作品タイトル不明
269話 三〇〇〇年前
獣人のことで軽く騒動があったが、俺が戻った時には外街こと貧民窟での治療はスムーズに開始されていた。
「おい、いい加減離せ!」
なんだか騒いでいる人間が一名ほどいるようだが。
チャラ男か。捕まえといてって言ってすっかり忘れてたわ。そして何があったのか、縄でぐるぐる巻きにして転がされていた。まあ大方暴れたか逃げようとでもしたのだろう。
もう捕まえておく理由もないしと放してやると、俺にこんな真似してただで済むと思うな。覚えてやがれという、どこかで聞いた捨てゼリフを吐いて獣人兵士に睨まれ、外街へと逃げ走っていった。
「なんで人は、人族同士とかでもですが、もっと仲良くできないんですかね?」
そう神託の巫女様にこぼす。チャラ男とみたいな個人としてのケースは一概には言えないが、種族同士の話なら神様からちょっと仲良くするようにとかの神託を出すだけでいい。むろんそれで即座に仲良くとはならないだろうが、少なくともエルフが奴隷狩りにあったり、獣人が配給の列から追い出されたりはなくなると思うのだ。
何気なく言ったことなのだが、神託の巫女様は何か心当たりのようなことがあるような答えだった。
「人族の確執はかなり昔からの……少々込み入ったお話になるのです」
込み入った話。口籠ったところも見るにあまり大っぴらにできないことのようだ。
「かなり昔というと?」
「きちんと話すなら我々の起源、人族がこの地に降り立ったおおよそ三〇〇〇年前からになりましょうか」
長くなりそうな話ですねという俺の言葉に神託の巫女様も頷いた。思ったより昔の話だったな。この世界の人族の起源に係る部分。聞いたところによると人族の四種族、人間エルフ獣人ドワーフは三〇〇〇年ほど前、神により導かれミスリル神国に降り立った。つまり種族ごとまとめての異世界転移があったらしい。らしいというのはアンもそれ以上のことは教えられていなかったからだ。俺はめっちゃ興味があったのだが。
「拠点を作っておこう」
思いついて言った。込み入った話ができる場所がほしいし、休憩もしたい。治療は一気にやれば早ければ今日明日にも終わるだろうが、水の供給は帝都に水精霊を設置して水路を引くまで続ける必要がある。そのための拠点が必要だ。神託の巫女様の話も聞けるかもしれない。
場所は治療と給水所でもう人でいっぱいだから、新しく整地して、神官や兵士たちの休憩所も兼ねて大きめに作った。二階建て、階段を設置。ドア部分は開けてあるがドアは後からまたエルフに頼むとして今は全開放。窓もない、シンプルなでかい豆腐ハウスである。
合間に治療も挟みつつ、神官を拠点内に集めて自分にかけるついでに加護をかける。そこそこ魔力を使ったが、加護のお陰で魔力の回復は早い。
エルフの里へ転移して大工の親方に拠点整備を依頼する伝言を頼んで、備蓄してある家具をいくつか見繕って拠点へと持ち帰り設置する。
「あー、やっぱり休める場所があるのは楽ね」
作った拠点の二階はとりあえずは全部俺たち専用だ。広々とした部屋のど真ん中に設置した居間セットで、お疲れとエリーにおやつを提供する。エリーはエリーで水場の増設に警備担当の転移、軽症者の治療と、俺に負けず劣らず忙しく立ち働いていたのだ。いやほんと、来てくれて助かった。
「それで先ほどの話なんですけど……」
落ち着いたところで当然一緒にいる神託の巫女様にそう切り出した。
「どこからお話しましょうか?」
「そもそもの始まりからお願いします。三〇〇〇年前ってやつ」
俺の言葉に神託の巫女様が頷いた。
「これは神殿でもごくごく一部の者にしか教えられぬお話です」
「禁呪みたいな?」
「事によるとそれよりも危険な話なのです」
禁呪より危険って相当だぞ……
