軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

313話 良い話と悪い話があるけど、どっちから聞きたい?

昨晩は思いついてリシュラ王国の国王陛下を招待、という名の転移でのほぼ拉致を、これまた現場のリリアの思いつきで行ったのだが……

「不在はそれなりの騒ぎになっておったが、飲んで散歩しておったということ押し通して事なきを得たのじゃ」

元々自室で晩酌をしていたのもあったのだが、それでも三、四時間くらいはエルフの里に居たし、問題にならなかったのは幸運だった。

「それで昨日はヒラギスでの戦いの詳細あたりから報告していたのだ」

フランチェスカも報告はもちろんこれまで上げていたが、書けないことも多いし、書ききれないほどの情報もある。そしてヒラギス戦後のウィルとの話はまったく報告していなかったようだ。

「そういえばフランチェスカは俺と帝国のトラブルの話は……」

「帝国と何かあったのか?」

そうか。フランチェスカはこれも知らなかったか。帝国も情報統制していたし、ウィルと大会で戦うし、そもそもまだ仲間じゃなかったしで完全に蚊帳の外だったものな。ウィルも本筋とは外れるし、完全に終わった話だったから後回しにしていたのだろう。

「知っての通り、今は帝王陛下とも仲がいいし、ランディーズ殿、ウィルの父親との関係も良好なのを頭に置いて聞いてほしい」

「今は? 今はってなんだ!?」

フランチェスカの顔が見る間に青褪めて行く。こういうのももう何度も見たなあ。

「俺がランディーズ殿に捕まってしまってな。強力な転移魔法の使い手ってことで、奴隷にして使おうと思ったらしくて隷属の首輪で逃してくれなくて、それを知ったリリアが軍を率いて帝城前に布陣して戦争寸前になったんだ」

「勇者を捕まえた? ランディーズ様は正気か!?」

「勇者とは知らなかったし、教えもしなかった。もし勇者だと知ってなお逃がす気がなかったら? もう二度と俺を表には出せないし、最悪完全に闇へと葬り去られることもあるかなって最終手段にして言わなかったんだ」

当時は帝国も勇者のことも知られていたようだが、まだ情報は不確定で、転移術師と勇者は当然別だと思われていたようだ。

「外交……いや神殿が許さないし、それ以上の問題に……」

「だけどエルフなら敵に回す程度には、俺の転移は価値があると思ったらしいぞ」

「それはそうね。わたしやマサルくらいの力があれば、やりたい放題できるわよね」

実際にエルフの軍が即時、帝城前に布陣してきたのだ。もし他国と戦争にでもなれば、どこの国であろうと転移だけで鎧袖一触。相手にもならないだろう。

「それで帝国軍とエルフが睨み合っているうちにサティが城に単騎で突入して、俺の隷属の首輪を外してくれたんで、二人して歩いて城を出てきたんだ」

「歩いて?」

「俺とサティが揃って、誰がそれを止められる?」

サティ一人でも止められなかったのだ。謁見の間の扉はオリハルコンの剣でばっさり。エルド将軍もガチ戦闘で倒してしまった。

「それは軍が万全でもやりたくないな」

「その後は帝国側が全面的に謝罪してきたし、帝国とこれ以上問題を起こしてもいいことはないしで、ウィルの顔も立てて、今は普通に協力しあっているというわけだ」

他に何があったっけ。帝都での治療。貧民窟への援助。水問題の解決とエルフへの王家の森の移譲。神国とイオンの参加と過去の神託と千年計画。エリーの実家の問題の解決と領土の回復。魔力開発法の公開なんかもあったな。

