は最後まで千年計画に参加するのを渋っていた。承諾したとはいえ取り扱いに注意が必要だ。

「まったく、あのミシガンというドワーフは面倒をかけおって」

「最後まで嫌がってたものな。そんなにエルフと一緒に働くのが嫌だったのか?」

勤務地が帝都だと知るとほっとした顔をしていた。

「帝国はエルフと色々あるのよ」

そうエリーが言う。まず奴隷化された歴史があって下賤だと思う貴族が多い。

「それから王国の独立戦争ね」

帝国で奴隷として狩り立てられ、いくつもの村が焼かれたエルフは帝国への恨みを込めて戦い、帝国軍を壊滅させた。

「特に戦場となった帝国北部じゃ、子供に悪い子にはエルフがやってきて首を切るぞとの脅し文句があるくらいなのよ」

そして恐らく件のドワーフの先祖もエルフと戦ったのだろう。帝国ドワーフの長老会議のトップになるほどだ。名家だろうし、子飼いの兵力も居たはずだ。子飼いの兵力とはすなわち親戚や仲間たちでもある。それがエルフに皆殺しに近い目にあった、そういうことも十分ある得るんじゃないだろうかと、エリーは言う。

「恨みもあったし、エルフを恐れてもいたのでしょうね。わたし? 最初はちょっと怖かったけど、王国だと普通に敬われていたしね」

親族衆を殺された恨みのある悪鬼のような下賤な種族。長い年月で薄まってはいるだろうが、それは嫌いとか苦手なんて生ぬるい感情じゃないのかもしれない。まあ突っ込んで聞くのも面倒そうだから掘り返しはしないが。

「ライナス川ですね。詳しい話は現地でしますが、とにかく大変そうです」

昨日、偵察と転移ポイントの確保に向かってくれたシャルレンシア三姉妹の長女、マルグリットがそう報告してくれる。簡単に言うと森が深くて、魔物がかなり生息しているそうだ。

戦闘があるかもしれないと今日は剣の稽古もなしだ。朝食後、まず帝都へ転移して、ウィルの兄クライアンスなどの帝国人の一団を拾う。偵察結果を二度説明するのも面倒だろうし、詳しくは合流後にすることになったのだ。

転移した場所はどこかの廃墟のようだった。

「ここは下流に近い場所で、昔の開拓の跡地のようです」

そうマルグリットが言う。元開拓地はすっかり廃墟となり草木に覆われ、周囲の壁も崩れ落ち、周りは森に囲まれていた。

そこから空にあがってまず目に入るのはどこまでも広がる、見渡す限りの森林だ。

「川沿いにざっと見ただけで、オークやハーピーの巣がいくつもありました」

しっかり探せばどのくらいいるのかわかりませんと言う。

「魔物の発生源になってるってことか」

駆除しようにも辺境かつ、深い森林地帯である。探知でもなければ魔物をみつけるだけでも大変な困難を伴う。

しかし地図によれば、この地は帝国の北西角。山岳地帯を越えた先はリシュラ王国で、魔物の殲滅ができれば帝国北西部の安全が確保できる。

開拓して損はないし海にも面していい場所だと思うのだが、この世界は海運が死んでいる。水棲の魔物がいるし、でかいサメみたいなのや、どでかい海竜とかもいるという。小舟では自殺するようなものだし、大型の船で戦力を揃えたとしても、漁や海の移動のリスクは計り知れない。

それから眼下に見える川である。話の通り水量が豊富な大きな川で、一部湿地帯にもなっていて陸路では川に近づくことさえ困難な場所もある。そして地図とは川の流れまで変わってしまっているそうだ。

なるほど。思ったより厄介そうだ。

「まずはここを拠点としたい。できれば人が入れれるようにして、農地もあればありがたいのだが……」

降り立った時にクライアンスがそう言うので聞き返す。

「人を入れるって誰を?」

まずは治水をする。それから人を募集して開拓事業を開始する予定だったはずだ。

「ゴールドハウブズ家の者たちだ」

当主は処刑となるが、家人や親族たちは領地からの追放処分となった。処刑も追放処分も正式な発表は昨日の話で、まだ追放先も決まっていない。そこでいい場所ができるじゃないかと、ライナス川開拓に白羽の矢が立った。