「おおよそ三〇〇〇年前のことでございます。人間の部族の一つである我らのご先祖様は滅亡の危機に瀕しておりました」
未曾有の大災害によりもはや全滅を待つだけという状況に、神から救いの手が差し伸べられた。新たな地でのやり直しの提案。
新たな地も安全というわけではない。油断をするといつ何時また全滅するとも限らない。だが十分に豊かな地でもある。希望するならそんな世界へと連れて行ってくれるという。
選択の余地などなかった。しかし連れてこられた地は自然にあふれ、手に届く範囲で豊富な食料が手に入る、言われたとおりの豊かな地であった。
「それがこの箱庭世界ラズグラドワールド、そしてミスリル神国だったのです」
同時に集められた、同じように救われた四種族に神は告げた。
「機会と必要な力は与えた。生き延び、そして強くなるべし、と」
人間は町や農地を作り、ドワーフは物作りを、獣人は戦士として働き、エルフはその輪に加わらず独自の道を行った。
もっとも繁栄したのは人間だった。町をいくつも作り、国家としてまとまり、領土を拡げていった。
「魔物は邪魔しなかったんですか?」
「はっきりしたことはわかりませんが、その当時は魔族の姿はほとんど見られなかったそうです。恐らく彼らも同時期にこの世界にやってきたのではないかと考えられています」
順調に繁栄する人間たち。魔物との衝突は局所的にあれど、国家としての組織だった武力を備えた人間の敵ではなかった。決定的だったのがこの地にやってきた時に与えられた力、魔法だった。強力な魔法によって大型のドラゴンすら倒すことができた人族の四種族は魔物を駆逐し、災害を乗り越え、生活レベルを向上させていった。
しかし人間が数を増やし、国家が強くなるにつれ、各種族の格差が広がっていく。ドワーフは人間に溶け込みうまく立ち回ったようだが、獣人は人間の風下に甘んじ、エルフは辺境へと追いやられた。
「決定的だったのが五〇〇年ほど前の、魔物による帝国侵攻でした」
それまでは曲がりなりにも同じ神に助けられ、信奉する者同士、それなりに仲良くはやれていた。
「エルフももちろん魔物と戦っておりました。しかし帝都が陥落しようかという時、エルフは救援を拒否したのです」
自分たちも魔物との戦いの真っ最中でそれどころじゃなかったのもあるし、そもそも帝国は人間の国家でエルフとは関わりのないこと。そんな返答だったらしい。強力な魔法使いであるエルフの参戦拒否。それは窮地の人間たちに絶望をもたらした。
「ご存知のとおり、勇者様の働きにより魔王が倒され、魔物の軍勢は統制を失い、かろうじて撃退に成功しました」
だがそのことでエルフに対する感情が悪化し、やがてエルフ狩りにまで発展する。
「神殿でもそれは問題になりましたが、得た神託でも神はエルフ狩りを咎めはしませんでした。それがお前たちの選択ならば止めはすまい。自由にせよと」
神様ってそういうところがあるよな。自由にやればいいと。意思を尊重してくれるというか、未来は自分で決めろみたいな。
「そのような神託、外に出すべきではなかったのです」
エルフ迫害を神殿が認めたことになる。
「神託を知った時の王は、神の追認を得たと考えました。すなわちエルフを迫害しても良いのだと」
実際に神様が言ったのはその通りのことだ。たとえ人間がエルフを皆殺しにしようとでも考え実行し、そしてエルフがそれに対抗しきれず全滅したとしても、神はそのことを受け入れ、決して罰したりはしないだろう。
そうしてエルフの状況は悪化していく。いくつものエルフの村が焼かれ、殺され、あるいは奴隷とされていった。
その状況が変わるのはリシュラ王国の成立を待つことになる。帝国からのリシュラ領の独立に協力し、エルフは領地を得、国と言えるものを作り上げていった。それがエルフの里だ。