「本当に今は問題はないから、詳しいことはウィルに聞いてくれ。色々有りすぎて説明は今は無理だ」

そして国王陛下に説明はそっちでやってくれ。本当は俺がやるべきなんだろうが、俺は忙しすぎて無理だから仕方がないのだ。

「ウィル、説明は頼んだぞ」

「フランチェスカや国王陛下へはいいっすけど、ヒラギスへの説明はどうしますか?」

んー、ヒラギスは復興で手一杯だしなあ。それに女大公陛下はまだ子供だ。話すとしたら宰相殿だな。

「そっちは急がないから外向け説明の問題ない範囲だけ、宰相殿に説明しておいてくれるか?」

「計画へは……」

「一応何かそういうことをやっている程度のことは説明しておこうか。もし見たいって言うなら口止めして連れてきてもいいぞ」

しかし参加は厳しいだろうな。ヒラギスの人口は恐らく半減している。国として維持していくだけで精一杯で、計画への人材派遣などは当面不可能だろう。

「ヒラギスへはまだ行ってないんだな?」

「ええ。この後、フランチェスカと情報共有してからと思ってるっす」

「そうか。がんばれよ」

フランチェスカの両親への婚約報告もあるな。ウィルも大変だ。

「よし、他に何か報告は?」

なければ雑談しながら朝食の続きだ。

「良い話と悪い話があるけど、どっちから聞きたい?」

うへえ。エリーはほんとに変なことばっかり覚えるな。

「じゃあ良い話から頼む」

「エルゴーがね、ビーストの町へ移住してくれるそうよ」

「もう決めてくれたのか」

「獣人だけの町、国を作るって話に乗り気でね。部下だけじゃなくて、知り合いにも声をかけてくれるって」

「そりゃいいな」

傭兵として各地を転戦していたから、獣人の知り合いも多いのだそうだ。

「それから帝国が人材を追加で派遣してくれるって連絡があったの」

昨日の夜のうちに帝都のエルフ屋敷にその旨の連絡があったのだそうだ。昨日人材がほしいってぽろっとこぼしたのを聞いててくれたんだな。それとも国歌のお礼とかか?

「どれくらい寄越してくれるって?」

「とりあえず数人、まずは エルフの里(こっち) へ送って、後は帝都に研究所ができたらかなりな人数を送れるだろうって」

王国も人を送ってくれるだろうし、研究範囲を少しは増やせそうだ。

「それから悪い話は二つ。まずは昨日頼まれてたソロモンね。巨漢で目立つしすぐに足取りが見つかったそうよ」

足取りを見つけたって、本人は捕まらなかったのか。

「それが酒場で飲んでるところをフード姿の怪しい女がやってきて話した後、どこかへ移動したようなのよね」

なんかすげー嫌な予感がするぞ。エリーの言葉をリリアが引き継いで言った。

「その女はエルフのような美貌と、大きな胸があったそうじゃ」

ダークエルフじゃん!!

「で、その後の足取りがさっぱりわからないのよね」

「今も捜索はしておるが、たぶん無駄であろうな。すでに帝都は脱出しておろう」

「魔族に勧誘された? 俺や師匠への復讐のためにか?」

俺ですら立ち合いに納得してないのだ。負けたソロモンなら尚更だろう。だからって魔族側についてまでというのは……仮にも神国の人間だぞ。

「そうかもしれぬし、違うかもしれぬ。ただ酒場の給仕の話では、その女から花か何かの香りがしたそうじゃ」

香水、じゃないだろうな。

「何かの薬を嗅がされた?」

意識がなくなるとか、魅了されるとかの薬物か? それとも単純に気持ちが良くなって判断力がなくなってしまうような麻薬かもしれない。

「すでに酒をかなり飲んでおったらしくてな。そこに薬となればさぞ効いたじゃろうな」

普通に美人とどこかの宿にしけ込んだだけかもしれないが、もしその女がダークエルフでソロモンが魔族側に寝返ったとしたら? 魔族に最強の剣士が付き、そして源流と同系の剣術が伝わることになる。

それからどうも酒場に入った時から様子がおかしかったのだという。フラフラして足を引きずる様子があったし、酒の杯も上手く持てないようで何度も倒していたと。

「狂化薬の後遺症か」

それで勧誘して役に立つのか? 剣術の指導? それとも俺が勧誘された時も、新たにあっちの神の祝福をくれるとか言ってたな。神の力は奇跡とも言えるものだ。俺たちに不可能な治療でも治せないとは考えられない。伊藤神によると邪神も属する陣営が違うだけの同じ種族だと言っていたし。

「もし後遺症を治すと言われたら? そのうえ新しく俺たちみたいな加護も貰えるのかもしれない」

「あり得るじゃろうが、色々と上手い話を聞かされたとしても、だからといって魔物の側に付きますとはそうそうならんじゃろう。我らを裏切ったダークエルフたちもじゃ」

「そこに薬を嗅がされて、半ば強引にってことか」

判断力が低下したところに上手い話を持ちかけられ、その場で契約してしまう。あとでまずいと思っても神との契約だ。反故にできるか?

