軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

236話 マサル団長の帰還

このまま師匠の言いなりに修行をしてたら体がもたないと、急用を思い出すことにした。

「居留地とゴケライ団の様子をそろそろ見に行かないとな」

居留地はともかく、ゴケライ団はティトスにずっと任せっきりである。今後どうするかも決まっていない。

俺がそう言うとアンとティリカも来るという。二人は砦の養育院の訪問がしたいようだ。そこにリリアも加え、聖女アンジェラ騎士団や いつもの護衛(サティたち) も含めると結構な大所帯になった。なるべく目立たないようにと冒険者風の装いで、最初の目的地、俺たちがヒラギスで最初に制圧したラクナの町での拠点へと転移した。

「まずはティトスよ。ゴケライ団の指揮、ご苦労じゃった」

団員の様子を見る前に、まずはずっと団の面倒を見てくれていたティトスとお話である。

「リリ様のご命令とあらば何ほどのこともございません。それに良い経験になりましたし」

ティトスは本来リリアの護衛騎士である。それを適当な人材だったからと、ゴケライ団の面倒をなし崩しに見させていた。こっちも色々大変だったとはいえ、長きに亘る放置、正直悪かった。

ちなみに同じく護衛騎士であるティトスの妹のパトスのほうは、ヤマノス村の屋敷を管理してもらっている。こちらのほうは毎日とても快適に暮らしているようで、エルフの里の戦いでもう一生分の苦労をしたとか言っていて、屋敷の管理も大事な仕事とはいえ、ずっと引き籠もっていられて実に羨ましい限りである。

「それであと一カ月くらいはヒラギスに居ることになるんだけど……」

「ではその間はここで依頼を受けることにしましょう。報酬もちゃんと出るようですし」

そういえばお金は全然出してなかったな。装備一式は最初に支給したし、ヒラギス奪還作戦の間は、物資も食料も軍から支給されていたそうで、手間がかからなくていいと思っていたのだが、報酬か。俺たちも無報酬でずっと戦ってたし、全然考えてなかった。

元々が後方で弓とか剣を当分の間は教える予定で、実戦投入するつもりなんてまったくなかったせいでもある。

「今までは団員への報酬はどうしてたんだ?」

「私の手持ちからお小遣い程度は出しておりました」

小額とはいえポケットマネーから持ち出しか。ヒラギス奪還に関しては徴兵である。報酬は雀の涙ほど。戦後、なにかしらの報奨があるかもしれないが、そっちも期待できそうにもない。ゴケライ団は活躍らしい活躍をしたわけでもないのだ。

弓だけは最低限使えるようになったとはいえ、子供の集団である。基本的には城壁での防衛担当で、十分役には立っていたようだが、あまり危険な場所に送り込むほど軍も無謀でも非情でもなかったようで、報奨が出るほどの目立った活躍とは縁遠かったようだ。

「その分はあとで教えてくれ。俺のほうから今後は出そう。報酬はどうするかな……」

そもそも傭兵団の運営ってどうやるんだろう。報酬は固定給+お仕事したら歩合で出す感じでいいとして、誰か大人で俺の代理をしてくれる人材はどうしても必要だ。

仕事には当分は困ることはないだろう。むしろ傭兵や冒険者たちにとっては戦後こそ稼ぎ時である。護衛と討伐が主であるが、復旧作業をするにもヒラギス中に散った魔物をどうにかしかない限り護衛もなしでは安心してできない。軍曹殿も剣聖の後継者になる話は一旦置いておいて、いまはリシュラ王国冒険者ギルドの代表として忙しく動いている。

「とりあえず団員に会いに行こうか」

報酬のことを考えてるうちに良い案を思いついた。

「団長!」「団長だっ」「マサル団長!」

広間で待っていた子どもたちは俺の登場に沸き立った。両手を上げて集まってきて優勝の胴上げでもしそうな勢いである。

いや、あながち間違いでもないのか。ヒラギス奪還作戦は成功し、祖国が取り戻された。優勝なんて比較にならない嬉しさだろう。

臨時団員の大人たちがそれを後ろから温かく見守っていた。彼らはティトス一人ではとエルフが出してくれた手伝いと、年齢を理由に徴兵が見送られた老兵が、子供に戦わせるくらいならと、無理をして加わってくれた臨時の団員である。