「エルフのことはなんとなくわかりました。じゃあ獣人の扱いの悪さはなぜなんでしょう?」
「おそらくはエルフの煽りを食った形なのですが、一番の原因は獣人が魔法を使えなくなったことなのです」
エルフが迫害された時、人間とかなり姿が異なる獣人も露骨に迫害されないまでも、エルフと同じく亜人と呼ばれ、人間以外と分類されるようになった。それとこの地に種族ごと転移した時に与えられた魔法の力を獣人はなくしてしまった。つまり神の加護を失ったのだとの考えが、神殿からすらも見られるようになった。
ドワーフは今も魔法を使える。そしてエルフからは人間の味方だと言われ、人間と同程度険悪な仲だ。神殿もエルフ狩りを認めるような神託を出したことでエルフ迫害の一因になったと嫌われるようになった。
「帝国も今では方針を転換し、エルフや獣人も人族、同族であると認めています」
リシュラ王国の独立が三〇〇年ほども前だ。生きている人間も獣人も消えた。エルフは五〇〇年の寿命がある。当時のことを覚えている者は多い。だから人間と神殿を今も嫌っているのは分かる。
しかし帝国ではエルフや獣人への蔑視が今をもって根深い。
「魔物の脅威に対して四種族が協力して当たることが必要な時が来ているのです」
しかし神殿ですらその見解は分かれている。神はそんな神託を一度も出していないからだ。
「それは我らが神の手によらず達成しなければならないことなのでしょう」
機会と力は与えた。ただ生き延びて強くなれ。種族の行く末は自ら決定し、掴み取るべきなのだと。
「あるいは人間が優位なのだから、他の種族など必要ない。生き延び、強くなるのは人間だけで十分ある。そう信じる神官も多いのです」
人間優位説と四種族協和説。当然ながら人間主体の神殿では、人間優位説のほうが勢力は強い。
時折の神託、そして遣わされる使徒。帝国の危機を救った人間の勇者。それは人間こそ真に神に選ばれた種族なのだという説を補強した。
しかし状況は変わりつつある。魔王と呼ばれる存在が魔物を糾合し、時には一国を滅ぼし帝国すら危地に落としいれるようになったかつてと同様、魔物の動きが活性化しつつある。
そんな中で人族同士で足を引っ張り合って生き延びることなどできるのか?
神はただ生き延びよと言われたが、集められたのは四つの種族。そこには必ず意味がある。手を取り合い助け合い、互いの欠点を補い合う。それこそが人族の未来である。
「だから私は期待しているのです。エルフと獣人に特に関わりが深いマサル様こそ、その状況を変える者」
神託の巫女様は話しながらも眠たげにしていた目を見開き、しっかりと俺を見つめて言った。
「我らを救う勇者となるべきお方なのではないかと」
そう締めくくって神託の巫女様の話は終わった。俺もエリーも言葉もなく押し黙った。一度に摂取するには情報量が多すぎる。
「獣人は魔法を失ってなんかいません!」
静けさの中、突然サティが言った。そしてライトの魔法を詠唱する。
「そ、そうですよね、マサル様……」
激情にかられて言ったが、サティの魔法は俺に与えられたスキルによるもの。神の加護には違いはないが、しかし言ったことに確信がなくなってしまったのだろう。
「そうだな、サティ。その通りだ」
目の前で示された奇跡。魔法を失ったはずの獣人の作り出したライトを見て、驚き顔の神託の巫女様たちはとりあえず置いて、サティに頷きかける。
俺もサティの言葉には賛成だ。獣人は単に使えなくなっただけ。それをもって神の加護を失ったなどと、それこそ事実無根な話だ。そしてそれを解決する糸口はある。
「エリー、リリアを呼んできてくれるか?」
エルフに伝わるという、魔法が使えない者に対処する方法。もし獣人に使えれば? 人間優位説の論拠は一つ減る。
また仕事が増える。ちらりとそう思ったが、こんな話、放置しておけるか?