「まあほとんどの者はそんなのには引っかからんかったのじゃ。同情はできぬな」

「だけど最悪だ」

「もし魔族の側で見かけたら、近寄る前に魔法で吹き飛ばしてやれば良かろうよ。我らがそうしておるようにな」

それもそうだが……まあ最悪は考えておくとして、あまり心配しすぎても仕方がないか。それに千年計画が順調にいけば、剣術は過去のものになるのだ。

それに実戦なら俺とサティ、師匠の三人は常に一緒に行動しているはずだ。三対一ならソロモンといえども瞬殺だな。光輪流の使い手の魔物が出てきたら厄介だろうが、普通に剣術を習得するのも年単位で時間がかかるのだ。ましてや俺たちレベルにまでなろうとすれば、並大抵ではあるまい。

「薬物に関しては毒ですでに注意はしておるが、この件でも注意を促しておくこととしよう」

まあそんな薬物があると判っていれば、簡単には引っかかりはすまい。

「で、ソロモンは引き続き捜索するとして、悪い話の二つ目ね。ゴールドハウブズの持っていた鉱山に エフィルバルト鉱(アンチマジックメタル) が出るところがあったのよ」

「それが悪いニュースなのか?」

「それがね、掘り出したエフィルバルト鉱石の行方がわからないの。ちゃんとお金が支払われて、東方国家方面に送られた形跡はあるんだけど」

またダークエルフ。ゴールドハウブズ伯爵家に長年巣食っていたダークエルフの仕業か。

「キングランドトータスに使われていたアンチマジックメタルの装甲は、そこが出処じゃろうな」

「だけどそれはもう倒して回収したろ」

「それが産出量からすると、もっとあるようなのよね」

「それもまあ、また出てきても魔法で吹き飛ばせばいいか」

アンチマジックメタルの装甲は普通のエルフの、上位の魔法使いの火力でも貫通は難しいが、俺たち加護持ちならなんなく破壊できる。問題はない。だがかなり厄介だ。

普通ではランドキングトータスとアンチマジックメタルの組み合わせの対処は難しい。注意喚起しようにも、帝国が我が方の貴族がダークエルフを通じて、魔物にアンチマジックメタルを横流ししてましたとか公表できるか?

エルフでは魔法に頼らない対大型種用兵器や落とし穴なんかも設置してはいるが、通常の砦はどうなる? 初期のエリーくらいの魔法使いがいれば、砦の防御力と合わせてランドキングトータスなら撃退もできようが、問題はそのランドキングトータスを魔物側がどの程度揃えているのか。それがわからなくともアンチマジックメタルの量が推定できれば、魔物側の戦力の予測は可能だろうか。

しかし採掘、精製技術も含めて流出したとすれば、こちらで採掘されたアンチマジックメタルの量の推定など意味をなさなくなる。本当に厄介な話が出てきたものだ。

「この件は後で協議が必要だな」

少なくとも心構えはできるし、もしかすると誰かが有効な対策を考えてくれるかもしれないし、計画から物理的な攻撃手段が生まれるかもしれない。鉄筋工法での砦の強化は有効だろうが、大型種を一時的に食い止める以上の効果はない。反撃ができなければ一方的に攻撃されて終わるだけだ。

「そうじゃの。この件もダークエルフ関連じゃから調査も続行させておるからの。またもう少し詳しい話もわかるであろう」

気がつくと食事の手は止まり、熱いスープもすっかり冷めてしまい、食欲もなくなってしまっている。だからエリーはこの話を後回しにしたのだろう。確実に食事がまずくなる話だ。

「もう何かないか? じゃあ食べ終わったら適当に解散で。俺は今日は一日、エルフの里で仕事をしているから、何かあれば連絡を」

さて、俺は部屋に籠もって教本、基礎科学教本の仕上げだ。世界とは何かから始まって、天文学、物理学、生物学、数学、化学の基礎を、俺の語ったこととに加えて記憶を頼りに書き出し、まとめたものだ。

