軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

311話 語り部、国の歌

覆水盆に返らず。何気ない、たった一言の発言が大きな事態を引き起こすこともある。

一曲目を仕上げて通しで演奏してもらった時のことだ。

「いや、こりゃすごいですね」

曲を再現するのは完璧な記憶力を持つデランダルさんと、エルフの熟練の音楽家たち。本職が別にあるそうなんだが、みんな一〇〇年以上音楽をやっているのだという。

楽器もドラムにギターはもちろん、他の弦楽器やオルガン、ラッパ系の管楽器やフルートっぽいものと色々取り揃えているし、歌い手担当も当然抜群に上手い。俺の鼻歌と簡単な指示だけである程度メロディを把握すると、その圧倒的な音楽力でオリジナルと遜色ないレベルで演奏してしまう。

ドラムも丁寧にリズムを刻んでいてデランダルさんが言うほど悪くない。初心者なんだし、サティみたいにパワーでゴリ押しできないのはエルフだしもう仕方がないと思うのだ。

「まあそうなんだけどね……」

デランダルさんも腕のいい音楽家がたくさんいて最初は喜んだのだが、いざバンドを組むぞとなった時に、本職からの引き抜きが難しくて困っているのだそうだ。

音楽家の本職は兵士から職人まで様々だ。音楽に興味があるなら本職の合間に一〇年ほども練習すれば、趣味レベルなら十分な技量は得られる。しかし音楽を本職とするにはエルフの里では稼げるほどの需要がない。

出稼ぎは人気がまったくない。なにせエルフ感覚では数世代前、祖父母の時代には村が襲われて丸ごと奴隷にされたみたいな話がいくつもあって、単独での旅など自殺行為だったのだ。

外での安全が確保されたとて、じゃあ音楽で食っていけるのかっていうと、今ある本職を捨ててまでとなると躊躇せざるを得ない。特に今は、俺が色々持ち込んだ仕事でエルフの里はかつてないほどの人手不足なのだ。

「じゃあプロ……本職の音楽家は?」

これだけアマチュアが居るのだ。ちゃんとしたプロもいるはず?

「何か大事な本業があるから楽隊は無理だと言うんだよ。今日も一人も来てないみたいだし」

本業ならなおさら参加しようとするだろうし、少なくとも興味くらいは持つはずだ。よくわからんと首をかしげる俺に、リリアが答えてくれた。

「我らが歴史の語り部じゃよ」

それはなるほどと頷くしかない。以前少し聞かせてもらったエルフ三二〇〇年の歴史。膨大な量だろうし、それを保持し伝承する極めて重要な役目だ。

「吟遊詩人の祖であり名誉のある仕事じゃからの。語り部を目指す者はたくさんおる」

目指す先が違うのか。エンターテイメントとしての音楽じゃなく、名誉や伝統のため。アマチュアの人たちも短期の演奏には参加してくれても、本格的なバンド参加はちょっとというのも仕方のないことかもしれない。

しかしせっかくこれだけの演奏ができる人材がいるのだ。眠らせておくのは惜しいし、デランダルさんの音楽活動にも有益だ。もしバンド結成ができないとなると、デランダルさんのモチベーションに悪影響があるし、メンバー探しが難航して時間を取られても困る。デランダルさんには新しい領地経営に専念して貰わないといけない。

食える方法。もしくは名誉ある何か。

マーチング。軍楽隊。定期演奏会。賞金付きコンテスト。国歌演奏。式典でのBGM。

国歌。国の歌?

「こっちには国の歌とかないのか?」

音楽家として儲からなくても、公的な場所とか式典での演奏なら名誉もあるし、国がスポンサーになれば仕事には十分になるんじゃないだろうか。

「国の歌とは? どういうものなのじゃ?」

頭に浮かぶ翻訳に国歌に対応する単語も浮かばないし、存在しないのか。

「式典とか公式の場で盛り上げたい時とか、軍の出陣で演奏したり歌ったりする。国旗とか紋章みたいに、国を代表する曲。一種の象徴だな」

それだけじゃイメージが湧かないだろうと、実際の国歌を演奏してみる。選んだのは日本とアメリカ、フランスの国歌。日本の以外はあまり覚えてないのもあったが歌詞の翻訳はなしで一番だけ、メロディーラインだけの最低限の再現だ。