開拓を請け負ったブランザ家とは確執はあるが、クライアンス王子はゴールドハウブズの派閥の長である。移住先を斡旋し、面倒を見るのは当然のことだ。それに後々移住を募るにせよ領地運営できる人材が最初からいれば、ずいぶんと楽ができる。

「もちろんマサル君が気に入らないというのなら、断ってくれても構わない」

治水だけじゃなく開拓も任されたクライアンスからしたら死活問題だし、俺自身はゴールドハウブズの家人や親族に特に思うところもない。

「エリー?」

「治水だけ完成しても開拓が成功しなければ意味がありません。そのためには骨身は惜しみませんわ、クライアンス殿下」

「ありがとう。ブランザ伯の献身には陛下もお喜びになるだろう」

というわけでまずは村作りからである。俺は村の中の整備担当。エリーが壁を作って、他の者が周辺の森の伐採と魔物の駆除をすることとなった。

魔物の対処はウィルとシャルレンシアが組んであたる。この二人はヒラギスでもエルフたちを率いて戦後の残敵処理をしていた。任せて問題はないだろう。

全員村の境界外に追い出してまずは整地をする。草木や廃墟も含めて何もかもを土へと返し、更地にしていく。終われば家だ。中心部に村長用の大きめの館と、普通サイズの家を一〇個ほど。それから井戸も改めて掘り直す。

壁もでき、周囲の木々が片付けば、今度は農地を何面か作成して、小一時間ほどで最低限、村としてやっていける程度のものができあがっていた。

「話には聞いていたが、とんでもないな……」

ほんの一時間ほどでできることはそう多くはないが、それでも見違えるほどの景色である。しっかりとした壁に囲まれた村内は、先程まで廃墟だったとは思えないほど文明的に変貌していた。

「これならすぐにでも連れて来られる」

「何人くらい来るんだ?」

それによって家や農地を増やす必要があるかもしれない。

「それは残ったゴールドハウブズ家の者の人望次第だ」

追放されるのはゴールドハウブズ家の者と、ある程度近しい親戚たちだ。遠い血縁や部下たちは含まれていない。つまり辺境送りに付き合うか否かは選択の余地があるということらしい。しかしその者たちも多くは領地も仕事もなくなってしまうのだ。

「まあ俺の心配することじゃないな」

基礎は作った。魔物も減らしておく。哀れではあるがあとは自分たちでがんばってもらうしかない。

それで次の作業、本題である治水なのだが、とりあえず流れが変わってない上流からやればいいのではと、狩り部隊を残して向かうこととなった。

再び転移したのはライナス川の上流地点。山岳地帯から森林へと川が流れ込んでいる場所である。

「堤防を作るにも木が邪魔ね」

そう空から見たところでエリーが言う。堤防だけでなく、川幅も広く取るためにはまずは森を切り開く必要がありそうだ。木ごと土魔法で巻き込む手もあるが、茂みや低木程度ならともかく、大木が続く森林ともなると土だけの操作と比べて魔力消費が跳ね上がる。

伐採は論外だな。人海戦術でできないこともないだろうが、資金は一〇億円しかもらっていないのだ。人件費で消費していたらあっという間に赤字である。

「一度どんな感じでできるか試してみよう」

堤防は川岸から片側五〇メートルの広さを確保する。高さは一〇から一五メートルとの指示があったから念を入れて一五メートルで統一する。堤防の上部の幅が一〇メートル、土台が両側一〇メートルで堤防部分は三〇メートルとなる。

堤防の内側の木は放置でいいな。木が生えっぱなしでも不都合はない。つまり堤防部分の幅三〇メートルだけ、木をどうにかすればいい。

ロープ式のメジャーで位置をちゃんと決めてもらい、イメージを固める。

「まず邪魔な木を外側に押し流す」

木の根っこは案外浅い部分に集中している。細く長く伸びていることもあるが、根を掘り返す目的なら一メートルほどもあれば十分だ。

深さ一メートルの地面の土を魔法でガッと把握。そのまま川から離れるように押し流していく。

これで五〇メートルほどの長さのちょっとした塹壕のようなものができた。内側に倒れた木も結構あるけど問題ない。火魔法で焼き尽くす手もあったが、火が収まる待ち時間もあるし、密集した森では周囲に簡単に延焼しそうだ。