問題ない部分は問題ない。記憶が確かな箇所だ。問題なのは記憶があやふやな部分。難解で自分でもあまり理解してない情報。しかし基礎的な情報として欠落するとまずいと思われる知識。たとえば元素周期表とかかなり抜けがあるし、化学式もほとんど覚えていない。覚えてる部分もほんとか? ほんとに合ってるのか? そんなのがいくつもあるのだ。

そんな怪しげな部分をチェックして、そのまま載せるのか。怪しい情報だと注釈を付けてそのまま書いておくのか。それともいっそ削除して別冊で解説でもするのか。

写本して千年計画の人員全部に読んでもらう教本だから責任は重大だ。もちろん間違った情報があるかもしれないから、自分で調べ、研究して確認をと序文で断ってはある。

しかしあまりに不確かとか間違っているとかだと困るし、確実に覚えている情報だけで科学全般の知識として不完全になっても困ると、なんとか誤解のないよう、補完できるだけ補完して書いていく必要があった。マジで責任重大すぎる。

広くて浅い、科学全般を網羅した膨大な知識。それが教本でよくまとめられていた。まとめ、記述を任せたエルフたちが優秀だったのだ。エルフの中でも特に優秀だと思われ、選抜された天才たちだ。

そんな天才たちの記述を俺が修正する。いや、ほんとに責任重大なんですけど?

俺が書き、語ったことのはずなのに文章からは格調の高さがにじみ出るようだ。俺が適当に描いた、いろんな知識を解説するための図解も、きちんとした絵師が描き直してくれた一級品の絵画だ。

それでも記述の間違いがちらほら見受けられる。何しろ初めて接する概念ばかりなのだ。俺の言葉が足りないための解釈違いや、曖昧な言葉が原因の記述間違いはどうしてもある。

それを一通りチェックし修正し終えて、もう一度頭から見ていく。

何時間もかけて二回目も読み返し終える。間違いはない。恐らくない。内容が間違っていたとすれば、それは俺のミスだ。

間違いの他に三カ所、修正と追加を加えた。読んでいて思い出した部分があったのだ。

知識の欠落部分も一度はどこかで見たか読んだかしているはずなのだ。それが何かの拍子に出てきたりもする。ならば他の部分も記憶に残っている可能性は十分にある。それをどうにか思い出す方法がないものか。

「完成だ」

不完全ではあるが、最初の教本としては十分だ。恐らく。たぶん。

俺の言葉に教本の試作品を読んでいたサティも顔を上げた。エルフの里内だし部屋に籠もっているしで護衛は不要で、別に俺に付き合ってなくてもいいと言ったんだが、一緒にずっと教本を読んでいたのだ。

「どのくらいわかった?」

「最初のほうと物理は電気以外はかなり理解できたと思います。あとは半分もわかりませんでした」

自信なげにサティが言う。それでもずっと読み込んでいたのは、難解でも内容はかなり面白い、興味をそそられるものだったかららしい。師匠は一通り目を通すと飽きたのか、どこかへふらりと出かけていった。

「普通は何年もかけて覚えるような知識だし、半日でそこまでなら上出来だよ」

あくまで概念の解説だし、読むだけで理解できるようにかなり詳細に書いてある。それで科学の基礎くらいまでは理解はできるはずだ。しかしこれで何かを作り出せるのだろうか? しかも目標は月まで届くロケットだ。石油がこんなに早く手に入ったのは僥倖だった。あとはやはり燃焼エンジンか。ガソリンエンジンの図くらいは見たことはあるが、ロケットエンジンの構造なんぞ知らんぞ……どうするんだ、マジで。

時間は午後、もうおやつの時間だった。あまり考えても仕方がないな。まずはこの教本を託して写本で増産する。それと俺への質問が溜まっているから、そのチェックだな。すでに知識のある者で内容の重複や、教本にある知識は選別してあるはずだ。