「――とまあこんな感じだな」

「よし、エルフの里……エルフ国にも国の歌を作る。そうして正式に国として名乗りをあげるのじゃ!」

マジか。だけど今でも実質独立国だしな。

「我らエルフは誇り高く生き、誇り高く死のう。そこに属国などという枷はもはや不要なのじゃ!」

力強いリリアーネ王女の宣言に、おー、と演奏家たちから大きな拍手が沸き起こる。

「それはさすがに王様に相談してからのほういいだろう」

「そうじゃな。すぐに父上を呼んで参れ! 緊急じゃ!」

俺の計画が失敗したら人族まるごと全滅。そして俺と共に戦って死ぬ覚悟なのだ。国際的にも発言力は上がっているだろうから独立国化も悪くない選択だと思うし、気分が上がる曲を提供するくらいなんでもない。

だからまあいいか、なんて暢気に考えていると、イオンからおずおずと申し出があった。

「あの、神国にも国の歌を頂けませんでしょうか?」

「うん、いいよ」

あまり良くないけど、神国はダメとも言えない。

「ではお義兄様を呼んで参りましょう」

皇帝陛下(イオンの義兄さん) が来るのか。国歌を制定するなら必要なんだろうが、ほのかに大事になりそうな気配がしてきたぞ……

「帝国はどうします?」

そう話の成り行きを傍観していた帝国貴族であるデランダルさんに尋ねる。

「僕が決められるような事じゃないね」

そりゃそうだ。後でウィルに聞いてみればいいか。ウィルが別にいらないとか言ってくれれば、エルフと神国だけで話が終わってくれれば、ギリギリセーフな気がする。

「とりあえず候補の曲をやってみましょうか」

そうして候補曲の再現に励むうちにウィルたちがエルフ王とともにやってきて、少し遅れて神国皇帝が到着する。そのまま待たせて、最初の候補曲を最後まで聴いていてもらった。

「素晴らしい。イオンに話は聞いていたが、これほどの物だとは」

ぱちぱちと拍手をしながら皇帝陛下が言うのに軽く頭を下げて礼を言う。これはドラゴンの出てくる超有名な日本製RPGのオープニング曲だ。歌詞がなくて再現も楽だから選んだ。もちろん曲としても最高峰の神曲で、それがエルフの手練の音楽家が演奏するのだ。称賛は当然のようなものだ。

「また何か妙なことを始めたみたいね?」

面白そうに後から到着したエリーが言う。デランダルさんのために提案した話であるが、案外悪くないアイデアかもしれない。たった一曲の盛り上がる音楽で、国への忠誠や士気が上がるのだと思えば、コスパは最強なんじゃないだろうか?

「すまんな。夕食会はなしだな。ここに何かつまめるものを用意してもらおう」

とりあえず演奏の音で各自で話せるような状況じゃなかったから、最初の説明からだなと、国歌の説明と、リリアがエルフに国の歌を決めるのだと言い出したことを話す。エルフの独立国樹立はまた違う話なので俺からはしない。

「それで今演奏したのが候補のうちの一曲です。これから何曲か演奏するのでそこから決める感じで」

とりあえず実例として先ほど教えた三曲を演奏してもらう。この三曲に関してはあくまで例としてで候補ではない。いくら異世界でも国歌そのものをパクるのはよくない気がするし。

「それでウィル。帝国はどうする?」

「兄貴が大丈夫ならお願いしたいっス」

「二つも三つも変わらんし、神国とエルフだけだとかになると帝王陛下がきっと黙ってないだろうしな。それでフランチェスカ。王国はどうする?」

正直王国は後回しでもいいのだが、それでも俺はがっつり関係者だし、フランチェスカが居る以上、尋ねるくらいはしないわけにはいかない。

「正直よくわからん。その国の歌は確かに有用なのだろうが、今やる必要があるのか?」

フランチェスカは壮大な千年計画を説明してもらってたところだろうし、音楽で遊んでていいのかって思うんだろうな。

「兵の士気や国民の忠誠心が一段か二段は確実にあがる。曲の演奏だけで、聖女もカリスマのある名将もなしにだ」

だからこそ、今のこのくそ忙しい時に俺もやる気になったし、元の世界のどの国にも国歌があったのだ。

「む。それは……それほどなのか。では国に戻った時に陛下にお話してみよう」

フランチェスカは帝国での用事は終わったから、ウィルの件がはっきりすれば、リシュラ王国に帰還する。明日か明後日くらいになるだろうか。確かにその時でもいいのだが……

「国王陛下を今から連れてこれないか?」

「うーん、それはさすがに無理がないか?」

「どうせいつかは連れてこなきゃならないんだ。せっかくここで各国の王が揃うんだ。今なら非公式の訪問で面倒もなしに顔合わせができる。それに色々説明するより、この状況を見せたほうが話が早い」