しばらく騒ぐに任せて落ちついたところで話し始めた。

「久しぶりだな、ゴケライ団団員たちよ。長いこと放置していて済まなかった」

俺が話し始めるとすっと静かになった。

「いえ、マサル団長の活躍は後方にまで伝わってきております。それを聞くたびに我々もがんばらないとと力になりました」

代表で堅苦しく挨拶をするのは一番年長のカルルだ。カルルが十二歳。最年少が六歳で総勢十八名。ほんとに誰が戦場に出そうなんて考えたのやら。

エルド将軍がエルフの戦果を広めてくれていたのもあって、エルフの活躍は戦場や後方では誰もが知っている。加えて団員にはある程度の事情は教えてあるし、ティトスを通じて一般のエルフが知る程度の情報も入っていたようだ。むろんそのあたりは口外しないよう、しっかりと言い含めてある。

しかしカルルは普通の子供だったのにえらくきっちりした感じになったな。口調はティトスの真似だろうか。

「お前たちの活躍もティトスから聞いている。厳しい戦場で誰一人欠けることなく、よくがんばってくれた」

それに関しては手伝いのエルフとベテランの老兵が加わってくれたことで、バランスの良い戦闘集団になっていたお陰でもある。

「応援に来てくれたエルフには感謝を」

そう言って軽く頭を下げる。たった三人ではあるが、俺に関することだ。きっと優秀なのが派遣されてきたのだろう。むしろ傭兵団の主力とさえなっていたのではないだろうか。

「もったいないお言葉でございます」

「ベテランの獣人たちも、よく初陣の団員たちを支えてくれた」

「マサル殿からの居留地への支援を考えれば、老兵の身の一つや二つ、いかようにでもお使いくだされ」

その言葉に軽く頷く。まあ彼らにとって身内だ。俺から礼を言うのも筋が違うだろう。

「それで報酬なんだけど、お前ら、領地が欲しくないか?」

子供に向き直って言う。ネイサン卿からの申し出のあった報酬である。俺は領地とか貴族位とかは特に欲しくも必要でもなかったが、現地人のこいつらなら欲しがるかもしれない。

「領地、ですか?」

「領地ってなあに?」

「それはほら、あれだよ……村とか町?」

年長のカルルは獣人の中でも頭がいいってこともあるのだが、さすがに下のほうの六歳では理解が追いつかない言葉もあるようだ。いやほんと、なんでこいつらを前線に出すとか考えたのやら。

「村とか町をいくつかまとめて持ってるのが領主で、その治める土地が領地だな。つまり領主にならないかって話だ」

実際は俺が貰っておいて当面は代官を立てて、しばらくしてから譲るって形になるのだろうか。結構広い領地でもいいらしいし、各人に分割してもいいな。足りなければ開拓でもして村を増やして、住人は獣人をメインに呼び込めばいいだろう。

ヒラギス公国は面目が立つ。獣人は喜ぶ。俺も面倒が少ない。ウィンウィンである。

「あれ? うれしくない?」

その場でこちょこちょと相談を始める団員たち。大人の獣人たちも二言三言発言するが、彼らにしても兵士や冒険者出身の者ばかり。かなり困惑しているようだ。

「ご命令とあればなんでもやりますが……」

すぐに結論が出たようでカルルがそう言う。

「ああ、命令じゃないよ。欲しいか、欲しくないかって話で」

あんまり欲しそうな雰囲気じゃないな。もうちょっと説明しとくか。

「俺たち、ヒラギスでちょっとばかり活躍しただろう」

「ちょっと……?」

うんまあ、そこは流せ、カルル。

「それで功績に応じた褒賞をってことになったんだけど、俺はリシュラ王国で領地はあって、子爵にもなる予定だからこっちで領地を貰っても困るし、そもそも欲しくないしな」

だがお金や何か価値のあるものといっても今のヒラギスでは、地位や名誉、あるいは荒廃した領土くらいしかない。脱出する時に持ち出せた資産があっても、生き延びるため、ヒラギスを取り戻す戦いのために使い果たしたことだろう。