またメジャーで必要な高さを出してもらって、木を押し流した辺りから土だけを把握して塹壕に流し込み、積み上げていく。そうしてほどよく盛れたところでぎゅっと固めれば完成である。

「ふうむ。周りの見た目は悪いが堤防はちゃんとできてるよな?」

専門家の人に見てもらったが、大きさも強度も申し分ないとの回答である。しかし邪魔な木を放り込み、堤防用の土を剥いだ部分が酷いことになっている。倒れた木は放置でもいいとして、地面がかなり深く掘られていて雨でも降れば水たまりか池でもできそうだ。それが一カ所二カ所ならともかく、ずっと続くのは問題がある。

「堤防が問題ないなら、ここは後で埋めればいい」

堤防の内側からだと木が川の中に残って問題になりそうだし、山でも削って土を運んでくればいいと、上流の堤防のスタート地点は山の裾野だったので、そこから土を確保することにした。

削っても問題がなさそうな場所を選び、アイテムボックスに土を放り込む。戻って穴になった部分に土を放出して埋める。

「いけそうだな?」

あとはアイテムボックスにどれくらい土が入るか。俺のアイテムボックスも無制限というわけでもない。試しに限界まで土を入れて、今使った分を考えると……三〇〇メートル分くらいか?

「手順を確認しよう。エリーに堤防の場所を均してもらう。俺が土を運んで堤防を作る。アイテムボックスから土を出して堤防の形にするだけなら魔力の消費は最小限に抑えられる」

分業で作業速度もあがる。良さそうだと頷くエリーに、ティリカが手を上げた。

「木を倒すだけでいいならわたしのカメカメでもできる」

ティリカの陸王亀か。いいアイデアだとさっそくやってもらう。召喚された巨大な陸王亀がずんずんと進むと、簡単に木々がなぎ倒されていく。ペースもかなり早い。

「カメカメが整地をする。俺が土を運ぶ。エリーが堤防の形に固める」

倒した木はそのままで上から土を被せればいい。で、やってみるとこれが早いこと早いこと。片道は土の補充場所へ転移し、フライで堤防作成地点まで戻れば魔力も時間もさほどかからない。

エリーのほうは何度かやるうちに一〇〇メートル程度を一回でできるようになった。そうして二時間ほどの間に一キロメートルくらいの堤防ができあがってしまった。

「わたしたち、いる?」

見学していただけになっていたアンが言う。一キロにだいたい二時間かかったが、慣れてきた後半のペースからすると一時間で一キロくらいはいけそうだ。

一日かかりっきりで一〇から一五キロ? 堤防の総延長が三〇キロとして三日ほどで片側分の堤防作りが終わってしまう。実際は半日、五時間使えるとして片側六日で、合計十二日という計算になる。

「そりゃいるだろう。エリーだけでやると、いま計算してみたが十二日間はかかる。それをもっと短期間で終わらせられるし、エリーはブランザ領に専念してもらってもいい」

俺は土を運ぶだけだし、カメカメのペースも早いから、エリーの堤防作りが作業のボトルネックとなっている。たぶんここを二人にすればちょうどいいくらいのペースになりそうだ。それにミズホでも当然役に立つ。村の基礎や壁作りはもちろん、道や橋でも土魔法を使う場面は多い。