臣下の礼を取るのが嫌なわけじゃないのだが、今の立場上、単純に俺の上に立っていると思われても困る。リシュラ王国の王城ではない、ホームであるエルフの里でこの状況を見せつける。

リシュラ王とは短い接触しかしてないが、話した感じ落ち着いて話しやすい、間違っても俺を奴隷にしてこき使いそうな感じはしないが、王様の周囲には部下や貴族たちもいる。俺の内定している地位は子爵にすぎない。そいつらが勘違いでもして、王国のただの下級貴族として扱われても困るのだ。貴族、それも高位の貴族には相当ヤバいのが何人もいるのを見てきているのだ。

「しかし今からか……」

「あー、無理なら別に今日じゃなくてもいいんだ。いい機会であるってだけで、後日でも別に問題はない」

ウィルとの話し合いがまだならそちらが優先でもいい。何事も急ぎすぎるのは俺の悪い癖だな。

「だが千年計画において王国は出遅れている」

難しい表情のフランチェスカの言葉に頷く。だからこそ今ここで国王陛下を連れてくる提案をしたのだ。なるべく早く参加してもらって人材を提供してもらいたいのもある。

「ウィル。求婚を受けよう」

パッと顔を上げたフランチェスカが突然、ウィルに言った。

「うぇっ!?」

いきなりでウィルが驚いているじゃないか。

「そんなにあっさりと決めていいのか?」

「たっぷり考えたさ。国や家のことや、一緒になれば将来どうなるのかとか」

まあそうだな。ウィルもフランチェスカも高位の、それも王にかなり近い立場だ。しかしそれでもウィルと同様、フランチェスカは勇者の仲間となることを希望した。ウィルからの求婚はその後だ。

シンプルに好き合ってでもいればどうとでもなったのだろうが、フランチェスカ側に恋愛感情はなかったし、なによりフランチェスカは勇者の仲間として戦うことを選んだのだ。そんな気分じゃなかっただろうし、だからといって単純に断るには帝国と王国の関係上難しいものがあった。

ウィルの側からすれば、じゃあいつ告白するのかって問題もある。まあ今回の求婚は俺が焚き付けたんだけど、ビエルスで結構な時間があったのに、全然進展させることができなかったウィルが悪い。

「だが月へ行って魔物を圧倒する? 信じ難い話だが、こうしてエルフと帝国に神国までもが協力して真剣にやっているのを見て話も聞いた。皆一様に世界が変わると言っていた」

そうだな。世界は大きく変わる。でなければ勝利はない。

「それなのにつまらないことで悩んでいた私が馬鹿みたいじゃないか?」

「ウィルのことは?」

「ウィルからの求婚は正直嬉しくあったよ。ただ、素直に受けるには障害が多いとは思っていたのだ」

「フランチェスカ殿。もし計画のためにとか、勇者の仲間になるために俺との求婚を受けるというなら……」

「フランチェスカと呼んでくれ。ウィル」

そうウィルの言葉を遮りしっかりと向き直い、見つめあう。

「私の悩みや障害などマサルのやろうとしていることに比べれば、吹けば飛ぶようなちっぽけな物でしかなかった」

個人の幸福と世界平和は切り離して考えたほうがいいというのが、俺の主張なんだが、それでも個人の事情など簡単に吹き飛ぶレベルなのは仕方がない話ではある。

「家も国も何もかも関係ない、すべてを無くしてウィルのことを考えたんだ。そうするとウィルを好ましいと思ったのだ。燃えるような恋だとか、深い愛情はないかもしれない。しかしウィルのことは好きだし、仲間としてやっていけると思っている。それではダメだろうか?」

「いい。いいです。それで十分です!」

ウィルは心底嬉しそうである。色々と言ってやりたいこともあるし、祝福もしてやりたいところだが……

「おめでとう。いい雰囲気のところすまないが二人のことは後でゆっくり話し合ってもらうとしてだ。とりあえず帝国と王国に……」

「王国の転移は妾がやろう」

「帝国へはわたしが行くわね」

リリアとエリーがそう言ってくれる。転移持ちが増えて楽になったな。じゃあ俺は曲提供の続きに入るか。今日はガチで疲れてるんだ。さくさくいこう。

「皇帝陛下はどんな曲がいいですか?」

「そうだな。さっきの曲も悪くはなかったが、もっと雄壮でいて荘厳な曲で頼む」

ふわっとしてる割に贅沢なことを。皇帝陛下はイオンから事情はすべて聞いているし、音楽関係も俺が作っているわけじゃないことも把握してるから余計に気軽に言うんだな。

皇帝陛下のリクエストに答えるべく、雄壮な感じのアニメの主題歌を選んでエルフに演奏してもらっていると、すぐにエリーが帝王陛下を連れてきた。ウィルの姉妹二人も一緒だ。軽く目礼だけして、客席にしつらえた一角で、飲食も用意してのんびりしていてもらい、俺は曲の続きだ。