それでまあ褒賞授与の席でエルフを褒め称えたり、今後の友好やらエルフが困ったときに助ける約束やらで誤魔化そうと話し合っていた。

「だけど別に俺が直接やる必要もないし、それでお前らが欲しくないかと思って」

「貰っても運営できませんし、貰う理由もありません」

カルルが冷静に答える。実にごもっともである。何か特別な功績があったわけでもなく、突然領地あげようって言われても困るだけか。

「当面は誰かに代官を任せて、しばらくして譲渡すればいいと思ってたんだが」

どっちみち十二歳で領主は無理があるし、何年か後の話になる。

「それならマサル団長がずっと領主をやっておけばいいのでは?」

まあそれもアリと言えばアリなんだろうが、これ以上仕事を増やしたくないし、貰うメリットがあまりない。なにせ荒廃して復興に手間がかかる他国の土地である。

「まあいらないならいい。でも気が変わったら言えよ。相談に乗るぞ」

やろうと思えば全くの新規開拓も難しくない。城壁と農地と家だけ造ってしまえば、俺の村とエリーのお兄さんの村の開拓に、鉱山開発や特産品の酒造りも習得中でノウハウは十分。軌道にさえ乗せれば後の運営はお任せでいい。やる気のある者なら勝手にやってくれるだろう。

子供たちはそのやる気がないし、興味もなさそうだ。

「でも居留地の人なら喜ぶかもしれません」

居留地の獣人の長なら適任かもしれないな。以前住んでいた場所との兼ね合いもあるだろうが、適当に領地を貰ってぶん投げてしまおうか。もっとも団員以上に貰う理由がないだろうけど。

「じゃあ領地の件はそっちにも聞いてみよう」

後は報酬か。

「それで報酬なんだけど、毎月金貨一枚+歩合給。こんな感じでどうだ?」

金貨一枚と聞いておおーと、子供たちから声が上がった。おおよそ月一〇万円ぐらい。 決して多い金額ではないと思うのだが子供たちにとっては大金なのだろう。

むろん昇給も考えている。今はまだ見習いとそんなに変わらないからな。正規の給与はちゃんと戦えるようになってから考えよう。

「ベテラン組の給与は……」

「団員の半分も頂ければそれで十分ですじゃ」

「じゃあとりあえず同じにしておこう」

さすがに半分はない。むしろ二倍、三倍は最低でも出す必要があると思うのだが、そこはまあ今後の働きを見てボーナスとかで対応するか。

「エルフは……」

「不要でございます」

まあそうだよね。だがエルフの中でも優秀な魔法使い。冒険者であればAクラスBクラス相当だろう。果たして雇うのにいくらかかるのか。金貨一〇枚か二〇枚か、それ以上? その程度なら出せないこともないが、団として赤字経営が常態化するのもちょっと健全とはいえない。

それに俺に協力すること自体がエルフにとって大層な名誉になっている。むしろ希望が殺到しすぎて、お金を払ってでも参加したいという声があってもおかしくないくらいだ。

ゴケライ団は加護候補であることも明言しているし、もしこの中から加護持ちが生まれれば、エルフにとってこれ以上の名誉はない。

「じゃあ君らにも同じだけ出しておく」

エルフに真面目に給与を出すとなると出費がしゃれにならんから、当座は一緒ってことで納得してもらおう。

「当面はこれでやってみて、給与体系に関しては団としての組織をもうちょっとどうにかしてから改めて相談することにしよう」

まずは経理とか事務担当が必要だな。

「後方担当を一人か二人、雇おうか。お金の計算とか、装備の補充とか食料の調達を担当してもらう」

その言葉にエルフが期待を込めて俺を見る。いや、君たちに頼むと給与がヤバいことになって困るんだからね?