エリーの転移でリリアはほとんど待たずにやってきた。ヒラギスの魔物の動きの対処で起きていたらしい。
「紹介しよう、この方はミスリル神国から来た神託の巫女、イオニティース・ファイマウル・ミスリル様」
名前はさすがにちゃんと覚えた。神託の巫女様がリリアに向けて頭を下げて挨拶をする。
「イオンと、そうお呼びくださいませ。リリアーネ様」
「俺たちの、あー、そうだな。新しい協力者だ」
神託の巫女様の立ち位置は今ひとつ宙ぶらりんな状態であるが、俺の説明に頷いてくれた。
「ふむ。イオンよ、以後よろしく頼む。それで? 妾に用があるとのことじゃが?」
リリアは神殿に対して特に隔意はないようだ。まあずっとアンとも行動を共にしてきたからな。
「オレンジ隊のエルフにちらっと聞いたんだが、魔法が使えないエルフに施して魔法を覚えさせる方法があるんだって?」
「あるぞ。少々技術を要することでな。里でも問題になっておる」
「問題?」
「必要が滅多にないのじゃが、無くすわけにもいかぬ技じゃからの」
長命なエルフでなければ継承者を失っていたじゃろう。そうリリアが言う。エルフにとっての魔法は種族にとっての生命線ともいえる重要なものだ。魔法を覚えないエルフは滅多に出ないとしても、その必要性は高い。
人間なら魔法が使えなくても仕方ないと諦められても、エルフではそうはいかない。だからこそ開発された技なのだろう。
しかし繊細な魔法操作が必要。継承者は貴重だから死ぬような前線には出せない。それでいて滅多に役に立たない。とある条件もあって、次の継承者の確保も難しい。
「その条件というのは?」
「マサルにはもちろん教えても構わぬのじゃが……」
そうはっきりと神託の巫女様を見てリリアが言う。さすがに神殿の人間に教えるのは躊躇われるのか。
「構わん。ここで言ってくれ。イオン様から漏れることはないし、責任は俺が持つ」
そうですね?と神託の巫女様に確認をする。
「もちろんです。この目にかけて我々から話が漏れることはないでしょう」
護衛の二人もその言葉にしっかりと頷いた。しかしそれでもリリアは、ううむと考え込む様子だ。種族全員が魔法を使えるという大きなアドバンテージを手放すことになるのだ。はい、そうですかと話せる事柄、一存で決められる事ではないのだろう。
「わたくしは席を外しましょう」
「そのままで。リリア、イオン様は大丈夫だ。意味はわかるな?」
「ほほう! イオンは我らの仲間になるか!」
そうだよと頷く俺に、ここに来て初めてリリアの表情が明るくなる。
「わたくしは……わ、わかりません。きっと難しいのではと……」
神託の巫女様の、迷うようなイオン様の声は消え入るようだ。
「良い良い。マサルが望み、そなたが望むなら叶わぬことなどあろうか」
「そのようなこと、ほんとうに許されるのでしょうか?」
不安そうなイオン様の声。リリアはイオン様の事情はまったく知らずに言っているだけなのだが、それでもその言葉は的を得ている。
「ゆっくり考えればいいですよ。さっき会ったばかりなんですし」
イオン様に考える時間も必要だし、国に戻れば様々なしがらみがあることだろう。いきなり仲間になれるとは俺も思っていない。
「会ったばかりでそれとは、よっぽど気に入ったのじゃな?」
そうリリアが俺に言う。そうかもしれない。気に入った。うむ。
「そうだな、とても気に入った」
短い時間であるが接して人柄も知れた。なにより加護がすでにあるのだ。仲間にしないなどという選択肢はもはやない。
「良かろう。もし他の種族にこの技術が使えれば、エルフ主導で世界の魔法使いを増やすことができる。それは巨大な功績になるであろう」
そうそう。俺もそれが言いたかった。浄化や水魔法が使える人が増えれば、世界はもう少し過ごしやすくなるんだ。
「エルフ式城壁強化法の話を聞きました。従来の城壁の強度を三倍にする画期的な技術なのだとか。それに加えてこの魔法の技術までもたらされるとあれば、エルフが本気で人間と協力関係を築こうとしていることに、疑いを差し挟む者はもはや居なくなることでしょう」
「おお、それもマサルじゃよ」
うむうむと神託の巫女様の言葉にリリアは頷く。