その曲作りが終わらないうちに国王陛下がリリアに連れられてやってきた。えらく早かったな。

「帝国でも評判の音楽家の演奏会をやるというので連れられてきたのだが……マサルに、それにエルフ王か。久しいな!」

それだけで来ちゃったのか。間違ってはいないんだが。

「ええ、お久しぶりです。 アルブレヒト様(リシュラ王) 」

そう言ってエルフ王が立ち上がってリシュラ王を迎える。

「おい、説明とかしてないのかよ!?」

そう小声でリリアに問いただす。

「私室で飲んでおったからすぐに会えての。エルフの里で演奏会をする。転移ですぐだと言うたら二つ返事で承諾したからの」

その場で即転移じゃ。そうリリアも小声でいう。ほぼ拉致じゃん。あっちで大騒ぎになってないといいなあ。

「転移とは便利なものだな。帰りたければすぐに戻れるのだろう?」

ちょっと顔が赤い。やはり酔ってらっしゃるようだ。

「 アルブレヒト様(リシュラ王) 、こちらの方々をご紹介しましょう」

そうエルフ王が紹介を買って出てくれる。

「ほう。エルフの里に人族が招待されるとは珍しいものだな。いや帝国の音楽家を呼んだのであったか。ふむう。そちらの御老体の顔……どこかで見たことがあるような」

「会ったことはないはずだが、肖像画でも見たか?」

「肖像画だ! そうだ。エルドレッド・ガレイ……帝王、陛下の……」

酔っぱらい特有の大声がしぼんでいく。

「うむ。座ったままで失礼する、リシュラの王よ。この年になると立ち上がるのも億劫でな」

「そしてこちらがファムルーク・ファイマウル・ミスリル神国皇帝陛下です」

「なるほど。なるほど? 神国皇帝?」

リシュラ王の呟きに皇帝陛下が、よろしく頼むと頷く。

「飲みすぎたか……」

「これは紛うこと無き現実じゃぞ、アルブレヒト殿」

説明もなしにここにリシュラ王を連れてきた張本人が、しれっとそんなことを言う。リシュラ王は周りを見渡して、夢でもドッキリでもなさそうだとようやく理解が追いついたのか、その頭を振って真剣な表情になった。

「お二方にはお初にお目にかかる。アルブレヒト・リシュラール、リシュラ王国の国王でございます」

そう極めて冷静な声で、立ったままではあるが恭しく頭を下げた。

「すまぬが誰か、解毒魔法を頼む。酔いを覚まさせてくれ」

要望通りに解毒をして酔いを消すと、すぐにフランチェスを捕まえて問いただした。

「これはどういうことか、フランチェスカ」

「リリアーネ様の言った通り、演奏会をしているのです、叔父上。勇者であるマサルの主催で」

「勇者……噂は聞いておったが。演奏会とな? これだけの面子を揃えてか?」

さすが鋭い。伊達に王様をやってないってことだろうか。

「そうじゃ。演奏会は演奏会でも特別な演奏会でな。帝王殿、皇帝殿もぜひと転移でやってこられての。マサルは王国の臣下であるし、ここは王国領でもある。アルブレヒト殿も招待すべきではないかと思うてのことじゃ」