「はい! わたしのお友達で学校で計算が得意な子がいます!」

手を挙げたパーシャは一〇歳くらい。しかしまた子供か。学校っていうのは居留地で俺が始めさせた寺小屋のことだな。

「じゃあその子に聞いてみてくれ。それからエルフからも一人、経験者を寄越してくれないか? 指導をしてもらおう」

計算が得意なだけの子供ではさすがに無理がある。困った時のエルフ頼みだ。それに獣人に何か頼むとうちもうちもって言ってくるんだよな。

「今後の話だが、一カ月ぐらいはここで依頼を受けて金を稼いでくれ。歩合とか団の運営方針はやっていきながら考えていくことにしよう」

話すべきことはとりあえずこれくらいだろうか。

「それで今日はこれからどうされるんですか?」

話が途切れたところでカルルがそう聞いてきた。

「居留地の様子を見て領地の話をして、その後は暇になるからお前らの相手をしてやろう」

うおおおーと子供たちが盛り上がる。軽く剣を見て、あとはお話だな。

「じゃあ今から移動するぞ。転移魔法を見せてやる」

また興奮する子供たち。子供はやっぱテンション高いなあ。

騒ぐ子供たちをまた落ち着かせて全員固まって転移魔法を発動する。目標は居留地獣人のエリアの俺たちの拠点である。

「長のドルトを探してきてくれ」

すぐにカルルにそう指示を出す。団員へは事前に来訪を知らせていたが、居留地へは連絡なしである。領地の話はさっき思いついたことだし、居留地に関しては様子が見れれば十分だと思っていた。

そういえばおばば様は元気だろうか。死んだとは聞かないが、元気ですとわざわざ知らせてくる者もいない。ちょっと心配になってきた。住んでる場所はすぐそこだし、まずおばば様の様子を見に行くか。

俺たちが拠点を出るともう獣人が集まってきていて、ちょっとした騒ぎになっていた。ここで目立っているのはエルフ、そして聖女様である。戦場で多大な戦果を挙げたエルフにしても、そのエルフを動かしたのは聖女様だと一般では信じられているのだ。

「ちょっと声をかけてやったら?」

そうアンに提案して俺はさっさとおばば様の住居へ。おばば様は俺がヒラギス居留地を去った時そのままの姿で、部屋の奥に鎮座していた。寝ているのか目を閉じて、じっと動かない。

「お久しぶりです、おばば様」

俺の言葉にすうと目を開く。よかった、まだ生きてた。まあ気配察知で反応があるからわかるんだけどね。

「お、おお……マサル殿!」

俺を認めるとすっくと立ち上がって俊敏に駆け寄ってきて、俺の手をひっしと握った。めっちゃ元気なようだ。

「お元気そうでなにより」

「ここに居ても戦果は聞こえておったよ。老け込んでなどいられないわさ」

「エルフが大活躍でしたね」

そう言って頷いておく。

「わかっておるよ。知らぬ者はエルフだ聖女様だと言っておるが、どちらもマサル殿の嫁じゃろうが」

そう言ってひゃっひゃっとひとしきり笑う。

「俺は裏方でいいんですよ。目立ってもめんどくさいばかりでいい事なんてあんまりないんで」

いい事どころか殺されかけた。

「そうかい? 相変わらず謙虚なことだね」

「おばば様も吹聴しないようにお願いします。それで居留地の様子はどんな感じですか?」

「快調なものさね。マサル殿が来てからは食べる物には困らぬし、家や井戸も作ってもろうた」

ビエルスの修行中、お金が足りないかもって赤い羽根募金で集めたお陰もあるが、ヒラギス奪還作戦が始まってからは戦果の分だけ食料も腐るほど確保できていた。それは順次後方に送られ、居留地のみならず、帝国や南方国家も潤していたそうだ。

「ヒラギスで戦う同胞たちも、ほとんど全員が無事に戻れそうだと、つい昨日に連絡が届いてねえ」

魔物の最後の反撃でかなり被害が出るかもと覚悟していたが、それも案外少なく済んだようだ。

「それは良い知らせですね。最前線でがんばった甲斐があったというものです」

「そういえば北方砦が危地に陥った時、勇者が現れたと聞いたのじゃが、顔を隠したエルフだったそうじゃな?」

「そうみたいですね」

「しかしその活躍を聞けば聞くほど、誰かさんの顔が浮かんで仕方なかったのじゃが……」

やっぱ情報隠蔽が適当すぎた。ほんと今更言っても仕方のない話なんだけど。

「あー、あの勇者とか噂の人ね? これは本当に本当の内緒の話なんですが」

俺の言葉に真剣な表情でうんうんと頷く。丁度いいことにこの部屋には俺たちだけだし、まあいいか。

「実は俺は神に遣わされた使徒で、ヒラギスを救えと神託を受けて来てたんです。だから……」

だから勇者とはちょっと違うと言いかけて、おばば様がぽろぽろと涙を流しているのに気がついた。

「ほんにマサル殿は、我らヒラギスの民の救い主じゃった……」

そうしてもう一度俺の手を握り直し、ありがとうありがとうと何度も繰り返すのだった。