「やはり。マサル様がエルフを動かしたのでしたか」
納得したような神託の巫女様の言葉は、しかしリリアが即座に否定した。
「違う違う」
「違う?」
「そもそもがエルフ式城壁強化法など存在しないのじゃ。あれはマサルが考えた方法なのじゃからの」
それもまた少し違うのだが、今は本題からずれる。
「有用な技術は積極的に広めるのがいいんだよ。それで?」
「おう、そうじゃの。分かってみれば簡単なことなのじゃ」
そう前置きしてリリアが話し始める。
「魔力は個人それぞれで違う香りがあるのじゃ。だから混ぜることができぬ」
うん、それは知っている。
「しかし時折、同じような香りを持つ者がいる。その者同士であれば、魔力を比較的スムーズに流すことができるのじゃ」
似た香りを持つ者同士でも魔力の注入は危険を伴うという。だから繊細な技術が必要となる。
「そしてその香りは十二種。じゃから十二人の継承者が必要で、しかも保険を兼ねて少なくとも二人は予備が必要な上、その特定がまた面倒でな」
血液型みたいなものか。同じ血液型のみ輸血が可能となる。調べる方法は実際に魔力を流してみるしかない。だからランダムにやって当たるまで、最悪十二回の調査が必要となる。
しかし分かってみれば確かに簡単な話ではある。
「我らは治療院の者がその役目を担っておる。もし他で運用するなら神殿がちょうどいいかもしれぬな」
神官ならば魔法は全員使える。組織は全世界にわたって存在もするし、これほど適した組織は他にはないだろう。神殿でやるのはいい案だな、そう俺も頷く。
「この技術が実用化すれば、そして神殿にそのお役目を託していただけるなら、神殿は永劫、エルフを称えることでしょう」
それはエルフと神殿がもたらす新たなる救いの形だ。皆が魔法を使えれば、あるいはこのような貧民窟を無くしてしまえるかもしれない。
「しかしさすがに妾の一存では決められぬ。里に持ち帰り承認を得られるまで、この話はひとまずここだけの事としておいてほしい。マサルの名を出せば、問題はないであろうが」
「承認して貰えたら、まずは獣人から志願者を募って試してみてくれ。神殿に伝えるのはその結果を見てからでいい」
人間で試すのは後でいい。獣人に試して上手くいくなら人間も恐らくいけるだろう。もしダメでも、獣人が魔法を使えるようになるだけで大きな成果だ。
「了解した」
そう言ってリリアが転移していく。もう真夜中になろうかという時間なのだが、王様たちは叩き起こされるんだろうか。申し訳ない。後で聞いて謝っておこう。
「エルフは……」
リリアの転移した後を見つめていたイオン様がぽつりと声をもらした。
「エルフは神殿を許してくれるのでしょうか?」
エルフ狩り激化のきっかけを作ったのは、神託を出した神殿だ。恨むエルフが多いのは想像できる。俺が最初にエルフの里に行った時の冷たい視線は、あるいは神官のアンに向けたものだったのかもしれない。
「それはわかりませんけど、少なくともリリアのことは信頼して大丈夫ですよ」
ちゃんと魔力開発の許可をもらってきてくれるだろう。
ああそうか。神託を得たのはミスリル神国の、かつての神託の巫女。そして今代の巫女であるイオン様が責任を感じているのか。
「それにほら、ここには神官とエルフ、それに獣人も居てみんなでしっかりと協力できているじゃないですか。案外簡単に和解できるかもしれませんよ」
「そうですね。マサル様がおっしゃるなら信じられます」
しかし寝ているアンに話すことが増えてしまったな。三〇〇〇年前からの人族四種族の因縁。
それ以前に神託の巫女イオン様に、ヒラギスの魔物に貧民窟での治療。ビーストへの貧民窟の獣人の勧誘に、エルフの魔力開発の件もある。
「アンが起きたらびっくりしてしまうな」
「ほんと、マサルといると飽きないわね」
エリーがそんなことを言い出す。
「別に全部が全部俺のせいじゃないだろ?」
「そうかしら?」
え、なんなのそれ。いや、俺のせいも多少あるのはわかるけど……あれとかあれとか、あれも?
しかし次の治療の時間が来たようで、ゆっくり悩む時間を持つことも俺には許されないようだった。