「それに報告したいこと……紹介したい人もいるのです」

フランチェスカはそう言ってウィルにアイコンタクトを取る。

「ええっと、ウィルフレッド・ガレイです。アルブレヒト王陛下。此度、フランチェスカ様に求婚いたしまして、御本人には承諾を頂いております」

ウィルはなんとかそう言い切って頭を下げた。

「我ら二人の婚姻、ご承認をお願いします、叔父上」

「ウィルフレッド・ガレイ……帝王家の……」

「我が孫じゃよ。アルブレヒト殿」

「そうか。それで私を……帝国との縁組であるか」

「いえ。それはあくまでついでのお話で、今日は演奏をぜひとも聞いてもらいたかったのです」

「とりあえず席につかれると良かろう。マサル殿、続きを頼む!」と皇帝陛下。

「そう急かしてやるでない。つまりな、我が孫と皇帝殿の妹殿が勇者であるマサルの仲間となってな。フランチェスカ殿もそこに加わることになるのだ」

その説明でようやくリシュラ王の中で色々と話が繋がったようだ。

「なるほど。勇者が仲間を集める。つまり……」

「そうだ。我らは勇者の下に力を結集する。しかし王国の参加はもう少し後だと思っていたが?」と皇帝陛下。

「人材が足りないんですよ……」

あと石油が王国内で出たこともある。神国は自分のところで研究所を立ち上げるから、人材派遣にあんまり積極的じゃないんだよな。神国が力を入れようとしている医療分野の発展も急務だし、レンズの研究開発には人を割いてもらっているから文句はないんだけど。

「今日は軽く顔合わせをしてもらって、詳しい事情説明は後ほどゆっくりとお願いします」

計画の説明は重要なんだが、今はすべきことがある。

「デランダルさん、どこまでやりましたっけ? じゃあ続きを――」

そうして完成した二曲目の演奏にも皇帝陛下は容赦なく評価を下す。

「歌詞が何を言っているかわからんがこれも良いな。だが荘厳さが足りない気がするぞ」

歌詞は翻訳する時間も省いて日本語のまま歌ってもらっている。皇帝陛下の注文が多いが、国歌を決めるのだ。気に入るのが出るまでさくさく候補をだしていくか。

ゲーム、アニメとやったし、次は映画音楽でもいっとくかな。それから普通の邦楽洋楽も何曲か。国歌にしてみたら案外ハマりそうな名曲は多い。

「これは国の象徴たる歌、曲を決める演奏会なのです」

ふむ、とフランチェスカの言葉にリシュラ王は首を傾げる。

「叔父上 、今の曲をお聴きになったでしょう。これを式典や戦の前に演奏するのです。しかも作ったのは勇者その人。人心に与える効果がいかばかりか考えてみてください」

「我らエルフはもちろん、帝国と神国も採用する意向であの二人がやってきておる」

ようやく演奏会の重要性と、なぜ自分が呼ばれたのか、リシュラ王も納得がいったようである。

四人の王は時折の談笑をしつつ、俺の再現する曲をしっかり検討していった。

映画音楽を三つ。それから洋楽を三つ。邦楽を三つ。またアニメ曲に戻って三つ。

「とりあえず15曲。もしこの中で決められなかったら、後日改めてとしてもらいたい」

そう言って演奏の終了を宣言する。もうマジムリ。眠くて頭も働かなくなってきた。その前にも四曲ほどやってるし、さすがに疲れた。

「ふむ。父上?」

「そうじゃな」

「マサル、この曲で良い。これが我がエルフの国歌じゃ」

リリアが選んだのはゆったりとした曲調の洋楽だった。いい曲だ、エルフによく合っている。

「では帝国は――」

帝国に続いて神国、王国も希望曲をあっさり決めてしまった。この三国は見事にアニメの主題歌だな。

最後に一回ずつ選んだ曲を演奏してもらう。元から名曲ばかり選んだのだが、これが国歌だと思って聞いてみれば、そんな気もしてくるし不思議だ。エルフの音楽家の編曲がいいんだな。壮大で荘厳な感じが曲に加わっている。

途中から趣旨が変わってしまったが、デランダルさんは大量に新曲がゲットできてご機嫌だし、国歌の演奏をするということでメンバーを引き抜けばいいだろう。

「歌詞に関しては後で資料を出しますから、お国に合うように作り直してください」

よし。終わった。寝よう! 解散!