「だから土魔法は予定通り覚えてくれ」

まだ時間はあるし、次は反対側だな。今日のところは一キロくらいで止めておいて、帝国の治水の専門家に地図の修正と治水計画を早急に作ってもらう。

「しかしカメカメがほんとに優秀だったな。お手柄だぞ、ティリカ」

やはり質量は力だわ。続けて指示を出す。

「俺たちはいまやった堤防の反対側を作る。リリアはクライアンスたちを連れて、空から川の流れを確認して治水計画を調整してくれ。それが終わったら拠点に集合しよう」

「わたしたちは?」と、アンが聞いてくる。

「もちろん土魔法の練習だ。明日にはできるようになってくれ」

「三日じゃなかったの?」

「三日もあったら堤防作りが半分終わっちゃうじゃないか。大丈夫。いけるいける。あ、ティリカはやらなくてもいいよ」

誰か一人でもできるようになれば、ペースは倍になる。

「がんばりましょう、アンジェラ様、ティリカ様、ルチアーナ様!」

イオンはやる気満々だし、ティリカもやるようだ。

「よし。じゃあ各自作業開始だ。イオンたちはここで 土弾(ストーンバレット) の練習をしててくれ」

土魔法はレベル2で土壁を作れるようになる。じゃあレベル1で土壁は作れないかというとそうでもない。ただ難易度が跳ね上がる。操作性が悪くなるし、燃費や作成速度もかなり落ちる。練習して熟練すればそれは向上するのだが、そうするとレベルは2になっている。

レベル0から1も同じだ。土から弾を作って打ち出す。最初は子供が投げたくらいの貧弱な威力だし、作成速度も遅く、魔力消費も大きい。これを特に意識もせずに人を殺せそうなくらいで出せるようになるとレベルが1になる、という流れになる。

魔法を一つも覚えてないとまずここでつまずいてしまう。魔力を使っての物質の操作の要領がまずわからないし、大抵は魔力量も低くて無駄に魔力を浪費して、練習もろくにできない、みたいになりがちだ。

しかし他の系統で似たような魔法を使っていれば比較的簡単に習得できる。土か水かみたいな違いしかないからだ。

今回は自力でレベル1、そこから3まで加護で上げる。土壁を作れるレベル2からひとつ上げておけば、土壁をかなり自由に扱えるようになる。俺くらい細かい操作や農地作成のような特殊な使い方をするならさらに上げてレベル4が必要となる。広域で発動させて山すら破壊するのはたぶんレベル5だ。

イオンたちが練習を始め、ティリカも対岸へと移動してカメカメを召喚したので、俺とエリーも移動しようとしたところで、ズガンという派手な音と共に木が一本へし折れた。

「これは……成功ですね?」

イオンが首を傾げて俺へと問いかける。

「うん、レベル1になってるな。おめでとう」

じゃあレベル3に上げるか。そう思ったところに折れた隣の木に穴が穿たれた。

「こんな感じでしょうか?」

「ルチアーナもか」

きっと昨日俺に言われてから練習してたんだな。

「アンは?」

注目されてアンも土魔法の発動にかかる。そうして発射された土の塊は、結構いいスピードで木に命中するが、木の表面を削った程度で跳ね返された。

「見た感じ力任せに魔力を込めすぎだな。もっと丁寧に土を扱うことを意識しないと」

だから速度も土の強度も足りなくて威力が弱くなる。

「むう。明日までね。やってやるわよ!」

そう言って練習を再開したアンはいいとして、成功した二人はどうするか。とりあえずレベル3にあげてと。

「二人は俺が最初にやったみたいに、ここから堤防を伸ばしてくれ。まずは練習だ」

話しているうちにカメカメはもう終点までたどり着きそうだ。それなら土の投下を一気にやれば、俺の手も空く。午後からも魔法を使うし、俺も堤防作りを手伝うか。

「三人でやれば四日ってところか?」

エリーにそう話す。アンとティリカが参加できるなら更に早くなる。

「二カ月でできればいいくらいに思ってたんだけど、しかも午前中だけの作業時間なのよね。いっそ二日ほど丸ごと使って一気に終わらせちゃう?」

「それもいいかもな。ブランザ領の復興次第になるけど、集中してやったほうが移動の手間とかもないし楽ではある」

「そのあたりは今日の夜にまた相談しましょうか」

「そうしよう。じゃあ再開するか」

ミズホ開拓とライナス川治水と、やばい規模の案件を立て続けに受けてどうなることかと思ったが、なんとか時間に余裕を持てそうか? これならどこかで休暇を取れるかもしれない。ブランザ領のほうも油断も楽観できないが……