かなり難しい質問が多いんだよなあ。わからないならわからないでもいいんだが、俺の知識がある微妙な線だと、かなり時間をかけて考える必要がある。

それから応用科学分野の掘り下げも必要だし、教本に収録しなかった部分の話もまとめておきたい。

「これが本になったら暇な時にでも解説してやろう」

そう言って紙をまとめて立ち上がる。部屋に静かに控えていたエルフの、運びましょうかという申し出を断って、エルフ城隣接の研究所へと向かう。

今後の方向性を考える会議の予定を入れないといけない。スケジュールってどんな感じだっけ。

今日と明日、明後日は特に何もない。問題はその後だ。帝都のお祭りの最終日にレセプションがあって、そこで色々と発表がある。

帝城横の王家の森のエルフへの移譲と精霊の泉の設置。魔力開発法の発表。ゴールドハウブズと鉱山犯罪の告発と、エリーの実家、ブランザ家の名誉回復とブランザ領の返還。ウィルとフランチェスカの婚約もかな。

それからヒラギスの奪還記念の式典が日程は未定だが予定してあって、後はブランザ領の統治が始まる。

会議は明日だな。王国の新規参加の話もしないといけないし。

「マサル様!」

おお? 研究所に入ったところですぐにそう声がかかった。ウィルの姉のヴァイオレット? 妹のオルフィーナもいるし、エリーもいるな。

「いまエリザベス様から色々ご説明をしていただいていましたの」

「あー、帝国からの人材って……」

完成した教本をエルフに手渡しながらそうこぼす。

「はい。人材が足りないとマサル様がおっしゃっていたのを昨晩聞いて、お祖父様に計画のことを教えてもらったのです。それで思いついたのですが、 貴族のご婦人方は教養がありますし、暇を持て余している方が多いのです。おじい様にご相談すると、それはとても良い考えだとおっしゃってくださいまして」

それで王家の森の研究所ができてからって話か。勤務地が帝城の横なら貴族街の中心部だし、貴族女性も通いやすい。それに帝王家肝いりの計画でトップが直系の姫様だ。やりようによっては相当数の人材が掘り起こせる。どうせ知識量に関しては読み書き算数程度ができればいい。スタート地点はほぼ同じだ。上手いところをついてきたな。

「わたくしこれでも手先が器用で、絵も描けますのよ。それで写本のお手伝いをしながら、お勉強をすればいいとエリザベス様が」

「なるほど。それはいい考えですね」

上手いこと乗せられた気もするが、いい案ではある。断る理由もないし、断れるようなことでもない。

「妹のオルフィーナ様もお手伝いを?」

「どうかヴァイオレット、オルフィーナとお呼びください」

「そうですね。これから顔を合わせる機会も多くなりそうだし、よろしくお願いします。ヴァイオレット、オルフィーナ」

「はい。オルフィーナは頭が良くて本を読むのも好きなんですのよ。ぜひ一緒にお手伝いしたいと言ってくれましたの」

「わたくしなどでどれほど貢献できるかわかりませんが、よろしくお願いいたします、マサル様」

そうオルフィーナが丁寧に頭を下げた。

「お二方を歓迎します」

ここは裏とはは考えずに、素直に有り難いと受け取っておこう。

「よし。ちょっと聞いてくれ。計画の今後の方向性を決める会議をしたいと思っているんだ。できれば明日。そうだな、午後食事が終わってからにしようか。ついでに全体の進捗状況も共有しておきたいから、関係者を集めてほしい」

「帝国と神国にもすぐに知らせたほうがいいわね」と、エリー。

「急なんで参加できなくても大丈夫だ。最初の会議だし、話は予備的なもの、案出しや問題点の抽出みたいなことになるはずだ。できればその時に何部か配布できるよう、教本の写しを急いでほしい」

俺の言葉でエルフの研究員たちがバタバタと動き出した。

「それからマサル。ヴォークト殿が来てるわよ」

エリーが唐突に俺へとそう言った。ふぁっ!? なんで? なんでエルフの里にヴォークト軍曹殿が?

「ほら、ヴォークト殿が剣聖の後継者になるでしょう? エルフにも顔見世しておくんだって言ってたわ。マサルも手が空いたら修練場に顔を出せって」

なるほど。なるほど。修行か! 手は……ちょうど空いている。

「着替えてから行こうか。久しぶりにヴォークト殿に稽古を付けてもらえるぞ、サティ」

今日は座りっぱなしで体がなまっていたところだ。気合を入れるか。