「ではマサルよ。千年計画とやらの話を聞こうではないか」

そうリシュラ王が俺へと言う。俺か。やっぱり俺が説明するんだな。

「では我々が月へと至る話をしましょうか」

諦めてそう言う。フランチェスカにも聞かせる必要があるし、もう何度もした話だ。まとめるのは難しくない。

月とは何か。どうやって月へ行くのか。そしてなぜ月へ行く必要があるのか。簡単な科学の講義。

かなり簡略化して小一時間ほどもかけて話し切った。ホスト的な立場のエルフ王はともかく、帝王と皇帝も何故かそのまま残って大人しく聞いていた。

「途方もない話だ」

「そうです。ですが叔父上、マサルは神託を受けた本物の勇者なのです」

「とりあえず国に戻られてはどうじゃろうか。何も知らせず出てきてしまったし、考える時間が必要じゃろう?」

「そうしよう」

そう言って各国の王に丁寧に辞去の挨拶をすると、リリアに連れられ、ウィルとフランチェスカと共に、転移していった。

「寝る。明日は朝にみんなで集まって話そう」

色々ありすぎてソロモン戦の話をしそこねた。サティが聞きたがってたものな。

「そうだ。ソロモンだった。エリー、人をやってソロモンを探して接触してくれないか?」

「それはいいけど、マサルとは話したがらないんじゃないかしら?」

「できれば味方に引き込みたいんだけど、無理でも話くらいはしておきたい。条件次第では師匠との立ち会いを用意してもいい」

師匠も特には問題なさそうであっさりと頷いてくれる。それなら最初から師匠が相手をしてくれと思うが、あの立ち会いで得るものも多かったしなあ。

「じゃあ今度こそ寝る。戦争が起こった以外のことで、朝まで起こさないでくれ」

「はいはい。後はいいようにやっておくから、余計な運動はしないでしっかり寝るのよ?」

そんな元気ももうないわ。

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【帝都、とある酒場】

「残念だったわね」

酒場で浴びるように酒を飲むソロモンに、ローブをまとった怪しげな女が声をかけた。女からはかすかに甘い匂いがする。

「去れ、女」

怒気を込めた言葉にも女は怯まず勝手に席についた。狂化薬の過剰摂取の影響でソロモンの体の半分は痺れ、倒れたグラスや散乱した料理でテーブル上はひどい有様だった。

そして荒れて殺気を振りまくソロモンを恐れて、周囲には誰も寄り付かなかった。

運が良ければ一年か二年もあれば日常生活が送れる程度には回復するかもしれない。しかしもはや元の力は戻らない。それは剣士としての死にも等しかった。

剣術にすべてを捧げたソロモンの人生だった。長く冒険者を生業とし、死ぬなら剣を握ってと漠然と考えていた。それが半身不随の余生? ソロモンにとっては死んだも同然。いや死よりも酷い地獄だ。

「相手が悪かったわ。なにせ勇者だもの」

勇者とて決して倒せない相手ではなかった。最後のあの魔法さえ……

「でもおかしいと思わない? あの体格であの力」

ソロモンはようやく目の前の女に興味を惹かれた。

「何が言いたい?」

「勇者はね、神から特別な力を貰っているの。でなければ貴方ほどの剣士に勝つなど、到底できなかったでしょうね」

「だからどうだというのだ?」

そもそもが人は不平等なものなのだ。ソロモンとて光輪流宗家に生まれ、恵まれた体格に剣術の英才教育を存分に受けて育ったのだ。間違いなく他者から羨まれる立場だった。

実際に終始優勢に戦っていたし、剣だけであれば勇者を圧倒していたはずだ。ほんの少し。あと一手、あそこでああ動けば。そんなことをソロモンは何度も考えていた。

「もし貴方にも同じような力、神の祝福が得られるとしたらどうかしら? 貴方の力は何倍にもなるし、もちろんその体も治せるわよ?」

体が治る。その言葉にソロモンは女に注意を戻した。女からの甘い香りが強くなっているのをソロモンは感じたが、それは不快な匂いではなかったし、ひどく酔った頭ではたいして気にもならなかった。

「それは本当か?」

「我らが偉大なる神に誓って」

「だがなぜだ?」

「我らの神は勇者が邪魔なの。貴方ならアレを殺せるでしょう?」

勇者が邪魔という神に、あからさまに怪しい女。(やけ上手い話だと思えば、勇者を殺せだと?)

いくらなんでも馬鹿馬鹿しい。だが、とソロモンは思い直す。真剣による本当の立ち会いならば? それは双方が生死を賭けたものとなるだろう。

「どうすればいい?」

もう一度あいつと戦えるなら、すべてを賭ける価値はある。壊れかけた体だ。怪しげな話に騙されたところで失う物はないし、女一人を縊り殺すくらいの力はソロモンにも残っていた。

「我らが神に忠誠の誓いを。それだけで偉大なる神は力を、祝福を下される。簡単でしょう?」

「いいだろう」

(その神がどのようなモノであろうと構うものか。もう一度あいつの前に立ち、そして……殺す)

その考えにソロモンは何故だか疑問を抱かなかったし、女に薬物を盛られたことに気がつくことも、ついぞなかった。